とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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魔人ブウの提案

 自分の腕をつかむその存在に、わたしは酷く怯えた。

 

 

 

 

 破壊神ビルス。この第7宇宙の中でも最強の存在。創造神たる界王神の対となる破壊の神。

 

 

 

 

 孫空梨を吸収したことによって得た知識が脳内を駆け巡り、それは瞬時にわたしにひとつの行動をとらせた。

 すなわち、敬意を払い跪くことだ。

 

「…………これはこれは、破壊神ビルス様。わたくしのようなものが、あなた様にお会いできるなど光栄にございます」

「フンッ、白々しいね。……お前、界王神と僕の関係を知っているな? そのうえで彼を殺そうとした。覚悟は出来てるんだろうね」

 

 クッ、余計な口がすべったか。この方はどこか抜けた面もあるにはあるが、根本には神としての厳格な面を持ち合わせている。そう簡単にはごまかせまい。ならば逆に素直に謝ってしまう方がよいだろう。

 

「大変なご無礼をいたしました」

「それで済むとでも?」

「いいえ? …………ですが、どうか先ほどまでのわたしの理性が安定してなかったこともご考慮願いたいのです。あまりにもお強いビルス様に対する怯えを抑えきれなかった故の行動でございますれば」

「ほう? 無駄に口が回る様だねぇ。小賢しい」

 

 しかし何を思ったのか、ビルスはわたしの腕を放した。……破壊は免れないと内心冷や汗をかきながらの言い訳だったが、少なくとも今すぐ破壊される心配は無いらしい。

 

 このわたし、魔人ブウの意識は孫空梨を吸収してからというもの急速に自我を確立させた。今までの衝動によってのみ行動する魔人の意識からたしかな理性のあるものへと進化を遂げたのだ。

 彼女とわたしの相性が良かったのか、それとも空梨がセルが特異点と称する異世界の魂を持つ者だったからかは分からない。しかし空梨を吸収してからというもの、わたしの意識はかなりの透明度で澄み渡った。その分彼女の意識に影響されている面が大きい事も自覚したが、それは特に気にならなかった。だって、今までのわたしときたら目的もなく本能だけで突き動く馬鹿だったんだもの。それに比べたら今の方がよっぽど素敵だわ。…………太ったブウを引きはがされた時は、またアレに戻るのかと思ってぞっとしたわね。なんとか無理やりデブを半分以上取り込むことで意識を取り戻したけど、正直まだちょっと苦しい。出来れはすぐにでもデブか、もしくは知性の高そうな奴を吸収して精神の安定を得たいところだわ。

 わたしがわたしで無くなる…………それは、確かにわたしに恐怖というものを覚えさせたのだから。

 

 

 嫌よ。私は楽しく生きるの。

 もうビビディもバビディも居ない。わたしに命令してわたしを縛るものは誰も居ない。なのに、奴らが好きなように作った命の本能のままに生きれば支配されているのと変わらないじゃない!

 そんなの絶対に嫌。わたしは自由に生きるのよ!!

 

 

 孫悟空らを倒してしまえば、あとは破壊神ビルスしかわたしの邪魔をする者は居ないと思っていた。だから彼と対になる存在……界王神を見つけた時はしめたと思ったわ。こいつを殺せばビルスも死ぬ。そうすれば地球だけじゃない、宇宙全部がわたしのおもちゃ箱! 好き放題出来るってね。

 でもそう簡単にはいかないみたい。だったら今は妥協しましょう。

 

 

 

「おいおい、魔人ブウ! おめぇ、ビルス様に対しちゃずいぶん態度がちげぇじゃねーか」

「お黙り孫悟空。わたしは今ビルス様とお話ししているのよ」

「な、何だってぇ!?」

 

 さっきから無視されていた孫悟空が不満そうに話しかけてきたが、煩い。こちらは生きるか死ぬかの大勝負を頭の中で考えているのよ! お前など後回しだわ!

 

「時にビルス様、ひとつ提案したいことがございます」

「何だい? 言うだけ言ってみなよ」

 

 よし、聞く態度を示した。これならばまだ生き残る勝機はある。

 

「このわたし、魔人ブウはこうして理性を手に入れました。もう本能で無暗に暴れまわる魔人ではございません。そしてわたしの望みはささやかなもの……地球だけにございます。地球さえ手に入れられたら、他は望みませぬ」

「…………ほう? でも、地球は君が壊しちゃったじゃないか」

「ドラゴンボールで蘇らせることが可能です。もちろんそこに住む住民も」

 

 言いながらブルマちゃんが持つドラゴンボールと地球の神、デンデちゃんを見る。ふふっ、身構えなくてもいいわ。わたしに有用なうちは殺さないであげるもの。

 

「そういうわけで、わたしの危険性は宇宙に関してはまったく意味をなさなくなりました。これから行われる孫悟空らとの戦いは、いうなれば地球内での内輪もめに留まる範囲……宇宙の神であるあなた様や界王神様が関わるほどのものでは無いのです。ビルス様も今まで飽きるほど知性ある生き物同士の間でおこる争いを見てこられたでしょう? これは言うなれば生物の性、連綿と繰り返される飽くなき理……わざわざ神々の手を煩わせるものではございませぬ」

「だから僕には手を出すなっていうのかい?」

「ええ。ありていに言えば」

「ふぅん。ま、言われてみればそうだねぇ」

「し、信じてはいけませんビルス様! その魔人ブウはかなり悪辣な性格をしております……そんな言葉、信じられません! ただ屁理屈をこねているだけです!」

「でも、僕は元々きみに手さえ出されなければ傍観する気だったからねぇ。で、君の提案はそれだけかい? だったらつまらないなぁ。わざわざこの僕が起きて出向いてきたってのに、何もせずに帰れなんて虫が良すぎるよ」

 

 界王神が余計な口をはさんだが、ビルスはどうやら聞く姿勢を崩さないようだ。しめた……!

 

 

 

「では、こういうのはどうでしょう。あなた様方神々の御前で、このわたし魔人ブウと地球の代表が勝負をするのです。ご足労いただいたに見合う戦いをお見せできれば、せめてものお詫びになるかと愚考いたします」

「つまり御前試合ですね。面白そうじゃありませんか、ビルス様」

「う~ん、試合ねぇ……」

「勝った方が地球を好きに出来る権利を手に入れるのです。もちろんわたしが勝った暁には、地球にて最上のおもてなしをさせていただきますわ」

「ちょ、ちょちょちょっと! あんた何勝手な事言ってんのよ!? び、ビルス様……だっけ? こ、こっちだって勝ったら最っ高のおもてなししちゃうわよー!」

 

 チッ、ブルマちゃんめ。神と魔人の会話に口を挟むなんていい度胸してるじゃない。

 表情には余裕をにじませて、しかし内心では冷や汗をかきながらビルス様の反応を窺う。

 

 

「くっくっく……。あわよくば、神の了承を得て確実な支配権を手に入れようって腹かい? 実に自惚れ屋で小賢しい奴だよ、君」

 

 

 ……! 駄目か……?

 

 

 しかし、運は私に味方したようだ。

 

 

 

 

「いいだろう。この破壊神ビルスが、地球の命運をかけた戦いを見届けてやる。ただしつまらないものを見せたら、どっちも破壊しちゃうからね」

「! ありがとうございます!」

 

 あははははははは! これで言質はとった!

 

 

 

 

「そういうわけで、孫悟空。お相手は貴方でかまわないかしら?」

「ブウ、おめぇ……!」

 

 

 

 ふふふ、存分にかかって来なさいな。

 だけど甘いあなたが、果たしてあなたの姉を体内に捕らえるわたしを殺せるかしら。

 

 せいぜい苦しんで苦しんであがいてもがいて無様に死ぬがいい! 猿が!!

 

 

 

 

 

「どちらかが死ぬまでで構わないわね? さあ、始めましょう。神々の御前試合を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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