幾多の惑星が浮かぶ空の下。純白の羽が紫色の血に染まり、宙に舞った。同時に緑色に黒の斑点が散らされた、肌とも装甲とも呼べるその一部が肉塊と共に地面に落ちる。
「がっ、は……!」
紫色の血の主であるセルは、たった今打ち抜かれ穴の開いた腹に手を当て、苦し気に息を荒くしながらも……笑った。その笑みは恐怖に、痛みに狂った者が浮かべる錯乱の笑みではない。目の前に立つ黄金の狂気を前にして、それでもなお。……セルは歓喜による笑みを浮かべたのだ。
この相手と戦えて、嬉しいのだと!!
「はは……。はーっはははははははははは!!!! いいぞ、いいぞフリーザよ! それでこそ宇宙の帝王と恐れられた君臨者の風格だ! 神にまで上り詰めたこの究極神セルが、こうして挑戦者の立場になれるとはな! この死を隣人とも感じられる腹の底からゾクゾクくる感覚は、根っこが甘っちょろい孫悟空や孫悟飯とでは味わえないものだ! 待った甲斐があった。感謝しよう!」
「這う這うの体で、ずいぶんと口が回りますねぇ」
「這う這うの体? そうでもないさ。はぁぁぁぁぁぁぁぁ…………! ぶるぁッ!!」」
セルが気合を込めた声を発するとともに、その細胞のことごとくが活性化した。するとたった今、腹に開いた風穴は瞬時に塞がれ回復する。セルは精神生命体となった今も、以前と変わらぬその性能を有していた。
それを見た黄金の色彩を身に宿したフリーザ……ゴールデンフリーザは、興味深そうな表情を浮かべて顎に手を添える。
「ほう、なかなか多芸のようですね。ナメック星人のようなことまで出来るのですか」
「当然だ。私の体にはナメック星人……ピッコロの遺伝子も含まれているのだからな」
「ホッホッホ! なるほど、なるほど。……あなた、セルさんでしたか? なかなかお強いようですし、それなりにお上品です。どうです? 私の部下になる気はありませんか?」
「光栄だが結構だ。私は私の上に何者かをもってくる気は無い」
「破壊神ビルスでも?」
「当然だ。まあ、一応の礼儀は尽くしているが。……なにしろ、私は上品なのでね。フフフ。だが、それだけだ。……それに、そのうち破壊神をも越えてやろうと思っているのはお前も同じじゃないか? フリーザ」
「ホーッホッホッホ! 違いありませんねぇ! ……ですが、それを成すのは私のみ。あなたはここでリタイアですよ、セルさん」
「クックック。それはどうかな?」
軽快に言葉を交わした後、しばし訪れる沈黙。そして鋭い視線が交差し…………次の瞬間爆発的に気が弾けた。
「キエェッ!!」
「ぶるぁぁッ!!」
目にもとまらぬ神速の攻防が、始まった。
その下方で倒れ伏すサイヤ人三人を、気にも留めぬまま。
時間は少々遡る。
セルがフリーザとの戦いを望み、そしてフリーザが怨敵たるサイヤ人……主に孫悟空とハーベストこと孫空梨と戦う事を望んだことで、セル、フリーザ、悟空、ベジータ、空梨はその決戦の場を界王神界に定めた。
当然自宅を勝手に試合会場に選ばれた界王神が「ちょっと待ってください!」とストップをかけたが、それを気にする者がこのメンツでほぼ居ないのは明白である。悟空ですら「ちょっとだけだって! な? いいだろ界王神様! ブウと戦った時だって壊れなかったし、界王神界って丈夫なんだろ? オラ達おもいっきり戦いてぇんだ。なあ、頼むよ~」とお願いする始末。
結局はブウの時世話になった事もあるため、界王神側が折れる結果となった。そしてその界王神自身は巻き添えをくわないため、現在キビト、老界王神と共に地球へ避難している。
ちなみに途中まで一緒だったザマスは「ついでだから」とウイスが移動船の帰りに第十宇宙まで送っていき途中下車したため、すでにその場には居ない。移動船の面々は何気に二つ目の別宇宙に足を踏み入れるという稀有な体験をしたのだが、残念ながらそれを自覚している者はいなかった。
そしてところ変わって界王神界。
その場に居るのはフリーザ、セル、孫悟空、ベジータ、肩を落とした孫空梨。そして他の面々を地球に送った後、面白そうだからと見物に来たウイスとビルスだ。その手にはちゃっかりピザが入った箱が十数枚。それを羨ましそうに眺めつつ、まず先に口を開いたのは空梨だった。
「ところで、フリーザ様。戦う順番はセルからでよろしいのですよね?」
先ほど真っ先にぶっ殺したいと宣言はされたが、順番は順番だと主張する空梨。それに対して先ほど笑顔の上にがっちり刻まれていた額の青筋は何処へやら……。何やら不気味なほどに朗らかな笑みを浮かべたフリーザが、人差し指を立ててこう言った。
「約束ですからね……と、言いたいところですが。ひとつ提案があります」
「ほう?」
フリーザの言葉に反応したのはこの戦いを待ちに待っていたセル。しかし次の瞬間、ちょいちょいと指を動かしたフリーザに呼ばれて眉根を潜める。そしてそれは他の面々も同じだった。何しろフリーザがセルに抱く印象は、けしていいものと言えないはず。それなのに内緒話でもするかのように「来い」というジェスチャー……。朗らかな笑顔といい、不気味以外の何ものでもない。
しかし呼ばれたセルは最初こそ訝しんだものの、興味を持ったのか躊躇せずにスタスタとフリーザに歩み寄った。そして何やらヒソヒソ話す事、数秒。
フリーザとの話し合いから戻ってきたセルは、驚くべきことを口にした。
「私は今回フリーザにつこう」
「な!?」
「え、……え?」
「ん?」
三者三様に反応を示すサイヤ人姉弟に、セルはやれやれとでも言わんばかりに首を振る。
「いつの間にか私の事まで仲間だとでも思っていたのか? 少々なれ合いすぎた感は否めないが、私にそんな意識など無いよ。まったく、おめでたい連中だ」
「いや、セルお前、悟飯ちゃんと戦いに来た時はちゃっかりそのまま晩御飯とかご馳走になってるくせに今さら……まあそれは今いいけど。お前フリーザ様と戦いたいって言ってたじゃん。戦うどころか何味方になってんだよ」
突っ込みつつも、まさかのセルの発言に困惑を隠せないのは空梨だ。今のセルの実力がどれほどのものか正確に把握していない空梨だが、先に戦ってくれるならフリーザを弱らせ……あわよくばサクッと倒してくれるかもしれないという希望を抱いていたのだ。その希望が今、さらさらと砂になって消えてゆく。
そんな空梨を、セルは心底馬鹿にしきった表情で鼻で笑った。
「味方? 冗談はよしてくれ。もちろんフリーザとも後で戦うさ。しかし、少々面白い事を言われたのでね。今回はそれにのっかったまでだ」
「貴様、フリーザに何を吹き込まれた?」
ベジータが鋭く問うが、セルはそれをするりとかわす。
「それを言っては面白くないだろう? なんだ、ベジータ。もしかして怖いのか? 私とフリーザが組んで敵に回ることが」
「チッ、誰が。ならまとめてぶっ飛ばしてやる。もともとお前は気にくわなかったんだ」
「フハハハハ! よくぞ言った! それでこそサイヤ人の王だ!」
「ん~? よくわかんねぇけど、要するにオラ達とセルとフリーザが分かれて戦うって事か?」
「そういうことだ、孫悟空。つまりこれはお前達サイヤ人三人と、私とフリーザとで戦うチーム戦。なかなか面白い趣向だろう」
「でも、こっちは三人だぜ?」
「じゃ、じゃあ公平を期すために私は棄け「問題無いとも! 多勢に無勢と言うほどの力の差でもないさ」
「言ってくれるな」
「で、どうする?」
「ああ、いいぞ! へへっ、オメェと戦うのも久しぶりだなぁ、セル。オメェいっつも悟飯とこばっか行っちまうからよぉ。オメェがフリーザと戦っちまったら順番回ってくるかも心配だったし、まとめて相手できるならこっちは願ったりだ」
「フフン、流石は戦闘民族サイヤ人だ。期待に応えてくれて嬉しいよ。だがひとつ文句を言わせてもらうが、孫悟空。お前は最近ビルスのところにばかり行っていて、私が行くときにはなかなか居ないだろう。それを人のせいばかりにされても困る」
「あ、そっか。悪ィ悪ィ」
「何か止める間もなく恐ろしい事が決定した。ちょ、待った! 私は了承してない!!」
何やら着々と話が進み、気づけばサイヤチームVSボスチームが成立しつつある。そのことに焦りを覚え、待ったをかける空梨であったが……彼女以外の中では、この突如勃発したチーム戦は最早決定事項であるらしい。すでに自分以外の四人は戦闘準備の構えをとっており、空梨はそれに対して途方にくれつつも自身もまた構えをとった。その瞳には隠し切れない動揺と共に、悟りにも似た諦めの色が浮かんでいる。同時に浮かべるには矛盾した二つの感情であるが、それこそが彼女が今まで歩んできた人生を表しているともいえた。もしこの場に別の人間が居たならば、空梨に「ご愁傷様」の一言でもかけていただろうか。
しかし残念ながら、現在この戦いの観客席に座するのは人ならざる"神"だけである。
「なんか変な事になってきたねぇ」
チーズで糸を引きながら実にうまそうにピザを頬張る破壊神ビルスが、美味による笑顔を一転。半眼で呆れた声色で言う。
ちなみに余談ではあるが、ピザを持たないもう片方の手にはグラスに注がれた発泡性の黄金色の酒……ビールが握られている。ブルマからピザを手土産にもらった時に、丁度学会から帰って来た孫悟飯が「丁度良かった! いつも父さん達がお世話になっているので、よければこれをどうぞ。学会の後に連れていかれた飲み会で頂いた物なんですけど、最近僕はお酒をちょっと控えてるので」と言って土産に小洒落たグラスと共に渡してきたのだ。初めはその苦みに顔をしかめたが、ウイスが「それはキンキンに冷やして飲むと美味しいらしいですよ」と気を利かせてほほいっと魔法でグラスごと冷やしてからは、ビルスもその酒を気に入った。のど越しが癖になる上に、なによりピザによく合うのだ。
そしてウイスもまた、上品に酒とピザをたしなみながら弟子たちの様子を見る。こちらは変なものでも見るようなビルスと違って、とても楽しそうな表情だ。
「フフッ、でも面白いじゃありませんか。両チーム、どの程度連携が出来るのか楽しみです」
「ウイス。お前、それ本気で言ってるのか? あいつらにチームワークが出来るとでも? 個人プレイの塊だぞ」
「ほほっ。そうですねぇ。特に悟空さんとベジータさんは、組んだら倒せるとしても絶対協力しないでしょう。でも、これもまた良い経験ですよ」
「経験ねぇ……」
喋りながらも、はぐっと先ほどとは別の味のピッツァにかぶりつくビルス。「お、今度は辛いな。ビールによく合う」などと思っているあたり、どうやらこの神にとっては戦いの様相もご馳走の前には霞むらしい。ひそかにウイスが最近のその暴食っぷりに自身の事は棚に上げて「そろそろビルス様もお食事を控えていただくか運動させないとシャンパ様のように……」と心配していたりするが、ビルスの食事がしばらくダイエット食になるか否かはまた別のお話である。
そして急きょセルを勧誘したフリーザであったが、思いがけず自身の思惑が上手く行った事で現在なかなか上機嫌だった。もしうまくいかなかったとしても、それはそれで構わなかったのだが。
フリーザがセルに何を言ったのかといえば、それは実に単純である。
『戦う前にまず、猿共の間抜け面を見たくはありませんか? きっとあなた、そういうのお好きでしょう?』
「だぁっ!」
「はぁッ!!」
「フッ」
最初からスーパーサイヤ人ブルーへと変化し、全力で向かってくる孫悟空とベジータ。それをこちらも変身し、黄金色になったフリーザが余裕の笑みでもって避ける。そこに遠方にて待機していた空梨の気弾が叩き込まれるが、セルによって防がれた。
第六宇宙との試合中、フリーザはとにかく孫悟空とベジータの動きのパターンを観察し、学習していた。動きの癖と言うものはたとえ変身してスピードが上がったとしても消えるものでは無いので、ある程度覚えてしまい、そしてこちらのスピードも上がっていれば避ける事はさして難しくないのだ。しかも全力で戦った三人に対して、フリーザはほとんどその動きを彼らに披露していない。よって、相手がフリーザの動きに慣れるまでは時間がかかる。これは第六宇宙との試合の中でフリーザが得たアドバンテージである。
そしてそれを十全に生かしつつ、攻防の中でフリーザはちらりとセルに目配せする。それを受けたセルは口の端を持ち上げつつ頷き、密かに繰り出す技の中に"誘導"を混ぜ始めた。
しかし両者とも共通して、避けはするし防ぎもするが一向に攻撃を受ける事も、仕掛けてくることもしない。それにいい加減じれて、真っ先に怒鳴り声をあげたのはベジータだ。
「おい、やる気はあるのか貴様ら!! さっきからちょこまか逃げやがって! なんだ? 攻撃を受けるのが怖くて、体力切れでも狙っているのか?」
攻撃しながらもよく通る声で挑発するベジータだったが、フリーザはそれに乗る事無く笑みを深めるばかり。
と、その時である。
「あっつぅぅぅぅッ!?」
今まで遠方で援護にばかり徹していた空梨が、火中から飛び出た栗のごとく戦いの中心地に飛び出てきた。見れば彼女のお尻には火がついている。そしてそれを見てせせら笑っているのは、指先に炎をともしたセルだ。
「はーっはははははは! なかなか愉快な醜態だったぞ、孫空梨。どうだ? 先ほど君の宴会げ……パイロキネシスを見て思いついたのだが、エネルギー弾と魔術の合わせ技だ。なかなか愉快だろう?」
「やかましいわッッ!! ばっかお前、焼けてお尻部分に穴開いちゃっただろ!! 弁償しろ、弁償! つーかどんなに派手な攻撃くらっても下半身の服は無事、ふーしぎー! な、世界の法則に真っ向から喧嘩売ってんのかテメェ!!」
「何を言っているのかよくわからんな」
「クソがこれだから全裸ファイトが標準な奴は!!」
空梨はドスの利いた声でセルを罵倒するが、焼け焦げた尻尾の付け根のお尻部分を押さえながらでは実に間抜けな有様である。しかしそんな事を気にも留めず、フリーザは一か所に集まったサイヤ人三人に呼びかけた。
「どうです? どうせなら、三人でいっぺんにかかって来てもよいのですよ。そうですねぇ……。私と戦いたいのでしたら、まず初めに私に攻撃を当てた方から、というのはどうでしょうか。最低限攻撃を当てるくらいしてもらわないと、私と戦う資格は差し上げられませんよ」
「チィッ、言ってくれるな!」
「へへっ、確かに今のままじゃちっと情けねぇか。それにしても、やっぱりオメェはスゲェ奴だよフリーザ。スーパーサイヤ人ブルーのオラ達の攻撃が、一発も当たらないなんてな」
「あなたに褒められたところで、嬉しくともなんともありませんがね」
「おいおい、私の事は無視か?」
「いや、セルはなんか姉ちゃんで遊んでたから……」
「おいちょっと待てよ。その認識は聞捨てならない」
やいのやいのとしゃべくる様子にはいささか緊張感がないが、この場でそれぞれの闘気を直に感じる事が出来たなら、緊張感が無いなどと言えなくなるだろう。それぞれが高めた気が、ビリビリと界王神界の神気をも震わせている。限界まで引き絞られた緊張の糸が切られるのは、最早時間の問題。
その時はすぐにやってきた。
「さあ、来なさい!」
腕を広げたフリーザの掛け声とともに、真っ先に飛び出したのは悟空。そして一瞬出遅れたことに歯噛みしたベジータがその後に続く。更に丁度その中間地に居た空梨が慌ててそこから逃げ出そうと試みたが、逃げた先にはかめはめ波の構えをとるセルが待ち構えていた。これには尻を押さえたままでは戦えぬと、たまらず逃げの一手をとる空梨だったが…………そのことで結果的に青、黄金、赤、緑の線が超スピードで行き交う混戦の様相が完成される。
そして、その時は訪れた。
「だりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「であああああああああ!!」
「こっちくんな虫がぁぁぁぁああああ!! せめて尻の穴を隠させろぉぉぉぉ!!」
フリーザに拳を当てんと悟空が、ベジータが。しつこく追ってくるセルから逃れようと空梨が。スーパーサイヤ人の可能性の先……神の気を纏ったブルーとゴッドの姿で、片や標的に攻撃を当てんとし、片や敵から逃れようとし。それぞれ出すのはぶつかった相手を粉みじんにするほどの威力を秘めた超スピード。
しかしそれは悟空とベジータの攻撃をフリーザが絶妙のタイミングで上空に避ける事で、まず青二つが。そして実に嫌そうにセルからゴッド状態でガン逃げを決め込んでいた空梨が誘導される事で、赤が。丁度三方向から中心に向けて、勢いを殺すことも出来ずに突っ込んでゆく。
神の気を纏った三人のスピードは正しく神速。……止まるには、気づくのがあまりにも遅すぎた。
「「「い゛!」」」
とても人体が出したとは思えない音がした後、神速で額同志をぶつけたサイヤ人三人は声もなく地面に落ちていった。そしてそれを見て高笑いする者が二人。
「ホーッホホホホホホホホホ!! やはりお馬鹿さんですねぇ! いや、実に傑作ですよ! 惑星ベジータの爆発を見た時以来ですよ、こんなに愉快な見世物は!」
「ハハハハハハハハハハハハ!! ぶふっ、プッ、く、ククククク。まさかこうもうまくいくとはなぁ。どうだ、気は晴れたか? フリーザ」
笑いを堪えつつ問いかけるセルに、フリーザは実に上機嫌な様子で答えた。
「ええ、まあそれなりに。正面から戦ってなぶり殺してやってもよかったんですけどねぇ……。それでは恐怖に歪んだ顔を見られたとしても、今みたいな間抜け面は拝めません。このフリーザ様を散々茶番につきあわせたんです。これくらい、あってしかるべきの罰ですよ」
そう。フリーザの目的は戦いで発散するよりも何よりもまず初めに、これまでにたまった鬱憤を晴らすためサイヤ人達を罠にはめてその間抜け面を拝むこと。そして結果は、宇宙に影響を及ぼすほどのパワー同士でダメージを受け合った三人の実に阿呆な有様だ。が、これは言うだけなら簡単だが、戦いの達人たる三人を相手にピンポイントで誘導、そしてタイミングよく攻撃を避けるのは至難の業。それを成してしまうあたり、個々の実力はもちろんセルとフリーザの連携は急造コンビにしてはなかなか良いと言えた。
しかし、その急造コンビもここまでだ。
「ふふんっ、しかしそれだけではないだろう?」
「………………どういう意味です?」
意味深に見つめてくる、少し前までの協力者を前にフリーザは目を細めながらその真意を問う。セルはそれに対して舞台役者のように大仰な仕草と芝居じみた台詞でもって返した。
「気づいていないとでも思ったのか? フリーザ。お前は、孫悟空達の戦いを見る事でその動きを「学習」し、戦う前から戦い方を「イメージ」し、今の攻防で「適応」した。それは天才のお前にとって、更なる上のステージに上がるための材料だったのだろう。一人では適応する前に多少なりともダメージを受けるだろうから、最初に戦うと宣言した私を利用した、といったところか。奴らの間抜け面を見たかったというのも、本音だろうが。……第六宇宙との試合前のお前と、今のお前。……どちらが強いのかは明白。お前はサイヤ人達の新たな力を見て、確実にそれに勝つためにあのヒットと同じく「成長」という選択肢を選んだのだ」
「ペラペラとよく喋る方ですねぇ……」
「なんとでも」
「それが分かっていて、あなたはそれに乗ってきたのですか?」
「ああ、そうだとも! 私は強い相手と戦いたいんだ。目の前の敵がさらに強くなってから戦ってくれるというのなら、これほど喜ばしい事はあるまい」
「ホーッホッホ! なるほど。たしか、あなたは色んな細胞で出来ていると言っていましたね。ええ、ええ。間違いなくあなたには、あの好戦的で馬鹿なお猿さん達の単細胞が含まれているようです!」
「今はそれを褒め言葉として受け取っておこう! だが、ごちゃごちゃ言うのはここまでだ。あとは思う存分、心行くまで戦おうじゃないか!!」
「ええ。手伝ってくださったお礼に、たっぷりなぶってから殺してさしあげますよ!」
「はっはっは! それは光栄だが、流石に私の事を舐め過ぎだ。そう簡単に勝てる相手だと思われているのかね?」
「フフッ、これは失礼。ですが私にはこの後あの馬鹿共を殺す作業も残っているのでね。……舐めているのではなく、あなたが言うように奴らに確実に勝つためにあなたには、私が更に強くなるための練習相手になってもらうつもりですよ。あの、ヒットでしたか? あんな殺し屋風情に出来たのです。この私に同じことが出来ないはずありません」
「戦いの中での成長、か。しかしそれは私も同じこと。お前にそれを成すだけのポテンシャルがあることは理解しているが、一つ忘れていないか? ……この私には、そんなお前の細胞も含まれているのだ」
「お猿さんの細胞が混じった劣化種と一緒にされたくはありませんね」
「言ってくれる。……話し過ぎたな。あとは、拳で語らおうじゃないか。帝王よ!」
「いいでしょう! かかって来なさい!」
対峙する両者から覇気がほとばしり、再び界王神界の空気を震わせ、ぶつかり合う力と力。
その激闘を頭上で感じつつ、ほぼ同等の力で正面から衝突事故をおこし……頭からだくだくと血を流す悟空、ベジータ、ハーベスト(ブルーとゴッド状態でぶつかったため、他よりやや重症。なお現在半ケツ)は、キビトに連れられて界王神界にやってきた悟飯にそっと回収されていった。
そして、その数十分後。
界王神界は消滅した。
地球「助かった」