とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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VSジャネンバ!そして二人のセル

 初めて行く地獄というところは、思ったよりカラフルな場所だった。まあ本来はこのような姿ではないのだろうな……上の閻魔殿と同じく、あのジャネンバジャネンバと鳴くデブの影響だろう。

 

 

 界王のもとであの世に起きた異常を知った私とベジータ、ラディッツはすぐに蛇の道を超えて閻魔殿へと向かった。そしてたどり着いてみると閻魔殿を含めた周囲が、まるでカラフルな飴玉のような結界に包まれて点在していたのだ。

 すぐに結界の破壊に取り掛かったが、忌々しいことにその結界は私達のパワーをもってしてもびくともしなかった。なんて強度だ……!

 やはり原因を絶たねばならぬかと閻魔の声に従い閻魔殿の上に昇れば、そこにはなんとも間抜けな見かけをした図体のでかい化け物が居た。まるで風船で出来た玩具だな。

 

 が、その強さは馬鹿に出来ない。

 

 あの中では戦いにくいから広い場所でやろうと、亡者のほとんどいなくなった地獄まで奴をおびき出した。しかし、奴(鳴き声からジャネンバと呼ぼうか)は私とベジータを様々な方法で翻弄した。無機物を自分の姿に変身させてけしかけたり、飴玉のような結界を操って押しつぶそうとしてきたり、手のひらに私たちそっくりの分身を生み出してエネルギー波を相打ちさせたり、体の一部位だけワープさせてふいをついた攻撃をしてきたり……実に多彩だ。これがマジックショーなら拍手を贈っていたところだよ。

 

 ああ、ちなみにラディッツは上で閻魔殿の結界をなんとか壊すために頑張っている。

 どうやらあの結界、何故か悪口に弱いようだ。口の悪いベジータが悪態をついたところ砕け散ったからな。本来そのベジータこそ結界を壊す役割に適任なんだろうが、ベジータは「俺は戦う! そんなことはラディッツ貴様がやっておけ!」と言い残して私と一緒に来てしまった。

 それにしても、まったく素直でない男だ。戦いたいというのも本音だろうが、私たちとラディッツの間には明確な力の差がある。戦力的に配慮した、と考えるのは私の買いかぶりかな?

 

 

 

 

 

「うっひゃ~! そいつがあの世をおかしくしちまってるやつか!」

「な、カカロット!?」

「よっ」

 

 私たちが戦っていると、瞬間移動を使ったのだろう。孫悟空が突然現れた。

 

「……どうやら貴様は死んでいないようだな。今まで何処に居やがった」

「ああ! 死んでねぇ。今まで悟飯と一緒に界王神界ってとこに居たんだ」

「悟飯はどうした?」

「あいつは今、老界王神様って人に潜在能力以上の力を引き出す儀式っちゅーもんをやってもらってんだ。それよりベジータ、地上がやべぇぞ」

「どういうことかな? わざわざ言うということは、亡者が生き返っている事では無さそうだが」

「お、セルか! 久しぶりだな!」

「久しぶりというほど久しぶりというわけでもないがね。おっと、……ところで、悠長に話している余裕はないんだ。手短に話したまえ」

 

 私がジャネンバの攻撃を避けながら言うと、孫悟空は真剣な表情になってこう言った。

 

「魔人ブウなんだが……あいつ、とんでもねぇことになっちまった。何があったか詳しい事はオラも知らねぇ。けど、あいつ純粋な悪の心を持ったブウに生まれ変わっちまったんだ。見た目も変わったが強さも多分より増してる」

「なんだと!?」

「……まったく、次から次へと忙しないことだ」

 

 軽口を叩くが、内心は苦いものを嚙み潰したようだ。これでは生き残ったタピオンとミノシアが無事かどうかもわからんな。

 

 

 

 しかし地上がどうなっていようと、まずはあの世を正常に戻さねば話が始まらない。

 

 そこからは孫悟空も加わってジャネンバ討伐にあたったが、奴はスーパーサイヤ人3になった孫悟空ですら簡単にあしらってしまった。フッ、あれには私も苦労したんだがね……こうも簡単にやられている所を見ると、胸がすくどころか心に苦い物しか残らんよ。

 そして最悪なことに、ジャネンバは更なる変身を遂げてしまった。私が言えた事ではないが、どいつもこいつも変身しすぎじゃないか?

 

 体こそ小さくなったものの、その強さと性格の残忍さはデブの時より厄介なものだった。しかも攻撃もより殺傷能力が増している。

 

 針のような無数のエネルギー波を飛ばしてきた奴に対して、不本意だが私のバリアーでベジータ、孫悟空もろとも包んで攻撃を防いだ。しかしいくつかはバリアーをすり抜けて来て、私たちの体に裂傷を刻む。……これではらちがあかないな。

 そんな時だ。孫悟空がベジータに対して「フュージョン」なるものを提案してきた。最初こそ間抜けなポーズに渋ったベジータだったが、結局受け入れた。……まあ、そこからがまた笑いものだったわけだが。

 ゴジータといったかな? フュージョンが失敗し、デブの雑魚に成り下がった彼らを見て私は思わず指をさして笑ってしまったよ! ……だが、逆に予想のつかない動きをする失敗ゴジータはうまくジャネンバを翻弄しているな。私は私で、今のうちに作戦を考えるとするか。

 

 

 

 

 そんな時だった。

 

 

 

「やあ、久しぶりだなプロトセル」

「! …………ククッ、本当に次から次へと。今度は私のお出ましか。だが、そのプロトセルという呼び名は不愉快だ。やめていただこう未来セル」

 

 背後に突然大きな気が現れたと思えば、そいつは私と同じ声で喋った。

 忌々しい……忘れもしない、かつて私を手のひらで転がしたもう一人の私だ。もしや地上に蘇っているのではないかと想像していたが、まさかこちらに来るとはな。

 

 しかし、私に焦りはない。

 

「で、用件は何かな? もう一度私を吸収しようとでも言うのかね」

 

 聞かずとも大方そんな所だろう。だが、私はあの時の私とは違うのだ。宇宙を旅して強敵との戦いを繰り返し、ヒルデガーンに挑み続けた私はかつてと比べるべくもないほどパワーアップしている。今まで死んでいたこいつに負けるはずがない。

 

 だが私の予想は思わぬ形で裏切られた。

 

「いや、逆だ。私を吸収しろプロトセル」

「何だと?」

 

 未来セルの言葉に私は思わず眉根を寄せた。相手が自分なだけに、そんなことを言うはずがないと疑心が湧く。……いったい何を企んでいる?

 しかし未来セルは私の疑惑の目をものともせず、軽く肩をすくめた。

 

「今の君と私では、私の方が弱い事くらいわかるさ。……大したものだ。私が吸収を繰り返し強くなったのに対して、君は純粋に修行のみでその域までたどり着いたのだからな」

「見ていたのか?」

「ああ。地獄では肉体を持たない魂のみの状態だったが……やはり、私たちは同じ存在なのだろうな。知らず君の姿をあの世から追っていたようだ。仮の肉体を得た今、君の過ごした時間が記録として私に流れ込んできた。そして思ったのだよ。羨ましいと」

「羨ましい?」

「ああ。何に対してかと言えば、強さだけじゃない。君は色んな出会いを果たしたな。私は世界を一つ滅ぼしたが、結局過去に来るまで地球の中でしか過ごさなかった。それに対して君は宇宙に飛び出し、強敵と戦い、そして……友を得た」

「………………」

「それに私は嫉妬と憧憬を抱いたよ。私が何を目的にするでもなく暴れ、結果暇を持て余し、強敵を求め、未だ見ぬ強敵に勝つために過去の自分を吸収しようと姑息な真似をしていたのに対して、君はなんと全うで充足感に満ちた方法で強くなったのだと。私が知らず求めていた、私の理解者となるだろう相手まで手に入れて。贅沢者め、とね。思ったわけだ」

 

 未来セルはもったいぶった喋り方でそう言うと、私に似つかわしくないどこか寂し気な表情で笑った。

 

「しかし、ならば何故私に貴様を吸収しろなどと言うのだね? 私を吸収し、私になり替わろうとは思わないのか」

「それは無駄な行為だよ。私は君で君は私だが、正確には違う。君は君でしかない……私が憧れた君の人生は、セル。君にしか歩めないのだ」

「殊勝なことだ。ならば何かね? その憧れの人生に、自分も参加させてほしいとでも言うつもりか」

「クククッ、鋭いな。正解だが、当たって嬉しいか?」

「…………微妙だな。かつて私をはめた貴様がそんな情けない事を言うとは。こんな奴に吸収されたのかと思うと自分が恥ずかしい」

「手厳しいな。だが、どうか自分のよしみで頼まれてくれないか。私が私でなくなってもいい。ずっと埋まらなかった心が満たされるなら……どんな屈辱でも受け入れよう。私の全てを差し出そう。どうか君の中で生きさせてはくれないだろうか」

 

 断ると、そう言うつもりだった。

 だが私の口は思うように開かない。なんだ、この苛立ちと言い表せない靄のかかったような感情は!!

 

 

『ぐわああ!?』

「!」

 

 口を開けないでいると、近くに失敗ゴジータが吹っ飛んできた。

 

「どちらにしろ断るなんて出来ないだろう? ピンチのようだからな」

「……それとこれとは」

「合理的に考えたら私を吸収するしかないだろう。感情に任せて断るなんて、私だったらそんな馬鹿な真似はしない」

 

 クッ! こいつめ。私なだけあって挑発が上手いじゃあないか。

 

「……チッ、いいだろう。せいぜい私の中で、私の栄華に満ちた活躍を指をくわえて見ているがいい」

「決まりだな。なら、尻尾でなくナメック星人の遺伝子を意識しろ。吸収と言ったが正確には”同化”するんだ」

「何?」

「吸収では、以前18号を吐き出させられた時のように分離する可能性が捨てきれんだろう? ならば完全に同化するまで。もちろん意識は全て君の物だ」

 

 未来セルの言葉にしばし考えるが、すぐそばにジャネンバの攻撃が迫り時間が無い事を再認識する。ジャネンバめ、意味不明の動きをするゴジータよりも先にこちらをターゲットにするつもりだな。

 私は瓦礫に埋もれていたゴジータを引っ張り出してジャネンバに投げつけて時間をかせぐと、未来セルに向き直った。

 

「本当に意識は私にゆだねるのだな? 約束できなければ……」

 

 言いかけた時、頭上から何かが砕ける音が聞こえた。

 

「! 閻魔殿の結界が砕けた! 早くしろ、地獄の秩序が元に戻るぞ! そうすれば私は再び魂のみの存在に戻ってしまう!」

「クッ、しかたがない! 来い、未来セルよ!」

「今さらだが私のことはアルティメットセルゴッドと呼んでほしかったんだがね! さあ、受け取れ!!」

 

 未来セルの体に手を当て、体に存在するナメック星人の遺伝子の感覚を探り当てる。そして同化なるものを意識すると、強大な力が私の中に流れ込んできた。これが、私を吸収した私……究極体セルの力か!!

 

 

 そして丁度、私の同化がすんだところでゴジータの融合が解けた。

 

 

「な、セルおめぇ……!」

「貴様、その力はどうした!?」

 

 

 フフフ……これは心地よいな。孫悟空とベジータが驚く顔が非常に愉快だ。

 

 私は二人の間を通りぬけ、いつの間にか剣を手にしていたジャネンバの前に立ちこう言った。

 

 

 

 

 

 

「待たせたな。私は究極神セル……貴様を倒す者だ」

 

 

 

 

 

 

 


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