翌日、店に現れたヘスティア様の「冒険者ならダンジョンで稼げばいいんじゃないの?」という文字通り神託めいたアドバイスによって、1日だけダンジョンに行く事を許可された。
1日だけ、というのは店側が俺が金を払わないでなんやかんやでフェードアウトするんじゃないか、と疑われているからだ。どんだけ信用ないんだ俺。
「………なんだかんだでもう二週間以上ぶりのダンジョンなんだよなぁ」
「そうだね。ウラ、なんか僕と会うのも久し振りな気がするね」
隣でベルが言った。そういや、神様からいただいた手袋の初陣でもあるんだよな。少し楽しみだわ。
「………それはそうとさ、お前なんか防具強くなってね?」
「あ、気付いちゃった?」
えへへー、と少し嬉しそうな顔をするベル。え、なんだろうこの子、喧嘩売ってんの?
「この前、エイナさんと二人で出かけた時に買ったんだ。良いでしょー」
「………あ?」
エイナさん?あのメガネ系美女エルフと?二人きりで?お出掛けだ?
「この色ボケ野郎ッッ‼︎‼︎」
「突然⁉︎」
ゴヌッとベルを殴り飛ばした。
「いったいなぁ‼︎何すんだよ⁉︎」
「てめええええええ‼︎俺がむさ苦しい男狼と二人でバイトしてる時にテメェはデートしてただぁ⁉︎喧嘩売ってんですかテメェコノヤロー‼︎」
「で、デートじゃないよ。ただの買い物だよ!」
「シャアアアアラップウウウウウウ‼︎殺す、俺にもテメェのその恋愛属性をよこせやァッ‼︎」
「喧しい」
後ろから殴られた。振り向くと、ベートさんが立っていた。
「う、うわ!あの時の⁉︎」
ベルが腰を抜かすのを無視して、俺はベートさんに声を掛けた。
「あ、ベートさん。どうしたんすか?」
「や、テメェんとこの主神のお陰で俺も休暇貰えたからな。礼でも言っとこうと思ってよ」
「いやいや、そんなん俺に言われても困るんだけど……まぁ、伝えとくよ」
「おう。それと……おい!」
後ろを向いてベートさんが声を掛けると、ヒョコッとアイズさんが顔を出した。
「? アイズさん?」
「あ、アアアアイズ・ヴァレンシュタインさん⁉︎⁉︎⁉︎」
さらに転がるベルを無視して、俺はやけにもじもじしてるアイズさんに声をかけた。
「どうしたんすか?」
「え、えっと……今日は、ダンジョンに行くんだよね?」
「あーうん。一応」
「レフィーヤから、料理を教わってね……それで、その……はいっ」
サッ、と差し出されたのはピンク色の風呂敷に包まれた箱だった。弁当箱だろうか。
「俺に?」
「………うん」
「マジでか!ありがとうございます‼︎」
ふおおおお!美少女の手料理!俺もう死んでもいい!いや死ぬなら食ってから死ぬ!
「じ、じゃあ、それだけっ」
タタタッと小走りに去って行くアイズさんを後ろから目で追いながら、ベートさんも俺に言った。
「気を付けろよ、久々のダンジョンだろ」
「はい」
アイズさんの後を追うベートさん。その背中を眺めてると、ベルが俺に聞いた。
「あっ、あのっ……バイトしてる最中に何があったの……?」
「え、ベートさんと仲良くなってアイズさんが常連になっただけだよ」
「……………僕もバイトしようかな」
やめとけよ、女に殴られるだけだぞ。いや、それは俺だけか。
「それより行くぞ。久々にダンジョンだ」
「うん」
さぁ、今日の昼飯が楽しみだ。
そんな事を考えながらダンジョンに向かうと、俺たちに声が掛かった。
「お兄さん、お兄さん!」
下を向くと、ちっこい何かがこっちを見ていた。