とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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★6年間よもやま話

 6年の間のお話詰め合わせ。

 

 

 

《見ちゃった!》

 

 僕は用意してもらった夕食を食べながら、この時代に来てからの事を思い出していた。短いようでいて、とても長かったようにも感じる。

 

「ねえ、本当に空梨んトコに泊まらなくてよかったの?」

「! え、あ、は、はい。ごめんなさい、僕までお世話になってしまって……」

「それは別にいいのよ。けど、あんたたちがいいのかなって思ってさ。明日未来へ帰るんでしょ?」

 

 ブルマさんの言葉に同意するようにトランクスが気遣うように僕を見てくる。この1歳年下の従兄弟にはいつも心配をかけてしまっているな……情けない。これからは僕も、もっとしっかりしないと。死んだお母さんとお父さんに怒られてしまう。もちろんこちらの両親にも。

 

 僕はあの戦いの後、トランクスの家にお邪魔していた。というのも、再会を喜んでお母さんを抱きしめるお父さんを見たら邪魔してはいけないと思ったからだ。

 

「この時代のお母さんとお父さんは、この時代の僕のものだから……あまり未練を残して、邪魔したくないんです」

「な~に言ってんのよ! この時代もなにも、あんたの親であることに変わりないんだからそんなこと気にしなくていいのよ! 今のうちに甘えときなさい。まったく、空梨の子供のくせに変なところで謙虚ねぇ。あの子はもっと我儘で自分の欲に忠実よ」

「そうですよ、空兄さん。あんなに会いたがっていたご両親じゃないですか。未来に帰れば、もしまた会いに来れるとしてもしばらく会えないんですよ? 色々話してきたらどうですか」

「うっ」

 

 2人の言葉に心が揺れて、そしてあっさり傾いた。

 

「い、今から行っても迷惑じゃないかな……?」

「いいに決まってるわよ! ほら、そうと決まればさっさとご飯食べて行きなさい!」

「は、はい!」

 

 ブルマさんの言葉に後押しされて、食べかけだったご飯をかっこんで急いでカプセルコーポレーションを飛びだした。

 浮かれていた僕は、僕が飛び出した後にブルマさんがつぶやいた一言を知らない。

 

 

「あ……。でも、今夜はまずかったかしら……?」

 

 

 

 

 

 目的地に着くと、僕はそわそわと家の前でうろついていた。来てみたものの、インターフォンを押す勇気がわいてこない。

 そしてそのまましばらく不審者のような動きをしていると、思いがけず幼い声に呼びかけられた。

 

「うぁ……ん? くーにいちゃ?」

「あ、ぼ、僕だ」

 

 わずかにあいた扉から眠そうな顔で出てきたのは、幼い頃の僕だった。ふよふよと浮いたままこちらを見ている。トランクスと同じ呼び方に、自分にそう呼ばれるなんて変な感覚だな、と思いつつも顔がほころんだ。ナルシストなわけじゃないけど、やっぱり子供は可愛い。

 

「一人でどうしたんだい? 」

「きょうは、ひとりでおねむする日なの! くうよんおとなだから!」

 

 えっへんと胸を張る幼い僕に首をかしげる。

 

「お父さんとお母さんは?」

「かかとととは、いっしょにおねんねしてゆの」

 

 う~ん、これは早いうちなら自立を促そうとしてるのかな? 今日はってことは、いつもは一緒に寝てるんだろうし。そういえばお父さんからサイヤ人は独り立ちが早いって聞いたことがあった。自分で認めるのも恥ずかしいけど、僕絶対甘えん坊だしな……こういうこともあるのか。

 

「ちょっと悪いけど、寝てるんだったら起こしちゃおうかな! きっとビックリするぞ」

「びっくい?」

「そう! ねえ、僕……じゃなくて空龍。僕と一緒に、かかとととを驚かせちゃおっか!」

「うん、やゆ~!」

 

 よくわかってないのかもしれないけど、楽しそうだと思ったのか幼い僕はキャッキャと手を振り上げて同意した。

 よし、そうと決まれば……えーと、寝室はこっちかな?

 

 音を立てないように、そろりそろりと歩いていく。そして何やら声が聞こえてきたので立ち止まると、どうやらそこが寝室らしい。あれ、何だ。まだ起きてるみたいだな。

 

 

 

「ちょ、あッ、待って……!」

「何でも我儘を聞いてくれるんだろう? お前が言い出したんじゃないか」

「そ、だけどッ、でも、もう限界……ッ、激しッ」

 

 

 

 う~ん、くぐもってて何話してるのか分からないな。よし、行ってみるか!

 

「お母さん、お父さん! やっぱり来ちゃいました!」

「かか、とと! くーにいちゃきたのー!」

 

 時が止まった。

 

「「あ」」

「あ」

「う?」

 

 

 

 

 

 

 幼い僕を連れて帰ってきた僕を見て、ブルマさんは何とも言えない顔で半笑いしていた。

 

「見ちゃったか……。ごめんね~。あの様子見れば、ちょっと考えればわかったようなもんなのに」

「? いったいどうしたんですか?」

 

 トランクスの純粋な視線に耐えきれなくて、僕は両手で真っ赤な顔を覆った。そしてなんとか一言だけ絞り出す。

 

 

 

「もしかしたら、妹か弟が出来るかもしれない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

《ドラゴンボールCGT》

 

 

 

『部品泥棒相次ぐ!』

『工場および町の電気屋まで注意呼びかけ。機械泥棒に気を付けろ!』

 

 そんな見出しの新聞記事を放り出し、私は目の前の完成品を満足気に見上げた。多少時間はかかったが、まあ宇宙船を作ると考えたら早い方だろう。

 孫悟飯らに勝つために身をひそめようと思った私だったが、そもそも隠れて訓練するなりなんなり難しいことに気づいたのだ。気を感じとれる奴らにとって、私の何人もが入り混じった気はさぞ見つけやすいだろう。

 そこで私は天才科学者であるブルマとその父の細胞を残っていたスパイロボで採取し、宇宙船の開発に取り掛かった。こそこそと部品を集めるのは性に合わなかったが、まあ仕方があるまい。なんとか必要なものをそろえた私は、数日をかけて宇宙船を作り上げた。ふむ……何かを一から作るというのは、なかなか面倒だが楽しくもあるな。

 

 

 

 そして私はいつか帰還し、孫悟飯たちを倒すと心に誓って宇宙に飛び出したのだ。

 

 

 

 しかし、誤算があった。

 

「…………暇だ。宇宙というのは遠すぎたか」

 

 とりあえず色んな星を転々として、瞬間移動できる場所を増やそう。

 

 

 

 

 

 

 

 ひそかに始まっていたドラゴンボールCGT(Cell Grand Touring)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ミーハーな息子》神様の神殿での修業裏話

 

「あ、あの! すみません!」

 

 緊張したような声に呼びかけられて、振り向いてみればそこにはメモとペンを持った空龍が立っていた。なんだかんだでごちゃごちゃ色んな出来事があったから、実はこの未来から来た戦士とちゃんと話すのは初めてだ。

 隣に居た天津飯と餃子もなんだなんだと振り返ると、空龍は顔を真っ赤にしてこう言ってきた。

 

「あ、あの、ですね! よければみなさんの技とか、戦い方とか教えてもらえないでしょうか!」

「? そんなの聞いてどうするんだ。お前の方が俺たちの何倍も強いだろ?」

「そんなことないです! トランクスはともかく、僕なんて自分の力も制御できない未熟者ですし……」

 

 途端にしゅんっとうなだれた様子を見ると、なんだか仔犬をいじめているようなばつの悪い気分になる。

 

「あ、あ~っとな。別に拒否するわけじゃないんだが……」

「本当ですか!?」

 

 がばっと顔をあげてずずいっと迫ってきたその様子がギャップがありすぎてびくっとなった。か、感情の幅が大きい奴だな。

 そして俺たちが何か教えてやると、空龍は熱心に聞いてメモをとっていた。遠くからどことなく寂しそうに見ているラディッツの視線が痛い。空龍はその後クリリンやピッコロにも同じようにして色々聞いてはメモをしていた。少しでも色々聞いて吸収し、暴走するというスーパーサイヤ人の力を制御したいのだろう。

 

 だが、最後に言われた一言で俺は一つ確信する。

 

 

「あ、あの、ヤムチャさん。……よければサインとかもらえたりとか……」

(あ、こいつミーハーだ)

 

 

 

 どうやら未来では死んでしまったらしい俺たちは、この子にとってヒーローだったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

《偶然か必然か運命か》

 

 ある時はショッピングモールで。

「あ」

「あ」

 

 ある時は映画館で。

「あ、ど、どうも」

「……チッ」

 

 ある時はカフェで。

「何でいるんだ」

「あ~いや、その」

 

 

 最近あまりにも偶然が続くもんだから、何度目かに会った時に言ってやった。

 

「ストーカーか? おっさん。いい年して気持ち悪いんだよ」

 

 言ってから、何故か罪悪感を覚えた自分に少し戸惑う。

 言われたチビのタコみたいなおっさんは、ばつが悪そうに頭をかいた。

 

「いや、そんなつもりないんだけど……」

「じゃあ、なんで行く先々に居るんだよ。いい加減うざい」

 

 言ってから、また罪悪感。何なんだ、いったい! 自分の事なのに分からなくて余計にイライラする。

 数日前に再会した17号の言葉が頭から離れないのも悪い。

 

『お前、変わったな』

『好きな男でもできたか? だったら大事にしろよ。俺たちは完全に機械ってわけじゃないんだ。人としての幸せだって、まだつかめるさ』

『俺は俺で好きにやる。じゃあな、18号。幸せになれよ』

 

 好き勝手言って、ひょうひょうと去っていった17号。生き返ったのかと安心したら、言いたいことだけ言って一人で行きやがって……好きな男? そんなの居ない。そんなはずない。

 反発心ばかりが胸の中で渦巻いて、ついクリリンを睨んだ。だけどクリリンはへらっと笑うとこんなことを言った。

 

「本当に偶然なんだけど……でも、18号ならどんなとこ行くのかな、今どこに居るのかなって考えると気づいたら会ってるんだ。俺、普段はこんなところ来ないんだぜ? けど考えてたらふらっと来ちまう。君に会いたくてさ。ばったり会うのは偶然だけど、これじゃストーカーと変わらないのかな……ははっ」

「なっ」

 

 なんなんだ……何だいったい!顔が熱い、ドキドキする。故障か? くそっ、こういう時わたしは何処に行けばいいんだ!?

 

「ば、馬鹿言ってるんじゃないよ。……それにしても、そんなダサい格好じゃ浮くよ。話してるこっちが恥ずかしい」

「や、やっぱり道着って目立つかな? でも俺、武天老師様のお使いできただけだし……」

「来なよ」

「え?」

「来いって言ったんだ。どうせ、普段からそんな服ばっかりなんだろ? 恥かしいから、お情けで選んでやるよ。癪だけど爆弾の件で借りがあるからね」

「いや、別に私服が無いわけじゃ……いや、行く! 行きます!!」

 

 何でこんなことを言ったのかわからない。けど、不思議と浮き立っている自分もいる。

 今はこの感情に名前を付けることは出来なさそうだけど、少なくとも嫌なものでは無かったから……長い、永い命だ。心の赴くままに生きて、楽しむのも悪くない。

 

 

「ほら」

 

 クリリンの手を引く。

 

 その体温が、なぜか無性に嬉しかった。

 

 

 

 

 




カミヤマクロさんから神がかった1枚のイラストを頂いてしまいました……!


【挿絵表示】
前回、50話にてスーパーサイヤ人ゴッドなった悟飯を描いていただきました!!まさかカミヤマクロさんの絵で少年神悟飯ちゃんが見れるとは……!見た瞬間リアルに涙出そうになりました。格好いい、そして美しいぞゴッド悟飯!!セルや主人公の表情も豊かで、臨場感たっぷりの至高の1枚となっております。小説書いててよかった……!
カミヤマクロさん、このたびは本当にありがとうございました!

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