とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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大冒険ってほど大冒険の描写は出来なかったけど、きっとカエル姿で思い浮かべてもらえれば難易度を脳内補完してもらえるはず(他力本願


★新生!ギニュー特戦隊の大冒険!

「いったい何処に行ったんだ……空梨……空龍……」

 

 畑の傍らにある木の下でひどく憔悴した様子で座り込むラディッツ氏を見て、俺とジースが顔を見合わせた。

 

『いったいどうしたんでしょうね……』

『うむ、何やら深刻な様子。気になるな……ナッパ氏に聞いてみるか』

 

 

 

 

 この俺ギニューとジースがナメック星のカエルになってしまってから、早くも3年以上の月日が流れていた。初めこそ己の不幸を嘆き、死に物狂いで生き抜く日々だったがこのパオズ山に来てからは穏やかなものだ。たまに動物に襲われるが、悟飯殿かサイバイマン達のいずれかが助けてくれる。最近ではこの体でもなんとか戦えないものかと、サイバイマン氏に指導を願い、彼らの畑作業の合間に訓練してもらっている毎日だ。

 

 俺は今まで、自身の特性を生かして強い戦士の体に幾度となく入れ替わってきた。ナメック星でもそれを生かし敵と体を入れ替えようとしたのだが、何者かの邪魔によってカエルになってしまったのだ。

 一度は機転を利かせた部下グルドのおかげで、ジースの体へと入れ替わり戦うことが出来た。だが悔しくも力及ばず、負ける直前に苦肉の策で近くにいた俺と入れ替わったジースではないナメックカエルと再び体を入れ替えて生き延びたのだ。我ながら見苦しいが、あの時はそうするしかなかった。

 そして気づけば何故か地球という星に転移しており、そこからしばらくは正しく地獄だった。本来なら片手でひねる間もなく殺せるような野良犬や赤ん坊にもてあそばれ死にそうになったり、一緒に転移してきたメスのナメックカエルに交尾を迫られたり……今思い出しても身の毛がよだつ。

 そんな中、俺をその地獄から助け出してくれて、しかも死んだと思っていた部下ジース(カエルだったが)に引き合わせてくれた空梨殿はまさに天使だった。ジースは「奴は悪魔ですよ! 天使は悟飯と空龍です!」と言っていたが、俺にとっては恩人である。以前騙されたこともあったが、身を守るためのいじらしい嘘だと思えば可愛いものだ。パフェもうまかったしな。

 ジースと再会してからは、なんとか元の体に戻れないかと話し合いつつもなんだかんだでパオズ山での日々を楽しむ自分たちが居た。

 

 銀河に散らばる無数の星をこぼした夜の天幕、それが薄らぎ群青、薄紫、穏やかな紅が彩る明星のグラデーションに変わる空を見ながら一日を迎え、朝露で体を濡らす。生き生きと茂る青葉に身をひそめ、楽しそうに畑仕事にいそしむサイバイマン氏や孫一家を眺めながら部下と談笑もした。戦いの日々の中では話さなかったようなことも話し、部下の新しい一面を知る。

 畑仕事が一段落したところでそろそろと出ていけば、俺たちを見つけて嬉しそうな笑顔になった悟飯殿が食料をわけてくれる。自分たちですでに食事は済ませているのだが、その好意が嬉しくてご相伴にあずかった。つるつるとした体がお気に召しているのか、従兄弟の空龍と俺たちをそれぞれ手に乗せて撫でてくれもした。少しくすぐったいが、悪い気はしない。それを微笑ましそうに眺める双方の両親の慈愛に満ちたまなざしは、はるか昔の記憶を呼び覚ました。……俺の父と母は、いったいどんな人物だったろうかと最近柄にもなく考える。

 蒼天の真ん中に太陽が差し掛かり、影は移ろう。

 サイバイマン氏の仕事が一段落つくと、彼らに稽古をつけていただいた。最初こそ意思疎通が出来なかったが、彼らは話せないだけで知能はかなり高いようだ。俺たちのことを理解してくれる数少ない存在でもあり、ジースに続いて畑の新参者になった俺を快く迎え入れてくれた。いつ畑に危機が迫ってもいいようにと、畑を守るために独自の訓練も欠かさない尊敬に値する存在だ。中でもナッパ氏は面倒見がよく、俺たちや一番ドジなラディッシュの面倒を積極的に見てくれる。ナッピやナップはそれを面白そうに見ながらも自分に余裕があればかまってくるし、ナッペとナッポは物静かだが細やかな気配りが出来る。その彼らと交流するうちに、つい『俺たちと新生ギニュー特戦隊を結成しないか? い、いや、ナッパ特戦隊でも良いのだが……』と誘えば、思いのほか喜んで受け入れてくれた。これには俺とジースも喜び、こうして畑の片隅でこっそり「新生ギニュー特戦隊」は誕生したのだ。

 雲に紅と橙色の光が反射し、あれほど青く美しかった空が再び衣替えをする。まったく地球の空はオシャレさんだ。太陽がけぶるような影をまとった山の間に沈んでゆき、夜のとばりが下りてきた。夜風に吹かれながら、孫家の家から漏れるあかりと話声を横目に寝転がれば一面の銀河。ときおり流れ星という天体ショーまで見ることが出来る。

 

 

 

 ああ、なんと美しい星だ。

 

 

 

 フリーザ様への忠誠心を失ったわけでは無いが、この美しい星が侵略の憂き目にあわず済んだことに安堵している自分も居る、不思議な感覚だ。

 

 

 こうして俺とジースは地球での日々をそれなりに楽しんでいた。そんな中だった。

 ラディッツ氏が何やら焦って疲れ果てているのを見て、何事かとナッパ氏に問えばなんと妻子が行方不明だというではないか! たしかに最近姿を見かけなかったが……。

 

『ジースよ、これは我々の出番だとは思わんか』

『隊長? それはどういう……』

『我々で空梨殿と空龍を探し出すのだ!』

『ええ!? た、たしかにそうしたいのは山々ですが……今の俺たちはカエルなんですよ!?』

『しかし、最近空を飛べるくらいにはなっただろう。ナッパ氏達にも協力してもらえば不可能ではない』

『で、ですが……気とやらを探れるラディッツですら見つけられないのに、俺たちに見つけられるはずが……』

『そうだ。だから、俺たちはラディッツ氏とは別の切り口から探すのだ』

『別の?』

 

 そう、今の俺たちに出来る事が限られていることなど百も承知! ならば、出来る事をするのみだ。何もしないより百倍はましだろうからな。

 

『以前、空梨殿は「たまにはホテルのスイートとかでのんびりしたいな~」とおっしゃっていた』

『まさか、今回のことはただの家出だと言うんですか?』

『可能性は低いが、幸い彼女がどんな場所をチェックしていたかは多少なりとも分かっている。読んでいた雑誌を横から見ていたからな』

『さすがの記憶力です、隊長!』

『ふふん、よせ照れるじゃないか。なに、大したことではない。……ともあれ、そのホテルやら、あとスイーツバイキングやらの店を片っ端から探すのだ。協力してくれるか? ジースよ』

『何を水臭い事言ってるんですか! 俺たちは新生ギニュー特戦隊でしょう!? あったりまえですよ! なあお前たち!』

「「「「「「キキィーッ!」」」」」」

 

 ジースに応えるように、同じく話を聞いていたサイバイマンたちも声をあげる。うむ、頼もしい……頼もしいぞ、お前たち!

 

『では班編成と作戦を決める! そして最も重要なこともこの際だから決めてしまおう』

『もっとも重要……。!、ま、まさか!』

『そうだ』

 

 

 

 

 

『新生ギニュー特戦隊、スペシャルファイティングポーズだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから俺たちは空梨殿の行きそうな場所を片っ端からまわった。俺たちは小さいから車につぶされたり犬に追いかけられなければ問題ないが、サイバイマン達は目立つ。ので、こっそり悟飯殿の服を拝借して変装してもらった。頭部と目元も隠さなければならないので、なかなか怪しい出で立ちだが仕方がない。

 ホテルマンに見とがめられないよう、気配を消して片っ端から部屋を見て回った。高級ホテルのスイートから、リゾート施設のコテージ、有名スイーツのバイキング……しかし、やはりと言うべきか空梨殿と空龍は見つからない。やはり、今回の失踪はもっと事件性の高い物なのだろうか?

 

 諦めかけていた、その時だった。

 

 ついに2人を見つけたのだ! いや、しかし……。

 

 

『隊長、あの緑色の変な奴は誰でしょう……?』

『わからん。見た目からして地球人ぽくないから宇宙人だろうが……』

 

 困惑する俺たちの視線の先では、有名高級ホテル最上階ワンフロア貸し切りプール付きの超豪華スイートルームでお茶を飲む空梨氏と、空龍を抱えてこちらも見た目に反して優雅に紅茶をたしなむ……緑色の、なんだか変な奴。姿かたちは変だが、なかなか顔は整っているようだ。

 

 

 いったいどういうことだ!? 育児疲れでたまには贅沢な空間でゆっくりしたいというだけではなかったのか!?

 

『ま、まさか俺たちは不倫の現場を見ているのでは……』

『言うな。きっと、なにか事情があるに違いない。見ろ! ここ最近は控えていた空梨殿の好物である菓子の残骸が山積みだ! あれは相当ストレスを抱えているに違いない!』

『本当だ! しかもよく見れば凄い形相で相手をにらんでますね!』

『そうだ。きっとこの状況は不本意なもの……もしかすれば、空梨殿と空龍をさらって軟禁しているのは奴かもしれん。ここは慎重にいくぞ』

 

 伝説のスーパーサイヤ人を2人も拘束しておける奴がただものであるはずがない。まずはなんとかして、知られないように空梨殿にコンタクトを取らなければ!

 

 

 さあ、新生ギニュー特戦隊の初仕事だ。

 

 待っていろラディッツ氏! 貴君の妻子は我々が責任をもって送り届けてやるからな!

 

 

 

 

 

 




再び素晴らしいイラストを頂きました!贅沢…これぞ贅沢……!おかげで作者の心はいつもウハウハです。



【挿絵表示】
トライヤルさんからSS主人公とSS悟空を頂きました!なんと、めずらしい主人公の胴着姿です。そして悟空ですが、ボロボロのアンダーであるところにこだわりを感じますね!作者もボロボロアンダーの悟空は格好良くて大好きです!


【挿絵表示】
renDKさんから主人公のイメージイラストを頂きました!す、すっげぇもんもらっちまった……!何ですかこのふつくしいバランスは。しかもノーマル主人公は可愛く、SS主人公は格好良く描いてもらえるという贅沢っぷり。デフォルメ主人公もいい味出してます。そして何より注目すべきは衣装!悟空の胴着テイストとベジータの戦闘服テイストの手袋のコラボレーションとか最高なんですが!?


お二人とも素敵なイラストをありがとうございました!

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