神様とあの世の死者の列に並びながら、生きていた時のことを思い出す。つってもついさっきまでの事なんだけどな。
オラには空梨ってねーちゃんがいる。ずっと一緒に暮らしてきたけど、ねーちゃんが戦うところを今まで見たことがなかった。昔から畑で何かしてるか飯作ってくれてた事くらいしか覚えてねぇかなー。
そのねーちゃんが、オラ達が苦戦していた敵を一発で殴り倒したところをたしかに見たんだ。
オラが覚えてるのはそこまでで次に気づいたらあの世だったけど、神様に聞いたらそれは幻なんかじゃなくて本当の事で、悟飯たちが助かったことを確認して安心した。死ぬ前になんでかあいつの怪我が治って気が倍増した時は焦ったぞ。でも、だからってあいつが死んだわけじゃねぇみてーだ。今閻魔様に聞いたけどあの世には来てないらしい。
それとこれは神様に聞いたことだけど、1年後にあいつよりもっと強い2人のサイヤ人が来るっていうじゃねぇか! こうしちゃいられねぇってんで、オラは神様の勧めで界王様って人んとこに修業に行くことにした。何でも、あいつを簡単に押さえつけることが出来るくらい強い閻魔様よりもっと強いらしい。ひゃー! 世の中にはまだまだ強ぇ奴が一杯いるんだな!
倒された敵はラディッツっていうオラの兄ちゃんを名乗る奴だった。しかもオラが地球人じゃなくて、戦闘民族サイヤ人っていう宇宙人なんだってことまで言ってくる。
オラ信じられなくて、つい「だったらねーちゃんも……?」って口を滑らしちまった。そしたらあいつ、ラディッツは「貴様に姉などおらん。兄弟はこの俺、兄であるラディッツだけだ」と言った。それを聞いたブルマが「え、でもあの子にも孫くんと同じ尻尾が……」と言うと、ラディッツは面白そうに笑いだしたんだ。
「ほう、ならばサイヤ人か! 面白い、女のサイヤ人の生き残りがいたとはな。……どれ、この後挨拶に行ってやるか」
それを聞いて、悟飯まで連れて行かれそうになって必死に止めた。けどオラ一人じゃ全然敵わなくて、結局行かせちまったんだ。悟飯だけじゃなくてねーちゃんまで守れなかった。オラ、悔しくてたまんなかったぞ。
だけど、守られたのはオラ達の方だった。
あんな凄ぇ奴を一発でのしちまったんだ!
「くっそ~。もったいないことしたなぁ……」
「? どうした。もったいないとは何のことだ?」
「あり、オラ口に出してたか?」
「ああ」
「そっか。いやさあ」
閻魔様のとこから界王様んとこに行くってんで、神様と入り口で別れることになった。そのときオラの独り言が聞こえたみてーだな。
「今までずっと凄く強いやつが近くに居たのに、一回も戦わなかったなんてすっげーもったいないことしたと思ってさ」
「……お前の姉、空梨のことか?」
「おう! ねーちゃんがねーちゃんじゃないとか、それが本当なのか分かんないけどよ。オラ、生き返ってサイヤ人たちを倒したらぜってぇねーちゃんと一緒に修業してみてぇんだ!」
「そ、そうか。しかし悟空よ、彼女は本当に信用出来る人間か?」
「? どういうことだ?」
「おぬしの兄、ラディッツをどうやら生かすことに決めたようだぞ。しかもあの者はお前たちの戦いに入ってくることはなく、結果それがお前を死なせることにもつながった。もっと早く介入しておればおぬしは生きておっただろうに……。そのことについて恨んではおらぬのか」
「ん? う~ん……」
聞かれたから考えてみるけど、別にねーちゃんを恨むような気持ちは無いな。ただやっぱり戦ってみたかったなってのはあるけど。
「別に恨んでなんかねぇぞ? 最後は助けてくれたしな! あいつを生かしたのだって何か考えがあるのかもしんねぇし、それは生き返ったら聞くさ!」
「おぬしという男は本当に……。はあ、色々心配しておる私が馬鹿みたいではないか。ほれ、さっさと行け。ここ1年が勝負じゃからな。頑張るのだぞ」
そう言うと、神様は疲れたみたいに息を吐くと背を丸めて先に行っちまった。なんだよー、聞いてきたのは自分のくせに。
「ま、いっか」
よっし!蛇の道っちゅーとこをさっさと越えて界王様の所に行くぞ! それで、もっともっと強くなってやる!
待ってろよ皆。オラ、強くなって帰るからな!
短いけど悟空視点でのあの世でのお話。