「つまり、ベルの【ステイタス】が上がるほど、その武器の性能も上がるってわけですか」
場所は豊穣の女主人の奥の部屋。俺はヘスティア様に体に包帯を巻いてもらいながら、ベルと一緒に武器の話を聞いていた。
「それで、何日間も家を空けてたんですね」
「うん。ごめんね……、でも、僕だけ何もできないのは、嫌だったからさ」
「神様………」
ヘスティアとベルがウルウルと目を潤ませながら見つめ合った。
本当にこの人、ベルのこと大好きだなー。それはそうと、俺との扱いに差があり過ぎやしませんかね……。
まぁ、ベルは俺と違って素直だし、仕方ないには仕方ないんだけど。
そんな事を思ってると、「んっ」とヘスティア様は袋を俺に差し出してきた。
「?」
「君にも、ほら」
「え、俺の分も……?」
「君にだけ何も買わないのは不公平だろう?」
「……あ、ありがとうございます!」
マジかよ、この人!かなりいい人だ!
なんだろー、と思って袋を開けると、手袋だった。
「………?」
「ご、ごめん。ベルくんのをヘファイストスにお願いしてから、流石にあれ以上は借金できなくて……で、でも、その手袋はただの手袋じゃないよ。豆防止だけじゃなくて、武器を絶対に落とさないし、拳での戦闘でもかならず役に立つって言ってたよ」
………まぁ、気持ちだけでも嬉しいし、何より役に立つならいいか。
「ありがとうございます、神様」
「うん」
本当に感謝の心しかない。これを着けてモンスターを殴れるのなら、耐久度もそこそこあるはずだ。
「あの、お取り込み中すいません」
シルさんがひょっこりと顔を出した。
「あ、はい。何ですか?」
「私のお財布、リューがウラカゼくんが持ってるって言ってたんだけど……」
「ああ、すいません」
ポケットをまさぐった。だが、
「………あらっ?」
ない。財布が。いや待て、そんなはずは……、
「? どうしたんですか?」
「い、いやいや、大したことじゃないっす。マジで、ちょっち待って……」
あれれ?なんも入ってないよ?
「あっれー?っかしーなー、ちゃんとポケットに入れたはずなのに……」
………いや待て、今日の行動を思い返してみろ、アイズさんに引き摺られてシルバーバックと正面から殴り合い、ポケットに入れた程度では、なくならないほうが不思議だ。
「………無いんですか?私のお財布」
あ、ヤバイ。ガンギレしてる。これ、無いなんて言ったら俺のタマとられる。
「………いや、ありますよ?あるある、ないわけない!ちょーっと、待ってて下さいね。今から……」
そう言うと、俺はスクッと立ち上がって、扉の前に立ってドアノブに出かけた。
「世界一周して来ますから」
「?」
直後、ドアを開けて猛ダッシュ!
「今の捨て台詞か⁉︎」
「逃げた!逃げる気ですよシルさん!」
「追え!追っかけろ!」
後ろから声が聞こえるが無視。店のレジを抜けて、そのまま店の出入り口にダッシュ。
店の扉を大きく開け放った。直後、目の前に現れたのはアイズ・ヴァレンシュタイン。
「あっ」
「えっ」
どんがらがっしゃーんと衝突してしまった。
「す、すんません……」
ヤバイ、早く逃げないと……!俺は無理矢理体を起こそうと、手に力を入れた。直後、柔らかい感触。しかも、それだけじゃない。生肌の感触。
薄っすら目を開けると、俺の手はアイズさんの服を大きく捲って、オッパイをダイレクトアタックしていた。
「………あっ」
「んんっ……!」
色っぽくてエロい声が聞こえたが、完全に殺意のこもった目で睨まれてるので全然興奮しない。その殺意が段々と大きくなっていくのが、駆け出し冒険者の俺でもわかった。
「な、なんでここに……?」
「あの後、シルバーバックに立ち向かったって聞いたから、心配になって……でも、心配の必要なんてなかったみたいだね」
ゴゴゴゴッとアイズさんからドス黒いオーラが見える。これはヤバイ奴だ。俺の直感と本能と第六感が危険信号を発している。
さっきまでアレだけオッパイを揉みたがってた俺だが、今すぐにその俺の幻想をブチ殺す!
「何やってんのウラ……あっ」
後ろから、さらにベル、シルさん、神様の三人がやって来た。直後、全員の目に殺意が芽生えた。
ベル→僕の目標の方に何を
神様→ただでさえ人気のない【ファミリア】なのに何を
シルさん→店の前で何を
と、いったとこか。とにかく、分かったことが一つある。
「手加減してください」
「「「「だが断る」」」」
俺は自分の思考を改めた。【ステイタス】のためでも女性に手を出すものではない、と。