とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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注意)
・二十日大根がおおむね調子に乗っている。
・砂糖?そんなものこの作品に求めてなぞいない!キャロットミルクジャムにでもぶち込んでおけ!!という方はこの小説の楽しみ方を分かっている。今話は飛ばしてください。次話で主人公がざっくりまとめるはずです。



二十日大根春の芽生え

 

 

 

 

 数日前に未来から来たというガキ2人に会ってからというもの、空梨がおかしい。いや、おかしいのは普段からだが俺に対する反応がおかしい。

 

 視線を感じると思いそちらを向けば、必ず空梨と目が合う。そしてすぐに逸らされる。それが一緒の空間に居る時は常に、と言えば頻度が多いと分かるだろう。

 バイトの時は奴が仕事に集中しているので無いが、朝出かける前、カカロット一家の畑で作業している時、帰ってきてから寝るまでと、視線で穴が開くならとっくに俺は穴だらけだろうと思うほどに多い。あまりに居心地が悪いから「何だ」と聞いたことがあるが、無言でケツを蹴られただけで答えは得られなかった。

 

 それと、家での様子にも変化があった。

 今まで風呂上りなど、下着もつけないでタンクトップに短パンなどという格好でこっちとしては目のやり場に困っていた。奴はそれなりに胸があるので、タンクトップの布は脇から横乳のラインを隠す役目をあまり果たせていない。一応隠れている、隠れてはいるが、腕をあげた時など隙間が絶妙に危うい。

 恐る恐る注意すれば案の定「私の家なんだから私の勝手でしょ」とばっさり俺の意見は切り捨てられた。その後も何度か注意したが、その場その場で「はいはい」と生返事をするばかりで一向に治らなかった。外へ……特にメディア関係に出るときは「これが地球の戦闘服か?」と思うほどにがちがちに隙無く着込んでいるくせに、その反動と言わんばかりに家では楽な格好である。

 酷い時など「下着を持って来忘れた」と言ってバスタオル一枚巻き付けただけの姿でうろつくなどという時もあった。恥じらいが足りないというか……完全に俺が男として見られていないことがよく分かった。まあ、危機感が無いのも当然だろう。間違って襲い掛かりでもすれば血の海に沈むのは俺だと分かり切っている。悲しいが、事実だ。俺と空梨の間の実力差は未だに大きい。

 

しかし、数日前からそれが一変した。

楽そうな格好であるには変わりないが、下着を着用したうえでの大きめのTシャツに短パンという、大分露出を抑えた格好になったのだ。

 

 

 

 それと、今までは家事の分担をしたらお互いが当番の時はそれに関して干渉しなかったくせに、「手伝おうか?」などと言ってきたな。

 気味が悪くて断ったら、肩を落として去っていった。それがあんまりにも哀れだったもんだから、その次の機会に頼んだら嬉しそうに隣で家事を手伝い始めた。

 

 ……前から感じていたが、こいつは感情の波が分かりやす過ぎるくらいに分かりやすい。平たく言えばガキっぽい。

 外で、特に占い師としてメディアに露出する時は感情を抑えてクールでミステリアスな雰囲気を心がけているらしいが、親しい人間と居る時はだいたいこんな感じだ。見ていれば押しにも比較的弱いな。特に女子供に対して強く出れないようだ。たまにカカロットの嫁やベジータの居候先の女と話しているときなど観察すれば、最終的に手玉に取られているのはアイツだったりする。地球の女が強いのか、あいつが押しに弱いのか……そのどちらもか。ともかく、まあ分かりやすいのだ。

 

 

 そして俺は鈍い方じゃない。

 

 

 念のためアルバイト先の奴らにこのことを話してみたら、「リア充爆発しろ」「結婚式はいつですか?」「リア充爆発しろ」「やっとか、はやく引き取ってやれよ」「ホントにな、あれでもう三十路だぞ」「リア充爆発しろ」「この機会逃したらあの子はダメだと私の勘が告げてる」「すまんが頼むぞあの馬鹿娘」「リア充爆発しろ」「ラディッツくんなら安心だわ」「リア充爆発しろ」という反応が返ってきた。というか、終始同じことを言っているお前……今まで散々「行き遅れおつで~っすww」とかあいつを煽ってきたくせになんで泣いてるんだ。

 

 最近畑作業に行くたびに話しかけてくるカカロットの嫁の父である牛魔王にも話してみた。

 こいつは事あるごとに「空梨さんのことは真剣に考えてるだか? 一緒に暮らしてるのだろ?」と厳しく俺を問い詰めてきた。こちらとしてはそんな気はないし向こうも同じだろうと、余計なおせっかいが初めはかなり鬱陶しかったものだ。だが性格は気の良い男で、酒を酌み交わしながら色々と話すのは嫌いじゃなかった。

 空梨についてだが、何でも娘がずっとお世話になって来た義理の息子の姉ということで、ずっと気にかけていたらしい。「あの子は気立ての良い子だぞ。お中元やお歳暮はかかさんし、時々気を遣ってチチに土産を持たして里帰りさせてくれていたし」と話す牛魔王からは本当の娘に対するのと同じくらいの好意を感じた。流石というか何というか……あいつは目上の者に対する礼儀というか、ゴマすりはけして欠かさない。師匠である占い師のババァに対してもそうだ。

 最近の事を話せば、牛魔王は「乙女心はデリケードだがら、頑張るだぞ。オメぇのことはオラもそれなりに買ってるだ。厳しいごとも言ってきたが、幸せになってほしいだよ」と肩を強く叩いてきた。

 

 クリリンのやつにも会話の中でさりげなく奴の最近の様子をぼやいてみた。すると「やっぱり同族がいいのかなぁ~。ちょっとショックだけど、ラディッツなら俺も納得するよ」と言って何やら応援された。そして「空梨さんの師匠の占いババ様にもあいさつした方がいいな。ババ様は空梨さんの親みたいなもんだって、弟の武天老師様も言ってたから。挨拶しないときっと後で煩いぞ」ともアドバイスされた。

 

 なんというか、知らないうちに外堀を埋められているような気がするのは気のせいだろうか。

 奴らの反応を見るに、全くそんな気が無かった頃から何やら決めつけられていた気がする。前の俺なら「冗談じゃない!」と一蹴していただろうな。

 

 

 

 だが、これで俺の勘違いでないことには確証を得た。

 あいつ、空梨は俺の事が好きなんだろう。

 

 今までさんざん手ひどい扱いをされてきたが、悪い気はしない。

 こういうのは惚れた方が負けなのだ。そう思うと相手が奴であろうと気分がいい。今、精神的な立場は間違いなく俺の方が上なのだから。

 

 そう考えると、まさか先日未来からやって来た空梨そっくりの男は俺との子供か? なるほど……それを知って、いきなり意識し始めたという事か。なかなか可愛いところがあるじゃないか。これは愉快な話だぜ。

 

 

 

 俺はそう納得したが、しばらく様子を見ることにした。奴が何かしらの決定的なアクションをおこしたら、俺も考えてやってもいいが……しばらくは奴の反応を楽しむことにしよう。

 

 最近は昼間に何をやっているのか、もし暇なら出かけるから付き合ってくれないかとも言われる。しかしそれは断った。

 何故ならベジータに特訓を頼んでからというもの、俺はとにかく忙しい。

 

 ベジータに訓練の相手を頼んでからというもの、最初の1週間がまず酷かった。「小突いただけで死なれては話にならん」と言われたと思ったら、いきなり半殺しにされてカプセルコーポレーションに一機だけあるメディカルポッドに放り込まれたのだ。俺はそれを数度繰り返され、サイヤ人の特性とやらで強制的にパワーアップを強いられた。違う、たしかに強くなりたいと言ったが、何か違う。この強くなり方じゃない。

 だがベジータの言う「最低限」まで戦闘力が上昇したと判断されると、正しくそこからが本当の地獄だった。ベジータの野郎、感謝はするが……俺は夜に仕事があるんだぞ。メディカルポッドの回復では間に合わず、ボロ雑巾の風体で仕事に出て何度突っ込まれたか。

 しかし特訓の成果は着実に出ている。ついこの間スカウターで計れば戦闘力が5万を超えていて目を疑った。この俺が……この俺が、親父の戦闘力をはるかに超えていたのだ!! その感動に体が打ち震えた。

 ちなみに他の奴らの戦闘力は計っていない。「改良したから結構な数値まで計れるわよ~」と自慢げにブルマが言っていたのでためしにベジータを測定したところで俺はスカウターを置いた。何だ……戦闘力450万て……。道理で「戦闘力5万か、ゴミめ」と言われるはずだ。

 

 未来から来たガキどもの話では、3年後には人造人間という強敵が現れるらしい。

 戦闘民族サイヤ人としての自分の誇りを取りもどすためにも、そいつらは丁度良い試金石になるだろう。それまでにカカロットやベジータに後れを取るわけにはいかんのだ!! 俺に暇な時間など無い!!

 

 

 しかしちょろちょろ近づいてくる空梨を無下にするわけにもいかず、家では好きにさせている。

 テレビを見ているときに「枕になれ」と言われれば膝を貸してやったし、傍にいるときいつのまにか服の袖をつかまれていても何も言わないでやった。菓子類の暴食は見るに堪えんから注意するが(今まで無視されていたのが最近は少し聞き入れられて驚いた)、食事は俺が当番の時は出来るだけ好物をそろえてやった。そうするとお返しとばかりに奴の当番の時は俺の好物ばかり出てくるのだ。自分で作るより、こいつが作った方が美味いからな。あれだな……これはギブ&テイクというものだろう。

 

 

 

 そんな生活を送っていたある日の夜だった。

 

 

 

 メディカルポッドでは間に合わず治らなかった傷を自分で手当てしていると、俺より遅れて帰宅した空梨が「私がやるよ」と申し出てきた。背中付近の傷がやり辛かったので頼むと、思いのほか丁寧に手当てされて逆に居心地の悪い思いをした。今まで散々俺の事をボロ雑巾にしてきたくせに……。

 しかし手当の最中で、空梨にも傷があるのに気が付く。

 聞けば、なんと空梨までベジータと特訓しているというではないか! ベジータの奴……時間ごとに俺と空梨それぞれ痛めつけてやがったのか。道理で最近忌々しいほど清々しい顔してるわけだぜ。

 

 ならばと、今度は俺が代わって傷の出当てをした。最初は断られたが、無言で手当ての道具を奪えば大人しく怪我した部分を差し出した。

 

 ちょうど外では雨が降っていて、テレビも何もついていない部屋には雨の音とお互いの呼吸音しか聞こえなかった。会話が丁度途切れ、なんとなくそのまま沈黙が続く。

 

 そんな中、空梨が口を開いた。

 

「そういえば、アメリアがもうすぐ2人目産むんだって」

「そうか」

「たいへんなのに、よくだよね。産まれるぎりぎりまでバイトは休まないってさ」

 

 そこまで言うと、視線をうろうろ彷徨わせて口を数度開きかけてから再び黙った。

 ので、今度は俺から口を開く。

 

「お前も子供が欲しい願望でもあるのか?」

「は!? いやいやいや、まず相手いないし。喧嘩売ってんの?」

「顔が赤いがどうした。いい年こいて照れてるのか」

「照れる!? 何が!? 変なこと言わないでよ。熱がこもってて部屋が暑いだけだから! ちょっと、除湿つけるから空調のリモコン取ってくる」

 

 そう言って立とうとした空梨の腕をつかみ引き寄せると、バランスを崩した奴が簡単に腕の中に納まった。こうしてみると、改めて小柄だと感じる。俺の体がでかいのもあると思うが。

 

「え、ちょっ」

 

 狼狽えて俺を見上げた空梨の顔は赤く、瞳は泣き出す寸前のように潤んでいる。何か言おうとしていたが、その前に呼吸を奪うように口をふさいでやった。

 

 

 

 

 

 たしかに俺は忙しい。

 

 だが、好きな女と過ごす時間くらいあっても構わんだろう。そう言い訳すると、そのまま熱い体温を掻き抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラディッツはムッツリ+自分が優位だと分かれば強気というイメージ(偏見

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