死人が蘇るなんていうとんでもねぇことになっちまった世界を何とかするために、みんなが飛んで行ってからしばらくが経った。
悟空さも悟飯ちゃんも何処に居るだかわからねぇ今、不安だどもオラがしっかりせねばなんねぇ……でなければ、ラディッツが死んで落ち込んでいたのに気丈に振る舞い戦いに向かった空姉さまに申し訳ねぇだ。隣に居るブルマさんもベジータが死んだと聞いて悲しいだろうに、しゃんと背筋を伸ばして立っている。
不安そうに足元にまとわりついてくるエシャロットと龍成に「安心しろ。おめぇらの母ちゃんと兄ちゃんは強いだ。それはエシャロットと龍成が一番知ってるだろ?」と言って笑顔を向ける。マーロンちゃんの方は武天老師様とウーロンがあやしているようだから安心だな。
……悟天ちゃん、トランクスも今は強くなろうと頑張ってる。だから大人のオラたちはなおのこと気を強くもってねぇとなんねぇ。子供は大人がしっかりしてれば安心するもんだ。ここでぐらついてはいけねぇだよ。
みんなが帰って来た時のために握り飯でも作ろうかとつぶやいたら、ビーデルさんが手伝うと申し出てくれた。この娘も何か出来る事をしたいんだろうなぁ……初めは悟飯ちゃんを誘惑する破廉恥な娘だと思ったもんだが、いい娘っ子だ。気が早いかもしんねぇが、この子になら悟飯ちゃんを任せられるかもな。孫が楽しみだ。
そしていざという時のためにパオズ山から持ってきておいた米で大量の握り飯を作り終えたころ、一番先に戻って来たのは空姉さまだった。地上の方はいったんピッコロと空龍に任せて、こちらに異常が無いか様子を見に戻って来てくれたらしい。
みんな無事だと知ってほっとした表情を見せた空姉さまだったが、そんな時だ。地上の様子を見ていた神様が悲鳴を上げた。
「ま、まさか、そんな……!」
「ちょっとデンデ、どうしたっての?」
ブルマさんが効くと、神様は震える声でこう言っただ。
「魔人ブウが……魔人ブウが、新しい姿に変化してしまいました。もう前のような無邪気さはありません。完全な、純粋な悪です」
「な!?」
「ど、どういうことだよ!? あれがもっとやばくなったってのか!?」
「ええ。体もより戦闘向きになっています。な、何故あの人たちはあのようなことを……! 彼らが居なければ、ブウは改心する寸前だったのに……」
場が混乱する中、ばったんと大きな音がして何事かと振り返れば空姉さまが地面に突っ伏してぴくぴくと震えていた。くぐもった声で「ちょ、何で忘れてたし。馬鹿? 馬鹿なの? 馬鹿でしたね! ごめんなさいね! ほんっとごめんなさいね!!」という声が聞こえてくるが……あまりのショックにおかしくなっちまっただか!? そうだな、空姉さまは病み上がりだったのにこんな働いて……疲れねぇ方がおかしいだよ。
「空姉さま、ちょっと休んではどうだ? ほら、握り飯でも食って」
「優しさがツライ」
何故か逆に泣かれてしまった。うん、やっぱり情緒不安定でおかしいだな。双子もおっ母が心配なのか、駆け寄ってきて覗き込んでいる。
「お母さん、大丈夫?」
「ほら、チチさんのおにぎり美味しいよ!」
「ぼぐぁ!? ぐっ、ありがとう。わかった。わかったから無理やり口に押し込まないでねエシャロット」
そう言いつつも器用に握り飯を完食したので、少し安心する。ほっ、食う元気はあるみてぇだな。
しかしそれに和んでる暇もなく、再び神様が悲鳴を上げた。
「み、みなさん逃げて! 魔人ブウがこちらに……この神殿に来ます!!」
「嘘だろ!?」
誰ともなく悲鳴が上がる中、しかし逃げる暇もなくそいつは突然現れた。下界から凄まじい勢いで飛んできたピンク色の魔人……魔導士とかいう奴が見せた映像と違ってずいぶん痩せたし悪そうな顔になってるが、おそらくこいつが魔人ブウなのだろう。こ、こいつがオラの悟空さと悟飯ちゃんを痛めつけただな!? 許せねぇ……!
けどそうして怒りは湧くものの、オラを含めた皆が驚いた顔のまま動けずに固まっている。
魔人ブウは値踏みするように広場のみんなを見渡すと、空姉さまを見つけてニヤリと笑った。
「この中じゃお前、いちばんつよいな。他にもいっぱいいたが、お前がいちばんちかくにいた。お前がさいしょだ。オレとたたかえ」
「おおおおおい!! 待て待て待て!! 死者含めていっぱい居るのに何で来たかと思ったらそれかよ! 近かっただけかよ! 通うのに一番近かったからみたいな理由で学校選ぶ学生かよもっと志を高く持てよ魔人だろ!!」
「く、空梨。それなんだが、今ちょうど地上の様子がもとに戻った。亡者たち、あの世に帰った」
「タイミングいいの悪いの!? ねえこれどっち!?」
空姉さまはミスターポポの肩をつかんで揺さぶるが、無視された魔人ブウが奇声とも怒声とも分からない大声をあげて空気を震わせた。
「オレ、待つのキライだ! はやくオレと戦え!」
「ああ、うるさいなぁもう!」
「お、おい魔人ブウ! そのさ、こいつと戦って、あと他の奴とも戦ったらさ……その後お前、どうする気なんだ?」
やけになりかけた空姉さまを見かねてか、足を震わせながらもウーロンが魔人ブウに話しかけた。多分地上がもとに戻ったってことは散らばっていたみんなが帰ってくるという事だ……それまで会話で時間稼ぎが出来ればと考えたんだろう。臆病者かと思っていたのに、ちょっと見直しただよ。
「その後? う~ん……みんな殺して、あとお菓子食う」
「だ、だったらさ。戦うより先にそっちを終わらせてもいいんじゃないかな~って……」
『ちょっとウーロン! それじゃ地上のみんなが殺されちゃうじゃない! パパやママも居るのよ!?』
『しょ、しょうがないだろ!? みんなには悪いけど、あとでドラゴンボールで生き返れる! でもここに居るチビ共や空梨が死んじゃったらスーパーサイヤ人ゴッドっていうの作れなくなるだろ!? そしたらブウを倒せる奴が居なくなっちゃうじゃんか!』
小声でブルマさんとウーロンが言い争うが、魔人ブウはそんなことを気にも留めないようでニヤリと笑うと神殿の淵へと歩いて行った。そして神殿を一周してくると、おもむろに手のひらを天へとむけた。
が、そこで空姉さまが待ったをかける。
「はいちょっと待った!」
「なんだ? 戦う気になったか」
「それはひとまず置いておこうね。それよりお前、今地上の人間皆殺しにしようとした?」
「それがどうした」
「はい馬鹿ー! お前馬鹿決定ー!」
「何!? オレを馬鹿にしたな! おこったぞ!」
「ところで君、お菓子は好きかな?」
「な、うん? もちろんだ」
「そのお菓子はどうやって手に入れるの?」
「魔法でなんとでもなる。別ににんげんじゃなくてもいいから、だからにんげん殺すなと言っても無駄だぞ」
「はっはっは、やれやれ。これだから坊やは」
煙に巻くような話し方で魔人ブウを怒らせたかと思えば興味を引く質問でそれをごまかしたり、かと思えば再度煽るように額を片手で押さえて大仰な仕草で首を振る空姉さま。みんなそれをハラハラと見守っているが、唐突に脳内に空姉さまの声が響いた。
『みんな、今のうちにとりあえず逃げて! そしたら私一人ならなんとでもなるから。っていうか逃げて餃子師範と合流したら迎えに来てくれると嬉しいかなって! とりあえず今のままじゃ皆殺し必至だから! 悟天ちゃんとトランクスは精神の時の部屋に居れば安全だし、もしもう出てきて隠れて見てるならみんな連れてとりあえず逃げろ!!』
どうやらウーロンがしようとしていたように、会話で魔人ブウ相手に時間稼ぎをしてくれるらしい。く、悔しいだが……ここに居ては空姉さまの邪魔になってしまう。今は逃げることが、オラたちに出来る最善だ。
そして空姉さまが会話のみで魔人ブウを引き付けている間に、オラたちはひそかに脱出することに成功した。途中で餃子が帰って来てくれたのが幸いしただ。まあ、魔人ブウにしてみればオラたちがいようが居まいが興味もなかったかもしれねぇが……。
それにしても、空姉さまはいったいどんな会話で魔人ブウを引き付けてくれてただ?
オラたちを安全な場所まで送った後、ちょうど帰って来たピッコロと空龍と共に餃子が神殿にテレポーテーションしていくのを見送りながらふと思う。き、気になるだな……。あんな気が短そうな相手に、よく会話を持たせただよ。
ちなみに悟天ちゃんとトランクスだが、結局ぎりぎりまで精神と時の部屋からは出てこなかったようだ。心配でなんねぇが、ピッコロによれば下手な場所に居るよりよっぽど安全らしいのでとりあえず安心する。
とにかく、どうか無事でいてほしいだ。
オラは預かった子供たちを抱き寄せると、天を見上げながら強く願った。
++++++++++++++++++++++
俺たちはみんなが脱出するのを見送ると、魔人ブウと空梨おばさんに視線を戻した。
実は俺と悟天はとっくに精神と時の部屋から出てきていたんだけど、空梨おばさんに逃げろと言われたのに納得出来なくてそのまま隠れて神殿に残っていた。だって、せっかくフュージョンを完璧に身に着けた上にすっげぇパワーアップまでしたんだぜ!? 見た目がすごく変わっちゃったけど、っていうか怖くなってるけど、魔人ブウが目の前に居るのに戦わないまま逃げられるかよ!
「それにしても空梨おばさん、魔人ブウと何話してるんだ?」
「ねえねえトランクスくん、もうちょっと近づいてみない?」
「お? お、おう」
悟天……こいつ、泣き虫のくせにこういうところ度胸あるよな。ビビってると思われたくなくて余裕そうに頷いたけど、実はちょっと怖い。だってあいつ顔怖いしさ……いや、ビビってない !ビビってなんかいないぞ! だって俺サイヤ人の王子だし!
とりあえず悟天と一緒にこそこそと近づいていくと、やっと何を話しているか聞き取れるようになってきた。
息を殺して、耳をそばだてる。
「ところで、君がいつも食べてるお菓子ってどんなの?」
「……チョコレートとか、クッキーとか飴とかだ。ほかにもいろいろ作れるけどな」
「ふーん。今ある? これあげるから交換してよ」
そう言っておばさんはどこに隠していたのか手のひらサイズの緑色の箱を魔人ブウに差し出した。
そうか……おばさんはタケノコ派か。
「なんだこれ?」
「チョコレートとクッキーをあわせたお菓子。いる? いらない?」
「チョコレートか! なら食う」
「じゃあ君も何かちょうだい」
「嫌だ」
「じゃあこれあげない」
「嫌だ。よこせ。殺すぞ」
「はっは~ん、自分が食べてるお菓子の味に自信が無いんだ? だから私には食べさせられないんだーなんだそっかーごめーんマジごめーんプライド傷つけちゃったかなー?」
「なんだと!? チッ、まて。たしかここに……あった! ほら、食え。オレのチョコレートのがうまい」
…………おばさんって、なんか色々と凄いよな。魔人ブウを正面からあれだけ煽ってまだ戦いになってないんだもん。いや、お菓子のためとはいえ耐えたブウが凄いのか? 俺、今の聞いてるだけだったけどあんなふうに正面から言われたら結構イライラすると思う。なんてゆーか、絶妙に相手をイラつかせる声のトーンと表情なんだよな。すっげー馬鹿にした顔してたもん。
それにしても魔人ブウ、お前今どこからチョコレート出した。見間違えでなければ直にズボンの中……いや、考えるのはやめよう。そしておばさんも食うのかよ!? そ、それもしかして人間が原料なんじゃ……!
けど驚く俺と悟天をよそに、おばさんはチョコレートを食べてからハッと笑った。
「単純な味だな」
「!? な、なんだと……!」
魔人ブウは魔人ブウで、タケ〇コの里を食べて衝撃を受けたように手の内のそれを凝視する。
「悪くはないけど、飽きる味だね。これをずっと食べ続けるしかないなんて同情するよ。これには、あれでしょ? 具入りとかリキュールやフレーバーで味を変えたタイプとか無いんでしょ? 季節限定とかも無くて、ただただ同じ味を量で誤魔化して食べ続けるしかないとかマジ可哀想だわ。あー、可哀想可哀想。せっかくこの星には未知のお菓子があふれてるっていうのに!」
「馬鹿にするな! い、イチゴ味とかだって出来る!」
「なら貴様、ワサビや柚子や七味唐辛子がチョコレートと出会った味を知っているか。塩辛い菓子である柿の種子とチョコレートが運命の出会いを果たした味を知ってるっていうのかよ!」
「な、なんだそれは!?」
「はん! 無知め! どうせ味も単純なやつしか知らないんだろ! イチゴ味はイチゴ味でもなぁ、種類でまた味も違ってくるんだよ! それも生のイチゴなんて食ってみろよ! 旬の、大粒の赤い奇跡の宝石をお前は魔法で作れるのか!? 無理だね! あの奇跡の味を再現するとか無理だね! 数種類のイチゴがどっさり使われたフルーツパフェとか3000ゼニーとかするだけあってすっごい美味いんだぞ! イチゴだけじゃない! 組み合わせだけ考えてもどれだけの種類のスイーツが世界にあるのかお前は知るまい! 知っていたら皆殺しなんて馬鹿でもったいない真似しようとするはずがないもんなぁ! 世の中に極上の甘味を追求しようと日夜頑張ってるお菓子メーカーの人間やパティシエ、パティシエールがどれだけいると思ってるんだ! それを殺したらお前、ずっとあの単純な味しか食べられないんだぞ。いいか? 一種類……一種類の菓子の中でも、どれだけジャンルが分かれると思っている。数々のスイーツを食べてきた私でさえ、まだ世界中の甘味を食べつくしたと言えないってのに、甘いもの好きとして、スイーツ好きとしてお前はそれでいいのか!? 目先の欲に囚われて至極の味を知らないまま生きて何が楽しいんだよ!」
あれ、なんか段々とおばさんヒートアップしてきたような……時間稼ぎっていうよりガチで語り始めたような……。
「ホテル・ミカドのフレンチトーストは食べたか? 超分厚い厚切りの食パンなのに、ちゃんと中までしみ込んだ甘い黄金の卵液! 両面カリッカリに焼いてあるけど中はもちもちで、程よい甘さと食感がたまらないんだぞ! あとラ・アムール・アンジュのミルフィーユは? 天使の羽を重ねたようだと評判の極薄のパイ生地と、それこそ天使のような純白の生クリーム……濃厚な40%前後の脂肪分の物とさっぱりした口どけの30%前後の2種類を交互に重ねた至高の一品だ! 挟まれたフルーツは幸せ者だね! フルーツと言えばフルーツタルトだけど、無限大引屋のバイヤーが厳選したフルーツで作られたフルーツタルトはお土産にされたらどんなに怒ってても許せちゃうくらいの極上品だし食べたことないだなんて人生損してるわマジで! ああ、シュークリームもいいなぁ……パティスリー・アリアンの奴がまた私の理想で、ザックザクだけど硬すぎない生地の間に挟まってるのが生クリームとカスタードの二種類なのがまた素晴らしいわけよ! どっちか片方だなんて物足りない、ダブルクリームこそ至高! カスタードにはもちろん香り高いバニラビーンズが使わてれるし、重いカスタードに対してふわっと軽い生クリームが涙出るくらい完璧な比率であの小さな丸の中に納まってるのよ! しかも生地の上にアーモンドダイスが散らしてあるのが最高! 和菓子だって負けてない! 和菓子食べたことあるか? 無いだろ! 無知が! スイーツの世界は洋菓子だけじゃないんだよ!! 世界中に甘味文化はあるんだ!! あ、それで和菓子な! 高級で上品なやつも美味しいけど、どーんあんこが乗ったあんみつのすばらしさったらないわ! バニラアイスとか杏とか寒天とか具を追加したりしてさ、縁の下の力持ち的なにくい蜜豆がまたいいわけよ!! カステラの丸ごと一本食いとかしたことある? まあ無いだろうけどな! 満足感半端ないぞ! カステラはザラメが表面にくっついてるっていうか茶色いところに一体化してるやつがおすすめな!! がりっとした極甘のザラメと卵感たっぷりのふわふわカステラの食感のコントラストは渋い緑茶片手に食べたいね! 栗羊羹の一本食いもいいけど! 普通の羊羹では味わえない、あの栗の入った贅沢感は未だに謎だけど秋になると食べたくなる。ああ、チョコレートが好きだっけ? だったらドルチェ・ドルチェのサラーメ・ディ・チョコラートがおすすめだわな! ナッツとかクッキーとかぎっしりだぞ!!ああ、チョコレートだけ味わえるケーキだったらガトーショコラ専門店ノワールのガトーショコラか。超濃厚で美味い!!チョコレート単体専門店だったらアレグロかレディ・イラミスか。宝石みたいなボンボンショコラのずらっと並ぶ様ったら見てて飽きないね!! まあ見てるだけじゃなくて全部食べるんだけど! 高いけどな! 一粒500ゼニーとかするんだぞ! けど庶民の味方、駄菓子だって正直パティスリーのお菓子に負けてない!! 口に馴染んだ分、下手な専門店よりよっぽど美味しいの多いし、今ならコンビニだって負けてない!!!久しぶりに食べたらクオリティー上がっててびっくりしたね! ああ、そういえば最近できたクッキー専門店美味しかったなぁ……田舎のおばあちゃんが作ってくれましたなコンセプトだけあって、ごつごつした不揃いなのがいいんだよね!! チョコチップ入ってたり、オートミール入りとか、ドライフルーツ入ってたりとか、ああでもバター味のシンプルな奴が一番おいしかったかな! あ、クッキーで思い出した。マカロンいいよねマカロン!! あのちょっと微妙な食感の生地と挟まれたバタークリーム超美味しい!! あ、バタークリームっていえばオランジュで食べたアフタヌーンティーセットのスコーン最高だったわ! バタークリームと、あと紅玉のジャムが添えてあったな。一緒に乗ってたクリームチーズとスモークサーモンのサンドウィッチがまだ美味しくて、紅茶もいい香りだったけど、あれダージリンだっけ? アールグレイだっけ? 店長の店の珈琲もいいけど、紅茶もいいよね紅茶。あ、紅茶味のジェラート美味しかったなそういえば……クククッ、それととろっとろのクリームブリュレに張られたキャラメルの薄い板をスプーンでぶち抜くときの快感を知ってるか? 知らないだろう! あ、そうそうそれと……」
「……………………」
「………………。はっ!? お、おい悟天起きろ!」
「ふぇ?」
あれ、途中から何か呪文聞いてるみたいになって思わず寝かけてた……! 悟天も目をこすってる。お、おばさん……甘いもの好きだってのは知ってたけど、あれかなり重症だな。語る時の目がいっちゃってる。
「悟天、ああいうのなんて言うか知ってるか?」
「ううん」
「オタクって言うんだぜ」
「そうなんだ! トランクスくんは物知りだなぁ」
単語を聞く限り美味しそうな物の話をしてるはずなのに、店の名前やら専門用語っぽいのが混じるせいで全然頭に入ってこない。声も段々でっかくなってるし……うん、おばさんの話は聞かないでおいて、様子だけ見守ることにしよう。
魔人ブウはしばらくおばさんの語りを聞いていたが(よく聞いていられるなって思った)、突然ニヤッと笑うとこう言った。
「お前、色々おいしいお菓子をしってるみたいだな」
「馬鹿め、まだまだ序の口よ。とりあえず何が言いたいかって、スイーツ好きならこれだけ食べたことが無いお菓子があるのに世界滅ぼしてどうするんだって話であって……」
「いや、もんだいない。だって、お前を吸収すればお前の知ってるお菓子の味もちしきも全部オレのものだ」
「は?」
「な!」
「おばさん、あぶない!!」
魔人ブウがおばさんの目の前で体を広げたと思ったら、そのピンク色の体が一瞬でおばさんを覆いつくした。止める間もない。
「! これはいったい!」
「お、お母さん!?」
「空梨!」
タイミングがいいのか悪いのか、その時丁度ピッコロさんたちが戻って来た。
でも、もう遅い。おばさんが……おばさんが!
「おばさんが、魔人ブウに食べられちゃったぁぁーーー!!」
悟天の叫びがこだまする中、魔人ブウの様子が何やらおかしい。
空梨おばさんを自分の体に取り込んだと思ったら、そのままうごうご気持ち悪くピンクの体がうごめいて……やがて、さっきとは違うシルエットを作った。
なんだよ、何なんだよあれ!?
「ふぅぅっ、何か、いい気分だわぁ~。あら、どうしたのかしら? 私、何か変?」
「お、お前……魔人ブウか……?」
恐る恐る聞いたピッコロさんに、そいつは笑顔で答えた。
「ええ、そうよ。あの子を吸収した影響でちょっと変わっちゃったけど……可愛いでしょ? あ、そうそう。あなたたちにとっていい知らせを教えてあげる」
おばさんの三つ編みを思わせる触角に、膨らんだ胸。くびれた腰。大きくなった目……あれって、あれって魔人ブウの女の子バージョンなのか!? く、口調まで女っぽくなってるし……さっきより怖くないけど、なんでだろう。怖くないはずなのに、体の底から震えてくるこの感覚は。気持ち悪いとかそういうんじゃなくて、もっとこう、得体が知れないというか……!
「私、無暗な人殺しはやめるわ」
「なっ」
ブウ(♀)の言葉にみんな驚くけど、すぐ後に続いた言葉にもう一回固まった。
「邪魔ものだけみ~んな殺して、あとは私の、私だけのために生きる家畜にしてあげる。素敵でしょう? 幸せでしょう? みんな私のためだけに生きて私のためだけに死ぬの! うふふっ! それで……」
「あなた達は邪魔者でいいのよね?」
感想欄でブウ子の容姿について触れていただいたので、作者のバランスとかおかしい残念クオリティーでも構わないぜ!という猛者、もしくは菩薩のような広い心で色々許せる方はイメージ絵をどうぞ。
【挿絵表示】
ちょっとデフォルメした感じですが、だいたいこんなのをイメージしながら書いてます。とりあえず性格は確実に悪い。