とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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※注)落ちも山もないただの砂糖


それはとある寒い朝(時期:新婚当初)

 肩を撫でる外気の冷たさに布団を肩までかけ直し、すぐ近くにあった温かいものにすり寄る。しかしふと疑問に思いうっすらと目を開けた。湯たんぽにしては大きいし、妙に硬い。動物を飼っているわけじゃ無いし、野良猫が迷い込んできたのでもあるまいし……この妙に心地いい温度の物体は何だろう?

 

「うば!?」

 

 思わず変な声をあげてしまった私は悪くない。な、なんでラディッツの顔がこんな近くに……!

 そして珍妙な声を近くであげたにも関わらず、ラディッツは瞼を閉じたまま寝息を立てている。その普段からは考えられない妙に健やかな寝顔を見ていたら、段々と落ち着いてきた。そして思い出す。……そういや、少し前から一緒に寝るようになったんだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラディッツが好きだと気づいてから地道なアピールを続け、そして思いがけずその想いが叶った日。そして色々すっとばして事に及んでしまった日……その翌日、日記に色々書きなぐりながらも結局私はこれからどう奴に接していいか分からなくなってしまっていた。

 仕事を終えて夜に帰って来たラディッツを待っていたはいいが、いざ顔を合わせると口がぱくぱく動くだけで言葉が出てこない。顔も熱い。多分真っ赤だ。物凄く恥ずかしい。

 それをニヤニヤ意地の悪そうな顔で見ているこの男が腹立たしくて腹立たしくてたまらなかったが、今までみたいにど突き倒すことが出来なくなっていた。………………結局、寝るまでの時間何も話せなかった私を誰か笑えよ。

 

 茫然としながらしゃこしゃこ歯を磨いて時計を見るが、もう深夜をまわっており話す時間は無さそうだ。

 

 その事実にため息をつきつつも寝室に向かったのだが、途中でぐいっと腰を引き寄せられたかと思えば耳元で「いい加減ソファーじゃ狭い」と言われた。当然引き寄せた犯人はラディッツしか居るはずもなく、言われた意味を考えると「ソファーじゃ狭いから一緒に寝かせろ」ってことだろう。今まで本人も気にしなかったし、ソファーと言ってもソファーベッドだし大丈夫だろうとずっとリビングで寝かせてたからな……でも考えてみればこいつの図体じゃ狭いか。

 気づいたものの喉が渇いて張り付き、体が固まって動けない。……近くに感じる息遣いや、腰に回された腕を必要以上に意識してしまうのだ。体温もどんどん上がっているようで、頭ものぼせたみたいにくらくらしてきた。やばい、何だこれ病気か。

 そのまま数分ガッチガチに固まっていると、しびれを切らしたのかため息をついたラディッツにそのまま部屋に連れ込まれた。いや、連れ込まれたっつっても私の部屋なんだが。

 そしてそのまま抱き枕よろしく抱え込まれて布団の中へ。思わず昨晩の事を思い出してしまいさっき以上にぐわっと体温が上がるのを感じたが、ラディッツがそのまま目を瞑って寝る体勢に入ったことを確認すると肩の力が抜けた。どうやら今日は普通に寝るだけらしい。

 なんつーか、ほっとしたような残念なような……………………いやいやいや、残念って何!? 別に期待してたわけじゃないけど!?

 

 ぐるぐる頭の中が大混乱している私に構わず寝息を立て始めたラディッツにいささか腹が立ったが、服越しにじんわり馴染んできた互いの体温が気持ちよくて「これはこれでいいかも」とも思い始めた。私もたいがい現金である。

 だからせっかくだしと、もぞもぞ抱き込まれた体勢から腕だけ抜け出させる。そして鼻先をラディッツの胸元に摺り寄せて腕を無駄にデカい体にまわしてぎゅっと抱き着いてみると、うん……硬くて抱き心地が良いとは言えないけど悪くない。

 すんすんと鼻を鳴らして匂いを嗅げば、私が使ってるのと同じボディーソープの香りに混じって若干の汗のにおいを感じた。しかし不快感は無く、妙に後を引……いやいやいや、嗅いでどうすんだ! 変態か!!

 

 自分がいちいち無意識に恥ずかしいことしてて頭が痛いが、しかしいつまでもこいつに振り回されているのも気に食わない。

 もう寝てしまえ! ……そう思って、私はそのまま眠ることにした。

 

 …………結局眠れたのは明け方近くだったわけだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あの時も起きた時驚いて変な声あげたんだよなぁ……)

 

 眠るラディッツの鼻を指でつつきながら思い出す。あれから何だかんだあって、ついに先日書類だけだが籍を入れた。つまり今現在、こいつと私は新婚である。

 

「ホントに結婚しちゃったよ……」

 

 未来の息子の事があるとはいえ、未だに半分くらい信じられていない。なんせファーストコンタクトでは泣かれ(幼少期)、再会してからは理不尽に殴り倒しこき使い続けてきた相手だ。…………いや、本当によく結婚できたな。主にこいつの気持ちが私に向いてくれた的な意味で。よく好きになってくれたな。私が逆の立場ならそんな仕打ちをしてきた相手に絶対好意など抱かないだろうに……案外ラディッツは心が広いのかもしれない。

 

 目覚まし時計を見れば、まだ起きるまでに時間があった。

 

「へへ……もう少し見てよっと」

 

 普段と違う、もしかしたら私しか知らない表情で眠っているのかと思うと気分が良かった。なんだ、案外可愛い顔して寝てるじゃないか。

 起きている間には絶対出来ないから、ここぞとばかりにそっと唇を寄せた。起こさないように起こさないように、細心の注意を払ってその唇に触れる。するとどうしようもないほどの幸福感で満たされて、それが嬉しいんだけど無性に恥かしくもある。

 だからそれを誤魔化すように、私はぎゅっとラディッツの体に抱き着いて二度寝を決め込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(起きれん……)

 

 そして実は狸寝入りを決め込んでいたこの男……ラディッツは、目覚ましが鳴っても幸せそうに寝入ったまま起きない妻に抱き着かれたまま、起きるに起きられず困り果てていたとか何とかかんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お粗末様でした。

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