地球で何が起こっているか……僕は老界王神様にパワーアップの儀式をしてもらいながらも、老界王神様が出してくださった水晶玉でだいたいの光景を見ることが出来ていた。でもその分何も出来ずに待つだけの自分が歯がゆくて悔しくて……みんなが吸収されるのを見るのが辛かった。
声まで聞こえなかったから悲鳴は聞かずにすんだけど、だからって平気なわけじゃない。お母さんやビーデルさんたちは無事みたいだったけど……代わりに僕の従兄弟が餌食になってしまった。魔人ブウめ、あんな小さい子達まで吸収しやがって……! デンデまで攫って行って、何処まで僕たちを苦しめれば気が済むんだ! 絶対に許さないぞ!
ここに……界王神界に来てから随分と時間が経ってしまったように感じる。ただひたすら座って待つだけという時間が辛かったのもあるかもしれない。
途中までお父さんも一緒にいたけれど、お父さんはあの世に起きた異変の方へ行ってしまった。未だに帰ってこないけど、今頃あの世はどうなっているんだろう? 蘇っていた亡者は地上から姿を消したみたいだけど……。
じりじりした気持ちを抱えながらも、待って、待って、待った。………そしてようやく潜在能力以上の力を引き出すという老界王神様の儀式が終了したんだ! もうすでに1日以上経過してしまった。急いで地球に向かわないと!
手に入れた力はたしかに待っただけあって素晴らしかった。見た目の変化はほとんど無いみたいだけど、体に漲る力の充足感が凄い。スーパーサイヤ人ゴッドになった時もあれはあれで力に満ちた感覚だったけど根本的に質が違う。ゴッドはみんなの力が集まった力……だけど、今の僕は僕だけの力で満ちている。例えるなら基礎能力が究極に達したって感じだ。
「ありがとうございます! 凄いパワーだ!」
「ふふんっ、どうじゃ! 凄かろう! やっとわしを敬う気になったかの?」
「ええ! 正直もう駄目かと思ってましたけど、撤回します!」
「駄目じゃと思っとったんかい!」
「ま、そう思ってもしかたないよね。あんな間抜けな儀式じゃ」
「な! ぐぬぬぬ……!」
けど、雑談している暇はない。
「すみません、申し訳ないんですけど僕を地球まで送ってくださいませんか」
「では私が送ろう」
「キビト、私も行きます! 最後まで見届けるのが界王神の責任で「絶っっっっ対、行くなよ?」……はい」
どうやらキビトさんが送ってくれるみたいだ。
「お願いします!」
「任されよう」
今度こそ、今度こそ魔人ブウを倒してみせる……!
吸収されたみんなも絶対にドラゴンボールで生き返らせる。だから待っててくれ。僕が魔人ブウを絶対にぶっ飛ばしてやるから!
「じゃあ、行ってきます!」
そして僕は4人の神様に見送られて、界王神界を後にした。
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「ふごっ!?」
う、うおぉ……自分のいびきで目が覚めた。
何だか眠っている間にこれまでの経緯どころか私が知らないはずの遠くの出来事まで見てたような気がするけど、あれか。ついに予知夢と千里眼を合わせたみたいな技まで顕現したのか。おいおいマジ天才だな私!
…………とか、冗談言ってる場合じゃないな。
もしあれが夢じゃないのなら、今外ではとんでもないことになっている。主に私が吸収されたのが原因で。
というか……とんでもないことの集大成が、今私の目の前にぶら下がってるわけで。
「空龍以外娘息子甥っ子コンプリートされてんじゃねぇか!! あと他もろもろ多いわ!!」
思わず叫んだわ!!
いやだって、私と同じく肉繭に包まれて悟天ちゃん、トランクス、ピッコロさん、ギニュー隊長、ジース君、ナッパ、ナッピ、ナップ、ナッペ、ナッポ、18号さん、龍成、エシャロット、悟飯ちゃんがぶら下がってるとか悪夢か。てゆーか悟飯ちゃん!? 悟飯ちゃん吸収されてる!? ちょっと待って。まさかとは思うけどアルティメット状態で吸収されてないよね。あっれー……なんか心なしか凛々しい顔立ちになってる気がするけど気のせいだよね? …………………………………。誰か嘘だと言え。言えよ!!!! 断言しろ! 嘘だと!!
しかし、当然嘘だと言ってくれる誰かさんは居ない。現実とは無情である。
マジか………………。マジか。
流石に今度ばかりはダメージが大きい。
だって色々タイミングが悪かったとはいえ、私さえ吸収されていなければなんとかなったかもしれないのだ。
せめてあそこで逃げきれてさえいれば、あの世の異変が収まって帰って来たベジータ達とゴッドを作って楽勝だったはず。それがまず私が吸収されたことによって、ブウの見た目と性格が急変。お菓子の知識目的で吸収されたためか、どうやら私の持つ原作知識まで得た上に私の技まで使えるようになったらしい。色々言いたいことは山ほどあるが、とにかくこいつデンデ誘拐やら吸収やらやりたい放題だ。唯一の救いはみんなや地球人全員大虐殺が起こっていないことだけどそれは何の慰めにもならない。何故ならこのまま行けば、最悪殺されるよりも悪い運命が地球を襲う。
吸収されていない面子を考えればブウに勝利するのは決して難しい事ではない。だって悟空とベジータが居る。界王神様の耳飾りでもフュージョンでも合体さえすればワンチャンどころじゃないだろうよ。
でもここで最大の障害にぶつかる。…………私だ。
私が居るから、力で倒そうと思っても倒せないのだ。
……一回でも死ぬと生き返れない。そんな当たり前のことがここまで足を引っ張るとは思わなかった。
よく考えなくても悟空とか絶対助けようとしてくれるんだよな……ていうか、とびとびだったし場面の移り変わりが目まぐるしかったけど、夢越しに見た限りブルマとかババ様とかラディッツとか……下手したらあのベジータまで、私の事助けようとしてくれてる感じなんだよな……。え、ベジータお前どうしたよ。お前ならスパーンと切り捨ててくると思ったわ。
でもなぁ……今までだったら「頑張れ! 超頑張れ!! 何とかして助けてくれよ絶対だぞ!」って思ってたんだろうけど。流石にこの光景見ちゃうと心が折れる。私はいいからいっそひと思いにやれって思うわ。他の面々はドラゴンボールで生き返らせればいいんだし。
「……何やってんだろうなー……庇ったつもりが結果的にさんざん足引っ張って、子供らまで危険にさらして、吸収された人数まで原作より増えて……」
吸収された龍成とエシャロット……悟天ちゃんにトランクスも、怖かっただろうな。いくら強くてもまだまだ怪談話にビビるような子供だし。空龍だって私の事を盾に取られて大怪我をした。痛かっただろうな。辛かっただろうな。
多分ブウはうろ覚えとはいえ私の原作知識を知ったはずだから、ベジットを吸収したら取り込んだ面々を奪い返されるってわかってる。だから原作通り悟空たちが上手くやっても絶対に吸収なんてしないだろうし、そうなると私を含めた吸収された面々を人質にとって悟空たちを追い詰める姿が容易に想像できる。ちょっと夢越しに見ただけだけど、こいつ超性格悪いからな。何故こうなった。
もしも……もしもこのまま、手立てが見つからなくて、追い詰められたらどうする? 悟空やベジータまで負けてしまったら、誰が助けてくれるんだろう。誰も居ない。誰もブウに勝てる相手が居なくなる。ビルス様? もしかしたら調子こいたブウがいつかビルス様に破壊されるかもしれないけど、だけどビルス様は救ってくれるわけじゃない。ただ破壊するだけだ。
助けられない。
そしたらこの子達、ずっとこのままだ。
「そんなのやだぁぁーーー……」
我慢できずに吐き出した声は、予想以上に情けなかった。ガキか。
いかん、ナーバスになってきた。肉繭状態で手も足も動かせないんだぞ! 涙と鼻水垂れ流してどうする。拭けないし垂れ流しのままじゃねーかきったねぇな!!
でも考えてたら泣きたくなって我慢できなかったんだから仕方ないだろ! つーか誰に逆切れしてんだよ私は!
でも心の中でいくら虚勢をはったって、出てくる涙は止まらない。悲しくて悔しくて辛くて歯がゆくて、色んな感情がごちゃ混ぜになった。
ひっくひっくと嗚咽をもらす私はまるで子供だ。意識が無いとはいえ自分の子供や甥っ子達の前で泣いてる自分がまた恥かしくって余計に泣けてくる。いい年こいて情けない……。でも妙に悲しくって、何故かいつも以上に感情がコントロール出来ない。変だな……日記に吐き出せないストレスがあるにしたってちょっとおかしい。…………もしかしてあれか。更年期障害? いやまだ早いだろ!! まだ若いわ!!
だけどそんな無様な涙は、思いがけない闖入者によって引っ込んだ。
『ひぃぃぃぃぃぃ!?』
『うわぁぁぁぁぁ!! は、早すぎる! もっとスピード落とせよ!!』
『我慢してよ! 急がないと気づかれちゃうかもしれないでしょ!』
『だからって、うお!?』
ブウの体の穴の奥から飛び出してきた空飛ぶ絨毯が、ピッコロさんの肉繭にぶつかって跳ね返される。そしてべちゃっと地面に叩き付けられた面々は、打ち付けた場所をこすりながらも起き上がりこちらを見て歓声をあげた。
「おおお! み、見つけた。見つけたぞー!!」
「みんな居るぜ! こ、これならちょん切ってもってけばどうにかなるんじゃないか!?」
「早速ハサミに変化しよう! い、急がなきゃ! ウーロン早く!」
「言われなくても分かってるよ! 俺だってこんな気味悪い場所からとっととオサラバしたいんだ! おいおっさん、お前は向こうのチビたちからたのむぞ!」
「ぶ、豚公が私に指図するな! 私は世界チャンピオンのミスターサタンだぞ!」
「へいへい……」
もじゃもじゃ頭のチャンピオンに、小生意気そうな豚の妖怪。絨毯から変化した青い毛並みの可愛い猫っぽい生き物……見覚えありすぎるけどなぜ一緒に居るのかわからない面子。え、何でミスターサタンにウーロンにプーアル? 非戦闘員代表候補じゃない?
………………でも、なんでかな。その頼りない3人が、この時の私にはとんでもなく格好いいヒーローに見えた。
あっけにとられて見ていると、ミスターサタン……マーくんと目が合った。すると挙動不審だったマーくんがいきなりしゃんと背を伸ばしてこちらにピースを向ける。
「うわははははーー!! こ、このミスターサタンが来たからには、もう大丈夫! 安心したまえ!」
「ああ……うん。なんか知らないけど、今凄くほっとしてる」
まだ何にも解決してない。けど不思議と笑いが込み上げてくる。
……………ちなみに、全員足が震えていたのはご愛敬だと思うことにした。
日記じゃない主人公の一人称が思いのほか難産でした。え、タイトル詐欺もいい加減にしろ?さ、さあ何のことやら(目そらし
あと、とりあえず悟飯ちゃんはすまぬ。