今日は妙なやつが来たわい。なんでもわしに占いの修業をつけてほしいという、弟子入り志願らしい。わしが占いで儲けていることを知っているやつで、こういう馬鹿がたまにくるんじゃ。当然、門前払いに決まっておる。なんでわしがわざわざ時間を割いてそんな実にも金にもならんことせにゃならんのか。
しかしそいつはしつこかった。こやつ、こちらが良いというまで絶対に引かんな。占わなくても、今まで生きてきた経験で見りゃあ分かる。なんと図々しいやつじゃ。
諦めさせるために、わしの選りすぐりの戦士5人を一人で突破出来たら考えてやると言ってやった。そしたら喜々としてのってきおったから、まさか自信があるのかとすわ驚いた。
1人目、2人目まではその自信を裏付けるようにあっという間に倒していきおった。これはまずいことをしたかと冷や汗をかいたが、なんとか3人目のミイラくんが倒してくれたわい。ふう、驚かせよって。
しかし相手をのして圧勝したはずのミイラくんが、ミイラのくせにもっと顔色を悪くしてこう言ってきおった。「次は勝てない」と。
「ええ、ミイラさんあんなに圧勝していたじゃないですか~」
付き幽霊のオバケが不思議そうに問うと、ミイラくんは深くため息をついた。
「もうあんな綱渡りな試合はごめんだぜ。占いババ様、あいつ、だいぶ力をもてあましてますよ。いや、自分で抑えてるのか? ともかく全力を出せていない。こちらがよけられないはずの攻撃も、自分にブレーキをかけているせいでからぶったりする。そのからぶった一発でさえ、受けたらやばいやつだってわかりましたよ」
「ずいぶん評価が高いの。わしにはただの無様な戦いにしか見えなんだが」
「はたから見りゃあそうでしょうよ。変な奴でしたよ。うまく言えねぇが、潜在能力の高さと動作がかみあってないってんですかね……。先2人の戦いを見てなかったら、オレも初撃でやられたかもしれません。決め手もあいつが自分でけ躓いてぶっ倒れたところに攻撃しただけでしたからね。先の試合、正直ほぼあいつの自爆です」
「それも間抜けな話じゃが……ふむ。それほどの実力なら最初の自信も頷けるが」
「あと、防御がなってねぇ。体は正直鋼みたいな頑強さでしたが、予想外のことがおきると全体が緩む。そこを内臓にダメージが行くように攻撃したんでさ」
「おまえさん、そんな器用なこと出来たのかい」
「まあオレ自身、ババ様とおんなじで格闘マニアなところありますからね。いつか骨のあるやつが現れた時用にいろいろやってるんでさぁ。そのオレから見ての総評ってーと、実戦経験が欠落してるってところかねぇ、あの女」
「ほう、なら経験が伴えば強いやつなのかい」
「少なくとも一度攻撃を受ければ致命傷になりそうな相手です。少しでも実戦の”勘”ってやつを身に着ければ恐ろしいでしょうよ」
ますます妙な奴じゃな。
しかし負けは負け。これでもう来ないじゃろう……そう思っておったが甘かった。
ええい、駄目だというに毎日毎日来よって! しかも手土産なのか、野菜を門の前にいつも大量に置いていきおる。お前は昔話の動物か地蔵か何かか! 極めつけに、ある日朝起きたら建物の外観が業者でも入ったかというほど磨かれていた。ここまでくると恐ろしいわい。
しかたなく雑用から始めるなら、と弟子入りを許可した。占いも身に着けられる保証はないぞいと言ったが、絶対に引かぬと目が言っていた。こやつの何がそうさせるんじゃ……。
そやつ、空梨は弟子入りしてからしばらくは物は壊すわ仕事は雑だわと散々じゃったが、日に日に雑用の腕が上がっていった。しかも速い。宮殿の掃除から洗濯や飯作りがなんであんなに早く終わるんじゃ。
そういやミイラくんじゃが、弟子入りさせた後先輩先輩とまとわりつかれて居心地悪そうにしとったな。どんどん便利になっていくのはいいが、図々しさは相変わらずじゃ。アックマンも一時期何かとつきまとわれておったな。
空梨が弟子入りしてしばらく。
以前より弟の弟子である孫悟飯から「尻尾が生えた子供が来たら自分を1日この世に戻してくれ」と頼まれていたのだが、占いでとうとうそんな奴が来る日が分かった。ので、あの世に悟飯を呼びにいったのじゃ。そして現世に連れてくると、空梨のやつが真っ先に飛びついた。何事かと見ていれば、なんと悟飯の孫だという。ちなみに隠していたので分からなかったが、空梨にも猿の尻尾が生えておった。これから来る方にも生えているが、来たのはこやつの方が先。わしが占いをはずすとは……。後で占ってみたところ、空梨はいまいち未来が占いにくいことが判明した。ますますもって、妙な奴。
悟飯に泣きついてわんわん子供みたいに泣いていた空梨が落ち着いて悟飯から離れたとき、「あやつを鍛えたのはおぬしか?」と悟飯に聞いてみた。武闘家として名を馳せたこいつの指導なら納得じゃとも思ったが、なんと違うのだという。悟飯の孫は2人とも拾い子で、拾ったとき弟の方は赤ん坊じゃったが空梨はある程度育った子だったようじゃ。
「初めて見た時から、わしより強い子じゃと思いましたじゃ。ちょっとある一件では命を助けられたこともありましたわい。ですが、どうにも闘うことが嫌いなようでしてな。悟空に稽古をつけているときも、参加してくることはありませんでした。その分ずっと家事やらを手伝ってくれてまして……野菜を育てたり植物をとってきたり、土いじりの好きな子でしたよ」
「ふむ、土いじりか。そういや毎日野菜をもってくるが、あれかの。ありゃ美味いわい」
「そうでしょう、そうでしょう。記憶を失ったふりをしていますが、よほど過去に言いたくないことがあったんでしょう。わしも深くは聞かんかったのですが……。何かと不器用というか、しっかりしているようで不安というか。わしが死んだ原因にも責任を感じていたようで、さっきだいぶ泣かれてしまいました。死んだあと、心配しとったら案の定だったようで」
「不器用、不器用か。たしかにのぅ……。しかも奴は自分ではいろいろ考えてると思っていそうじゃが、ありゃあ馬鹿じゃぞ。目の前のことしか見えておらん。それとだいぶ図々しい」
「ほほっ、手厳しいですな。もういい歳だろうにお恥ずかしい……。ですが、ババ様の所に居ると分かって安心しましたじゃ。どうか、孫をよろしくお願いします」
お願いされてしまった。
ふう……しかたがない。占いの才能もないわけではないし、これからもっとちゃんと修業を見てやるかいね。あと、馬鹿は死ななきゃ治らなそうだがもう少し思慮深くなるように色々言ってやるか。あの短慮さじゃあ、占い師を仕事にするのには向かぬわ。
孫 空梨。そやつがわしの初めての弟子。どう生きていくかわからんが、どうせ長い人生じゃ。せいぜい見守ってやるわい。