とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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★神龍の苦悩

近年になってから、わたしはとかく忙しい。呼び出される頻度がかなり多いのだ……とはいえ、願いを叶えてしまえば1年、もしくはそれ以上ずっと暇であるが。そのため最近は呼び出されるのが少々楽しみでもある。自分の存在意義を実感できるというのは、思いのほか心地よいものだ。

 もし出来るなら、ちょっとくらいサービスしてもよいかとも思っている。そうだな、たとえば世界一のアイスクリームが食べたいと言われたら保冷材くらいつけてやろうか。せっかく手に入れても、食べる前に溶けてしまっては悲しかろう。

 

 まあ、願いの内容も様々であまりいい思い出ではないこともままあるが……一度など、若返りなどという素晴らしい願いを叶えてやったにも拘らず自らを破壊されるという目に遭ったのだ。願いを貴賤の差無く平等に叶えるのがわたしの役目ではあるが、あれは酷いと思った。しかもそれをやったのはわたしを創造した神の片割れだ。因果なものを感じる。

 しかし、最近は人間の価値観ではなかなか有意義な願いが多いのではないか? といっても、最も多いのは誰かを生き返らせるという願いだが。

 己の欲望に忠実なものが叶えた願いは先ほどの若返りの他は「ギャルのパンティーがほしい」だの「超能力が使えるようになりたい」などと可愛いものがあったが、それを抜いて他人のために使われた願いが圧倒的に多い。

 誰かを生き返らせる……それも複数の人間を、という場合もあってなかなかに張り切ったぞ。一番最近では遠く離れた別の星の住人を生き返らせろと言われて少々困ったが、その星にはわたしと同じく願いを叶える球があり、しかも私より強力な力があると知って負けるかと年甲斐もなく張り合う気持ちでやったらなんとかなった。

 ふむ、わたしにもまだまだ可能性は多く秘められているようだ。願いを叶えるたびになんとなく自分の思考が複雑化していくことに最近気づいたが、考えるということは人間だけでなくわたしのような存在でも進化させるのかもしれない。実に興味深い。また、次の願いを叶えるまでの暇つぶしが出来た。

 

 さて、今回も再び呼び出された。存在意義を実感できるのはよいが、それほど簡単に願いを叶える球を集められるというのも少々考え物だが……まあよかろう。ほう、今回は以前も願いを叶えたことのある人間だ。たしか、超能力を使えるようになりたいと願った少女だったな。どれどれ? 今回の願いは……。

 

「母子ともに健康に出産が出来るようにしてください!」

 

 なんと! あの少女が、もう母親となる年齢となったのか。見た目は当時とあまり変わっていないように見えるが、時の流れとは早いものよ。しかもその願いの内容のなんとほほえましい事よ……どれ、ここは痛みも少なく済むように念入りに叶えて………………。

 

 !?

 

『む、無理だ。産む側のお前も、生まれ来る子供も神の力を遥かに超えている。そういったものに強く干渉は出来ない』

 

「え、……え!? う、嘘でしょ!?」

 

「な、なんだと……! なんでも願いを叶えてくれるんじゃないのか! 頼む、初めての子供なんだ! それに叶えてもらわねば、こいつが死んでしまう!」

 

 ぐ、ぐぅ……! なんと、ここまで心苦しいことが近年であったろうか? いや、無い。少女の隣にいる男は彼女の夫か……頭を地面にこすりつけてまで願う様を見れば、いかに真剣かがよくわかる。

 

 わたしは死んだ者を生き返らせる事ならば、神より強い力を持った者でも可能である。大きな願いであるため、様々な制限はつくが出来ないことではない。

 それにはその者に干渉するとしても、やることはあの世から魂を引っ張って来て体に入れてやるだけだからだ。もし体がバラバラになっていてそれを治すにしても、魂のない抜け殻であれば干渉は楽である。だが、もし生命力が宿った状態であれば一気に難易度が上がるのだ。強すぎる力を持ったものの肉体に干渉するには、それが神の力を超えていれば今の私では力不足である。

 とはいえ、その願いを聞くまではわたし自身もどこまで願いを叶えられるか不明な部分というのもあるが……こう考えると、自身という存在の不可解さに疑問を投じる結果となる。うむ、哲学だ。

 不老不死などいかにもありそうな願いだが、果たしてわたしにどこまで叶えられるか……力不足のまま叶えたら中途半端な結果になりそうだな。それではわたしの沽券に関わる。次の願いまでの間、考える課題が増えた。

 

 

 

「あの、本当になんとかならないんですか!?」

 

 おっと、考えてる場合では無かったか。

 しかし出産か……本来なら容易い願いなのだが、探ったところこの者自身もそうだが生まれてくる子供の力が凄まじい。たしかにこのままでは、産んだ瞬間母の体がもつまいな。しかも普通の死に方ではない。生まれる瞬間、言い方は悪いが生命力の奪い合いになるだろう。子供はただの生存本能で生まれるために力を欲するのだろうが、それが結果母の生命力を全て使い切る結果となってしまう。母親もおそらく産むことに必死で自分の生命力など二の次となるだろうから、子供に全てを注いでしまう。愛が絆を引き裂くとは、なんと業が深い……これは、なんとかして願いを叶えてやらねば。

 ふむ、調べてみれば周囲の友好関係もそうだが経歴がかなり複雑だな。この中に、なにかヒントはあるまいか。

 

「おい、黙ってないで何とか言ったらどうなんだ!」

 

『む……待て。今考えているのだ』

 

 必死なのはわかるが、少し時間がほしい。だが夫側の堪忍袋の緒がそろそろ切れそうだ……このままでは、かつてのように破壊されてしまうかもしれない。

 考えろ、考えるのだわたし!

 

『そ、そうだ! では安全な出産のためのガイドラインを授けよう』

「が、ガイドライン!?」

 

 そうだ。願いそのものが叶えられないなら、そこに至るまでの道筋を示してやればよいのだ! この者自身や周りの者が頑張ればなんとかなる。そうわたしの中で結果が出た。急いで書にしたためなければ。

 

『これが出産までの詳細だ。この通りにすれば必ず無事に母子健康のまま出産が可能だろう。頑張るのだぞ。では、願いは叶えた。……さらばだ』

「え、何この冊子……って、ちょ! 待っ!?」

 

 制止の声が聞こえたが、願いを叶えたら後は去るのみ。心ばかりだが、サービスで気休め程度の安産祈願はしておいた。書の通りにすれば、それで間違いなく健康体で産めるはずだ。

 

 

 わたしもまだまだだな。創造主たる神頼みをしなくとも、パワーアップを考えねばならぬ時期が来たという事か。

 出来るかどうかは分からないが、これもまた暇つぶし。考えるとは、それだけでなかなかに楽しいものよ。

 

 

 

 

 では、次の願いのために英気を養うとしよう。

 世界中に散らばった希望の球を、いつかまた誰かが集めるその時まで。

 

 

 

 




最近の親しみやすい神龍さんを見ていたら、つい。




前回と前々回の話の後に「祝ってやんよぉ!」とばかりに頂いたイラストラッシュに嬉しさで元気玉作れそう。
皆さんの慈愛が降り注ぐ……!いつもありがとうございます!


【挿絵表示】
かんすけさんからラディッツと主人公の買い物風景を頂きました!こ、こいつらちゃんと夫婦してやがる……!ラディッツの表情がイメージまんまでたまらんとです。


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【挿絵表示】
オルゴールさんから主人公のウエディング姿を頂きました!娘を嫁に行かせる気分を味あわされた……!綺麗な顔してるだろう……?これ、三十路なんだぜ。衣装やら表情やらすべてが可愛くてどうしよう。


【挿絵表示】
トライヤルさんからラディッツと主人公のイラストを頂きました!主人公も可愛く描いてもらったのですが、注目すべきはにやけ面のラディッツである。なんだこの可愛い二十日大根。クッ、にやけた顔しやがって(褒め言葉


【挿絵表示】
のたぐりさんから主人公と息子のイラストを頂きました!見た瞬間目からしょっぱい汁と鼻から赤い液体が出た。2人が幸せ親子している……!きっと無事に生まれて育ったら、こんな光景が見られるでしょう。目ぇキラッキラの息子と母親してる主人公が愛しくてたまらないです。




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