とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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絶望の未来より

俺はタイムマシンで未来から過去へとたどり着くと、孫悟空さんの代わりにフリーザを倒すという誤算はあったものの無事に過去の母や未来では亡くなった戦士たちとコンタクトを取ることが出来た。いや、無事にというには語弊がある。本来は彼らには会わず、孫さんだけに会う予定だったのだから。俺も無意識に過去の母や父に会う事が出来て喜んでしまっているのだろう。

 先ほどあの人がいきなり自分たちの身の上をばらしてしまうような行動に出た時は冷や冷やしたが、今は大人しく岩の上でその辺に生えていた草を弄っている。あ、草笛を作った。あ、何か細工してる。……昔から器用だったな、そういえば。俺より年上なのに引っ込み思案で大人しくて、声をかけなければいつも一人で遊んでいたっけ。

 

「なあ、どうしたんだ? オラに話があんじゃねぇのか?」

「! す、すみません。少しぼうっとしていました」

 

 孫さんに声をかけられてはっと我に返る。そうだ、先ほど地球に到着したばかりの孫さんにオレ達の事を話さなければ。

 

 俺は自分たちが約20年後の未来からタイムマシンに乗って来たこと、俺が父ベジータの血を引いているためスーパーサイヤ人になれること、3年後に訪れる人造人間の恐怖、その時の戦いで戦士のほとんどが亡くなってしまい、ピッコロさんが死んだためドラゴンボールも使えなくなった事、俺に戦いを教えてくれたがやはり4年前に人造人間に敗れて孫悟飯さんも亡くなった事、孫さん自身は戦えず心臓病で亡くなってしまった事と……短くまとめたものの、20年内に起きた様々なことを話した。

 しかしこんな話をしても、人造人間の恐怖に危機感を覚えるどころか「そんな強い奴らと闘えなくて悔しい」と言う彼には驚かされた。これが純粋なサイヤ人というものか……身近にいる彼も血筋で言えばサイヤ人の純血に当たるのだが、その印象の差に驚きを隠せない。

 

「お、おでれぇたな~! あ、そういえば兄ちゃんと姉ちゃんも死んじまったんか?」

「それは……」

「いいよ、トランクス。僕が話す」

 

 孫さんが話の中で名前の出なかった2人について訊ねてくると、これは俺が話してよいものなのかと言葉に詰まった。すると今まで大人しくしていた彼が岩から腰をあげ、こちらに近づいてきた。

 

「お、さっきから気になってたんだけどよ。トランクスがベジータの子なら、おめぇ姉ちゃんの子供だろ? ははっ、そっくりでオラビックリしちまったぞ!」

「ええ、そうですよ悟空おじさん。初めまして、僕は空龍(くうろん)。孫空龍です」

「へえ~、空龍っちゅうんか。なあなあ、父ちゃんは誰なんだ? でもオラ、ブルマとベジータがくっついたってーんで驚いたからもうビックリしねぇかんな」

 

 鼻の下を指でこすりながら無邪気に笑う孫さんを見ると、本当に強いのか勘繰ってしまいそうになる。しかし先ほど戦ってみてその強さは確認済みだ。強いのに明るくて、生き残る手段や強さを誇示するためなんかじゃなく単純に闘うことが大好きなサイヤ人……母さんや悟飯さんからから聞いていた通りだな。この人からは不思議な魅力を感じる。

 もしこの人が生きていたら、あの絶望の未来でも……もし人造人間に力及ばなくても、何か変わっていたのだろうか。

 

 たとえば、空兄さんのことも。

 

 その生まれから、空兄さんは酷く臆病で悟飯さんと父親にしか心を開かなかった。母が「あんたの従兄弟なんだし、お兄ちゃんて呼んだげたら?」と俺に言ったから、俺も真に受けて兄さん兄さんと後をついて回ったらそのうち俺にも心を開いてくれた。幼い俺はそれがとても嬉しかったのを覚えている。兄さんは泣き虫で臆病だけど、同時にとても優しい人だったから。手先も器用で、物資が少ない中でその辺にあるもので色々作ったり使い方を教えてくれたりして、いろんな遊びを教えてくれたっけ。

 ここ数年……厳密にいえば悟飯さんが亡くなって以来、彼は昔よりさらにふさぎ込むようになった。原因は考えるまでもなく、悟飯さんが亡くなった直後に起きたあの事だろう。

 

 

 

 空兄さんは優しい。

 なのに、なぜあの人があんな力をもってしまったのだろうか。俺はこの世の理不尽というものを憎まずにはいられない。

 

 

 

「父はあそこにいる、あなたの兄ラディッツです」

「い!? そ、そうなんか! オラ、驚かねぇと思ってたけどそれはおどれぇたぞ……ほへ~、兄ちゃんと姉ちゃんがなぁ。でもオラと姉ちゃんは血がつながってねぇし、兄ちゃんともそうだからいいんだよな? けど、なんかややこしいなぁ」

 

 孫さんにとっては片や義理の姉、片や実の兄。考えてみると義理の繋がりを含めれば、空梨おばさんを中心に生き残ったサイヤ人は全員親戚ということになる。そう考えると確かに少し妙な気分だ。

 

 孫空梨さん。サイヤ人としての名前をハーベストというらしい彼女は、本当に空兄さんそっくりだ。初めて見るが、あんまりにも似てたから驚いてしまった。空兄さんが感情を抑えきれなかったのも無理はない……なにせ、彼自身も生まれて初めて目にする母親の生きている姿だ。

 いつも小さな写真を大事そうに、愛おしそうに見ていた。その相手が生きて動いて目の前にいる。それがどんな奇跡であるか、実際父が生きているところを見てこみ上げるものがあった俺にはよくわかる。……逆に、彼の父であるラディッツさんを見るのは辛いだろう。空兄さんは彼が居ることに気づいてるだろうに、さっきから絶対にラディッツさんを見ようとしない。

 

 

 

「そんで、姉ちゃんはどうしたんだ? 姉ちゃん、なよっちそうだけどあれで結構タフだからなぁ……みんな死んじまっても、ぴんぴん生きてそうだぞ」

「死にました」

「え?」

「死にました。僕を生んだ時に。それと、父であるラディッツも4年前に……他でもない、僕に殺されて死んだんです」

「おめぇ、何言って……」

 

 空兄さんは自虐的に笑うと、ここに来る前に約束したことを破る言葉を口にした。

 

 

 

 

 

 

「僕はお母さんに、僕を産まないようにお願いするために未来から来たんです」

 

 

 

 

 

 

 

 


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