世界が蘇り、生命の息吹が宇宙に吹き荒れ満たされた。そしてその中心となった地球で、二人の神が対峙する。
私たちは彼らを遠目に見守った。
今は割って入っていい雰囲気では無いと、あの悟空ですら空気を読んで黙って様子を窺っている。
「馬鹿な……。あと少しで……あと少しで、私の理想は完成したのだ。それを何故、私自身が邪魔をする。何故分からない? 何故分かってくれない! 私の正義とお前の正義、同じ私で何故違う! 何が違う!?」
「…………お前は私。私はお前。だからお前の気持ちが分からないわけではないのだ」
「ならば何故!」
合体ザマスは喉が裂けてしまうんじゃないかってくらい悲痛な声で叫んだ。それに対して界王神であるザマスさんは淡々と、しかし温かみのある穏やかな声で語る。
「……だが、今となってはいかに自分が独りよがりなものの見方をしていたのかよくわかる。お前を目の当たりにすることによって、余計にな。しかし、私がこうなれたのは出会いに恵まれただけのこと。シン殿と出会わなければ、私もお前と同じ道を辿っていただろう。満たされぬ心のままに、身勝手な理想を正義という言葉で飾りながら突き進んでいたはずだ。だからこそ一人で思い悩みこうなってしまったお前を、憐れにも思う」
「憐れみなどいらぬ! 許さん……貴様だけは絶対に許さんぞ。貴様を殺して、私は再び人間0計画を進める。何度邪魔されようと、私は諦めない!」
「させん。お前の理想は今日をもって未完で終わるのだ! せめてかつては同じ正義を志した者として、私がお前の幕を引こう」
「ほざけ!」
激高した合体ザマスがザマスさんに襲い掛かる。それに対してザマスさんも決意のこもった表情で応戦し……二人の神の戦いが幕を開けた。
しかしその戦いは見ていて気が気じゃなかった。だっていくらザマスさんの決意が強くても、悟空の体を持つブラックと合体した合体ザマスとザマスさんでは地力に差がありすぎる。今でこそザマスさんは自分の動きがベースだからか、ザマスの行動を先読みして受け流しつつ応戦出来ているが……おそらくそれも時間の問題だろう。
案の定、少しするとザマスさんが苦戦し始めた。
「なあ、ザマス様ー! 手を貸そうかー!? あんたも強いけどよ、多分そいつに一人で勝つのは無理だぜー!」
戦いの余波から町を守りつつ、平行世界の悟空が声を張り上げてザマスさんに呼びかけた。しかし答えを返す余裕もないのか、ザマスさんからの返答はない。
「……やっぱキツそうだなぁ。よっし、オラ行ってくっぞ!」
「待てカカロット! まず瞬間移動を使って、戦いの場所を移させろ。ここでは俺たち全員思うように動けん!」
ベジータの言う通り現在私たちは飛んでくる流れエネルギー弾や衝撃波から蘇った町や人々を守るのに忙しく、戦いを横目に見つつもなかなか参戦出来ずにいた。このまま戦いが長引けばそのうち被害が出てくるだろうし、場所を移す案は賛成だ。
「お、それもそうだな。よし、オラはザマスを移動させっから、オラはザマス様を頼む!」
「おう! ……でもよぉ、やっぱ同じ奴が2人居るとややこしいなぁ」
「それは見てるこっちの台詞だよ」
「同感です」
悟空の言葉に思わず突っ込めば、悟飯ちゃんが同意してくれた。だよな。違和感なさ過ぎて、時々どっちがこっちの悟空でどっちが平行世界の悟空か分からなくなる。お前ら自分と会話しててよく混乱しないよな。
とりあえずベジータの提案を悟空が実行する形で、戦いの舞台は都からほど近い荒野に移された。
本当はもっと遠くに場所を移したかったんだけど、そうなると悟空が知っている誰かの気を目標にしないと移動できないからな。それはこの世界だとちょっと難しいし、出来たとしても結局人の居る場所になってしまう。なのでやむをえず、視覚が届く範囲にあったその場所に決めたのだ。
けど都のど真ん中で戦うよりは遥かにましだろう。ただでさえ生き返ったばかりの人が多いんだ……。戦いの余波を防いでも現状を把握できずに人々がパニックを起こしかけていたし、そうなると出なくていい被害まで出てくる。いくらか現状を理解しているレジスタンスらしき人たちが誘導を始めてくれていたのが救いか。
「ここは任せてください! まだよく分かってないけど……私たちはあなた方を信じます!」と言って送り出してくれた、さっきトランクスの名前を呼ぼうとしていた黒髪の女性が頼もしかった。トランクスは先ほど目の前で跡形もなく消えてしまった彼女の元気な姿に一瞬目を潤ませたけど、ぐっとこらえてから力強く頷いて「ああ、任せろ! ここは頼んだぞ、マイ!」と答えていた。
そのやりとりにちょっとほっこりしつつ、悟空たちがザマスとザマスさんを連れて瞬間移動すると私たちもすぐに空を飛んで後を追う。
そしてさほど時間をおかず追い付いたはずなのだが、戦いが見えてきたと思ったら悟空が2人とも合体ザマスに吹き飛ばされてて思わず「えっ」って声出たわ。
ちょ、おい待て思ったより強ぇじゃねーかあの増毛ザマス!
見ればザマスさんも手痛い攻撃をくらったのか、わき腹から血を流して荒い息をついており、慌てて界王神様が仙豆を持って彼のもとに駆けつけた。そして私と弟の方のベジータで、追撃を仕掛けようとしていた合体ザマスの攻撃をバリアを張って防ぎ事なきを得る。しかし合体ザマスがいつの間にか背後に浮かべていた光輪から放たれた光の矢のような攻撃はなかなか強力で、バリアにうけた衝撃に思わずたじろぐ。
今の攻撃といい、ザマスさんと悟空達が短時間の間にここまで追い詰められたことといい、やはりあの合体ザマス強い。
当の奴はといえばさっきまで焦燥感たっぷりだったくせに、今では余裕の笑みを浮かべていた。
平行世界のベジータとラディッツが左右から攻撃を仕掛けたが、それも余裕でいなしている。…………どうやらポタラでの合体というものは、私たちの想像以上に凄まじい力をもたらすもののようだ。ブウ戦では悟空とベジータの融合体であるベジットをついぞ見ることが無かったからか、ちょっと甘く見過ぎていたかもしれない。
そのうえ奴は更に面倒くさいことをしてきやがった。
合体ザマスは手に紫色のエネルギーを凝縮させ、死神の鎌を彷彿とさせる武器を形作るとそれを空中を切り裂くようにふるう。すると空が裂け、赤紫色の奇妙な空間がぱっくりと口をあけた。
「見よ! これこそが真の神の御業だ! ククク……自分たちの無力さを、その身でもって思い知るがいい! はーはははははははは!」
ザマスの哄笑が響く中、その空間からいくつか薄く輝く煙のようなものが漏れ出てくる。そしてその煙は、なんと合体ザマスと同じ姿に変化した。色がちょっと2Pキャラっぽいけど、まあそこはどうでもいい。問題はそいつらも普通に強いってことだ。
「くっそ邪魔くさい!」
「まったくだぜ!」
数で攻めようとするこちらの意図に対して、奴のアンサーもまた実にシンプルだった。数に対抗するには数というわけだ。いやそれにしてもいきなり色々出来るようになりすぎだけどな! 本当に面倒くさいなこいつ!
流石にオリジナルほどの強さは無いが、そいつらは合体ザマスとザマスさんの戦いから私たちを遠ざけるための壁としては実に優秀だった。そこそこ倒すのに手間取る上に、倒せばおかわりとばかりに次々と裂けた異空間から新たな2Pザマスが現れるのだ。凄まじく鬱陶しい。おかげでせっかくの戦力もそいつらの対処に追われて活かすことが出来ない。せめて魔封波を使える悟飯ちゃんを先に行かせたいが、それもままならず焦燥が募った。
見ればザマスさんは界王神様が仙豆を届けたおかげで回復はしたものの、すぐに始まった合体ザマスの集中攻撃に再び苦戦を強いられていた。どうやら奴はザマスさんを先に徹底的に叩き潰すつもりのようだ。しかもザマスさんは近くに居る界王神様をかばいながらの戦いなので、遠目に見てもかなり危ない。
しかしそんな歯がゆい状況の中……2Pザマスの壁を抜けて、真っ先にザマスさんのもとに駆け付けた者が居た。
トランクスである。
トランクスはブレード状に変化した気でザマスさんに切りかかっていた合体ザマスの攻撃を、自らの剣で受け止めた。
「! トランクス!」
「ザマスさん、俺も一緒に戦います!」
「フンッ、トランクスか。ここまで来られたことは褒めてやるが、お前程度に何が出来る?」
「黙れ! 貴様にこれ以上好きなようにはさせない。この世界を……俺の故郷を、今度こそ守ってみせる!!」
そう言ったトランクスの気迫は凄まじく、ブルー状態の悟空2人を退けたザマスに対して一歩も引かず剣戟を交わしていた。よくよく見ると、心なしかスーパーサイヤ人の黄金の光の中に青白い光がちらちらと混じっている。
「ほう、もしや俺たちのブルーを見て覚醒しかけているのか。流石俺の息子だ」
「いや、あれは俺の息子だ」
キングとエンペラーがうるせぇ。
褒めたくなる気持ちは分かるけど、そういうの後にしてくれよ! 気が散るから! あとそれ本人の前で言ってやれよな!
しかしトランクスの健闘も長くは続かず、彼の剣が甲高い音を響かせる。刀身が折れたのだ。
同時に合体ザマスの拳がトランクスの腹をえぐるように打ち抜き、トランクスが胃液を吐き出す。
「くぁ!」
「無様だなぁ、トランクスよ。所詮お前ごときに世界を守ることなど出来ないのさ。あの世で待っているがいい。すぐに蘇ったお前の仲間たちも送り返してやろう」
合体ザマスの気の刃がトランクスに迫る。が、今度はそれをザマスさんが受け止めた。
「クククッ、弱者同士の助け合いとは実に健気だ。だが、圧倒的な力の前には無力!」
合体ザマスはそう言うと、背後の光輪を輝かせ無数の光の矢で2人を襲った。それをなんとか防ぐも、トランクスもザマスさんも浅くない傷を負う。すかさず界王神様が仙豆を渡して回復させるが、その戦力差は簡単に覆せるものでは無いと誰の目にも明らかだった。
「くっ、すまない……! 見栄を張っておきながらこの様とは……。情けないな、私は」
「謝らないでください! 俺はあなたのお陰で再び守るべきものを取り戻せたんです。それがどれだけ、俺にとって救いだったか……!」
「喋っている暇などあるのか?」
ザマスさんとトランクスが会話する暇も与えず合体ザマスは追撃を仕掛ける。ああもう、腹立つな!!隣を見れば、同じく苛立っているベジータが目に映った。こっちは平行世界のベジータだな。まあどっちでもいいや。
私は目の前に居た2Pザマス一体の腹を貫くと、ベジータが受け持っていた分の2Pザマスの攻撃を受け止めた。
「! お前は」
「今のうちだ! やれ!」
私の意図をくみ取ったのか、ベジータはすぐさまブルー状態で気を高め始めた。そしてその照準を合体ザマスに合わせる。
「調子に……乗るなぁぁぁぁああああ!! ファイナルフラァッシュ!!」
「何!?」
横殴りに押し寄せたベジータのファイナルフラッシュに、合体ザマスの意識がそれる。そして待ってましたとばかりに、2Pザマスを相手取りながらも威力の差はあれどそれぞれが思い思いに気弾やらエネルギー波を放った。全員私たちと同じく2Pザマスの足止めには相当イラついてたみたいだな。
そして合体ザマスがそれに対処する間、ザマスさんとトランクスに一瞬の間が出来た。するとザマスさんが逡巡した後、トランクスを真剣な目で見つめる。どうやら何か思いついたようだ。
「トランクス。私と共に、戦ってくれるか」
「? もちろんですよ! さあ、父さんが奴の意識をそらしてくれました。今のうちに一緒に攻撃を……」
「いや、違う。これを身につけてほしいのだ」
「これは……」
トランクスに渡されたのは、ザマスさんが右耳につけていたポタラだった。それを見て合点がいったのが界王神様だ。私やセル、ベジータと悟空(合体経験がある平行世界組の方)なんかもすぐにその意図に気づいたものの、トランクスはさっきの一瞬しかポタラの効果を目にしていないから渡された物がなんなのか分からず困惑しているようだ。
まあ宇宙ザマスのインパクトが強すぎたしな……。私と界王神様、ブルマが地球に帰ってきた時はすでに宇宙ザマスなんてわけわかんないものが爆誕してたからポタラでの合体シーンは直接見ていないのだけど、見てたとしてもあんなトイレットペーパー見た後じゃ合体の印象が薄れてもしゃーないわ。
とりあえず、ここは解説役を界王神様に任せよう。何だかんだで私たち、多少余裕はあるけど助けに行けるほど2Pザマス達を押しても居ないわけだし。本当にあとからあとから出てきて鬱陶しいことこの上ない。あの変な空間の裂け目をどうにかできればいいんだけど……。
「! なるほど、ザマスに対抗してこちらも融合というわけですか!」
「融合!?」
「ええ! あのザマスの両耳のポタラを見るに、ザマスとブラックも融合したのでしょう? このポタラは、他者同士を結び付けて更なる力を手にすることが出来る界王神の秘宝なのです。本来は一度合体すればもとには戻れないのですが、それは神同士での場合。トランクスさんは神ではありませんから、おそらく時間が経過すれば分離できるでしょう。もし出来なくても、今ならナメック星のドラゴンボールで元に戻れるはずです!」
界王神様解説乙! っていうか使うのが神じゃなければ時間の経過で元に戻れるとか初めて知ったんだけど。戻れない場合っていうのは片方が神であるザマスさんだからってことか。魔法使いのばあさんと合体して元に戻れてない老界王神様の例があるしな……。でもその点は界王神様自身がドラゴンボールでキビトさんと分離した経験があるから心配ないだろう。困った時のドラゴンボール様様である。
ポタラの効果を聞いたトランクスは緊張のためかごくりと唾を飲み込んだものの、すぐに口元に笑みを浮かべてポタラをザマスさんから受け取った。そしてそれを躊躇なく右耳に装着する。
「共に戦いましょう、ザマスさん」
「……! 感謝する」
トランクスとザマスさん……二人の姿が重なり、光が弾ける。
その光はザマスとブラックが合体した時の物に似ていたが、とても……とても美しく見えた。
そして、光の中から一人の戦士が姿を現す。
それに気づいたザマスが忌々し気に眉根をよせた。
「どこまでも私の邪魔をしようというのか……!」
『ああ、もちろんだ。さあ、これでお互い神と人間の融合体……仕切り直しと行こうか』
ザマスさんの時よりやや薄い緑色の肌に、とがった耳。半分刈り上げたような髪型で、もう半分の逆立つ髪は白髪と青髪の二色。目元は凛々しくトランクスよりだが、トランクスの時より黒目が大きく印象的になっていた。赤いスカーフをなびかせ、トランクスのジャケットとザマスさんの衣装の特徴を備えた服でその身を包む戦士はすっと美しい所作で構える。刀身が砕けた剣は、気の刃によってその姿が補完された。その刃の色は夜空を閉じ込めたような紺碧だ。
そして彼から立ち上るオーラは神の気がもたらす影響なのか、ロゼと名乗るブラックのスーパーサイヤ人に少し似ていて紫がかって見えた。しかし受ける印象がまるで違う。
トランクスとザマスさんが融合したその戦士が放つ気は、まるで早朝の空の色……暁を彷彿とさせた。
「青いのか緑なのか白なのか紫なのか……最早何色だかわからんな。だがせっかくの記念だ。この究極神が一つ名づけてやろう。そうだな……トランクスの髪と瞳の色、ザマスの肌の色で奇しくも地球カラー。スーパーサイヤ人アース、というのはどうかね?」
「いや、もうなんでもいいよ……」
2Pザマスの顔面に蹴りをめり込ませていたら、丁度近くに来ていたセルがエネルギー波で2Pザマスを2、3体吹き飛ばしながらなんか言ってた。おい、お前実はけっこう余裕あるだろ。
でも余裕が出てきたのはセルだけではなかったようだ。コツを掴んだのか、悟空やベジータ、悟飯ちゃんも数体を同時に片付けながら会話している。ラディッツだけまだ苦戦してるのがちょっとしょっぱい気分になった。
「ひゃーっ! 強そうだなぁあいつ!」
「な! オラも戦ってみてぇぞ! 名前はザマスとトランクスだから、ザマンクスかな?」
「いえ、トラスかもしれませんよ」
「どちらでもいいが、この分では俺たちの仕事は雑魚散らしだけか。チッ、わざわざ別の世界の未来まで来たというのに……」
「しかし、ここは本来トランクスが守る未来だ。トランクスは自分の世界を守るため、ザマスは自分の始末をつけるため。……ふさわしい組み合わせかもな」
「……それもそうだな」
短い会話を交わすと、それぞれ再び2Pザマスを相手に戦いはじめる。ベジータの言う通り、合体ザマスと決着をつけるにはあの2人こそふさわしいのかもしれない。だったらせめて私たちは、戦いに邪魔が入らないようにこいつらを蹴散らし続けるだけだ。
しかし誰もが予感を感じていた。
この戦い……もうすぐ決着がつく、と。
頂いた感想に後押しされて一気に進めようとしたのに終わらなかったorz 超編、あとちょっとお付き合いいただけたら幸いです。