とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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姉弟と兄弟

 

「うわひゃああああああ!?」

 

 間抜けな悲鳴に思わず一瞬喉が詰まる。こちらの心配も知らないで気の抜ける声出しやがって……!

 熱くなる目頭を無視して、俺はブウから分離したその小さな体を抱きとめた。

 

「え、ちょっ、は? ラディッツ……?」

 

 目を瞬かせながら俺を見上げる黒い瞳を、もうずいぶん長い事見ていなかった気がする。まだ安心できる状況ではないが、気づけば俺は空梨の体をめいっぱいの力で抱きしめていた。

 

「心配かけやがって……! この馬鹿が!」

「ぐえっ、わかった、わかったから! 今のお前の力で全力ハグとか攻撃技でしかないからやめて!?」

 

 む……しまった。強く抱きすぎたか。骨がミシミシ鳴る音が聞こえた。

 

「おい、貴様ら! イチャついてる場合じゃないぞ!」

 

 ベジータの声にはっと我に返って上を見上げると、空梨と分離したからかチビの男性形に変化したブウが笑いながらこちらにエネルギー弾を放っていた。

 

「うわあああ!? え、エナジーリダクション!!」

 

 が、それは空梨のあの黒い板で阻まれる。敵だった時は鬱陶しく厄介な技だったが、味方になるとこうも頼もしいものか……。

 しかし技を阻まれたブウは、何を思ったのか空気を体に吸い込むようにして体中にエネルギーを溜め始めた。その凄まじい力に、空梨を抱く腕の力を強めて身構える。

 

 最初に気づいたのはベジータだった。

 

「! いかん! こいつ、自爆する気だぞ!」

「いい!? ホントか? ベジータ!」

「おそらくな! こいつ、俺たち全員には勝てないと察したんだろう。だが、これなら俺たちを殺して自分が勝つことが出来る! ブウは自爆しようが再生出来るからな! ……理性がぶっ飛んだ分、やり方を選ばなくなりやがった」

「クッ、じゃあ自爆する前に倒すしかねぇっちゅーわけか!」

「そういうことだ! クソッタレ……! どいつもこいつも自爆などと芸が無い!」

「え、それおめぇが言うんか?」

「お、俺の事じゃない! 自爆は……そうだ、セルだろう! 自爆と言えば! やつは二回自爆したんだ! 俺は一回だけだ!」

「いやどうでもいいわ! それよりさっさと倒そうよ!」

「今まで散々足を引っ張って来た貴様が偉そうに言うんじゃない!」

「え、ええと! それは本当に悪かったけど! ご、ごめんなさい! ほら、これでいい!?」

「ひ、開き直りやがっただと……!? クソッ、この女……俺たちがどれだけ苦労したと……!」

「ま、まあまあベジータ。喧嘩は後にしてよ、とにかくブウをやっつけようぜ」

「貴様はそれでいいのかカカロットォ!!」

「いや、でもこれが姉ちゃんだしなぁ……」

 

 …………相変わらず姦しい姉弟だ。が、そこに切羽詰まった声で喝が入る。

 

「お父さんおばさんベジータさん! 本当にそういうの後でいいですから早く加勢してください!!」

 

 悟飯だ。いつの間にかかめはめ波でブウに攻撃していたようだが、ブウは体外にバリアのようなものを作っていて押しきれていない。そしてその間もますますブウの体にはエネルギーが溜まっていく。

 

 

「チッ、クソッタレがぁぁ!! ギャリック砲!」

「かめはめ波ぁぁぁ!!」

 

 

 続いてベジータとカカロットがそれぞれ技を放ち、ちょうどブウを中心に3方向から挟むような形になる。俺は地上に降りて空梨を下すと、その癖毛を撫でた。

 

「お前はここで待っていろ。行ってくる」

「えっ、いや普通に私もやるけど? 気遣いは嬉しいけど、ここは総攻撃でしょ」

「…………ククッ、ここは黙って送り出せと言いたいところだが、やはりサイヤ人だな。あと、そちらの方がお前らしい」

「い、今はそういうのいいから! ほら、早くしないとまた悟飯ちゃんに怒られるよ!」

「ああ」

 

 不思議な気分だな。ブウの溜め込んだエネルギーは凄まじいパワーだ。こいつに出会う前の俺なら、もうこの時点で諦めていただろう。

 思えばこいつとの付き合いも長いが、再会してからというもの色々なことがあった。まさかこの俺が伝説のスーパーサイヤ人になれるとは思っていなかったし、3人の子供の親父になるとも思っていなかった。何よりこんな嫁が出来るとはな……犬扱いされてボロ雑巾にされていた過去の俺が知ったら、まず信じないだろう。だが、どれもたしかに俺が歩んできた人生だ。

 

 攻撃に加わる前に、空梨が俺の二の腕に手を添えた。

 

「……色々心配かけてごめん」

「かまわん。もう慣れた」

 

 色々言いたいことはあるが、無事な姿を確認したらその全てが言葉にする前に何処かへ飛んで行ってしまった。……まあ、説教は落ち着いた後でいくらでも出来るしな。

 

「勝つぞ」

「当然!」

 

 言葉少なに言い合うと、俺たちもスーパーサイヤ人に変化し今出来る最高の攻撃をするために手にエネルギーを溜め始めた。

 俺の技は中規模の威力の物が大半で、こういう時の決め手には欠ける。ならばカカロット達の技を借りるとしよう。使うのは初めてだが、今まで散々見てきた技だ。

 

 

「かめはめ波ぁぁーーーー!!」

「ギャリック砲!!」

 

 

 

 空梨の奴はどうやらベジータと同じ技を選択したようだ。かめはめ波とギャリック砲、この2つの技はよく似ている。奇しくも俺とカカロット、ベジータと空梨という兄弟姉弟でそれぞれ同じ技を使っているという状況が出来上がった。

 そうしてかめはめ波が3つ、ギャリック砲が2つ。計5つの強力なエネルギー波が魔人ブウを襲うが、奴のバリアは強固だ。くっ、これも空梨を吸収して得た経験が生きてるという事か!? 厄介な……!

 

 ブウが自爆する前にカカロットの瞬間移動で逃げて、また戻って復活したブウと戦ってもいい。だが、おそらく俺たち全員が「ここで倒さねばならない」と感じている。そうだ、今やらねばならんのだ!! 多数対一という現状が情けなくはあるが、ここで引いてはサイヤ人の誇りに傷がつく。なんとしても今、ここで、魔人ブウを倒す!!

 

 だが、気合いとは裏腹に俺たちの体力は時間が経つごとに減っていく。カカロットも体力が持たなかったのか、スーパーサイヤ人3から通常のスーパーサイヤ人に戻ってしまっていた。

 

「くっそぉ! あとちょっとなんだけどな……!」

「チィッ! 決め手に欠けるか……!」

 

 カカロットとベジータが悔しそうに言うが、現状はそう簡単に覆らない。

 

 

 

 

 しかし、ここで誰もが思いもしなかった闖入者が現れた。

 

 

 

 

「お母さんだー!」

「やった! やっぱり龍の神様が助けてくれたんだね!」

「おがあざあああぁぁぁぁぁーーーーん!!!!」

 

 聞きなれた声が背後から聞こえ、俺と空梨はぎょっとして首だけ後ろに振り返る。

 

「エシャロット、龍成、空龍!?」

「お前たち、ナメック星に他の奴らと避難したはずじゃ……!」

「俺たちもいるぜ!」

「へへへっ、来ちゃった!」

「トランクスと悟天まで!?」

 

 ど、どういうことだ……! 娘息子甥っ子と、チビどもが勢ぞろいで何故ここに!?

 周囲を見回すが他に人影はない。ということは誰かが連れてきたというわけではなさそうだが……。

 

「えっとね、エシャが龍の神様にお願いしたのー! お母さんとお父さんとこ連れてってって!」

「えっと、ごめんなさい……。お母さんがピンクの奴から出てきたの見たら、エシャロットがもうお願いしてて……」

 

 神龍か! 神龍に願ったのか!?

 

「俺たちもいいとこ無かったしさ、最後くらい応援しようと思って一緒に駆けつけたんだ!」

「危なかったよねー! ちょっと遅れてたら僕たち置いてかれてたもん!」

 

 悟天とトランクスがいたずらが成功したような顔で笑うが、こちらとしたらたまったもんじゃない! せっかく逃がしたというのに帰って来てどうする!!

 

「馬鹿! ここがどれだけ危険か分かっているのか!」 

「分かってるから来たんだよーだ! エシャロットがお願いしなかったら、セルって奴にお願いして連れて来てもらおうと思ってたんだぜ!」

「おじさん、僕たち5人いるんだよ? 僕たちは半分だけど、サイヤ人が5人!」

「なっ、まさか……!」

「へへっ、ここまで言えば分かるよね?」

 

 思わず空梨と顔を見合わせた。

 

「…………とんでもないガキどもだな……」

「ははっ、でも頼もしくていいんじゃない?」

「ククッ、違いない」

 

 エネルギーを放出しっぱなしで苦しいってのに、思わず笑ってしまう。

 

 

「ははははは! 馬鹿と言ったのは訂正しよう。お前たちは立派なサイヤ人の次世代だ! いい度胸をしている!」

「当然だろー? 俺なんか王子だぜ!」

「えー? じゃあ、エシャはお姫様がいい!」

「あのさ、エシャロット。おままごとじゃないんだよ?」

「うっ、ひぐっ、……でも龍成、お母さんがお姫様だから、間違ってもないよ……」

「ええ~? みんなズルイ! 僕にも何かカッコいい役ちょうだい!」

「はいストップ! 賑やかなのはいいけど、お母さんたちそろそろ限界だから! そろそろ誰かをゴッドに……」

 

 わいわい騒ぎだした子供らに空梨が割って入る。すると5人は顔を見合わせるとにんまり笑った。

 

「じゃあ、俺たちの力はおばさんにあげるよ!」

「へ? い、いやいやいや!? ここは普通に考えて悟空かベジータあたりでしょ!?」

「駄目! わたしはお母さんがいい! トランクスと悟天に聞いたよ。すーぱーさいやじんごっどって、凄く強いんでしょ? だったらお母さんがなったとこ見たいもん!」

「なんたってサイヤ人のお姫様だしね! ここは決めなきゃ!」

「パパたちが格好いいのはもう分かってるからさ、最後の見せ場はおばさんに譲ってやるよ!」

「僕もお母さんの格好いいとこ見たいな」

「お、お母さん頑張れ……!」

「な、なん……だと……!」

 

 チビ共全員の押しに、空梨は言葉に詰まる。そして迷ったのは一瞬だった。

 

 

「分かったよ! やるよ! やればいいんでしょ!? 任せろ!」

「やった! さっすがおばさん!」

 

 よほど嬉しいのか、トランクスがガッツポーズで飛び上がる。

 そしてチビたちは顔を見合わせて頷きあうと、手をつなぎ両端のトランクスと空龍が空梨の背中に手を当てた。

 

「いくよ!」

「おばさん頑張ってね!」

「「お母さん頑張れ!」」

「あとちょっとだよ! 帰ったら肩叩いてあげるから頑張ろうね!」

「分かった頑張る!」

 

 もうやけっぱちだな……。だが、空龍の言葉に少し元気が出たようだ。やはり子供たちの中で一番空梨の事を分かっているのは空龍か……やる気の出し方を知っている。基本的にこいつは現金だから、褒美で釣るのが一番簡単なのだ。どれ、全部終わったら説教の後に俺も何か褒美の一つもくれてやるか。

 

 子供たちのエネルギーが空梨に注ぎ込まれ、徐々に空梨の体を赤いオーラが包み始める。だがエシャロットと龍成が未熟な分か、ややエネルギーが少ないように見受けられた。だから俺はかめはめ波の形を崩し片手でエネルギーを放ちながら、空梨の肩を抱いてそこから体内に残っているエネルギーを全て注ぐ。

 空梨が驚いたように見上げてくるが、気にせんでいい。子供と妻が頑張っているというのに、夫が何もせんのでは格好がつかないからな。足りない分のエネルギーは俺が補おう。

 

「! ラディッツ」

「あと少しだ。頑張れ」

「……ッ、うん」

 

 そして俺たちのエネルギーを注ぎ込まれた空梨の髪色が真紅に染まる。

 

 もともと小柄な体が、更に線が細くなる。しかし頼りないわけではなく、しなやかな力強さを感じた。

 瞳の色も夕暮れとも炎とも違う、不可思議な光を湛えた赤に塗り替えられる。

 

 

 

 

「これで最後だ!!」

 

 

 

 

 声を張り上げる空梨に、俺たちがチビ共に気を取られている間もずっとブウの自爆を抑え続けていた悟飯、カカロット、ベジータが答える。

 

「はい! これで決めましょう!」

「おう、姉ちゃん!」

「貴様が仕切るな! ゴッドになったからといって、気を抜くなよ!!」

 

 極大の光が4方向からブウに注ぎ込まれる。すると、目の錯覚なのかカカロットとベジータの髪色が一瞬青く染まったように見えた。

 

 

 

 

 

 

「神の気……か」

 

 

 

 

 

 

 誰の者とも知れないつぶやきが聞こえた気がしたが、気のせいだろう。あまりにも大きい力の奔流に圧倒され、もう周りの音など聞こえない。

 

 黄金、蒼、真紅……三つの光が交じり合い、そして白く弾ける。その光はブウを飲み込んだのち、放射状に界王神界の空へと散った。

 

 

 

 

 

 

「わあ、キラキラ! 流れ星だ!」

 

 

 

 

 

 

 音の戻って来た耳に最初に聞こえたのは、娘の無邪気な歓声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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