とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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界王神と破壊神

 

______________________________________ 時は少し遡る。

 

 

 

 

 

 元地球の神でもあるピッコロさんのおかげでバビディの呪縛から逃れた私たちは、悟空さんと悟飯さんを連れ命からがら界王神界にまで逃げ延びた。そしてキビトがお二人を回復させると、彼らはすぐに地球へ戻って戦おうとした。当然私たちはそれを止める。

 

「ま、待ってください! 今地球に戻ってもまたやられてしまいますよ!? ら、ラディッツさんやベジータさんも死んでしまいましたし……!」

「いや、だけどオラ達にはまだスーパーサイヤ人ゴッドがある。…………魔人ブウだけならオラのスーパーサイヤ人3でもいい線行くと思うんだけどな。けど、色々舐めてた結果がこれだ。チビ共を巻き込んじまうが、ゴッドで一気に片を付ける」

「スーパーサイヤ人ゴッド……ですか?」

「はい。正しい心を持ったサイヤ人が6人そろって初めて変身できる僕たちの切り札です」

「ははっ、姉ちゃんの言う通り本当に必要になっちまったな」

 

 神の名を冠する変身形体か……! まったく、彼らは本当にこの界王神の想像を軽々と超えていく。しかし先ほどまでの戦いも凄かったのに、更にその上があると聞けば期待せざるを得ない。彼らなら本当に魔人ブウを倒してくれるかもしれない!

 

「……わかりました。地球まですぐにお送りしましょう。ふふっ、本当はゼットソードを授けようと思っていたのですが、あなた方には必要ないらしい」

「! ぜ、ゼットソードを人間に与える気だったのですか!?」

「? そのゼットソードっちゅうんは何なんだ?」

 

 キビトが驚くが、それも無理はない。歴代の界王神の誰もがあの剣を引き抜くことすら出来なかったのだから。

 

「界王神界に古くから伝わる地面に突き刺さった伝説の剣だ。引き抜けば凄まじいパワーを得ることが出来ると伝えられている。とても人間ごときに……いや、でもなぁ……もしかすると、お前たちなら……」

 

 あの頑固なキビトが言葉尻を濁している。彼も悟空さんたちの実力をずっと見ていましたからね……。彼らならゼットソードを引き抜けるかもしれない、という可能性を否定しきれないのだろう。

 

「へえ、引き抜くと凄いパワーが……。なんだか昔話みたいですね」

「気になりますか?」

「え? いや、でもすぐに戻らないと……」

「………………。いえ、多少時間の猶予はあるようです。今地球の様子を探ってみたのですが、どうやらあの場から仲間の皆さんは無事に逃げられたようですし、魔人ブウたちは悟空さんたちを探して移動し始めた様子。今は……。おや? ど、どうやら何処かの店で休憩しているようですね。ブウは何やら丸い食べ物に夢中のようですし、しばらくは大丈夫でしょう」

「お、界王神様も界王様みてぇに遠くを見れんのか! 便利だよなぁ、それ!」

「これ! 無礼者!」

「…………い、一応私は界王よりも上の存在なのですが」

 

 彼らの私に対しての印象が非常に気になる所だが、正直ここまでほとんど役に立てていないのでつい声が小さくなる。

 ああ、魔人ブウとの戦いでお亡くなりになられた大界王神様、他の界王神……やはり、若輩の私にはまだ界王神という役目は重すぎたのでしょうか。

 

「じゃあ折角だしよ、その剣を引き抜いてみようぜ! また何があるかわからねぇし、パワーアップできるならそれに越したことねぇや!」

「で、伝説の剣をそんなついでみたいに扱うな!」

「ま、まあまあキビトさん落ち着いて。でも伝説の剣か……。僕もちょっと興味あるなぁ」

「では、ゼットソードの場所までご案内しましょう」

「界王神様!?」

「ブウに勝てる確率を少しでも上げるためです。さあ、行きましょう!」

 

 そうして私たちはゼットソートのある丘までやってきた。そして剣を引き抜く役目は「潜在能力は悟飯のが上だからな。折角だし、おめぇがやってみろ! もしかしたらおめぇもスーパーサイヤ人3になれっかもしれねぇぞ!」と悟空さんが悟飯さんに譲ったため悟飯さんがやることに。

 そして私の期待を裏切らず、見事に剣を引き抜いて見せたのだ!

 

 しかし悟飯さんに何か変化が起こるわけもなく、悟空さんには「ただの重い剣じゃねぇのか?」と言われてしまう始末。そ、そんなはずは……!

 いや、きっと切れ味が素晴らしいに違いない! そう思って宇宙一硬い金属であるカッチン鋼を呼び出してみた。そしてそれを悟空さんに投げてもらい、それを悟飯さんが待ち受ける。ふ、ふっふっふ……きっとスパスパっと切れてしまうに違いない……!

 

 

 

 

 

 

 キンッ

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………へっ?」

「お、おいおい界王神様、剣折れちゃったぞ!?」

「な、なん……だと……!」

 

 ま、まさか! 伝説の剣が、伝説の剣が折れてしまうだなんて……!

 しかし驚く私たちをよそに、それぞれ別方向からこの場に居る誰でもない声が聞こえた。

 

 

 

「へっへ~。やぁ~~っと出られたよ~ぅ」

 

「おいおい。勝手に僕の施した封印を解くんじゃないよ」

 

 

「「!?」」

 

 

 

 

 もう、あとはどこから驚いていいのやら。

 

 折れた剣の中から現れたのは15代前の界王神を名乗るお方、そして岩の上に座って不機嫌そうにこちらを見ていらしたのは破壊神ビルス様。ウイス様がほがらかに「お久しぶりですねぇ。お元気でしたか?」とあいさつしてくださったが、私とキビトは「は、はい」と返事する以外言葉を発せなかった。

 

 

「なあ、あんた達誰だ?」

「こ、これ! 誰だか知らんが口を慎め! こちらは宇宙一お強いお方、破壊神ビルス様じゃ!」

「宇宙一!?」

「そういうあなたもいったい……15代前の界王神様って本当ですか?」

「本当だよ。やあ、久しぶりだね。封印された気分はどうだった?」

「ぐぐ……! 本当にお久しぶりですな! ふ、ふふんっ、なかなかに快適でしたわい。随分長い間昼寝してしまったの~」

「へ~え、そんなに良かったんだ。じゃあもう一回封印してあげようか」

「お、お断りしますわい! ところでそこの若い界王神よ! 何故聖域に人間がいるのじゃ!?」

 

 突然水を向けられて、おもわずびくっと背筋を伸ばす。

 

「そ、それが……! 魔人ブウという、我々の手に負えない化け物が現れまして……! 彼らの手を借りて魔人ブウを倒そうと……」

「ふ~ん。実は知っとるもんねー。お前がいつまでもあわあわしとるから、話しかけてやったんじゃ。もっとしゃんとせんかい!」

「は、はあ……」

 

 話題をそらしたかっただけじゃあ……いや、言うまい。まだ少ししかお話していないが、この方には口で勝てそうにない。

 おもわず肩を落としながら答えていたのだが、今度は別の声で再び背筋が伸びる。

 

「そうそう! そうだよ! お前……現界王神!」

「はい!」

「何でわざわざ自分で直接魔人ブウの所へ行ったんだ!? ……お前、色々な意味で自分の命の重さを分かってないね」

「それは……」

 

 う、迂闊だった。

 この私界王神とビルス様はそれぞれ創造神と破壊神、対になる存在であり、その命は共有される。どちらかが死ねばもう片方も死ぬのだ。自ら危険な場所に飛び込んだ私にビルス様がお怒りになるのも無理はない。

 

「ウイスから聞いた時はびっくりしたよ。僕もちょっと前に起きたばっかりで、仮眠にもならない浅い眠りだったってのに起こされてさぁ……」

「ほ、本当に迂闊でした。申し訳ありません……!」

「謝って済む問題かな? 君には界王神としての自覚ってものが足りないよ」

「返す言葉もございません……」

「もしこういう行動をするなら、せめてもう少し強くなるんだね。精進なさい」

「はい!」

 

 う、うう……今日は散々だ。自業自得とはいえ、ご先祖様と破壊神様両方から怒られるなんて。

 

 

 

 

 

「ところでそこの君、さっきスーパーサイヤ人ゴッドって言ってなかったかい?」

「へ? お、オラか?」

「そう、そこの君だよ。……もしかして君が孫悟空かな」

「ああ! オラ、孫悟空だ。え~っと、ビルス……様? なんでオラの事知ってんだ?」

「なぁに、君のお姉さんと知り合いでね。以前君の話を聞いたんだよ。とっても強いんだってねぇ?」

「なんだ姉ちゃんの知り合いかぁ! ああ、強ぇぞ! …………まあ、魔人ブウに負けた今の状態じゃ胸張って言えねぇけどな」

 

 それを聞くとビルス様は後ろで腕を組んで、悟空さんを観察しながらグルグルとその周りを歩く。

 

「う~ん、今のままじゃたしかにあんまり強そうに見えないねぇ」

「へへっ、でもスーパーサイヤ人になれば全然ちげぇぞ! 見せてやろうか?」

「いえ、結構。だって変身しても魔人ブウに敵わなかったんでしょう?」

「うっ、痛ぇとこつくなー」

「事実じゃないか。そうか、それでゴッドになって魔人ブウを倒すつもりなんだね?」

「ああ!」

「却下」

「え!?」

 

 ビルス様からの突然のダメ出しに、ウイス様以外その場にいたほぼ全員が驚く。まさか突然現れたビルス様にダメ出しをされるとは……い、いや、違う。きっとあれだ。そういうことだ!

 

「で、ではビルス様自ら魔人ブウを破壊してくださるのですね!? そうか……! でしたら、もう安心ですよ悟空さん、悟飯さん! この方にかかれば魔人ブウなど赤子の手をひねるも同然です!」」

「ひゃ~! あの魔人ブウをか!? そんなに強ぇえのかこの人!」

「人じゃなくて、神ね」

「そんな強い神様が居るなんて……! あれ? でも、だったらどうして界王神様は最初からこの方に頼らなかったんですか?」

 

 うっ、悟飯さん、無害そうな顔をして痛いところを……!

 

「か、神の間でも色々あるのですよ。兼ね合いとか……」

「ほほっ、声が小さくなってますよ界王神さん」

 

 言わないでくださいウイス様……私今、とっても胃のあたりが痛い気がするのです。

 

 

 

「まあ、僕が倒すわけじゃないんだけど」

「へ!?」

 

 で、では何故!?

 

 

 

「じゃあビルス様よぉ、ゴッドが駄目っていうのはどういうことだ? あんたが代わりにブウを倒してくれるわけでもねぇんだろ?」

「それはねぇ、今の君たちが弱いからだよ」

「えっと、それってどういう……。ゴッドになれば、多分素の力に関係なくすぐに倒せちゃうと思いますけど……」

「ブウはそれでいいよ。でも、その後で戦う僕としては今のままじゃ不満だね」

「戦う……? え、もしかしてビルス様、オラと戦ってくれんのか!?」

「何で嬉しそうなんだい? 現状じゃブウにも勝てないくせにさ」

「いやぁ、だってよ。宇宙一強いなんて聞いちまうとなー」

「お父さん、今はそういうのいいですから。それでビルス様、事情をお聞きしても?」

 

 

 

「では、僭越ながらわたしからお話ししましょう」

 

 そう言って一歩前に出たのはウイス様だった。

 

 

 

 そして彼らの事情を聞いたのだが、なんというか……ますます胃が痛くなった気がした。

 

 何でもビルス様は過去に予知夢で未来で自分に強敵が現れると知ったらしい。それがスーパーサイヤ人ゴッド。

 ところが予知夢で見た時期より前に、不思議な気配を感じて目覚めてしまった。理由を知るために訪れたのは悟空さんの姉である空梨さんのところ。どうやら彼女、本名はハーベストという惑星ベジータの王女だったらしい。

 彼女により悟飯さんがセル(あれ、セルってもしかしてさっき居た……)を倒すためにゴッドになったことを知ったビルス様だったが、予言と時期が違うことに違和感を覚えた。すると空梨さんは自らの占いで「ビルス様が予知したゴッドはこの先更なる強敵と戦い成長した悟空がいずれなる姿だ」と予知したそうだ。

 それを信じてもうしばらく眠ろうとしたビルス様だったが、ビルス様の代わりに悟空さんの成長を時々見守っていたウイス様が今回の騒動に気づいて再びビルス様を起こされた。で、色々あって今に至ると……ここまでは、まあ納得できる。けど問題はここからだ。

 

 

「ブウを自力で倒すくらい強くなれなきゃ、ゴッドになんてさせられないなぁ。いくらゴッドといったって、素の力に影響されないとでも? ブウごときになら十分だろうけど、僕を相手にするなら不十分だよ」

「そ、そんなぁ! でも今は急いでんだ! オラ、もっと修行して強くなっからよ! それじゃあ駄目なんか?」

「駄目だね。僕は早々に起こされて不機嫌なんだ……。強敵と戦って、短期間でパワーアップ出来ないなら地球ごと破壊しちゃうよ」

「そんな……!」

 

 ビルス様の言葉に全員が焦った表情を浮かべた。こうしている間にも魔人ブウは破壊を繰り返しているというのに……!

 これはダメもとで悟空さんたちに再びブウに挑んでもらって、自力でパワーアップして勝ってもらうほかないのだろうか。

 

 しかし焦る中、更なる悪い知らせが届く。教えてくれたのはご先祖様だ。

 

 

「お、おい! とんでもないことになりおった! 魔人ブウの奴……2体に分離して、比較的善寄りだったデブの方を悪の塊が取り込んじまった!」

「なんですって!?」

「今の奴は純粋な悪じゃ! し、しかもなんじゃこりゃあ! あの世まで大変なことになっとるじゃないか!」

「ええ!?」

 

 もう何に驚けばいいのやら! 慌てて私も地球とあの世に意識を向けたが、たしかにとんでもないことになっている。なんだ、あの世に居る凄まじい邪気を感じる化け物は!? え、閻魔が閉じ込められている……! これでは死者たちの秩序が乱れてしまうではないか!!

 

 

「丁度いいんじゃない? ブウの他にも強敵が現れた。君、ちょっと行ってやっつけてきなよ」

「オラか? って、ブウの他の強敵ってどういうことだ?」

「じ、事情は私から話します……!」

 

 そして事情を知ると、悟空さんはすぐにあの世に向かおうとした。しかし突然すぎて、いきなり向かうのはあまりにも軽率だと待ったをかけた。

 

「なんだよ界王神様~。どっちにしろ、あの世をどうにかしねぇとベジータ達も生き返れねぇし、ブウだってやっつけても生き返えちゃうかもしんねぇじゃねーか」

「そ、それはたしかに……! ですがっ」

「お父さん行ってください! ブウは僕が何とか止めて見せます。キビトさん、送ってくれませんか!?」

 

 悟飯さんも焦っているようでキビトに詰め寄るが、そこに老界王神様が待ったをかけた。

 

「おいおい、せっかくわしが蘇ったんじゃぞ~。このまま行ってもどうせ負けるだけじゃろ。どうじゃ、わしがお前さんを強くしてやろ~うか~?」

「え、本当ですか!? そ、そんなことが可能なんでしょうか……!」

「本当じゃとも! なにせその素晴らしい能力が原因でわしは封印……」

「ゴホン」

「…………え~、まあ、本当じゃ。ちーっと時間はかかるがの」

「そうか……。じゃあ悟飯、おめぇはここに残れ。オラがあの世をなんとかしてくっから、おめぇはここでパワーアップしてブウとの戦いに備えるんだ!」

「…………ッ! はい……わかりました」

 

 悟飯さんはすぐに地上へ行けないのが悔しいのか、歯を食いしばってうつむきながらもなんとか了承した。

 けどここでまたビルス様が不満の声をあげる。

 

「おい、儀式ってあれか? 僕としてはあれは反則技みたいで気に食わないんだけどね」

「ふ~んじゃ、ご自分の我儘のためにゴッドを作らせないくせに、これくらいも認めてくれない気ですかな? あ~あ、心が狭いの~」

「何!?」

「ビルス様、それくらい良いじゃありませんか。あまり我儘ばかり言ってると、ビルス様と戦える強~いゴッドが現れる前に、みんな死んでしまいますよ?」

「………………。チッ、好きにしなさい」

 

 ほっ……。ウイス様のおかげでなんとかその儀式とやらは認められたようだ。

 それにしても先ほどからの会話を聞いていると、ご先祖様を封印したのはビルス様で、その原因がそのパワーアップのための儀式のようだ。こ、これは期待できるぞ……! 破壊神すら恐れる儀式とはいったい!

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンフンフーン♪ フフーンフーン♪♪ フフーンフフフン♪ ヘイヘイ!!フンフーン♪ フフフーン♪ ゴーゴー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………………………………………………………………』

 

 ご先祖様が、腕を上下に振り上げながら悟飯さんの周りをぐるぐる回っている。

 

「あの、それは……」

「静かに! 大切な儀式なのだ!」

「時間ってどのくらいかかる物なんでしょう……」

「儀式に5時間! パワーアップに20時間じゃ!」

 

 

 

「じゃ、じゃあオラ行くな。頑張れよ悟飯」

 

 そう言って悟空さんはあの世に向かい。

 

「僕は弁当でも食べてるかな。おいウイス、持ってきてるよな?」

「はい、ここに」

 

 ビルス様たちはお食事を始めた。

 

 

 

 

「わ、我々はやはり見ていないとまずいだろうな……」

「で…………、でしょうな……」

 

 私とキビトは立ったままその儀式を見守ることにした。

 

 

 

 

「つ、つらい……」

 

 

 

 悟飯さんの切実なつぶやきは、何故かとてもよく耳に響いた。

 

 

 

 

 


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