俺はベルとヘスティア様の前に着地して、シルバーバックの攻撃を防いだ。
「無事か?ベル、神様!」
「「ウラくん⁉︎」」
二人揃って声を出した。仲良いなーこいつら。
「どうしてここに⁉︎」
「助けに来たんだよ!逃げるぞ!」
「結局逃げるんじゃないか!」
見たところ、ベルは結構ボロボロだ。随分と長い間鬼ごっこしてたみたいだな。
「というか、なんであのゴリラは執拗にお前ら追い掛けてんだ?」
「そんなの知らないよ!それと追いかけられてるのは僕じゃなくて神様だよ」
「………何したんですか?寝てる時に尻尾踏んだとか?」
「そんなテンプレ染みたことしてないよ!あんなモンスターは初対面だ!」
だろうな……。まぁ、追いかけられてるなら仕方ない。
「ベル、武器はあるか?」
「あるけど……」
「うしっ、やるぞ」
「やるって?」
「あいつ倒すんだよ」
さっき、引き摺られてただけとはいえ、アイズさんと一緒にモンスターを倒したからハイになってるのかもしれない。
「ほ、本気⁉︎」
「じゃないと逃げ切れないだろ。あいつは二人を執拗に追いかけてるんだ。援軍を待つか、奴を殺すかしないと無理だ」
アイズさんとその愉快な仲間達は別のモンスターを始末しに行ってるし、援軍は望めない。なら、俺とベルが戦うしかないだろ。
「いいな、ベル。C-7作戦だ」
「え、なんだっけそれ?モンスターに謝る奴?」
「それは最終手段のXYZ-986-3728-αだろうが!」
「前から思ってたけど作戦名長い上に覚えづらいんだよ!大体、モンスターに謝るのって意味あるの?」
「知るか!」
「…………君達は普段、キチンと真面目にダンジョン攻略してるのかい?」
「……………」
「……………」
「何か言いなよ!」
神様のツッコミを無視して、俺とベルは白髪のモンスターに襲い掛かった。
「正面は俺が引き受けた!ベル、分かってんな⁉︎」
「おう!」
俺はモンスターの正面に立つと、ヘスティア様を俺の背にして盾を構えた。
「絶対動かないでくださいよ」
「う、うん……!」
直後、俺に拳を振るうモンスター。それを俺は盾で受け止めた。全力で盾でガードしたのだが、少し違和感があった。
軽過ぎる。いや、軽過ぎるのは攻撃自体が、ではなく俺の想定していた攻撃に比べて、だ。
この前のミノタウロスよりは遥かに軽い。
考えられる理由は二つ、このモンスターが弱いか、俺の【ステイタス】が上がってるか。
前者はありえない。俺の【ステイタス】が以前のままだろうと違かろうと、中層以上に出てくるモンスターの攻撃をこんなに簡単に受け切れるはずない。
となると、後者だ。だが、後者もここ最近全然ダンジョンに潜ってい俺にはありえない。他に攻撃食らったと言えば、女性陣から袋叩きにされたくらいで………、
あっ、もしかして……、
「あの、神様……?」
俺はモンスターからの猛攻を軽く受けながら、ヘスティア様に聞いた。
「俺の新しいスキルって……女の子にボコボコにされると『耐久』が上がる、とかじゃないですよね……?」
「……………」
真顔のヘスティア様。汗を大量に流す俺。
ヘスティア様が左手をゆっくりと上げた。
「正解ッ!」
ウィンクして舌を出して親指をグッと立てるヘスティア様。ここまで自分の神様を殴りたいと思ったのは初めてだ。
「なんで早く教えてくれなかったんですか⁉︎」
「えー、だって教えると君、悪用しそうなんだもの」
「そりゃしますよ!」
「ほら見たことか」
「あ、いや今のは違っ……言葉の綾です!」
「君、その言葉の意味わかってないだろ」
畜生オオオオ‼︎事前に知っておけばもっとわざとおっぱいダイブとかしてたのにいいいいいい‼︎
「ま、まぁ、とにかく今の君はレベル1の中でもトップクラスの硬さを持ってる。それなら頑張ればシルバーバックの攻撃くらい何度でも防げると思うよ」
「嬉しくねえええええ‼︎どうせボコボコにされるならもっと堪能しとけばよかったああああああ‼︎」
大声で文句を言いながらも、シルバーバックの攻撃を防ぐ。
………いやまてよ、これはチャンスだ。あのシルバーバックとかいうモンスターの攻撃力は間違いなく中層クラスだ。それを耐えられる俺の防御力なら、店の可愛い女の子のおっぱいをどんなに揉んで反撃されても痛くも痒くもないんじゃないか?
「やる気が出てきた!」
「君はさっきから忙しい子だな」
「おいベル!さっさと終わらせんぞ!」
「そうは言うけど……」
「終わった後、俺はオッパイを揉むんだッ‼︎」
「今なんて⁉︎」
ちなみに俺が攻撃を防いでる間、ベルはシルバーバックにずっと攻撃をしていた。でも、全然攻撃効いてねえな。
「こっの……!」
ベルは歯を食いしばりながら、ナイフを思いっきりシルバーバックに突き出す。
その直後、ナイフがバギンッと鈍い音を立てた。ヒュンヒュンヒュンと、音を立てて刀身が回転して、カランと地面に落ちた。
「……………」
「……………」
「……………」
『……………』
俺もベルもヘスティア様も、ついでにシルバーバックも黙って、そのナイフを眺めた。
続く沈黙、直後、シルバーバックは口を大きく開いた。
『グオオオオオオオオオッッ‼︎‼︎』
「「「ふおおおおおおおお‼︎」」」
三人揃って慌てて逃げ出した。