とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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2人の魔導士

 孫悟空さんたちの力は、私とキビトの想像を遥かにしのぐほど凄まじいものだった。

 

 

 

 バビディ達の居場所を突き止めたまではいいものの、私たちの存在はダーブラにバレてしまっていた。それによって不意をつくどころか逆に攻撃を受けてしまい、空梨さんが守ってくれなければキビトは死んでいただろう。しかし、代わりにダーブラの唾をあびたせいで2人もの犠牲を出してしまった。

 石化したピッコロさんとクリリンさんを元に戻すためにはダーブラを倒すしかないとうっかり教えてしまったのがいけなかったのか、悟空さんたちはダーブラを追ってバビディの宇宙船に乗り込んでしまった。まったく、どんな罠があるか分からないというのに……! ただでさえヒルデガーンという新たな脅威の対策を考えねばならないのに、頭が痛い。

 

 しかたがなく私とキビトも彼らの後を追い宇宙船内へ降りた。

 

 そして宇宙船内を進むにはそれぞれのステージで敵を倒していくしかないと、プイプイと名乗るバビディの部下が説明した。それに対して悟空さんたちは余裕の態度で、実際余裕だったのだろう。ベジータさんは部屋がバビディの魔法で敵の戦士の得意な環境に変わったのをものともせずにプイプイを瞬殺してしまった。

 しかもダーブラでさえ大したことないと言い出すし、あんまりの事に私もキビトも開いた口がふさがらない。

 

 

 

 

 次の部屋での対戦相手は、なんと魔獣ヤコン! 光を食らう魔物だ。

 

 その相手をしたのは唯一の女性である空梨さんだった。最初は悟空さんが自分の番なのにと抗議していたが、彼女は「悟空の相手はセルでしょ。少しでも無駄な消耗を減らさないと足元掬われるぞ馬鹿」と一蹴してさっさとステージの真ん中へと進んでしまった。

 彼女に命を救われたキビトが気遣って他のメンバーに任せた方が良いのでは、と言った……言おうとしたのだが、言い切る前に決着がついた。

 

 ヤコンが腕を振るい、そこから飛び出した鎌のような爪が空梨さんに迫る。が、あまりにも素早かった初動からヤコンは突如何かに阻まれたように動きを止めた。そのすきを狙いヤコンへ向かってジャンプした空梨さんが奴の頭上で逆さまになって逆立ちのような体勢でその頭部に両手を添えたかと思うと、そのまま体をひねった勢いで首をねじ切ってしまったのだ! 「これは家畜の解体作業、これは家畜の解体作業」とつぶやきながら気持ち悪そうに頭部を捨てた彼女には息の乱れ一つ無く、返り血の一粒も付着していない。流れるような動作だった。

 

 悟空さんと「あー! 姉ちゃんずっこいぞ。超能力で動きを止めたな? どんな奴かもっと見たかったのによー」「うっさいわ! 格下相手にはこれくらいスピーディでいいんだよ!」と言い合っていたが……魔獣ヤコンが格下、か。

 しかもその彼女が強敵と思われる相手に悟空さんを取っておいてあるとすれば、彼はもっと強いのか……! まさか下界の人間にこの界王神がこれほどまでに驚かされるとは。

 

 その戦いを見ていた他の人たちも私たちのように狼狽えたりせず、全員余裕だ。

 悟飯さんは「空梨おばさん、なにもパオズ鳥を絞めるのと同じようなやり方しなくても……」と若干引きながらも呆れており、ラディッツさんは「さっき出遅れたから楽な相手を真っ先に取りに行ったな」とこちらも呆れていた。たしか彼は空梨さんの夫のはずだが、妻を心配しないあたり彼女の強さへの信頼の表れなのだろう。

 ベジータさんは何も言わなかったが興味なさそうに腕を組んでそっぽを向いてるのを見るに、彼女の勝利を疑ってもいない様子だ。空梨さんの息子の空龍くんは、空梨さんが捨てたヤコンの頭部をどこかで拾っていたらしい木の棒で「つんつくつん」と言いながら楽しそうに突いていた。

 

「き、緊張感が無い……!」

「キビトよ、それを言うのではありません。と、とにかく、私達だけでも気を引き締めているのです!」

「そ、そうですな」

 

 キビトと頷きあうと、次のステージへ進むための扉を悟空さんたちに続いて私たちも潜り階下へと降り立った。

 

 そこで待っていたのは、早くもバビディたちの主戦力である暗黒魔界の王ダーブラ!!

 奴を見て今度こそ緊張感がわいてきましたよね!? と思い悟空さんたちを振り返ったのだが、振り返った先で彼らは初戦のプイプイの時と同じくジャンケンをしていた。お、思わずキビトと共にずっこけるなどという神らしくない振る舞いをしてしまった……!

 ふいに肩を叩かれ振り返ると、心を読まずともわかる同情心で一杯の瞳で見つめてきた空梨さんが飴をくれた。「精神が落ち着く」と言われたのでありがたくキビトと一緒に頂いた。イチゴという果物の味らしく美味しかった。ああ、糖分とはここまで体に染み渡るものだったであろうか……。

 

 そしてダーブラと闘うことになったのは悟飯さんだ。戦いはようやく緊張感のある激戦となり、多彩な技で攻めてくるダーブラに悟飯さんは苦戦していた。

 しかし悟空さんとベジータさんは心配するどころか「あいつホントにさぼってたからな~」「ふん、……勝てない相手じゃないのに情けない奴だぜ。ガキの頃のが強かったくらいだ。カカロット貴様、息子の躾がなってないんじゃないのか?」などと悠長に話している。そこにラディッツさんまで加わって「躾、か。そういえば何かの褒美でトランクスを遊園地に連れて行ってやる約束をしたらしいじゃないか。なかなか優しい躾だなベジータ」「な、貴様何故それを!」「そうなんか? なんだ、いいとこあんじゃねーかベジータ」「う、煩い! 黙れ!」と、悟飯さんそっちのけで口喧嘩を始めた。といってもベジータさんが一方的に怒っているだけだが。

 頼もしいようだが、その余裕が何処か不安で仕方がない。……そう考えていたら、眠ってしまった空龍くんを背負った空梨さんが話しかけてきた。何でもバビディに操られた者を元に戻す手段を知らないか、と聞きたかったらしい。

 そう。そうですよ! そういう敵の脅威に対して話し合ったり、そういうことが大事ですよね!? しかし私自身その方法を知らないので「申し訳ないのですが、私もそれを知らないのです。敵の戦力を削げれば助かるのですが、バビディは悔しいことに本当に優れた魔導士でして……」と言うと、生ごみを見るような目で見られた。………………。私は界王神、私は界王神。思わず言い聞かせるようにつぶやいているとキビトに「お気を確かに!」と肩を揺すられた。

 気を取り直して悟飯さんの戦いを見ていると、追い詰められたのかなんとダーブラが途中で逃げてしまった! 宙に向かって「な、バビディ様!? そんな新参者の意見をお聞きになるのですか! 私はまだ戦えます!」と言っていたのを見るとバビディに戻るよう命令されたようだ。

 

「嫌な予感がしますね……。いったいバビディは何を「ぐ、ぐあああああ!?」な、ベジータさん!?」

 

 突然苦しみだしたベジータさんに全員の注目が集まる。空梨さんが「嘘でしょ!?」とひときわ慌てたように狼狽え、ベジータさんを気絶させようとしたのか彼に拳を振るった。が、それは強く振り払われた。そしてベジータさんは何かに抗うように苦しみ続け……いけない! これはバビディの洗脳術だ!

 

「べ、ベジータさん! 悪い心をバビディに利用されようとしているのです! 無心になりなさい! 何も考えてはいけません!!」

「く、クソッタレぇ! それが出来りゃあやってるぜ……! くそ、何だ! 頭の中が引っ掻き回される……ぐあああああああああああああ!!!!」

 

 そこで何かの限界を超えるように、ベジータさんがスーパーサイヤ人に変身した。だが発しているのは純粋なエネルギーなどではない……この攻撃的で邪悪な気配はなんだ!? ベジータさんはたしかに激しく攻撃的な性格をしていたが、実際に見た限りでは悪人のように感じられなかった。だというのに、今発している気配は純粋は純粋でも、純粋な悪の気配! まるで別人のようだ!

 

 

「はああ……! ……? 何処だ、ここは……!」

 

 

 ベジータさんの広い額にはくっきりとバビディの下僕の刻印が刻まれていた。

 しかし何か変だ。ただ操られているだけでは無いような違和感を感じる……ベジータさんの瞳は茫洋と周囲を捉えていて、一つ所に定まらない。まるで自分が今どこにいるのかさえ分かっていない様子だ。

 

「私とバビディ様からのプレゼントだ。気に入っていただけたかな?」

「な!?」

「セル!」

 

 突然聞こえた声に驚けば、先ほどダーブラが姿を消した扉にいつのまにかセルと呼ばれる魔人が背を預けて立っていた。

 

「セル! おめぇ、ベジータに何をしたんだ!」

「おや、お気に召さなかったかな? 残念だ。しかし懐かしくはないかね。今の彼は軟弱な精神に成り下がった現在のベジータではなく、かつての「非道さこそがルール」と言わんばかりの純粋に悪だったころのベジータだ。私としてはこちらの方がなじみがあるのだがね。さっきのやりとりを見て驚いたよ。遊園地? クククッ、しばらく見ないうちに、ずいぶんと良いパパをやっているようじゃあないか」

「いったいどういう……!」

「なぁに、記憶をちょいと昔に戻してやったのさ。つまり今のベジータにとって、君たちは敵でしかないわけだ。私もつい最近魔術を使えるようになってね……僭越ながら、バビディ様のお手伝いをさせていただいたのだよ。経験が浅いから心配だったが、ベジータの細胞があるおかげか心に入り込むのは随分と楽でね。ご覧の通り見事に成功だ」

 

 な、なんということだ……! バビディだけでもやっかいなのに、似たような魔術の使い手がもう一人居るだなんて!

 

「おや、どうやらバビディ様が素敵な場所へ移動させてくれるようだぞ」

 

 セルが言うなり、景色が変わった。ここは天下一武道会の会場……!

 

 

「な、ご、悟空!?」

 

 

 驚く彼は、たしか悟空さんたちの仲間。向かい側にはもう一人……どうやら試合が始まる寸前だったようだ。

 

 

「いったいどうしたんだよベジータ! もうお前は不戦敗になっちまったぜ?」

 

 彼はちょうど目の前に現れたベジータさんに話しかけるが、それがいけなかった。今まで目標を定めていなかったベジータさんが標的を見つけてしまったのだから!!

 

「ん? 貴様はナッパに殺されたはずの雑魚……ククッ、なぜ生きているかは知らんが、運が悪かったなぁ!」

 

 そう言うと、ベジータさんは躊躇なく話しかけた彼にエネルギー波を撃った。ま、まずい! あの至近距離では避けられない上に、背後の観客席に大きな被害が……!!

 

 

 

「ヤムチャー!!」

 

 悟空さんの声が周囲に響く。

 

 

 

 

 しかし既の所で何者かが攻撃を受けそうだった彼をつれて離脱し、その先ではいつの間にか空梨さんが片腕の指二本を突き出す姿勢で待ち構えていた。そしてなにやらその指を十字に切ると、黒い六角形のような板状の気が数枚ほど連なって彼女の前に出現し、エネルギー波はそれにぶつかると板もろとも霧のように四散した!

 

「あ、あんな強力なエネルギー波を一瞬で……!」

「よし、ナイスだ姉ちゃん! それに餃子もすげぇぞ! よく間に合ったな!」

「へへっ、空梨がすぐにテレパシーを送ってくれたからね!」

「よ、よくわからんが助かった……。ありがとうな、餃子」

 

 どうやら殺されそうだった彼を助けたのはテレポーテーションが使える彼らの仲間のようだ。悟空さんの隣に現れた彼らと無事だった会場に思わず安堵の息をつく。

 

「お父さん、今のって……」

「そっか、一緒に修行してたオラ以外見たことないんか。あれすげぇんだぞ。オラの全力かめはめ波だって消しちまうんだ」

「カカロットの全力をだと!? く、空梨の奴いつの間に……俺も知らなかった」

「ボクは知ってるよ! 前に相談されたから」

「そうか……」

 

 肩を落とすラディッツさんがどこか物悲しかったが、けど今は雑談してる場合ではありませんよ!!

 

「なるほど、素晴らしい。やっかいな技を使えるみたいだな」

 

 いつの間にか再び人間の姿に擬態していたセルがぱちぱちと手を叩いた。その態度は余裕極まりない。それもそうだろう……最初の被害こそ防げたが、依然としてベジータさんは奴らの手中だ。

 

「貴様はハーベスト! 性懲りもなくまた挑んできやがったかゴミめ! はーっははは!! 今の俺は不思議と素晴らしい気分だ! せめてもの情けだ。痛みもないままに殺してやるぜ!」

「はあ? 技を防がれたのも気にしないくらい錯乱してるお前に何が出来るって!? この馬鹿! 今のお前なら操られないだろうと信用した私が馬鹿だったよ! そういうのいいからさっさと正気に戻れ!」

「正気? 俺は正気さ! ん? よく見ればカカロットや弱虫ラディッツまで居やがるな……丁度いい。全員まとめて血祭りにあげてやるぜ! このサイヤ人の王子ベジータ様がなぁ!!」

「キングベジータ何処行ったよ退行してんじゃねーよクソッタレが!!」

 

 そのままベジータさんは手始めとばかりに目の前の空梨さんに攻撃を始めるが、それは全て例の技によって搔き消された。らちが明かないと思ったのか、ベジータさんは攻撃を接近戦に入れ替える。だが近接戦闘でも空梨さんは負けてはおらず、反撃こそ出来ないもののそれを全て防ぎきっている。ベジータさんの表情に苛立ちが浮かび始めた。

 

 

「貴様、この間より少しはましになったらしいな……!」

「いつの話だよ!! 悟空と修行してりゃ嫌でも組手くらいうまくなるわ! チィッ、ここじゃ狭い! 場所を変えるぞ!」

「いいだろう、望むところだ!!」

 

 そう言うと彼らは攻防を繰り返しながら上空に昇り、そのまま彼方へと物凄いスピードで去っていった。どうやら空梨さんが周りへの被害を配慮して場所を変えたらしい。

 

「わ、私たちも追いましょう!」

「ああ!」

「はい!」

 

 しかし私たちが飛び立つ前に、景色が再びバビディの宇宙船内へと変わった。

 

「な!?」

「フフフッ、せっかくの姉弟対決だ。水を差すのはいただけないなぁ……どうだろう、こちらはこちらでやらないか? 実は私もさっきからウズウズしているんだ」

「セル、おめぇ……!」

 

 

 

 

 

「孫悟空、孫悟飯。私のリベンジマッチ、もちろん受けてくれるな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キュアグリーンブラックセルとキュア黄土色バビディによるマジカルコラボでした。

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