●月Й日 続き
さて、現実逃避もかねて喜んでみたがその直後にもたらされた情報と息子が重い件について。ふわっふわ綿菓子みたいな気分で飛んでたと思ったらとんだボディブロー食らった気分だよ!!
悟空が帰ってきて、遠くでトランクスが未来の事を話し始めた時からガン見されてるのには気づいていた。
それで息子(仮)が何やら悟空に話しかけたと思ったら、トランクスと何やら口論し始めていきなりスーパーサイヤ人化してこっちに飛んできて「来い!」と拉致られた。なんか凄い速さで飛ばれてぐんぐん皆から離されていったけど、しばらく混乱してされるがままだった。しかしなにやらだんだんと額がビキビキして白目むいてきた息子(仮)を見て「これアカン奴や」と思って全力で顔に拳を叩き込んだ。
息子(仮)はそれでスーパーサイヤ人化を解くと、「お母さんがぶったぁあああぁああ!!」と泣き始めた。息子(確定)は忙しい奴である。しばらく頭を撫でてなだめていたら、私の息子にしては高い身長でぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。不覚にも可愛いと思ってしまった。なんや、この生き物。
それで何故いきなり連れてきたのかというところから聞くと、「トランクスに邪魔されると思ったから……ああでもしないと逃げきれないし」と口をとがらせてぼやいていた。こいつ、いちいち反応がガキっぽいな。
そして聞いた事情だが、未来トランクスが悟空に話した内容まではよかった。問題はその後の彼個人の問題だ。
あまりの内容に言葉を失った。
・自分を生んだ時、生まれながらにして高い戦闘力に母体が耐えられず私アボン。Why!? まさかの話の序盤でログアウト!?
・ラディッツ(おい待てコイツかよ)が一人で息子を育てていたが、ある日人造人間襲来。Z戦士アボン。
・悟空、心臓病でアボン。
・最初の襲撃で片腕片足を失い戦士として戦えなくなったラディッツの代わりに、トランクスと一緒に悟飯ちゃんに師事して修業。しかし元来の臆病な性格や、もてあます自分の力を制御できずに伸び悩む。戦力としては論外な息子。この辺実に私の息子してる。
・4年前、悟飯ちゃんが人造人間と戦ってアボン。トランクスはその怒りでスーパーサイヤ人に覚醒。息子も覚醒するも、キレて理性がぶっ飛んで見境なく周りを攻撃し始める。体を張って止めたラディッツがアボン。息子、どん底。
・過去に行くことになった。せめて自分が産まれなければ、両親は生存してたはず! と思い至った息子、私に自分を生まないように私を説得しに来る。←イマココ
とりあえずツッコミいいかな。
どこのブロッコリーだよお前は!!!! 戦闘力と暴走的な意味で!!!!
しかも衝撃の今明かされる衝撃の真実ゥ! 衝撃2回も書いちまったぜ!
死んだ私をドラゴンボールで生き返らせてくれる人はいなかったの? と聞けば、「魂がこの世界に存在しないから無理」と神龍に言われた模様。これを聞いて仮定したのだが、もしかしてこの世界にとってイレギュラーな私は死んだら元の世界に返品されるのでは? ということ。つまり、ドラゴンボールがあろうとなかろうと、この世界で私は1回でも死ねばそこで正真正銘終わりである! ということだ。マジか……マジか。
色々と聞きすぎて頭が整理できないでいると、瞬間移動で悟空がトランクスを連れてきた。トランクスと息子が「何故言ったんですか! 言わないって約束したでしょう!?」とか「これは僕の問題だ! 口を出さないでくれ!」とか言い争いを始めた。私、とりあえず放置で先ほど「母の形見」として見せて貰った未来の自分の日記のロックを解除して読み始める。悟空がおろおろしながらも仲裁しようとしているのでとりあえず任せた。
何かヒントになることないかなー、くらいの気持ちで読み始めたのだが、思った以上に未来の私の日記を読む作業が苦行だった。何故って、あれだ。未来の私何があった?
多分本人的には気づいてないだろうけど、傍から見れば惚気と丸わかりの夫(遺憾なことに二十日大根である)とのエピソードや日々の感想、夫のどんなところが好きかなど、途中からずっと最終ページに至るまで読まされたのである。もう途中で顔を覆いたくなった。え、いやホント何があった!? 相変わらずひねくれた書き方してるけどベタ惚れじゃねーか。歳考えろ歳!! と途中で何度つっこみそうになったか。
しかしなんとか最後まで読み進めることに成功。
最後の行を読み終わると、未だに言い争い(というかお互いに泣きながら言い合う構図になってた。悟空は隣で頭をかきながら「どうすっかなー……」とぼやいていた。仲裁は無理だったか)を続ける息子と甥っ子に近づき、収拾がつかないので双方に拳骨を叩き込んでおいた。よかった、スーパーサイヤ人化解いてるから効いたみたいだ。
まず、こちらの意見を言う前にお互い言いたいことを短くまとめろと言った。
すると先に口を開いたのはトランクスで「俺は空兄さんが居てくれて本当によかったと思ってる。何度救われたか分からない」「だから自分を消したいなんて、そんな悲しいことを言わないでくれ」と静かに涙を流して言った。
それに対して息子だが、「でも僕は自分が許せない。もう生きてるのが辛いんだ」「けど単に今の僕が死んだって何にもならない……なら、最初から居なかった方が誰もが幸せだった」という自己中リターンである。思いやりある甥っ子の言葉に対して、他人の事を考えているようで実は自分本位とか私の息子すぎて頭を抱えたくなった。おい、変なところばっかり似てくれるな。本人は色々考えて真面目に言ってるんだろうけど、目の前で自分のために涙を流してくれてる人間に対してそれは無いだろ、馬鹿か。そう思ったのでためらいなく顔をパーンっと張って思った事そのまま言ってやった。息子が「またぶたれた……」と言ったのでまたぎゃんぎゃん泣くかと思ったら、「お母さんがぶってくれた」と思いのほかさめざめと泣き始めて凄く気まずかった。ちょ、やめろよ。今どきの怒られたい若者って奴か。やめろよ。
ともかく、自分を消したいなんて言う息子に言うことなんて決まってる。
「ちゃんと母子共に健康体のまま生んでやるから心配すんな! お前らはとりあえずお前らの未来を救うことだけ考えろ!」
いやもう、これしか言うことないだろ。もう細けぇことはいいんだよ。これしか言う事ねーよ。
日記を見たところ、結婚してからの私はかなり緩んでいた。妊娠したこともあって「子育て忙しくなるししょうがないよね! 人造人間編もセル編もみんなが何とかしてくれるに違いない!」と、子育てを言い訳にフェードアウトする気満々だったもの。戦闘関連の修業が途中から完全に消えたよね。
そんな中生まれたのが、母体が耐えられないほどの戦闘力を持つ息子である。何が言いたいかって、これ生む側の私が雑魚いから死んだってことだろ!! 私らしすぎて涙出てくるわ!!
いくら予想出来ないとはいえ、死因の根本が自身の怠惰とか泣ける。そらな、戦闘力10000超えてる状態から地球でスローライフしてたらミイラ先輩に負けるくらい弱体化するくらいだからな。怠けてたら某ブロッコリーみたいな息子なんか産めんわ。というか、さっきスーパーサイヤ人化したらだんだんと理性飛んでたっぽいけど何なのコイツ。マジで伝説のスーパーサイヤ人的な何かなの? こんなん生んだ私すげぇ。活かされないサイヤ人王族スペックが無駄に仕事しやがって……息子にあんなこと言われたら泣けてくるわ。こんな泣き虫になんて力授けてるんだ空気嫁。
息子がまだ泣きながらぎゃんぎゃん言ってたけど、暴走が何だって? 暴走しようが何だろうが、しょせん未来の人造人間に勝てないレベルだろ! そんなん悟空おじさんとベジータおじさんさえ生きてたらあっという間にインフレに置いてかれて雑魚化するわ! これからスーパーサイヤ人パラレル含めて何種類出てくると思ってんだ!! ちょっとぷっつんして暴走したくらいじゃとてもじゃないけどついていけないぞ。この世界ではいくら才能があっても、「強くなろう」という向上心無くしてトップを走り続けるなど出来ないのだ。暴走強化があって伝説のスーパーサイヤ人だったとしても、強すぎちゃってどうしよう!するには思い上がりである。いや、未来世界では正しく厄だろうけど。
お前はとりあえず、次に来たとき多分お前よりすでに強くなってるおじさんたちに修業を見てもらえ、と言っておいた。悟空も「おう、いいぞ!」と了承してくれた。
もうお前、やっちゃったもんは戻らないんだから何かしたいなら自分の力制御して自分たちの世界の平和をつかみ取るしかないだろう。そもそも平和なままだったら覚醒、暴走なんていう流れもなかっただろうに。憎むべきは自分じゃない。その辺はき違えたらダメだろ。そんなような事言ったらまた泣かれて、凄い力で抱き着かれて死ぬかと思った。
ふ、フフン。まだ産んでないけど、この私も親らしいこと出来るまで人間性が育ってるじゃないか。
トランクスは泣いたまま、深く頭を下げてくれた。とりあえず撫でておいた。キューティクルパネェ。
とりあえず、悟空と耳が良いことに定評があるピッコロさんに口止めしとかないとな、と思いつつ、もとの場所に戻って2人を未来へ送り届けた。
心は不思議な充足感で満ちていた。うむ、私は多少なりともあの鬱こじらせてそうな息子を救ってやれたのだ。満足せずにはいられない。
しかしその直後に悟空に耳打ちされた内容に、私の苦悩の日々が始まる。
「そういえば、姉ちゃんはいつ兄ちゃんと結婚して子供産むんだ?」
3年以内の私のミッション。
・息子を無事に産むために体を鍛えるかドラゴンボールに安産祈願する。
・ラディッツと子作り。←
………………………………………………。
あっるぇ!?
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とある世界線の女性の日記
▽月◎日
いよいよ明日子供が生まれる。予定日だ。
今凄く幸せで、不思議な気分。
まさか私が母親になるなど驚きだ。この世界に生まれた当初、こんなことになるとは思っていなかっただろうに。
しかし自分の中に新しい命が宿ったことで、やっとこの世界に足をつけられた気がした。それほどに自分に宿った命は重いということだろう。元気に生まれてきてほしい。
ちょっと最近具合がよろしくないが、これも生まれるまでだろう。つわりって苦しいんだね。
柄ではないけど、明日子供が生まれたらあいつになにか礼でも言ってやろうか。
妊娠してからというもの、過保護に拍車がかかったあいつは正直時々鬱陶しかったが、それも私を心配してくれての事なら気分がいい。いやホント、今も不思議だけど何であいつと結婚してんだろうね私。
でも子供が生まれたら生まれたで忙しいな。未来トランクスが来なかったから、今いる世界は絶望の未来ルートなわけで。産んだら早くドラゴンボール探して孫一家の無病息災を願わないとなー。まだ時間があると呑気にかまえてたらこれだよ。
まあ、悟空の病気さえなんとかなればあとは頼もしいZ戦士に丸投げだけど! はっはっは。子育てがあるから戦えないと言えばだれも何も言えまい。ブルマもそのうちママ友になるだろうから、彼女を味方につければ安泰だ。
明日、なんて言ってやろうか。
めちゃくちゃ恥かしいけど、驚いた顔が見たいからちょっと臭い事でも言ってやるかね! とりあえず肝心なことだけここにメモっといて、あとはアドリブでいこう。お前の子供を産んでやるんだ、泣いて感謝するがいい。えーと、どうしよう……う~ん、こういうのはやっぱりシンプルな方がいいのかな。
よし、これだ。
大好き。私に幸せをくれてありがとう。
これからもずっとそばに居てね。
(日記はここで終わっている)