俺は今までこんな奴と取っ組み合いの喧嘩をしてたのか、と思うほどベートは強かった。線しか見えないレベルの速度で敵を翻弄し、花の頭をバッコバッコ蹴り飛ばしている。
敵が硬いのか、ダメージが入ってるようには見えないが、どう見てもベートがボコボコにしている。
無論、俺も見てるだけではない。
「貧乳……ロキ退がって‼︎」
「お前ホント後で喧嘩したるからな」
花の突進を、俺は盾を構えてガードした。思っていたより重い威力、おそらくミノタウロスの突進よりも重い。この盾じゃなかったら死んでたな。
「だあークソッタレが‼︎」
俺は盾の角で花の頭を殴った。すると、バカみたいにあっさりと花はサックリ切断できた。俺の盾の角は鋭利な刃になっていて、切断も可能である。が、レベル5の打撃が効かないのに、レベル1の斬撃が効くのは明らかに不自然だ。
つまり、この花は斬撃が弱点なわけだ。
「ベートさん!こいつ斬撃に弱い‼︎」
「ああ⁉︎武器なんざ持って来てねえぞ‼︎」
「マジかよ……」
盾を渡せば俺はロキを守れなくなる。だが、このままじゃベートさんは敵を倒せない。なら、方法は一つだ。
「ベートさん、こっちに花を蹴って‼︎」
「ああ⁉︎」
「早く‼︎」
「ったく、何が出来るってんだよ……‼︎」
舌打ちしながらベートさんはこっちに花を蹴り飛ばした。俺はそれに盾の側面を向けた。ベートさんの蹴りによる加速が加わり、花は見事に俺の盾からスパァッと裂けた。
「よぉしッ‼︎」
「ほーう」
俺がガッツポーズするのと、ロキから感心したような声が出たのが同時だった。
「ウラァッ‼︎次行くぞ‼︎」
「バッチコイ‼︎」
そのまま、すべての花の頭を切断し、花を討伐した。
1
花からベートさんが魔石を採取し、地上に出た。なんか見たことない魔石だったけどあれなんだったんだろうな。
で、その後にディオニュソス様と会い、俺は「ここから先はいらない」と言わらて一足先に店に戻った。
で、
「オラ!早く皿洗えボケェッ‼︎」
「ベートは許可取って俺を連れ出したんじゃないのかよ⁉︎」
ミアのババァの監視の元、涙目になって洗い物を済ませています。あー、手が冷たいよー。
「サボったら、ほんとマジ殴るからね。リュー、監視を頼むよ」
「はい」
くっそー、誰か助けてくれー。まぁ嘆いてても仕方ないか。さっさと終わらせよう。
心のスイッチをオフして作業を進ませていると、ジーッと視線を感じた。リューさんの方から。
「……………」
「………あの、リューさん?」
「なんですか?」
「何見てるんですか?」
「いえ、随分と手際が良いものだなと思いまして」
「まぁ、慣れてますからね。こっちでもファミリアでも」
「あなたは私より後にこの店に来たのに、肝心の料理や洗い物などのスキルは私より高いです」
「そうですか?リューさんだってすごいじゃないですか。お使いは早いし、ゴミ捨ては尋常じゃないくらいの数をもたらし」
「とどのつまり、力仕事ですよね」
「いや、まぁ、端的に言えば」
「私も、あなたのように女性らしいスキルを身に付けたい」
「あの、俺男なんですけど」
「……………」
「……………」
「……………」
「………あの、なんですかマジで」
「私に仕事のコツを教えてほしい」
「はぁ?」
「お願いします」
「え、なんで俺なんですか?それこそほら、他の店員に頼めば良いじゃないですか」
「………んです」
「は?」
「………アーニャとクロエに、『ウラと性別入れ替えたらwww』と笑われたのです」
察した。
「まぁ、今なら洗い物で良ければ教えますが」
「ホントですか⁉︎」
「はい。まぁ、コツといっても俺自身のやりやすい方法なんで、他に自分で効率的な方法があればそっちにするべきですよ」
「よろしくお願いします!」
「うん、話聞いてないな。まぁいいや」
俺の横に並ぶリューさん。あっ、ちょっと、ドキドキするぞ。なんか、女の人とこんな近くにいるのは初めてだ。普段は密着するほど近くなったと思ったら、遠くにすっ飛んでるからな。
「じ、じゃあまずは皿に水を浸けてですね……」
と、言いかけた所で皿が水を思いっきり跳ね返らせ、リューさんにビチャッと掛かった。
うわやっべ、と、思ったが、リューさんは意外にも冷静だった。
「あの、すみませ」
「いえ、わざとでは無いのは分かってます」
心の広い人だなぁ、と思ったら、リューさんの服が濡れてスケスケになっていた。思わず目を逸らすのと、リューさんがそれに気付くのが同時だった。
「………やっぱりわざとのようですね」
「え?いや、あの、違っ」
水の中に顔面から叩き込まれた。