「スキルが発現してるね」
【へスティア・ファミリア】のホームの教会の裏部屋。そこで俺は俺の主神ヘスティア様にそう告げられた。
「………え、マジ?」
「うん。マジ」
「良かったじゃん!ウラ!」
ベルが俺の肩を叩いた。
「ああ。これで少しは俺も強くなれた、よな?」
「うん。僕も早く強くならないとなー」
俺もベルも、まだまだ駆け出し中の駆け出し冒険者だ。到達階層だって未だに4とか3くらい。そんな俺たちにスキルが発現するのは、かなり戦力増強されたと言っても過言ではないだろう。
「それで、どんなスキルなんですか?」
早速、俺はヘスティア様に聞いた。自分の初スキルが気になってしまい、つい子供のような口調になってしまったかもしれない。
しかし、何故かヘスティア様は微妙な表情をしている。それどころか、ゴミ虫を見る目で俺を睨んでいた。
「………なんでもいいよ」
「えっ、何その反応」
「教えない。もしかしたら、このスキルを悪用するかもしれないからね。そしたら、オラリオの女性達が酷い目に遭うだろうから」
「???」
「ベルくん、しっかりウラくんを見張っておいてくれよ」
「へ?は、はぁ。分かりました」
何を分かったんだお前。
「えー、ちょっと教えて下さいよ神様」
「ダーメ!絶対に!」
「じゃあヒント!ヒントだけ!」
「それもダメだね!……それに、その内気付くかもしれないし」
その内気付く?という事は、頻繁に起こりうるかもしれないということか。それと、女の子が関係しているわけだな。
………なるほど、わからん。
「それより二人とも、明日に備えて早く寝よう」
「「あ、はい」」
ヘスティア様に急かされ、俺もベルも寝ることにした。
1
【
・捕まるまで、もしくは童貞を捨てるまで有効。
・イイ事が起きる程、打たれ強くなる。
・但し、かなり不器用になる。
2
翌日、俺とベルは二人でまたまたダンジョンに潜っていた。
『ヴヴォオオオオオオオオ‼︎』
「「ほぁあああああああ‼︎」」
二人して間抜けな声でミノタウロスの攻撃を避けた。
何だよ、何でこんなとこにミノタウロスがいるんだよ!死ぬ!死ぬ!
「ベル!お前が調子こいて5階層に行こうなんて言うからこうなったんだろ!責任持って生贄になれ!」
「やだよ!大体、ウラだってノリノリだったじゃないか!」
「提案したのはお前だろ!」
「人の所為かよ!人の所為かよ!」
「言ってる場合か!いいから早く……!」
その場で大の字に寝そべれ、そう言いかけた所で、ミノタウロスの咆哮が響いた。
『ヴゥムゥンッ‼︎』
ミノタウロスの蹄、それが地面を砕き、俺とベルの足場を巻き込んだ。
「でえっ⁉︎」
「ベルッ……!」
足を取られたベルは前に大きく転がった。そこを逃さずに追撃するミノタウロス。
『フゥー、フゥーッ……!』
「うわわわわわわっ……⁉︎」
尻を引きずりながら後ずさりするベル。
ありがとな!ベル!お前のお陰で俺は生き残れそうだ!
「あわわわっ……!死ぬ、死んでしまう……!」
「……………」
「う、ウラぁ〜……かみさまぁ……」
「……………」
涙目で歯をカチカチ鳴らしたベルが、青ざめた表情でミノタウロスを見上げている。
そのミノタウロスはベルにトドメを刺そうとしていた。
「…………」
だぁーっ!もうっ、仕方ねえな!
俺は腹を括ると盾を構えて突撃した。
「ふぬをオオオオオオオ‼︎」
全身全霊全力全開で両腕に力を込めて、ミノタウロスの一撃を止めた。
……うおお、何だこれ……。なんつー重い攻撃だ……。両腕が吹っ飛ぶかと思ったぜ……。この盾が拾い物じゃなかったら粉々だったかもしれない。
「ウラ!」
「助かったー!みたいな顔すんな!いいから逃げろ!長くは保たない!あと助けてくれ!」
「どっちだよ!」
「助けて!」
「やっぱりか!てかそっちが本音か!」
「馬鹿野郎!お前の命繋いでやっただけでもありがたく思え!」
「……その件は本当ありがとうございます」
「いいから何とかしろ!これ絶対明日筋肉痛になる!」
ミノタウロスの極太い腕を支えながら嘆いてると、反対側の腕がユラリと持ち上がった。
「「えっ」」
空中で握り拳を作りながら拳が迫ってくる。
「ああああ!退きたい!でも力抜いたら潰される!助けて!」
「助かりたい助かりたい助かりたい助かりたい助かりたい助かりたい助かりたい助かりたい助かりたい助かりたい助かりたい助かりたい………」
「神頼みすんな!てめっ、フリーだろうが何とかしろ!」
やっぱり助けるんじゃなかった!こんなバカホッとけば良かった!てかもう冒険者辞める!引退して農家やる!
心の中で全力で後悔した直後だ。目の前の牛野郎に一線が入った。
「「え?」」
『ヴォ?』
俺とバカと牛の間抜けな声。直後、全身から血を噴き出してミノタウロスはバラバラになった。
俺は全身を前に体重を掛けて、ミノタウロスを支えていた。そのミノタウロスがバラバラになったということは、俺の身体は前に突っ込むことになるわけで。思いっきり前にダイブした。あっ、やべっ。前に人いる。
「……大丈夫で……」
「ふおっ⁉︎」
おそらくミノタウロスを助けてくれたであろう人物に突撃してしまった。
押し倒すように倒れ込んだ。
「いってて……」
「んっ……」
あれっ、なんか下から色っぽくてエロっぽい声が聞こえる。
恐る恐る下を見ると、ガッツリ助けてくれた女の人のオッパイを掴んでいた。しかも、この人確か【剣姫】じゃん……。
「ふおおお⁉︎ご、ごめんなさい!」
「……………」
顔を赤くして、自分の体を抱きながら俺をジロリと睨む【剣姫】。
「や、あのっ……すいませ……」
謝りかけた俺に、影が掛かった。見上げると、狼人の足が迫っていた。
「って、ウオォオ⁉︎」
「テメエエエエ‼︎何汚ぇ手でアイズに触ってんだああああ‼︎」
「い、いやわざとじゃなくて……!ごめんかさいってば!」
「知るかああああ‼︎死んで償ええええええ‼︎‼︎」
「ほんと違うんですってば!ベル、お前も何とか言ってやれ!」
「うわあああああああああああ‼︎」
「テメェこのタイミングで逃げんなああああああ‼︎」
「くたばりやがれええええええ‼︎」
ああああ!あいつは【凶狼】じゃねぇか!殺される!犬は単細胞!殺される!
俺は一応、盾を構えつつも全力で後悔していた。その時だ。俺の前に【剣姫】が立ち塞がった。
「ベートさん、暴力はダメ」
「はいっ」
うおお、調教されてやがる。どこまで【剣姫】は怖いんだ……。
まぁ、とにかく助かった。お礼を言おうと、俺は【剣姫】の方を見た。直後、拳が飛んできた。
拳は見事に俺の顔面に減り込み、俺はダンジョンの壁にめり込んだ。
「………これでよしっ」
「お前、意外とえげつないのな」
薄れゆく意識の中、そんな会話が聞こえた。