とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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ブウ戦決着!そしてまさかの第四子!?

 エネルギーが散った後、白く変色した魔人ブウが地上に落ちて崩れた。

 

 

「おめぇは凄かったよ……よくたった一人で頑張った。今度生まれ変わったら、一対一で勝負してぇ。オラももっともっと腕をあげて待ってる。…………またな」

「つくづく甘い野郎だな、貴様は」

 

 

 カカロットの妙にしんみりした声に悪態をつくが、同時にそれを聞くことで終わったのだと感じた。下を見ればもとの姿に戻ったハーベストがへたり込みそうになるのをラディッツの野郎が支えている。フンッ、支える方も支えられる方もフラフラじゃないか。…………まあ、俺も似たようなもんだがな。正直宙に留まっているのがやっとだぜ。

 地上に降りると、トランクスが真っ先に寄って来て「かっこよかったよパパ!」とじゃれ付いてきた。見ればカカロットの頭には悟天がひっついている。…………まさか、このチビ共に助けられるとはな。気に食わんが、ハーベストのゴッド化が決め手になったのはたしかだ。

 

 

 

「やあやあ、お見事。なかなかいいものを見せてもらいましたよ」

 

 

『!!』

 

 

 しかし俺たちに休む間は与えられんらしい。どうしてここに居るのか不明だが、付き人を従えて宙から降りてきたのは紛れもなく破壊神ビルスだった。数年前にハーベストに「いずれビルス様がいらっしゃるから、鍛えておいた方がいいよ」と言われて半信半疑だったが……まさか、こんな場所で会う羽目になるとはな。

 緊張する俺とは裏腹に、カカロットの野郎は相変わらず普段と同じ態度で口を開いた。

 

「悪ぃなービルス様。オラじゃねぇけど、結局ゴッド使っちまったぞ」

「そうだね。でもまあ、興味深いものが見れたからその件は不問にしてあげるよ」

「え、そうなんか? なんかよくわかんねぇけど、サンキューなビルス様!」

「か、カカロット! もっと口を慎め!」

「ふふっ、どうやらお二人ともご自分に起きていた変化に気づいていないようですね」

 

 付き人のノッポが何か言ってやがるが、それを聞くにどうやら俺たちの何かが破壊神を満足させたらしい。どういうわけかビルスとゴッドを使わない約束をしていたらしいカカロットのそれも許されたようだ。こ、この野郎……! 知らないうちにとんでもない奴と知り合ってるどころか、変な約束までしやがって! もし少しでも機嫌を損ねていたら、せっかく魔人ブウに勝ったというのに破壊されるところだったぞ!

 

 

 

 

 

「悟空さー!」

「お、チチー!」

 

 消耗した体で冷や汗をかいて余計に疲れていると、遠くからカカロットの妻の声が聞こえた。見ればナメック星に避難していた連中がみんな戻ってきたようだ。

 しかしこっちはそれどころじゃない。破壊神がこのまま大人しく帰るとは到底思えん……!

 

 そしてその予想はどうやら当たりだったらしい。

 

「さて、ブウも倒したことだし次は僕が君と戦ってあげようか。今の君となら少しは楽しめそうだしね」

「え!? いやー、ビルス様……さすがに今回はオラも疲れたぞ。戦いてぇけど、また後にしてくんねぇか?」

「嫌だね。僕にしてみれば、仮眠中起こされてわざわざここまで来て待ってあげてたんだ。それに約束をやぶったのに許してあげた。その上また後でなんて……虫が良すぎるんじゃない?」

「うーん、まあ、そうなんだけどよぉ……。でもオラ、もう力がすっからかんだ。こんな状態で戦ってもビルス様もつまんねぇだろ?」

「問題ないさ。ねえ、界王神。今の君なら体力の回復くらいしてあげられるだろう?」

「え、それは、まあ出来ますが……」

「じゃあ彼を回復してあげてくれ。さ、これでいいだろ? 体力を回復したらすぐにゴッドになってもらうよ」

「ま、まいったな~……ははは……」

 

 笑い事じゃないだろう!

 悟天を肩に担ぎながら頬をかくカカロットを肘でおもいきりどつき「どうする気だ!」と小声で問うが、「こうなりゃ戦うしかねぇだろうなー」としょうもない答えが返ってくるだけだった。

 この馬鹿……! 破壊神の力を分かっていないな。いや、俺も実際に見たことがあるわけでは無いが……! だが、この場で戦ってどうせもろくなことにならん!

 焦る俺たちだったが、その前に出て言葉を発する者が居た。界王神だ。

 

「び、ビルス様。お言葉ですが……彼らは私が至らぬばかりに、今回とても頑張ってくれたのです。そんな彼らをねぎらう暇もなく、次の戦いに送り出すなど私には出来ません」

 

 おお! 役に立たん野郎だと思っていたが、たまにはいいことを言うじゃないか!

 

「ふぅん……そうかそうか。…………僕の命」

「うっ」

「まきぞえ」

「ううっ」

「考え無し」

「ううう……!」

 

 だが小声でビルスに何やらつぶやかれると、界王神はどんどん小さく縮こまっていく。クソッタレ! やはり役にたたない野郎だ!!

 

 この流れだと本当にビルスと戦う羽目になりそうだ。ならばせめて、調子にのりそうなカカロットではなく俺が戦いなんとか場を上手くおさめるしか……!

 

 そう思って前に一歩踏み出した時だった。

 

 

 

 

「お、おじさーん! ねえ、お母さんの様子が何か変なんだ!」

「な、何!?」

 

 出鼻をくじかれおもわずこけそうになるが、なんとか踏ん張って持ちこたえた。

 泣きそうな表情で駆けつけてきた空龍に引っ張られてハーベストのもとに向かえば、たしかに様子が変だ。額に汗をにじませて背を丸め、腹部を押さえながら何かに耐えるように目をつむり歯を食いしばっている。ラディッツが背中をさすって「いったいどうしたんだ!?」と問いかけているが、答えることもままならないようだ。

 おい、俺を連れてこられても何も出来んぞ! こういう時は……。

 

「おい、デンデ! こいつを見てやれ!」

「は、はい!」

 

 ちょうどあの緑色のガキ、地球の神デンデが居るのを見つけて呼び寄せる。するとほかの連中まで一緒に来やがった。……お、多いな。

 

「姉ちゃんどうしたんだ!? ビルス様ごめん、ちょっと待っててくれ!」

「空梨おばさん、大丈夫ですか!? ま、まさか吸収されてたすぐ後にゴッドになって無茶が祟ったんじゃ……!」

 

 カカロットと悟飯も駆け寄り、デンデがハーベストに回復を施すのを固唾をのんで見守る。他の連中も同様だ。

 

 

 

 

 

 奇妙なもんだぜ。

 けして性格がいいわけじゃ無い、自己中で身勝手なこんな女をこれだけの人間が心配している。まったく、地球の連中はどいつもこいつもお人よしだ。

 だが…………改めてこんな光景を目の当たりにすると、こいつが地球で築き上げてきた人生が見えた気がしないでもない。

 

 気に食わない奴だという事に変わりはないが、多少は認めてやってもいい。

 柄にもなく、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 だが撤回だ!!

 この女、最後までとんでもない奴だぜ!! こ、こんな時に……!

 

 

「! あ、あれ? 空梨さん、もしかして……」

「ごめん言わなくても分かってる。ありがとう……デンデのおかげで多少楽になったよ。でも、ごめん。ほんっとこんな時にごめん。えっと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「産まれる」

 

『………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はああああああ!?』

 

 耳をつんざくような大音量がその場で爆発した。

 

「う、産まれる!? あ、あれか。大便か! 我慢しろ! か、界王神、トイレはどこだ!?」

「え!? ええと、私たちは排泄しませんのでトイレとかは無くて……!」

「くっ、じゃあどこか見えないところまで連れて行くからそれまで我慢を……」

「馬鹿!? 馬鹿なの!? 産まれるっていったら子供に決まってるじゃない! そ、そうよね空梨!?」

「今の心の代弁をありがとうブルマ! そうだよ馬鹿! こんな場面でウンコを産まれると表現して苦しんでたら馬鹿だろ!! 恥かしいわ!!」

「お父さんサイテー」

 

 ブルマ、ハーベスト、エシャロットから非難の嵐を受け打ちひしがれるラディッツだったが、すぐに我に返って目を白黒させる。忙しい奴め。

 

「子供!?」

「そう!」

「いや、しかし腹の大きさが……! いや待てよ? お、おい。そういえば何か月か前に生理が来ないと言ってた時は病院に行ったのか!?」

「え、ええと……」

「行って無いんだな!?」

「だ、だって流石にそろそろ歳だしむしろ閉経かなって! ら、楽だな~って思ってたらそのまま忘れてて……」

「馬鹿! あ、あんたねぇ……! まだ44歳でしょ!? 可能性としちゃ無くないわよ! しかもサイヤ人なんだから地球人の平均と当てはめてもあてになるわけないでしょーが!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 ブルマの剣幕に縮こまるハーベストに、今度はカカロットの妻のチチが駆け寄る。

 

「と、とりあえず産まれるだな!?」

「で、でも本当に!? お腹なんて、ちょっとぽっちゃりしてますけど妊娠してるってほど膨らんでないんじゃ……!」

「いや、何かで聞いたことあるぞ。あるスポーツ選手が腹筋を鍛えすぎて、出産直前まで妊娠に気づかなかったって……」

「そういえばお母さん、お腹周りがなかなか減らないって言ってすごく腹筋してたよ?」

『それだ!!』

 

 ば、馬鹿か……! 本気で間抜けな奴だぜ! 腹回りを気にして妊娠に気づかなかったなどと!

 あきれ返る周囲をよそに、ブルマ、チチ、18号と女どもがハーベストを囲んで声を張り上げる。

 

「とにかく、男どもはちょっと離れてるだ! で、空姉さま。もう産まれるだか!?」

「う、うん。多分。さっき破水した……」

「そういうことはもっと早く言ってけれ! ど、道具を集めねば……!」

「ち、チチさん、こういう時何を準備すればいい!? あたし病院だったからわかんないのよ!」

「とりあえずお湯か……?」

「そうだべ18号さん! 産湯と、あと殺菌用のあっつあつのお湯だ! それと綺麗な布たくさんと、へその緒を切るハサミに……男どもー! なに突っ立ってるだ!! 今言ったもんをかき集めてこい! あと、ビーデルさんも手伝ってけれ! ちと早いが予行演習だ! ランチさんもだ!」

「へ!? わ、分かりました! って、予行演習……!?」

「は、はい! わたしは何をすれば……!?」

 

 お、おい……この流れだと、ここで産む気か!?

 俺や他の連中が呆然と見守る中、既婚者のクリリンとカカロットが主に駆け回った。

 

「界王神様! あのなんとかっちゅう石を出した時みてぇに、お湯とか布とか出せねぇか!?」

「で、出来ますが……」

「頼む!」

「はい!」

「なんか妙なことになって来たねぇ……」

「ええ。まさか、破壊神が命の誕生に立ち会うなんて……ふふふっ、奇妙な巡りあわせです」

 

 どうやらあまりの事態にさすがのビルスも困惑しているようだ。そして笑う余裕があるあの付き人は何なんだ……俺すら未だに何が起こっているのか分からんというのに。いや、分かってる。分かってはいるが、理解が追い付かんのだ!!

 

 そしてばたばたとしていたのが嘘のように、あっさりと棒と布で作られた簡易の天幕の中で産声が上がった。

 完全に女たちに役目を奪われて外に追い出されていたラディッツが呆然とつぶやく。

 

「産まれたのか……」

「わあ! じゃあわたしお姉ちゃんになるんだ!」

「僕、お兄ちゃん……えへへっ」

「弟かな? 妹かな?」

「いいなー、みんな兄弟が出来てさ!」

「トランクスくんもお父さんとお母さんにお願いしたら? 妹か弟ほしいって!」

「そっか、いいこと言うな悟天!」

 

 ガキどもはこちらの心情などお構いなしで単純に喜んでいるようだ。って、おい待て! トランクスと悟天、何を勝手なことを……! これ以上話をややこしくするな!

 

 しかしこの突然の出来事は、思いがけず事態を好転させた。

 

 

 

「……ビルス様」

「何だい? 界王神」

「やはり、この場は引いていただきたい。そ、創造神として……新たな生命が誕生したこの場で争うことは、私が許しません!」

「許さない? へぇ~、言うじゃないか」

「……どうか、お引きください」

 

 界王神の野郎は、今度は小さくなることもなく真っすぐにビルスを見つめてはっきりした口調で言い切った。

 それに対してビルスは目を細めて数秒界王神を見つめたが、奴が引かないことを確認するとため息をついた。

 

「はぁ…………。ま、こんなぐだぐだになっちゃ興ざめだしね。いいでしょう。君に免じて、今回は引いてあげるよ」

「! あ、ありがとうございます!」

「なんと……あのビルス様を引かせおった」

 

 隣から聞こえ声に横を向けば、しわくちゃのジジイが驚いたようにそれを見ていた。……同感だぜ。まさか、あの情けない界王神が破壊神ビルスに対して正面から意見を言って受け入れさせるとはな。

 

 

 

 

 

 

「孫悟空!」

「お、何だ? ビルス様!」

 

 赤ん坊の姿が見たいのか、今か今かと天幕の外でうろうろしていたカカロットがビルスの声に答える。この野郎……俺も人の事は言えんが、完全にビルスたちのことを忘れていたな。

 

 

「今回は帰ることにした! だけど、予言の年にはお邪魔させてもらうよ。もしその時に今以上に強くなってなかったら…………」

「破壊するってんだろ? そうならねぇように、もっと強くなってるさ! オラもビルス様と戦うの楽しみにしてっからな!」

「クックック……破壊神と戦うのを楽しみに、か。やっぱり変な奴だよお前。ま、そういうことなら僕も楽しみにしていようかな。あ、そうそう。その時は地球の美味しい食べ物でもてなすように」

「ああ、それならまかしとけ! チチの飯はうめぇから、きっとビルス様も気に入っぞ!」

「そうかい。じゃ、そろそろ行くよ。ウイス」

「はいはい。では、皆様ごきげんよう……いずれまたお会いしましょう」

 

 

 

 

 

 そう言って付き人が持っていた杖を地面に突き立てると、光の柱となってビルスたちは天へと消えていった。

 

 

 

 

 

 こうして魔人ブウとの戦いは、今度こそ本当に終わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ナメック星で。

 

 

『あ、あの~…………最後の願いはまだか? 待ってるんだけど……ず~っと……』

 

 

 願い一つを残して出現しっぱなしの神龍とナメック星人達が、気まずそうに顔を見合わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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