シルさんのお金のために、さらに俺は金を稼がなければならなくなった。店の穴代の返済も終わってないのに、さらに借金増えてるとかどうなってんの?
「ハハッ、ザマァねぇなウラァ。これは俺の方が早くバイト終わりそうだなぁ?」
ニヤニヤしながらベートさんが言ってきた。
「うるせーですよ。つーかあんた、ずっとここにいるけどちゃんと帰ってんですか?」
「大丈夫だ。帰ってるに決まってんだろ」
「それならいいんですけどね」
「つーかお前は帰ってんのかよ」
「はい。………これ、実質タダ働きなんで何となく肩身は狭いんですけどね」
「気にすることねェだろ。言っちゃ悪ィが弱小ファミリアだし、それもあの白髪野郎が半分、いや三分の一くらい?背負うべき借金をテメェが一人でやってんだ。むしろ堂々としてて良いと思うぜ」
「…………」
「なんだよ」
「………や、ベートさんって意外と優しいんだナって」
「チッ、そんなんじゃねぇよ。ただ、テメェは他の雑魚とは違うって思っただけだ」
「はぁ?」
「シルバーバック、倒したんだろ?」
「倒したのはベルですよ」
「普通、Lv.1がいくら集まろうとシルバーバックは倒せねえよ」
ふむ、そんな化け物だったのかあいつ。
「いやあ、そう言われると照れるなあ‼︎」
「そこまで褒めてねえ。死ね」
「し、ししし死ね⁉︎言い過ぎだろそれは‼︎」
「コラ、馬鹿男共ォッ‼︎くっちゃべってないでさっさと仕事しなァッ‼︎」
怒声が飛んできて、慌てて俺たちは仕事に戻った。
1
お昼になった。昼飯にしようと、俺は店を出ようとすると、後ろから声がかかった。
「おい、ウラ。どこ行くんだよ」
「飯です。一緒に来ますか?」
「おう。財布持ってくるから待ってろ」
との事で、ベートさんが財布を取ってきて二人で出かけた。
「……で、何食う?」
「ラーメンだろ」
「ラーメンだよな」
と、いうわけで満場一致でラーメン屋へ向かった。
店を出てしばらく歩くと、ラーメン屋がある。馬鹿みたいにこってりしたとんこつラーメンがメチャクチャ美味いんだこりが。この前の昼飯の時にベートさんと見つけた。
「さて、じゃあ分かってんな」
「もちろんっす」
「餃子の奢りデスマッチ」
「負けたら餃子6皿1枚奢り」
俺とベートさんは拳を引いた。
「「すーうーじッ‼︎」」
数字、とは。1、2、3と数えながらあいこになるまでジャンケンをして、あいこになったらゲーム終了。あいこになる前のジャンケンで勝っていた方が、負けた方に罰ゲームをすることができる遊びだ。
この罰ゲームで先にギブアップした方が餃子を奢るというゲームだ。
「1、2、3!」
俺→ぐー
ベート→ぱー
「4、5、6」
〜中略〜
「2101、2102、2103‼︎」
俺→ぐー
ベート→ぐー
「ぃぃいいよっしゃああああああ‼︎」
「甘ぇええええ‼︎次で凌げばいいんだろ⁉︎」
「行くぞ……‼︎」
「来いよ」
俺は人差し指をベートさんの顔の中心に合わせた。
「しっぺ!デコピン!馬場チョップ‼︎」
〜中略〜
「ぜーんぶ‼︎」
「あっ、やべっ」
「うぅぅぅおっしゃああああああ‼︎‼︎」
「ま、まてまてまて‼︎全部2103回もやんの⁉︎」
「確か、レベル差の特別ルールで俺は木刀でもいいんでしたっけ」
「そ、それ無し‼︎」
「いやあんたから言い出したんだろこれは……。じゃ、まずは木刀でしっぺ、2103回」
「わかった、ギブ!餃子奢る‼︎」
「よっしゃ!」
そんな事をしながらご入店しようとした。その時だ。
「あっ……ウラ」
「あ?」
控えめな声が聞こえて、振り向くとアイズさんが随分と元気なさそうに歩いていた。いや、正確には今元気出ました!という感じだ。
「アイズさん?なんでこんなと」
「危ねえアイズウウウウウウウ‼︎‼︎」
「ホォアアアアアア‼︎」
突然のベートさんのドロップキックで俺は前に思いっきり蹴っ飛ばされた。アイズさんはヒョイっと避ける。
壁に激突し、仰向けに倒れた俺は当然、ベートさんに怒鳴った。
「テメェ‼︎何しやがんだ‼︎」
「何だよ、お前とアイズが合うと、目に見えない何かしらの力で絶対セクハラしてボコられるから、それを未然に防いでやったんだろ」
「お前アイズって言ってただろうが‼︎」
俺のツッコミを受けてもベートさんは涼しい顔。
すると、アイズさんが俺の前に立って手を差し伸べた。
「……大丈夫?」
「あ、すいません……」
第一級冒険者の蹴りをもろに食らった俺は、ヨロヨロと上半身だけ起き上がりながらありがたく手を取ろうとした。
が、自分の体を支えている手の力が、ダメージによるものか急に抜けた。
ガクッと倒れかけた俺は、顔面を地面に強打。
「ふぬをっ⁉︎」
鼻血が出た。
「ッ……てて、あーあ……いい歳して鼻血出ちゃったよ……」
ボヤきながら起き上がると、そこで何かを握ってることに気づいた。布のようだ。なんだこれ、スカート?……あれ、スカートってことは……。
おそるおそる上を見ると、アイズさんが顔を真っ赤にしながら俺を睨んでいた。
「………ホントだ。ベートさんと言う通りみたいだね」
「や、違っ……わざとじゃ……‼︎」
「どうだか、鼻血まで垂らして、いやらしい」
「違うから!これ地面に強打しただけで……!」
「とりあえず、スカートから手離して」
「あ、ごめんなさい」
手を離すと、スカートを上げるアイズさん。
俺はゆっくりと後ろに後ずさった。一歩、二歩と進みながら、確実に距離をあける。そして、
「おおおおおおおおお‼︎」
走った。が、目の前にアイズさんが現れた。ソッコーで回り込まれた。
「逃がさない」
「あ、やっぱり?」
殴られた。薄れゆく意識の中、こんな会話が聞こえた。
「………もう、ウラのえっち」
「………………」
「………ベートさんも殴っておけば?」
「………いや、今日は許してやる」
「………ベートさん」
「………………」
「……鼻血出てる」
「………………」
ベートさんも殴られた音が聞こえた。
2
ラーメン屋。ベートさん、俺、アイズさんの順番で座っていた。
「つーかなんでいるんすか」
「………お腹すいたから」
「………チッ」
不愉快そうに舌打ちするベートさん。
「あ、ベートさん餃子ね」
「わーってるよ。……つーかアイズ、お前なんであんなとこにいたんだ?」
「………怪物祭りで、壊しちゃった剣の弁償」
「いくらだよ」
「………三千万ヴァリス」
「………何したんだよ」
「つーかそんな借金あってラーメン食べて大丈夫なんですか?」
「それ、ウラに言われたくない」
あ、それはその通りですね、はい。
「お店で借りてた剣、壊しちゃって……」
「そんなに高い剣だったんすか?」
「そうみたいで……」
「ふぅー……ん、そもそもレンタルでそんな剣貸す方が悪いと思いますけどね。ていうか、よく武器にそんなお金掛けますね。そんなのに金かけるくらいなら俺は返済か飯代に足します」
「でも、テメェの盾。あれかなり上等なもんだろ」
店の壁に立て掛けてある俺の盾を見ながらベートさんが言った。
「え?そうなんですか?」
「少なくとも下級冒険者の買えるものじゃねぇよ。ミノタウロスの一撃も普通に耐えてたろ」
「拾い物なんだ知らないです」
「は?ひ、拾ったの?」
「はい。なんか落ちてたんで。しかもこれ、攻撃力も中々あるんですよ。まさに攻防一体って感じの盾です」
「そんなもんよく拾ったなお前……」
「へいおまち。ラーメン三つに餃子6個ね」
「「「あ、どうも」」」
麺を啜った。