とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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サイヤ人の王

 ここ最近、訓練をしていても身が入らないことは自覚していた。この俺がだ! ムカつくことにその原因も分かっている。だが、だからこそ余計に意識がそれに奪われやがる。

 

 

 この俺に、ガキが出来た。地球人のブルマという女が産んだサイヤ人と地球人のハーフだ。

 

 

 まさかこのサイヤ人の王子たる俺様が下級戦士のカカロットと同じような経歴を持つことになるとはな……髪の色こそブルマに似たが、顔は俺の面影を感じさせる。名前はトランクスだ。

 だが、別にガキが出来たことだけが意識が散漫になっている原因ではない。ま、まあブルマに妊娠を聞かされたときは驚いたが……。

 

 現在、サイヤ人の生き残りは俺、カカロット、ハーベスト、ラディッツ……それとこいつらのガキである空龍と悟飯、俺の息子トランクスの7人だ。内2人はハーフだが、惑星ベジータ消滅後は俺とナッパ、ラディッツ、カカロットの4人だけの生き残りだけだと思っていた時から比べると増えたもんだ。その増えた分が新しく生まれた子供というのが、どれほど時間が経ったかという現実を嫌でも突き付けてきやがる。

 3年前未来から来たという2人のサイヤ人だが、1人はあのクソ女にそっくりだったことからあいつの息子だろうとは予想出来ていた。だがトランクスが産まれて、もう一人が俺の息子だったと気づいた時には流石の俺も驚いたさ。3年前、まさか自分が父親になるなどと考えても居なかったからな。

 

 サイヤ人の肉体は若い時期が長い。だが、年を取らないわけではないのだ。

 現在俺は35歳……はっきりと覚えてはいないが、俺の死んだ父親であるベジータ王も今の俺と同じか、もう少し上の年齢の時に俺を儲けていたはずだ。その時やつは惑星プラントのツフル人を殲滅、サイヤ人の入植に加えて惑星ベジータの命名、サイヤ人王家の確立と、最終的にフリーザ軍に下る形で手を組まされるも様々なことをやってのけている。ガキのころの俺よりも戦闘力において劣る親父を尊敬しているわけでもなかったし、俺は俺がナンバーワンになれさえすればいい。そう思い好き勝手やってきたが……現状を見ろ。ガキを作った以外は、下級戦士のカカロットにスーパーサイヤ人という覚醒で抜かされ、せめてそれを追い越し王子としての誇りを取り戻そうと無様にあがいて汗水たらして訓練を続ける日々だ。

 

 サイヤ人の誇りなどとフリーザの奴に啖呵をきったが、この様だ。笑っちまうぜ。

 

 

 

 

 

 そんな風に無意識下で育っていた焦り……それに拍車をかけたのは、姉であるハーベストにガキが出来た時だった。

 

 今でも奴が姉である事実が忌々しくてたまらないが、姉は姉。サイヤ人王家の正当なる長子だ。その奴がよりにもよって弱虫ラディッツとくっついたときは雑魚同士お似合いだと皮肉ってやったが、結果奴はサイヤ人の純血……それも男児を産んだのだ。血筋で言えば、長子のハーベストが産んだ混じりけなしのサイヤ人は王家の後継者にふさわしいだろう。まあ、その王家はもう俺と奴しか居ないのだが。

 そして奴は、ガキを産むときにカカロットと同じスーパーサイヤ人に覚醒している。出産時遠く離れた山で訓練していた俺にもわかるほどの戦闘力……下手をすればナメック星の時のカカロットを一時的に超えただろうそれは、嫌でも奴の物だとわかった。ガキの頃から知っている以上に、地球に来てからは「鍛えなおしてやる」という名目でサンドバッグにしつつ一緒に訓練していたからな……気というものを探る技術を身に着けていたこともあり、いくら強さが変わろうと奴の気配は間違えようもなかった。

 

 もちろん最初は怒りに震えた。

 戦闘から逃れ続け、現在も渋々訓練をしつつも根本的に戦いというもの自体を忌避するサイヤ人の恥さらし。……それが奴への認識だったからだ。それがこの俺より先にスーパーサイヤ人に、それも出産で覚醒するだと? ふざけるな! とな。

 

 だがその時の怒りは俺をスーパーサイヤ人に覚醒させるには至らなかった。それは、心のどこかに劣等感があったからだ。

 劣等感……そんなもの、俺から一番ほど遠い感情だと思っていたがな。だが、よく考えればカカロットに負けた時から俺はずっとその感情に苛まれ続けているのだろう。認めたくないが、それが事実だと認める自分も確かにいる。まったく反吐が出るぜ。

 

 褒めるとこなど何一つなく俺のサンドバッグになるくらいしか価値のない女だと思っていたが、客観的に見ればハーベストは生き残りの王女として正当なる血筋を残し、自身もサイヤ人の高みへと上り詰めた。これがいかに屈辱であるか……頭がどうにかなりそうなほど感情が荒れ狂ったぜ。…………しかし、それはあの女への憎悪ではない。いつまでもくすぶっている不甲斐ない自分自身への怒りだ。

 

 

 

 それを振り切るように、ただひたすら訓練を続けた。

 

 

 

 そういえば、弱虫ラディッツの奴もそれなりに役立つようになってきたな。俺の拳を正面から受けても一発でひん死にならなくなったのは褒めてやる。おかげでハーベストの奴が訓練しなくなってからもサンドバッグには事欠かないぜ。

 しかしこいつもこいつでなかなか俺をイラつかせた。かつては俺とナッパの後ろをへこへこしながらついてくるしか能が無かったというのに、いっぱしに俺の目を見て向かってくるまでになりやがった……チッ、夫婦そろって忌々しい。

 

 

 

 

 

 そうして悶々と日々を送る中だった。

 

 ある日、近くで膨大な気を感じて何事かとそこへ向かえばハーベストのガキが空を飛んでいやがった。……それも、黄金に輝いてな。

 鳥の群れを楽しそうに追い掛け回すそいつを見て、思わず変な笑いが出ちまったぜ。俺はこんなガキにも負けているのか……とな。フリーザの時以来だぜ。こんな挫折を味わったのは。

 だがやはりガキはガキ、しかも赤ん坊だ。むやみに力を使いすぎて、途中で力尽きて落下し始めやがった!! 馬鹿か! と思わず叫んで受け止めれば、呑気に寝ている始末。チィッ、やはり奴の息子か。忌々しいほど似てやがるぜ!

 しかたがなくハーベストの奴に届けてやれば、生まれて初めてというくらい素直に礼を言われた。しかも、泣きながらだ。……時間というのは、ここまで人を変えるものか。

 

 

 それからは荒れ狂っていた感情が嘘のように静まった。といっても、それは表面上だ。水面下では激流が渦巻くような感情を常に抱えていたが、冷静に考える部分が出てきたというだけの事だ。

 

 考えた。

 

 

 

 サイヤ人の誇りとは何だ? 強さだ。

 

 王家の誇りとは何だ? 強さだ。

 

 今の俺は何だ? 弱い。

 

 このままでいいのか? ふざけるな!

 

 

 

 

 俺は王子だ。否、生き残りの中で正当な血筋が次代へ続いた今、俺こそがサイヤ人の王なのだ!!

 不甲斐ない、不甲斐ないぞ!! 自分の情けなさに反吐が出る!! このまま終わってたまるか。俺こそがナンバーワンなんだ!! 誇り高きサイヤ人の王、キングベジータともあろうものがこのままでいいはずがない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンっ、カカロットよ。貴様のスーパーサイヤ人とはそんなものか?」

「! ベジータ!?」

 

 未来からトランクスたちが来てから3年経った。奴らの予告通り人造人間とかいう奴らが現れ、先に遭遇したカカロットたちが戦っていた。といっても、勝負になりそうなのはカカロットとナメック星人の奴くらいだったがな。

 他の地球人の奴らじゃ勝負にならんだろう。見たところ、まだ最近のラディッツの方がましなくらいだぜ。……そのラディッツはどうやらここには居ないようだな。そういえば最近ハーベストと息子が何処へ行ったか知らないかと尋ねてきたとき以来会っていない。なんだ、嫁と息子に逃げられたか? 少しは認めてやったというのに情けないやつだぜ。

 

 カカロットがスーパーサイヤ人になり攻めの一手だったが、このまま倒されたらつまらん。

 

「こいつらには、この後の戦いに彩を与える前菜になってもらう。俺にも一匹よこしてもらおうか」

「戦うっておめぇ……」

「もちろん貴様とだ、カカロット! ククク……見るがいい、これが俺の……スーパーサイヤ人だ!!」

「な!?」

 

 

 体の奥から力の奔流がほとばしり、俺をスーパーサイヤ人へと変える。黄金の輝きが俺を包み込み、かつてないほどの高揚感が体中を満たした。

 

 

「そ、そんな馬鹿な……! な、なんであいつがス、スーパーサイヤ人に……! お、穏やかな心を持っていないとなれないんじゃなかったのか!?」

 

 ナメック星にも来ていたハゲチビが驚いているが、今の俺は気分がいい。どれ、説明でもしてやるか。

 

 

「穏やかだったさ……穏やかで純粋だった。混じりけのない誇り、そして悪。それこそが俺の心で最も穏やかだった感情だ」

 

 腑抜けた他のサイヤ人に無くて俺にあるもの、それがその2つだった。

 

「ただひたすら、強くなることを願った。そして情けない自分を認めるという屈辱をも乗り越え……ギリギリまで自分を追い詰めた時、限界にぶち当たった。そこで俺は静かに自分を見つめなおしたのさ……そして、自分の不甲斐なさに再度怒りに震えた。そうしたら、突然目覚めたんだ。スーパーサイヤ人にな!」

 

 おっと、俺としたことがベラベラと長くしゃべりすぎたようだ。これではどこかの三下のようだぜ。

 

「話はここまでだ。さて、俺の相手はどっちだ? ジジイか? デブか?」

 

 すっと前に出てきたのはデブの方だった。ククク……よかろう、貴様がカカロットを倒す前にいただく前菜だ!

 

 

 

 

 

「さあ、見るがいい! この新生ベジータの……サイヤ人の王、スーパーキングベジータの戦いをな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




人造人間編「お、俺はまだ生きてるぜ……!」

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