とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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ベジータの回想

 俺には2歳年上の姉がいる。奴を姉などと認めたくはないが、まあ関係性で言えばそれしか当てはまらない。この時ばかりは、何故せめて俺を先に産まなかったと亡き母への恨み言を思う。奴が妹ならば、まだ寛大な心を向けてやれただろう……いや、それは無理か。しかしあのクソ女が「姉の方が偉いにきまってんだろ」とむやみやたらと俺に偉ぶることはなかったはずだぜクソッタレ!

 

 幼いころから俺はエリートで戦いの超天才だった。周囲もそれを認め、それを裏付けするように実力は鍛えれば鍛えるほど高まる……それに絶対的な自信も持っていた。戦闘民族サイヤ人としての、王族としての誇りが育まれるには十分すぎる環境だったさ。

 だからこそ、成長するにつれてやつの存在が鼻につくようになってきた。

 俺と同じく戦いの英才教育を受けておきながら、俺が早くも惑星の制圧をする仕事をしている傍らあいつは惑星ベジータから出ることは無かった。俺が様子を見るときは決まって何かの本を抱えて勉強している。「弟を支えるために勉強を欠かさない思慮深い姫君」などと評されていたが、それが俺にはひどく惰弱に見えたものだ。

 そうなると姉を尊敬する心など生まれることもなく、俺のが凄い、俺こそナンバーワンだと姉を見下すようになった。が、そんな時だ。あの忌々しい姉が俺と戦闘訓練をしたいなどと言ってきたのは。俺はどちらが偉いか分からせてやるチャンスだと思いそれを了承した。

 

 結果は今でも思い出したくもない。この俺が……この、俺が! 何もできずに一方的に負けたんだ!! あの引きこもり女に、いくつもの戦いを経験したこの俺が!!

 

 そこで引くベジータ様じゃあない。当然だ。「雑魚ばっか相手に勝っていい気になってるからだよ。この格上の、この格上のお姉さまに勝とうなんてちょ~っと思い上がりも甚だしいわー。これを機にお姉さまを敬ってどっかの星に行ったら美味しいスイーツでも土産にして献上したまえよベジータちゃん」などと!! 今でも一字一句思い出せるわあのクソ女が!! そんなことを言われておとなしく引き下がれば、こいつは増長する。間違いなくいい気になる。そして俺をなめくさる。幼いながら悟った俺は、自分のプライドにかけて絶対にこの姉とかいう不愉快な生き物に屈してなるものかと誓った。

 

 それからだ。姉弟だというのにほとんど接点のなかった奴と頻繁にかかわるようになったのは。

 会えば喧嘩や罵り合いは当たり前で、俺はどこそこ構わず戦いを仕掛けたが力は同じか奴のが多少上……結果は引き分けか負けるかのどちらかだった。後で仕掛けた側の俺に戦闘の損害を全てかぶせてくるハーベストの奴に、何度はらわたが煮えくり返ったか知れん。

 そういえばいつも視界の隅にナッパがいやがったな。昔は奴にも髪の毛があった気がしたが、何回目かの喧嘩の後で黒焦げで転がってたのを見て以来スキンヘッドだ。奴はそれから絶対に喧嘩が終わるまで俺たちの近くに寄らなくなった。たまにエネルギー波がぶち当たっていたが。

 

 ハーベスト。奴は外面がいい。

 フリーザ様にまで「あなたは良い姉を持ちましたねぇ。2人そろって将来私に仕えてくれるのが今から楽しみです。ホッホッホ」などと言われたことがある。一回も星の制圧に貢献していないというのに、俺と同列に扱われているのにはムカついたぜ。

 ますます気に入らなかったが、奴の猫かぶりとゴマの擦り方といったら一級品だ。これだけは認めてやる。褒めるつもりは微塵もないがな!

 外面では「思慮深い姫」として期待を集め、俺に対してはただの自己中な我儘クソ女。それが奴だ。

 

 

 地球とかいう星で再会した時、面を見た時から訳もなく湧き上がる本能的な苛立ちに「まさか」と思った。だが、いくら年を取ろうが奴は奴だったようだ。たった一言でこの俺の怒りを最大限に引き出す奴なぞハーベスト以外には考えられん。

 どうやって生き残ったかは知らんが、いかにも軟弱そうな星に住み着いたことをいいことに悠々と自堕落な生活しているのがすぐにわかった。戦闘民族サイヤ人にあるまじき、服の間からはみ出る紐で縛った肉みてぇな肉体を見ればな!! 改めてこの女と血の繋がりがある事実に怒りがわいたぜ。

 

 そのまま戦うことになったが、奴の戦闘力は初め9000程度だった。しかし地球で身に着けた技術なのか、戦い始めた途端一気にそれが21000にまで跳ね上がったのだ。それについて俺が感じた感情は、焦りでもなんでもなく単純な怒り。今まで戦い続けて研鑽を重ねてきた俺とこの豚女が互角の戦闘力だと!? ふざけるな! とな。

 だが、やはり戦い続けてきた俺と奴の間には戦闘力程度では覆せない大きな壁があったようだ。馬鹿め、エネルギー波ばかり撃って近づいてこないことから接近戦が苦手なことが丸わかりだ。接近戦に持ち込んでからは「その戦闘力は飾りか?」と言いたくなるほどあっけなかったぜ。ここ数年で一番心が晴れた瞬間だったな。一方的になぶるのは痛快だったぜ。

 一瞬このまま爆散させて花火にでもしてやればもっと清々しい気持ちになるか? とも考えた。が、それでは生ぬるい。幼い頃とはいえ奴から受けた数々の屈辱、一回殺しただけでは殺し足りん!! そうだな、持って帰って「ベジータ様」とでも呼ばせて這いつくばらせ、頭を踏んでやりながらこき使うってのはどうだ? 我ながらいいアイディアだ。しみったれた顔で家畜のように付き従う奴を想像すれば、多少の溜飲も下がるってもんだ。

 

 

 だが俺はハーベストと戦った後、新たな怒りの対象に出会うことになる。

 

 下級戦士であるはずのカカロットに、この俺が……この俺が負けただと!?

 

 

 先ほど惑星フリーザno79に到着し、メディカルマシーンで傷の回復を行っている。

 あんな雑魚に構っている暇はない。回復次第再び地球に向かい、俺をコケにしてくれた連中を全て木っ端みじんにしてやるぜ!!

 

 

 

 

 

 


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