ラディッツがジャネンバの結界を破壊し、閻魔が力を取り戻すことであの世に秩序が戻った。これでジャネンバさえどうにかすればやっと魔人ブウを倒しに戦士達を現世に連れて行けると思ったんじゃが、秩序が戻った反動でわしまで現世に押し出されてしまったわい。
すぐに戻ろうとしたが、秩序が戻ったとはいえ現世に溢れていた魂が一気にあの世に戻ったのじゃ……正直渋滞で押しつぶされそうで、すぐには戻れそうになかった。
そこでとりあえず自分の館に戻ったんじゃが、ええい、次から次へと忙しい! なんと弟たちがとんでもない情報と一緒にやってきおった。
空梨が魔人ブウに吸収されたじゃと? 何をやっておるのじゃあの馬鹿者め!!
とにかく、こちらには絶対に失ってはいけない存在……地球の神であるデンデ様がおる。万が一魔人ブウが空梨の占いまでも操れた場合見つかってはたまらぬと、何とかしてくれと頼ってきたみたいじゃ。
…………それにしてものう、緊急事態で焦っていたのは分かるが、お前らわしがあの世に行っておったこと忘れとったな? もし居なかったらどうするつもりじゃ。そう言うと、全員が「あっちゃ~」というふうに顔を見合わせとった。おい、本当に忘れておったのか!? あ、呆れたやつらじゃわい……。
その後ブルマという娘の(もう娘という歳でもないじゃろうが)別荘に移動し、結界を張った。そして水晶で魔人ブウの動向を窺っていたのじゃが……奴め、空梨だけでなく他の者まで吸収してしまいおった。
その後ブルマが何やら閃いたらしく、空梨の息子を連れて餃子のテレポーテーションで都の実家に向かった。そこでわしも、そろそろあの世も落ち着いたかと腰を上げた。
「姉ちゃん、行くのか?」
「ああ。何はともあれ、戦える者を連れてこねばなるまいて。もう一度あの世に行ってくるから、こっちは頼んだぞい」
そしてわしはもう一度あの世に向かったんじゃ。
「おお、ジャネンバを倒したのか! …………しかしこいつはどうしたんじゃ?」
待っていたのは朗報だった。あのジャネンバとかいうあの世をめちゃくちゃにしていた化け物は、なんとセルが倒したらしい。わしとしてはあやつに一度殺された身……いい感情などもてそうにもなかったが、これは褒めるしかあるまいて。
しかしその当のセルといえば、閻魔の机側面に寄りかかってなにやら死んだように眠っている。
「地獄に居たもう一人のセルと融合するなんていう無茶をやらかしおってな。その反動というか……何やら、おかしなことになりよっての」
「おかしなこと?」
「肉体を得た状態の魂と魂だけの存在がぴたりと重なったせいなのか……。両方が強力な力を持っていたことと、同じ存在が2体というあり得ない状態。それがどうやら妙な結果をもたらしたらしい」
「だから、その結果とは何ですかな?」
「魂の格が上がったのだ」
「は?」
「つまり、その……ただの霊から、精霊に進化しようとしておるんだ。今はその変化のために眠っている蛹状態といったところか」
「これが……精霊?」
ちらっとセルを見る。緑の等身大の蝉。これが、精霊……?
「妖怪の間違いじゃないですかの?」
「わしもそう思った。でも分類的に考えると多分精霊なんだよなぁ……。つまりわしらあの世の者と同じ霊的生命体となるわけだ。そういうわけだから、死にながらも同時に生きてもいるわけで……ええいややこしい! と、とりあえず。こいつが目覚めたら、生き返らせなくてもそのままの状態で現世へ行くことが出来るぞ!」
「なんと……! お、おかしなことになったものですな」
「おい、そいつのことはどうでもいい。早く俺たちを現世へ連れていけ!」
閻魔様と顔を見合わせていると、真横から煩い怒声が耳をつんざいた。
「び、ビックリさせるでないわい! ベジータとラディッツか……。いや、そうしたいところは山々なんじゃが、来ては見たもののしばらくはタイミングを見計らった方がいいかもしれんぞい」
「何だと?」
「…………空梨の事か」
「! ……チッ」
「なんじゃ、知っておったのか」
聞けば界王様がすでに2人へ空梨が吸収された事実を伝えていたらしい。
ラディッツなど本当ならすぐにでも駆けつけたいじゃろうが……駆けつけてブウを倒せたとしても、空梨を救うことが出来ないことをこいつが一番よく知っておるからの。
現世に戻り、スーパーサイヤ人ゴッドとなって魔人ブウを倒すだけならば簡単じゃ。だがそれでは空梨ごと死んでしまう。そして空梨は一度でも死んでしまえば二度と蘇れぬ。あの世にも来ぬから、会う事すら出来ん。…………まったく、我が弟子ながら難儀な奴じゃ。
「どうやらブルマが吸収された者達を助ける手段を思いついたようでの」
「ブルマが?」
「そ、それは本当か!」
「まだ確定したわけではないわい。じゃが、たった一日しか戻れぬのだ。手立てもないまま戻って時間をつぶすこともあるまいて。しばらく様子を見て、最適のタイミングで戻るのがよかろう」
そこまで言うとベジータもラディッツも、歯がゆそうな顔をしながらも押し黙った。
さてと、そういうわけじゃからわしの水晶で現世の様子を見てみるか。
しかし、水晶に映し出された光景はとんでもないものじゃった。
「な、魔人ブウ!?」
「な、なななななな何故じゃ!? 何故、居場所がばれたんじゃ!」
なんと、わしがさっきまで居たブルマの別荘に魔人ブウがやって来ていたのだ。すわ、弟達とこちらで再会する羽目になるのではと冷や汗が噴き出た。…………しかし、予想に反して魔人ブウは虐殺を行うわけでは無かった。
『あはっ! 居た居た。あなたが神様ね?』
『か、神様、逃げて!』
『邪魔よ』
『ポポさん!』
魔人ブウはデンデ様を見つけると嬉しそうに近づき、デンデ様を庇おうとしたミスターポポを平手で壁にふっとばした。
『そんなに怖がらないで? わたし、あなたを迎えに来てあげたの』
『む、迎え……?』
『そっ! あのね、ドラゴンボールってと~っても素敵な宝物じゃない? そして宝物は全部全部ぜ~んぶわたしのもとにあるべきだと思うのよ。だから、それを作り、それを維持するあなたもわたしの宝物に加えてあげようってわけ。うっかり何かで死なれても困るしね』
『な、何を勝手な事を言ってるだ! デンデは悟飯ちゃんの友達だ! 連れて行かせはしねぇだぞ!』
『よ、よせチチ! 殺されてしまうぞ!』
『お、おっとう。でも……! あいつは、悟天ちゃんまで食べちまっただぞ! おら、許すことなんかできねぇ!』
悟空の嫁が果敢にも魔人ブウにくってかかるが、周りがなんとかそれを止める。下手に刺激しては何をするか分からんからのう。……それにしても、ドラゴンボールの存在を知られてしまったか……!
『あ、そうそう。別にあなた達を殺すつもりはないから安心してちょうだい』
『え? ほ、本当か!?』
『本当よ~豚ちゃん。だって、生きてようが死んでいようがわたしに何の影響もないもの。ゴミがいくら集まったって、ただのゴミだわ。でもね、ゴミにはゴミなりにリサイクルとかリユースって使い方もあるわけ。だ・か・ら、……あなた達は、わたしのもとに使えるようになったドラゴンボールを集めてもっていらっしゃい』
『い!? ど、ドラゴンボールを……?』
『だって自分で集めるの面倒くさいんだも~ん。命の代わりと思えば安いでしょ? あ、でもこの子たちはもらって行こうかしら』
『! 龍成、エシャロット!!』
『サイヤ人に集まられるとめんどくさそうだしね。空龍ちゃんが居ないのは残念だけど……もしかして死んじゃった? やだ、力加減間違えちゃったかしら! 後で吸収しようと思ってたのに』
え、エシャロットと龍成が吸収されてしまいおった……!
水晶の映像に見入っていたわしじゃったが、ドンっという凄まじい音が聞こえて何事かと見ればラディッツの奴が床に拳を打ち付けてデカいくぼみを作っておった。そして膝をつき項垂れると、血を吐くようなうめき声を出す。
「あ、あの野郎……! 空梨だけでなく、龍成とエシャロットまで……!」
「気色悪い外見になりやがったが……性格はもっと最悪だな。チッ、あの馬鹿の影響が嫌な方向で出てやがる!」
吐き捨てるように言ったベジータだったが、突如くるりと踵を返した。
「! 何処に行く気じゃベジータ!」
「界王の所だ。カカロットの奴、悟飯は界王神界とかいう場所に居ると言っていたからな……吹っ飛ばされてったカカロットもそこに戻っているかもしれん。界王なら何か知っているだろう。少なくとも、俺たちまでバラバラになってちゃ対処のしようもない。全員の居場所を把握し、情報を共有する必要がある」
お、おお……。思いのほか冷静じゃな。
「現状ではゴッドが作れなくなった。……気に食わんが、カカロットの言っていたフュージョンが必要になるだろう。ならば一度一か所に集まらねばならん」
「ベジータ……」
「ラディッツ、貴様いつまでそこで這いつくばっているつもりだ? 誇りあるサイヤ人ならば、最後まで立っていろ!! 膝をつくことなど許さん!!」
「! あ、ああ! すまなかった」
「…………フンッ。どうせしぶといあいつのことだ。唯で死ぬようなことはあるまい」
「………………すまん。感謝する」
…………どうやらラディッツも持ち直したらしい。なんじゃ、不愛想な奴かと思っておったが良いところもあるじゃないか。
空梨の奴め、いつも弟の悪口しか言っておらんかったが……素直じゃ無いとこなんぞそっくりじゃわい。似た者姉弟め。
「なれば、わしはいつでもおぬしらを現世に連れて行けるようにここで待っておるぞい」
現世では現世で、あの世ではあの世で……みんな頑張っておる。
空梨よ、吸収されたおぬしは今どうしている? この間約束した限定スイーツをまだ土産で持ってきておらんじゃないか。それを一緒に食べるまで、死ぬことなど許さんからな!!
……そういえば2人ともわざわざ蛇の道へ行ってしまったが、聞くだけならここから界王様に呼びかければ応えてくれたんじゃないかのぉ?