とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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悪夢の晩餐会

 今まで俺と空龍は地上で亡者どもを相手していたため詳しい事の経緯は分からんが、先に神殿に帰った空梨に続いて戻れば事態は凄まじい悪化を見せていた。

 デンデに簡単に聞いたところ、なんと魔人ブウは法螺吹き野郎ことミスターサタンのおかげで改心する寸前だったらしい。しかし馬鹿な人間どものせいでそれが無駄となり、それどころかあのデブの魔人ブウが厄介な純粋悪のブウに変化してしまったというのだから最悪だ。クッ、遠くに感じていた邪悪な気はこれだったか……蘇った亡者かと思えば、とんだ勘違いだぜ。

 しかもそいつが神殿にやってきて、その上神殿に居た者を逃がすために足止めを試みた空梨を吸収したってんだから笑えねぇ……丁度吸収する場面に出くわしたが、魔人ブウにはあんな能力まであるのか。とことん面倒くさくて最悪な野郎だ。

 

 真っ先に動いたのは、母親が目の前で吸収されて激昂した空龍だった。

 

「よせッ、やめろ!」

「よくもお母さんをぉぉぉぉ!!!!」

 

 泣きながらも凄まじい勢いで気を最高潮まで膨れ上げさせた空龍が、止める間もなく魔人ブウに突撃した。が、魔人ブウはそれをたった一言で止める。

 

「あら、私を攻撃していいの? お母さん、死んでないわよ」

「えッ」

 

 その言葉に急停止した空龍だったが、それに対して魔人ブウはおぞましい笑みを浮かべると空龍の腹を貫いた。野郎、やりやがった!!

 

「え……あ……?」

「空龍!」

「お前、よくも空龍を!!」

 

 何処に隠れていたのか、俺が動く前に悟天とトランクスが飛び出てきた。こいつら精神と時の部屋から出ていたのか!

 2人が攻撃すると魔人ブウは迎撃するでもなくすっと避けて簡単に引き下がる。その隙に俺は辛うじて虫の息の空龍を回収すると餃子に押し付けた。

 

「早くデンデのもとに連れていけ! まだ息がある!」

「う、うん! わかった!」

 

 餃子に空龍を任せると、チビ共2人に続いて俺も攻撃に加わった。だが魔人ブウは一向に攻撃してくる様子を見せず、ただただ薄気味悪い赤い目で俺たちの攻撃を見ながら避け続ける。こいつ、俺たちの動きを観察してやがる……!

 空梨の奴を吸収した魔人ブウは容姿だけでなく性格までもが豹変したようだ。女のような姿になったこともそうだが、恐ろしいのはその冷静さと……今まで無かったはずの残忍さだ。少なくともデブの魔人ブウには無邪気な恐ろしさはあったが、このような冷酷さは無かった。

 

「お上手お上手♪ チビちゃん達ったら凄いのね。いい動きをするわぁ」

「くっそぉ! 馬鹿にしやがって!!」

 

 踊るように攻撃を避けていた魔人ブウが一瞬の隙を見せると、ここぞとばかりにスーパーサイヤ人に変化したトランクスが拳を叩き込んだ。が、魔人ブウはそれを簡単に受け止めると人差し指でトランクスの額をはじく。

 

「いってぇぇぇぇ!?」

「あはははは! お馬鹿さん。わざと隙を作ったのも分からないの? か~わいい♪」

「こ、この野郎……!」

「トランクスくん、今のままじゃダメだ! フュージョンしよう!」

 

 悟天の言葉に思わず「馬鹿! 大きな声でっ」と突っ込む。前の奴ならともかく、今の魔人ブウに奥の手があるとバレたらまずい! わざわざポーズを取らせてくれる相手ではないぞ!

 しかし魔人ブウは俺の予想とは違い、首をかしげるとこう提案してきた。

 

「なぁに? 何か凄い技でもあるの~? わたし見てみたーい! ねえやってみせてよ」

「な、何?」

 

 …………嫌な予感もするが、これはチャンスだ。

 

「おい、お前たち。フュージョンはもう完璧になったのか?」

「うん、バッチリだよ!」

「それどころか、すっごいとっておきまであるもんね!」

「そうか……。なら、最初からそのとっておきで行け。あいつに時間を与えてはヤバい気がする」

 

 ……空梨が生きている、という発言は気になるが……今のままではこちらが全滅してしまう。あいつとしても息子を殺されかけたのだ。空梨には悪いが、ここは一気に魔人ブウを倒してしまわねばなるまい。それだけこの魔人ブウからは嫌な気配がするのだ。

 未だ何処に居るか分からん悟空や悟飯、亡者は消えたがあの世がどうなっているかも知るすべがない今ベジータたちの1日復帰もどうなるか……ともかく、サイヤ人どもを待っている余裕はない。

 

 俺たちは神殿の広場に降り立つと、距離を開けて再び対峙する。

 

「さっ、どうぞ。攻撃なんてしないから、安心してやってね」

「な、舐めやがって」

「耐えろ。逆に奴が油断している今がチャンスなんだ」

 

 だが奴の言葉を鵜吞みにするのも危険だ。万が一不意打ちをしてきた時のために、トランクスと悟天の前に立つ。情けないことに戦闘力じゃ役に立てんが……いざとなったら盾にくらいなってやるさ。

 

 

「いくぞ、悟天!」

「うん、トランクスくん!」

 

 2人はスーパーサイヤ人になり一気に気を高め、ある一定の場所で気の大きさを同調させた。す、素晴らしい。よくぞその気の大きさでぴたりと揃えられるようになったもんだ。見直したぞ、お前たち。

 

 

「「フュ~~~~ジョン!」」

 

『ハッ!!』

 

 

 その瞬間、2人を中心に光が爆発した。

 

 

『ぱんぱかぱ~ん! ゴテンクス様のお出ましだぜー!』

「きゃ~! 凄い凄い! かっくいー!」

『な、なんか思ってた反応と違う……。も、もっと驚けよな!』

 

 凄まじいパワーを発しながら融合し一人の戦士……ゴテンクスとなったチビ共だったが、魔人ブウは喜ぶばかりで完全に舐めきっている。しかしこのパワー、思っていた以上だ! こ、これなら勝てるかもしれん。

 

『その舐めた態度、ぶち壊してやるぜ! いっくぞ~!』

 

 言うなりゴテンクスは魔人ブウにつっこむ。そしてそのまま奴の腹をぶち抜いた。

 

「おお!」

『空龍のお返しだぁ!』

「あら?」

 

 腹の空いた穴を不思議そうに見下ろしていた魔人ブウだったが、ゴテンクスは追撃を辞めるつもりはないようでそこに大量の気弾を撃ち込む。

 

『だだだだだだだだだだだだだだ!』

 

 埃と煙が巻き起こり、視界がふさがる。だが奴の気は動いていないから、避けられないまま気弾を真正面から浴びているようだ。

 

『へっへ~ん! どんなもんだい!』

「うう~んっ、50点! 自分の視界もふさいじゃう技は危ないわよ?」

『なに!?』

 

 だが煙の向こうからは余裕極まりない声が聞こえ、何らかの力……おそらく念力で視界の邪魔をしていた煙が全て上空に巻きあげられた。

 そして視界が晴れた先には、黒い六角形の板のようなものを前面に展開した無傷の魔人ブウが居た。腹の穴もすでに塞がっている。

 

「ふふっ、これあの子の技よ。便利よね? わたしの可愛い体がハチの巣にならなくてすんだわ」

 

 チィッ、空梨の奴めあんな技を身に着けていたのか……。味方であれば心強かっただろうに、今はただただ厄介で仕方ないぜ。

 

「それよりもう終わり~? つまんな~い。もっといろいろやってみせてよ」

『く、くっそー! だったら度肝抜いてやる! 見てろよ!!』

 

 それからもゴテンクスはよく頑張った。リング状のエネルギーで敵を拘束し締め付ける技ギャラクティカドーナツ、気を意志を持たせた自分の分身に練り上げて敵に特攻させる大技スーパーゴーストカミカゼアタックなど……相手が奴でなければ決め手になるであろう多彩な技ばかりだった。今のような状態でなければ褒めてやりたいが……奴め、ことごとく厄介な技で防ぎやがる。

 あの黒い板のせいでエネルギー波の類はほとんど無効化され、接近戦に持ち込もうとすれば周囲に念力で凄まじい重力場を作り出し動きが止められいいように殴り飛ばされる。しかもよしんばダメージを与えてもすぐに回復するときてやがる……クソッ、どうやって勝てばいいのかまるで想像がつかん!!

 

 だが、ここでゴテンクスが『とっておきのとっておき! これこそ俺の奥の手だ!』と言って凄まじい気を発し始めた。何だ、何をする気なんだ!?

 

 

 

 

『イエ~イ!! スーパーサイヤ人3だぜー!!』

「な、それは悟空がなっていた……!」

『へっへーん! 実は前にお父さん(おじさん)が一回だけ見せてくれたんだー! ナイショだって言われてたけど、俺も出来るようになっちゃったもんねー!』

 

 ゴテンクスは魔人相手に戦う時に悟空が変身していた姿になってみせやがった! こ、この2人……本物の天才だぜ。これならばもしかすれば……!

 

 

 

 

 だが、俺たちはしてはならない油断をしていたのだ。初めからな。

 

 

 

 

 

「すっご~い! ちょっと顔が怖いけど格好いいわ!」

『そうだろそうだろ! さっきとはわけが違うんだ。すっごいすっごいすっご~~~~い強くなったんだぞ! お前なんか簡単にぶっとばしてやるぜ!』

「そうねぇ、ちょっと大変そうだわ。でもとっても美味しそう」

『へ? 美味しそうって何……』

「いかん!」

 

 ゴテンクスの背後に迫っていたピンク色の肉片に気づきすかさず気弾を放ったが、肉片はそれを避け凄まじい勢いで大きく広がった。そしてそのままゴテンクスを飲み込んでしまう。

 

「私のお腹のお肉、最初にふっとばしてくれたじゃない? あれよ。だいたい動きは一通り見れたし、あなた達はもういいわ。本当はお菓子にして食べたいところだけどそれだと死んじゃうものね」

『うぶぶっ、うぐぅーー!!』

「いっただきま~す!」

 

 

 言うなり、奴はゴテンクスを包んだ肉片を自身の体に吸収した。

 そしてあっけにとられる間もなく、俺は奴の赤い目に至近距離から見つめられていた。

 

 

 

「あなたも地上にいる素晴らしい戦士達も、み~んなわたしのおやつにしてあげる。光栄でしょ? 私の中で私のためだけに、永遠に私とずっとずっと一緒にいられるんだから」

 

 

 

 

 

 ____________________すまん、俺には何も出来なかった。悟飯よ、悟空よ……! 誰か、あいつを止めてくれ。

 

 

 

 

 

 それを最後に、俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 


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