∴月●日
ダブル空龍に見られた。死ねる。なんで鍵をかけておかなかった、もしくは何故連絡してから来てくれなかった未来空龍。幼い方の空龍はよくわかっていないかもしれないが、未来の息子に変なトラウマ作ってしまってないか不安である。両親の……その、そういう場面とか普通に嫌だろ。送り出すときどんな顔して見送ればいいんだ。
Ф月□日
どんな顔して見送ろうとか考えてたら、空龍がもじもじしながら「もし、お母さんの身体が無理じゃなかったらだけど、その、い、妹か弟が産まれたら、僕も抱っこさせてもらってもいいですか? 迷惑じゃなかったら、また来てもいいですか?」と言ってきた。周りの視線が痛かった。けど純度100%の清らかさをもって発せられたであろう言葉に私は頷くよりほかなかったのである。
帰る前にさんざん冷やかされた。おい、こちとらもうアラフォーだぞ。アラフォーをからかってそんなに楽しいか、ええ? 恥ずかしさで死にそうだった。
帰り際にマタニティー関係の本を買って家に帰ってからいつぞやの神龍のガイドラインを引っ張り出していた二十日大根など断じて見なかった。おい、空龍の時が大変だったからまた死ぬ死なないと大騒ぎかもしれないし、子供はあの子だけにして愛情注いでこうってずっと避妊してただろ。息子に期待されたからって何その気になってんだ。産むのは私なんだぞ。いや、私ももう一人欲しくないわけじゃないけど。
…………。また体を鍛えないと駄目だろうか。
今度はスーパーサイヤ人2やら3になれとか言われたら流石にキレる。
◇月△日
助けてもらったし、もう悪い事しなさそうだからギニュー隊長とジースくんに「ドラゴンボールが復活したら元の姿に戻してもらいますか?」と聞いてみた。けど、なんと2人はこれを拒否。拒否と言っても、それは私がドラゴンボールを集めてくることに対してだ。「改めて自分という存在を見直したくなったんだ。旅をして、自分でドラゴンボールを集めてみようと思ってな」「どこまでもついていきます隊長!」とのこと。
その心意気に感心したブルマからドラゴンレーダーを借りて、彼らの旅が始まった。カエル2匹の旅立ちに、可愛がっていた悟飯ちゃんと空龍が寂しそうだった。というか、空龍がギャン泣きして隊長達を放さないもんだから旅立ちまでが大変だった。
ちなみに彼らに感銘をうけたのか、ナッパも旅に付いていきたいと申し出てきた。今まで頑張って働いてきてくれたのだ。初めてのわがままに、誰も文句を言わず私たちは彼を送り出した。世界を見てくると良い、ナッパよ。
そして畑の新リーダーを任されたナッピが張り切っていた。これからも我が家の畑は安泰である。
ちなみにサイバイマン達だが、新たな道に進んだものがもう一人。ラディッシュである。
今回の件で自分の無力さを痛感したのか、自分にしか出来ないことを探したい……そう思ったらしい彼は、ずっと難航していた仙豆の栽培を成功させるためにカリン様の所に弟子入りしに行った。カリン様は最初サイバイマンに戸惑ったようだが、その真摯な態度に心を打たれたと言って彼を受け入れてくれた。ラディッシュ……ドジっ子だったあの子が立派になって……。頑張れよ!
それぞれの道を歩み始めた彼らを見て、時の流れを感じた。思えば遠くにきたもんだ。
ю月■日
ドアを開けたら目の前に破壊神様がいらした。もうそういう家の前に敵キャラみたいなお約束はいいんだよ!!と切れなかった自分をほめたい。
「やあ、久しぶりだねハーベスト。ところでスーパーサイヤ人ゴッドって知らないかい?」
という直球な質問に、そういえば悟飯ちゃんがゴッドになっちゃったからその影響かな! と今さらながら思い当たって頭を抱えたくなった。とりあえず「ねこさん! ねこさん!」と興奮して飛びかかりそうになった空龍を即座に捕まえられたことは幸いだった。死ぬ気か貴様。破壊されるぞ。
とりあえず、流れるような動作で地面に頭をこすりつけて拝む体勢をとると、「お久しぶりでございますビルス様! わざわざこのような辺境の惑星にお越しくださり、ご足労頂き誠にありがとうございます! 拝謁願えました事光栄の至り! 立ち話も何ですので、よろしければむさくるしいところではございますがお上がりくださいませ!」と家に上げ、今ある飲み物という飲み物、ラディッツに内緒で備蓄していた高級菓子の類をスイーツバイキングさながらに美しく盛り付け果物と一緒にお出しした。この間、約50秒である。30秒を切れなかったことが悔やまれるが、幸いビルス様は機嫌を損ねることなく嬉しそうに菓子をつまんでおられた。うん、やはり急な来客用に高級菓子は必須である。これからも常備していよう。そして賞味期限が来そうになったら私が食べよう。うむ、実に無駄が無い。
ビルス様およびにウイス様は心ゆくまでスイーツを堪能すると、再び本題に入った。
何でも何十年か前に見た予知夢で自分に強敵が現れて戦う夢を見たが、その予言された日が来る前に気になる気配がして起きてしまったとのこと。そこで予知夢の内容を思い出し、何か知らないかとサイヤ人の王族である私に会いに来たらしい。クソッ、長子であることが災いしたか。まさかベジータでは無く私の方に来るとは。
余談だが、ウイス様に「あら、お母さんになったんですねぇ。私たちにとっては瞬く間でも、人の身には時の流れとは早いもの、というわけですか。おめでとうございます」とにっこり笑顔で祝福していただいた。ありがたい事である。隣の破壊神様のせいで気が気じゃないが。
なにもかも悟り切った気分になった私は、素直に事の経緯とスーパーサイヤ人ゴッドのことをビルス様にお話しした。私は悪くない。破壊神様の前で嘘とか隠し事とか、そんな死亡フラグ建設するより100倍マシである。
ビルス様はとりあえず自分が欲しかった情報を得られて満足したようだったが、しかしそこで終わりでは無かった。なんと「でも、僕が見た予言は39年後だったんだよね。今だと現れるには早すぎるんだ。まあ、ちょっとした誤差みたいなもんだけど気に入らないなぁ。ねえ、君さ。他にも何か知ってない? な~んか怪しいんだよねぇ」などとおっしゃった。私は今日だけで、冷や汗の量で2,3kg痩せたかもしれない。
どう話そうか考えあぐねていたが、相手は神である。
下手に嘘をついて記憶でも読まれようものなら、神をたばかった不届き者として即破壊されても文句は言えない。「色々話がとっ散らかってしまい申し訳ないのですが」と前置きしてから、私は私の身の上やこの世界を漫画やアニメで知っているという事実を話させていただいた。これを「自分たちが創作物などと不敬である」と捉えられ同じく破壊されても仕方がないが、嘘をつく場合と比べたら比率としてはどちらも同じくらいである。ならば、私の妄想で片付けられる可能性に賭けて正直に話す方がまだ生存率が上がると思ったのだ。
そして補足というか本命というか、セルに言われた「特異点」という自分の可能性を話した。すなわち、私が居る影響で本来の歴史に歪みが生まれ、その結果ビルス様の予言の時期が狂ってしまったのではないか、ということである。
話してからの沈黙が苦しかったが、ウイスさんが「あんら」という呑気な声であっさりと重い空気は霧散した。
以下、その時の会話をそのまま記録しようと思う。
「別の次元からの迷子さんなんて、久しぶりですねぇ」
「そんな奴前にいたっけぇ?」
「居ましたよ、ビルス様。宇宙7不思議のひとつじゃございませんか」←だからあの世7不思議といいあと6つは何なんだと……!
「あ、あの。私みたいな存在は別段珍しくないということでしょうか?」
「いいえ、珍しいですよ。それに私たちを生み出した神様と同じ世界の人は初めてですねぇ」
「お、驚かれないので? 自分で言っておいてなんですが、世界や神までもが創作物などと不敬極まりない事を申し上げてしまったと後悔しているのですが」
「あら、別にそんなことありませんよ。神が星や生命を作る存在である限り、同じく生命として存在している神を作った誰かが居るということは至極当然のことです。まあ始まりはどうあれ、私たちは生まれてからはるか那由多の時を過ごしています。すでに独り立ちしきって長い今、誕生の不思議に興味はあれどさほど気にすることでもないのですよ。それに、あなたが知っているのは孫悟空さんを主役にしたほんのちょっとの期間の出来事だけでしょう? 神々にとっては些末なことです」
「はあ……」
「ま、そういうことだけどね。それにしても君の存在で僕の予知夢が狂ったってなると気に入らないなぁ……破壊しちゃおうかな?」
「い゛!?」
「まあまあ、ビルス様。宇宙単位で考えれば、極々わずかな時間が多少狂っただけじゃありませんか。そもそも予知夢ですから、まだ未定の出来事ですし……美味しいお菓子も頂いたことですし、ここは矛を収めてはいかがです? あ、ハーベストさん。このあま~くて美味しい飲み物をおかわりしても?」
「はい! ただいま!」
「それにビルス様。今回の事はハーベストさんが招いたイレギュラーであって、ビルス様が予知夢で見た強敵と今回のゴッドは別物かもしれませんよ?」
「別ものぉ?」
「ええ。どうやら今回はフリーザを倒した孫悟空さんの息子さんがゴッドになったそうじゃないですか。ハーベストさんの言葉を信じるなら、この先魔人ブウを倒して更にパワーアップした孫悟空さんが本来はゴッドになる予定だとか。予知夢の時期に合わせてまた地球に来れば、ビルス様が強敵と称するにふさわしいゴッドが待っているかもしれませんね」
「う~ん、でもわざわざ時間を合わせてまた来るのかい? 何で僕がそんな手間を……」
「お楽しみは後に取っておくのがよろしいかと思いますよ。先走って息子さんをゴッドにしてお相手しても、不完全燃焼で終わったらもやもや~っとしてビルス様この星を破壊してしまうかもしれないじゃありませんか。そしたらせっかく強敵になりそうな遊び相手が、現れる前に消えてしまいます」
こんなことを話していたが、その間しゃべりながらどうやって食べているのかスイーツが減り続けていたあたり地球の食べ物がお気に召したようだ。この時点ではまだ危うかったが、地球を救うとは食べ物とはやはり偉大である。
とにかく、心臓に悪かったものの「じゃ、頃合いを見てまた来るよ。次は甘いもの以外も期待してるよ」とビルス様にお帰り頂けたのは奇跡である。主に説得してくださったウイス様には本当に頭が上がらない…………今度、ブルマと一緒に美味しい物探しがてらグルメ巡りでもするか。
帰ってくるなり「いったいどうした!?」とラディッツに驚かれるくらいには私はげっそりした顔をしていたらしい。
いやホント、よかった。死ぬかと思った。
○月▽日
パラガス来訪からのブロリー。書くのも面倒くさいので省略するが、最終的にぐったりして気絶したブロッコリーを活き活きとした表情の空龍が未来にお持ち帰りした。「同じ伝説のスーパーサイヤ人として僕が責任をもって更生させますね!」と本人大張り切りだったが、周りはドン引きである。私もドン引きである。せっかくみんなで追い詰めたと思ったら、どういうわけかそれを空龍がかばって、まさかのそこからの緑スーパーサイヤ人同士の泥試合だったからな……体力赤ゲージとはいえ、あの悪魔相手に一人でガチバトル仕掛けるとか正気を疑ったわ!! 戦いながら何か話してたみたいだけど、生まれが同じような感じなだけに息子的には何か思うところがあったのだろうか……まさか持ち帰るとは思わなかったが。
と、とりえあずトランクスがんば! いや本当、頑張って。甥っ子超頑張って。きっと奴が味方になれば、未来は明るい。
ところで、ブラックだのロゼだのザマスだの、もう心配いらないんじゃないかな! と思ったのは気のせいだろうか。