《乙女()たちの雑談会》
「そういえば、最近ラディッツとはどうなの?」
あたしが聞けば、向かい側で焼き菓子をつまんでいた空梨が答える。今日はベジータが出かけていて居ないからか、特訓に付き合わされないですむおかげで心なしか機嫌良さそうね。いつもご苦労様だわ。
「え、ラディッツ? あー……あーね。もう暴れる心配もないだろうし、結構自由にさせてるよ。畑と居酒屋は手伝ってくれてるけど。最近はやりたいことでも見つけたのかよく留守にしてる。何やってんだかねー」
思い当たったように答えたけど、あたしが望んでる答えはそれじゃないわよ!
「そ・う・じゃ・な・く・て! 一つ屋根の下で男女が暮らしてんのよ? なんかこう、ないの?」
空梨にはヤムチャの事でよく話を聞いてもらってるけど、向こうからもどうしたら恋人が出来るかとよく相談される。でもあたしにしてみれば、一緒に暮らしてる年の近い男、しかも同族のラディッツがいる時点でそっちの可能性を考えてしまう。これって普通よね?
「ああ、そういうことね。いや無いでしょ。今まで散々苛め抜いたようなもんだし、そんなもの芽生えてたらあいつ真正のマゾだよ」
「じゃあ向こうの意志は置いておいて空梨はどうなわけ? 先に言っておくけど、別に誰かと付き合ったことが無いわけでもないんだからかまととぶった答えはいらないわよ」
「え、」
ずばっと聞けば、空梨は一瞬言葉に詰まる。上手く流したつもりでしょうけど、そうはいかないわよ。あんた意外と押しに弱いって知ってるんだから。ぐいぐい行かせてもらうわ!
「私、私かー……。でも前に言ったじゃない私の好み。包容力があって、私を甘えさせてくれる年上のナイスガイだって。まずラディッツは年下だしさぁ」
「好み云々はどうでもいいのよ。ほらほらごまかさない! 好きになった相手が好みと違うなんてよくあることなんだから、あんたがラディッツに恋愛感情があるかないかが聞きたいのよこっちは! ていうかあたしが言ってあげるわ! 絶対無いって即答しないで誤魔化そうとしてるの見れば空梨的にはまんざらでもないって丸わかりよ! ほらどうなの!? 好きなの!?」
「強引だな!? ちょっと、決めつけるのやめてよね。たしかにラディッツが居なくなった時予想外に寂しかったから私も一瞬考えたよ。え、私あいつのこと好きだったっけ? って」
「やっぱり~!」
「最後まで聞けってば。いや、だからさ。考えたけど、やっぱり違うなって気もしてさ」
「え~」
「不満そうな声出さないの。だーかーらぁ、寂しかったって言っても、よく考えればあいつ悟空の兄貴じゃん? つまり私の弟みたいなもんじゃん? だから知らないうちに身内認定してただけって思うわけ。つまり恋愛感情じゃないと」
「でも血はつながってないじゃない」
「やけに引っ張るな……」
「だって面白そうだもの」
「人の恋愛話が面白いのはよくわかるけど、自分がその対象になるのは勘弁だわ……」
「あんたあれだけ散々人に恋愛相談しといてそれ言うわけ」
「あ、スンマセン。いつもお世話になってます」
うーん、この様子だと今のところは空梨にその気はないみたいね。つまんないの! でもいつ気が変わるか分からないし、こうして時々つついてやりましょうか。
「ところでヤムチャくんとは最近どう?」
「そうそう! 聞いてよ。この前あいつったらまた……」
(乙女たちの話題は移ろい易い)
《傲慢王子と弱虫二十日大根》
「俺に鍛えてほしいだと? フン、面白くないジョークだぜ。弱虫ラディッツさんよぉ」
予想はしていたがベジータは馬鹿にしたように笑って、俺の申し出はすげなく断られた。
まあこれくらいは予想済みだ。というか、以前自分を殺した相手の仲間にこんなこと頼んでいる俺も俺でたいがい馬鹿だしな。だが、背に腹は代えられん。フリーザが居なくなったとはいえ、何故だかこいつもこいつで修業ばかりしているようだし……他にあても無い。
「頼む。俺もサイヤ人として、このまま弱いのは嫌なんだ」
「ほう、いい心がけだ。だが俺は貴様に付き合っている暇はない。サンドバッグにもならん奴相手に割く時間なぞ無駄でしかない」
くっ、やはり駄目か。
ナッパとの戦いで死んだ俺だったが、何故か気づいたら生き返っていた。
わざわざ俺を生き返らせた理由がわからず聞けば空梨の奴は「寂しかったから」などとぬかしやがる。す、少し驚いたがどうせ雑用が居なくて不便だったとかその程度の理由だろう。そうだろう。そうに違いない。
そして再び地球での生活が始まったわけだが、俺が死んでいる間の話を聞いて正直どこから突っ込めばいいのか分からなかった。
まずカカロットが伝説のスーパーサイヤ人になってフリーザを倒したというところで思考が停止した。何だって? いったい俺が死んでいる間に何があったんだ!! ことのあらましを聞いて理由は分かったが、後に残ったのは酷い焦燥感だった。
カカロットもそうだが、いつの間にかこの短期間で地球人の奴らまで恐ろしく強くなってやがる。聞けばギニュー特戦隊と戦って勝った奴まで居るそうじゃないか。俺も生き返った影響か多少戦闘力は上がったのだが、そんなもの奴らに比べればゴミみたいなもんだ。
せっかく生き返ったのだ。今度こそサイヤ人として、死んだ親父にも恥じないような強さを手に入れたい。そう考えた俺は、空梨に行動の制限を解かれたこともあって一人修業を始めた。しかし俺一人どうやったって、劇的に成長できるはずもなくすぐに行き詰った。かといって空梨に修業に付き合ってもらうのは嫌だった。どうせなら、強くなってから見せつけてやりたい。(奴の戦闘力も恐ろしく上がっていたことは考えん、考えんぞ!)
そこで苦渋の決断をした俺は、何故か俺と同じように地球で暮らし始めたベジータに修業相手を頼むことにした。同じサイヤ人のよしみで了承してくれるかもしれないと考えたが、やはりそれは甘かったようだ。サンドバッグにもならない……たしかにそうだろうな。今の俺がベジータの本気の一撃を受ければ、すぐにサイヤ人のミンチの出来上がりだろう。それくらいの力の差があるってのはわかる。
「ククッ、俺に頼むくらいならサイバイマン相手に訓練した方がまだ有意義じゃないのか? 聞いたぞ。あの馬鹿女、サイバイマンに農作業をやらせているらしいな。6匹もいるんだ。どれか訓練用にもらったらどうだ」
「ぐッ。あ、あいつらはあいつらで忙しいんだ」
まともに言い返せないところが辛い。サイバイマンを農作業に使っていると聞いたときは驚いたが、奴らが整備した畑を見てもっと驚いた。まるで野菜たちが輝いてるように見えたぜ……。しかもあいつらそれなりに強いぞ。ベジータの言うように、今の俺には一番お似合いの修業相手かもな……笑っちまうぜ。
強くなろうにも、その手段が無い。せっかく決意したってのにどうすりゃいいんだ。
「……いや、待てよ。たしかお前ハーベストと一緒に暮らしてるんだったな」
「あ、ああ。そうだが」
「いいだろう。鍛えてやる」
「な!?」
どういう風の吹き回しだ!?
「雑魚だと思ってた下僕に刃向かわれたらどんな気分だろうな。ククク……奴の間抜け面を想像するだけで気分がいいぜ。だが、やるからには片手間とはいえ容赦はせんぞ。死んでも知らんがそれでもいいのか?」
そういうことか……。ベジータと空梨は姉弟だが、本当に仲が悪いらしい。俺をわざわざ鍛えてまで嫌がらせしたいとなると相当だぞ。
だが、俺にとっては都合がいい。
「ああ、構わん」
俺はこう言ったことを後で少し後悔する。しかし自分で決めたことだ。
親父、見ていろよ。俺だってサイヤ人だ! きっと強くなってやる!!
《神とピッコロ》
「お前から神殿に来るなど、どんな心境の変化だ?」
わたしが聞くと、ピッコロの奴は嫌そうに顔をしかめた。そんな顔をするくらいなら来なければいいものを……。
「……これだけ渡しに来ただけだ」
「!? 何を……!」
言うや否や、ピッコロの手が私の額を覆っていた。とっさに振り払おうとしたが、流れ込んできた映像に私は動きを止めた。
流れてきた映像には、どこか懐かしい風景と2人のナメック星人が映っていた。一人は大人で、一人は子供。ま、まさかこれは……!
「俺たちの親父殿らしい。それと、昔の俺たちだ。一人だったころのな」
「ぴ、ピッコロよ。この記憶はまさか……」
「俺と同化した最長老の物だ。俺は嫌だったんだが、同化の影響なのかこれをお前に見せんと最長老として残った部分が落ち着かなかったようでな……まったく鬱陶しいぜ」
そう悪態をつきながらも、ピッコロからは以前のような邪悪さはあまり感じられなくなっていた。父である大魔王から分身として生まれた影響もあるのだろうが、孫悟空の子供の面倒を見た後、最長老様と同化してからとそのあり方は段々と変わってきているように思う。最早、ただの悪としての片割れではないのかもしれんな。もうこやつは一人の確固たる存在なのだ。
「そうか……。しかし、感謝しよう。失われた記憶をこうして再び見ることが出来るとは思わなかった」
故に、感謝の言葉もごく自然に零れ落ちた。以前では考えられなかったことだ。
「チッ、貴様に感謝されても気持ち悪いだけだ。じゃあな」
言うなり、ピッコロはさっさと神殿から去ってしまった。本当にあの記憶を届けに来ただけのようだ。
「……。ミスターポポや」
「はい、神様」
私は神になってから今までずっと支えてくれたミスターポポを呼ぶとこう言った。
「私も年だ。いずれ死ぬだろう。だがもし……もし、ピッコロがあのまま変われば……私は再びあ奴と同化しても構わないと思っている」
「!? か、神様、それは……」
「可笑しいだろう? 以前はあ奴を封印するか倒すことばかり考えておったのに。だが、世とは常に変化し神たる私でもすべて捉えられぬ。それは人の心も同じこと。ピッコロは変わった。だからこその考えだ……その時は人格は奴に託そう。そうすれば、いずれまた地球に危機が迫っても力になれるだろうからな」
我が故郷たるナメック星の最長老様が認めて同化までしたのだ。私も奴を信じてみてもよいのかもしれぬ。
「まあ、私もすぐに死ぬ気はない。いずれ、という話だ。悪かったな、今のは忘れておくれ」
しかし神としての勘か、その時は近いようにも思える。
それまでは神として、出来る限りのことをしておこう。そうそう、前回からそろそろ1年経つ。またドラゴンボールを集めて、ナメック星の同胞らを生き返らせなければな。
それと神としての心得を書にしたためておくか。うむ、やることはまだ多そうだ。
悟空帰還までの1年間での出来事小話3個でした。