とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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復活のF:その十五 からの第六宇宙対抗試合13 ぜんおうさま

 楕円の顔に、二頭身の体。純粋にも見えるけど、何を考えているのか分からないとも言えるまん丸いつぶらな瞳。長っ細いお供を二人左右に従えて、その子……否、その方は土下座する破壊神二柱の前に存在していた。

 

 

 彼の方は私たちが住む第七宇宙を含めた、十二宇宙全ての頂点に立たれるお方。

 ………………全王様である。

 ウイス様とヴァドス様が全王様について説明していってくれたから、選手席の面々はそれぞれ程度の違いはあれど驚いているようだ。

 

 

 といっても、全王様が現れただけでは私は特に焦らない。何故ならここまで散々ビルス様やらフリーザ様やらのせいでギュウギュウの板挟みになって胃を痛めてきた私の代わりに、今度はビルス様とシャンパ様が神と人間の狭間たる中間管理職へと華麗なるジョブチェンジを遂げたからである。土下座が実に様になっていますよビルス様。

 だって土下座するお相手は遥か高見におわす至高の御方。で、あるからして。私たち矮小なる人間達は出しゃばらず、潔く神様に対応を丸投げするべきなのだ。はっはっは。

 

 

 

 そうだったらよかったんだけどな!!

 

 

 

 

 本来そうやって神様に丸投げして、こちらは高みの見物ならぬ下見の見物としゃれ込めばよかったというのに。こっそり土下座にゃんこ共の写真を撮って、後でプスプス笑って色々な事に対する留飲を下げるための材料にしたってよかったのに……。

 しかし全王様を見た瞬間、私はそうはいかないことを思い知ったのである。そして試合でへとへとの私が何か言う前に、ビルス様が先に土下座姿勢のままで叫んだ。

 

「お、おおおおおおおおおおおおおおおいガキども! そのお方を誰だと思っている! 今すぐ離れんかぁぁ!!」

「今ボクのお友達に、ガキどもって言った?」

「滅相もございません大変失礼いたしましたわたくしめの失言でございます」

 

 そして即行で頭を地面により深くこすりつけた。早い。そしてその様子にちょっと湧いてしまった親近感に気づいて、地味にダメージを受けた。なんで私は土下座低姿勢スタイルに親近感を覚えなきゃいけないんだよ……。

 って、そうじゃなくて!! 今はそれどころじゃない!

 

 なんで全王様ったら普通にうちの子供たちの輪に入っちゃってるのかな!? 

 

 しかもおにぎりとジュースもってかなり馴染んでくつろいでるところを見るに、大分前から居たっぽい。でもさっき見た時は居なかったよね!? 少なくとも私の試合が始まる前は居なかったよ!!

 

 

 ………………そう。なんと全王様が現在おわす場所は、第七宇宙サイドの観客席。お供の二人は全王様を囲む人間に鋭い眼光を送りながらも、全王様に何か言われているのか大分距離をとっている。で、その代りに全王様の周りに居るのが悟天ちゃん、トランクス、龍成、エシャロット、空龍、マーロンちゃん。チビッ子大集合だ。いやチビッ子と言っても空龍とかもう十四歳だけど。まあサイヤ人の特性上まだ見た目チビッ子なんだけれど。とにかく似たようなチビッ子体型が多くて全王様普通に混ざっててもぱっと見あんま違和感無いけど!! でも違和感無いからどうって問題じゃない!! ちなみに似たような体型のピラフ一味は危険を察知したのかさりげなく離れていたのは流石と言うべきか。でも今それはなんの救いにもならない。

 え、えええええええ? ど、どうしよう……! ここはやっぱり子供たちを全王様から離すべき? でも見た感じ仲良さそうにしてるから、そんなことしたら逆に不興を買うだろうか。でも、あのまま側に居たら子供たちが危険だよな……。あの一見して無害そうな外見って実はヤベー奴パターンにしか思えない。

 正直アニメで覚えてる部分ではポッと出ただけだったから、あの方のキャラクターというか、性格がよく分からないんだよな……。でも、あのビルス様が顔真っ青にして土下座する相手だ。まず間違いなくヤバい。万が一逆鱗に触れたら、どうなるか分からないじゃないか。

 

 

 突然の事に私がどうすれば最良だろうかとグルグルまとまらない考えをこねくり回していると、ビルス様達に続いて第六宇宙の界王神達と界王神様、老界王神様、キビトさん、ザマスも来た。その彼らもビルス様達の後ろでこちらも冷や汗流しつつ跪いてから深々と頭を下げたのだけれど、彼らも相当焦っていたようだ。背中にさっき預けた叶恵くっつけたままなんですけどザマスさん!? そして叶恵は叶恵で兄弟たちがなんか楽しそうな雰囲気だから「自分も!」とばかりにふよふよ浮いてって合流するし。はい、うちの子達全員コンプリートですねどうもありがとうございます。……………………。ええー…………。え、本当にどうしよう。

 

 そして私がどうしていいか分からずラディッツと顔を見合わせて困惑する中、ビルス様たちの態度を見て目をまん丸くしていたエシャロットが、全王様の腕をツンツンと指で突いて問いかけた。ちょ、おまっ、接し方軽っ。

 

「えー、なになに? あなたって凄い人なの?」

「んー。まあ、ちょっとね」

 

 目を輝かせたエシャロットの問いに、心なしか得意げに全王様が答える。それを聞いて意外そうに声をあげたのは、全王様のすぐ横でジュースを飲んでいたトランクスと悟天ちゃんだ。

 

「へー、なんか意外だな! 可愛い見た目してんのに」

「ね! とてもそうは見えないや」

「ビルス様って、偉いんだろ? その方にこんな敬われるなんて、おめぇ凄いんだなぁ。あ、もう一つ食べるけ?」

「うん、食べる!」

「あ、じゃあマーロンはタコさんウインナーあげるね!」

「うわぁ、かわいいねー」

 

 そして驚きながらも普通におにぎりを全王様にあげるチチさんに、おそらく18号さん特製であろうマーロン弁当からタコさんウインナーをあげるマーロンちゃん。他の面々はビルス様たちの土下座を見て、全王様がただ者ではないと感じたのか様子を窺っているっていうのに、強い。チチさん的には子供の友達で神様と言えばすでにデンデが居るから、相手が神様と分かっても同じような感覚なんだろうけども……!

 うちの子供たちはといえば、エシャロットは言わずもがなで全王様に距離がすげー近い。あの子ビルス様やシャンパ様の時もそうだけど、本当に興味湧いた相手にはぐいぐい行くよな。ペンギン村の学校に通い出してからますます天真爛漫に育ってくれて、いいことなんだけどこういう時のアグレッシブさは見てる側としてはハラハラする。空龍はマイペースにおにぎり食べてるし、龍成は……。

 

「へへっ、チチさんのおにぎり美味しいでしょ! 僕はこの生姜の佃煮が入ったの好きなんだ」

「ぼ、僕は煮卵。……ところで、空龍兄さん。偉い人に、こんな普通に話しかけていいのかな?」

「え、駄目なの?」

「え、ええと……。でもビルス様たちの様子を見るに偉いって言うより神様……」

「いいんじゃない? だって見た感じビルス様たちはあの子の部下なんだよね? 僕たちは友達だもーん。神様ってなら、デンデさんだって僕たち友達じゃない。一緒一緒! 神様だからって差別しちゃいけないよ~」

「いや、でも。そういうわけにはいかないんじゃ……」

 

 常識人……! どこまでも常識人だぞ龍成……! 大丈夫だ、お前の反応は間違ってない。

 そして龍成が成長して昔よりもっとしっかりし始めてから、悟飯ちゃんを除いた子供組最年長の空龍がお兄さんポジションをサボり始めている事実にもちょっと気づいてしまった……! いや、ちゃんとお兄さんはしてる。してるけど、こういう時に開き直る所にそこはかとなく龍成への甘えを感じる。りゅ、龍成……! 強く、強く生きろよ……! フリーダムな上と下に挟まれて大変だろうけども……!

 しかも気づけば、いつの間にかビルス様とシャンパ様まで龍成に向けて「もっと言え、早くそいつらを全王様から引き離してくれ!」と目で訴えているではないか。そして龍成もそれに気づいちゃってるから、困ったようにチラチラビルス様達と全王様を交互に見ている。クッ、あの子の心労が伝わってくるようだぜ……!

 

 そもそも、何故全王様は子供たちと一緒に試合観戦することになったんだ。お付きの二人は止めんかったんかい。

 あの子達今すっごく普通に接してるけど、その神様普通の神様じゃないからな。神様の一番上のトップオブトップだからな。下手に神様連中と交流があったのが裏目に出てしまったのか、神様だと分かった今も凄いラフなんだけど。見てるこっちは気が気じゃない。

 

「そ、それにしても全王様。い、いつお越しで……? そ、それに人間が友達とは……!?」

 

 お、丁度気になってたことをシャンパ様が聞いてくれた!

 

「うーんとね、きょうは勝手にこんなことしてるからね、注意しにきたのね。……あんまり破壊神のお仕事、サボっちゃだめなのね」

「「は、ははー! 申し訳ございません!!」」

 

 ははっ、怒られてーら。笑ってる場合じゃないけどな。

 

「でもね、見てたらとーってもおもしろかったの。あとね、遠くから見てたらこの子達が一緒に見ようよって、さそってくれたんだー」

「最初はてっきり第六宇宙の子かと思ってたんだよ。なー、悟天」

「だよね。まさか神様だなんて、僕ビックリだよ」

「まあ今この会場神様いっぱいいるし、今さらっちゃ今更だけどさ」

 

 今さらとか言うなよトランクス! たしかに現状神様のバーゲンセールみたいになってるけど!! そしてこっちは案外普通に誘ってたのにビックリだよ!! え、「一緒に見ようよ!」「うん!」で成立しちゃったの? ぜ、全王様も結構気さくだな……。それでいいんだ……。お付きの二人が未だにすげー睨んでるけど……いいんだよな……? 全王様本人がいいって言ってるなら、いいんだよな……!? いきなり「無礼者! 手打ちにござる!」とか無いよな!?

 

 そしてチビッ子たちの一挙一動にハラハラしていた私だが、はたと気づいてラディッツを見上げる。

 

「ら、ラディッツ! 私たちも行こう!」

「あ、ああ」

 

 ここまでついつい見守ってしまったが、とりあえず私たちも子供たちの保護者として行かなければ!

 そう思ってラディッツに促し、流石に抱えられたままでは不敬なので肩だけ貸してもらって、フラフラしながらも私たちも武舞台から全王様達のもとへ向かった。すると「お、じゃあオラも!」「チッ」とか言いながら悟空とベジータもついてくる。フリーザ様はどうやら選手席から静観するつもりのようだ。私も出来るならそっち側が良かった……。

 

 そして選手席までたどり着くと、なんと全王様からお褒めの言葉をもらってしまった。

 

「あ、きみきみ。さっきの試合ね、変身とか、コスチュームチェンジとか、すごくおもしろかったよー。きみたち二人も、ごくろうさまなのね。どれもすごい戦いで、ボク見ててとーっても楽しかったの」

 

 私、悟空、ベジータにかけられたその言葉に、咄嗟になんて返していいか迷っていると……こういう時メンタル強いのはいつだってこいつである。

 

「おう、そうか! サンキューな!」

「馬鹿者ぉぉぉ!! 敬語を使え、敬語を!!」

 

 片手を上げて笑顔でお礼を言った悟空に、即座にビルス様からツッコミが入った。でも全王様は気にした風もなく「いいの、いいの」と言ってから、さらに言葉を続けた。

 

「でね。とっても楽しかったから、こんどは全部の宇宙でやってみようかな~、なんて思っちゃった」

「え、それホントか!? いいな~それ! すっげぇ面白そうだ!」

「でしょー?」

「ああ! やろうぜ、全王様! うっひゃ~! オラ、ワクワクしてきたぞ!」

「敬語ぉぉぉぉ!!」

 

 ビルス様が今にも血涙を流しそうな声で悟空に敬語コールをしている。でもすぐに全王様の「いいの、いいの」で黙ってしまった。耳がぺしゃんと折れて尻尾が垂れさがって体がプルプル震えているビルス様の姿が新鮮。……これがギャップ萌えというものだろうか。ちょっと可愛いと思ってしまったのは秘密だ。

 とりあえず私もお褒め頂いた手前、何か話した方がいいだろうか。そう思って、いつの間にか全王様とがっちり握手していた悟空の後ろから恐る恐る顔を出してみた。

 

「あの。こ、子供たちと仲良くしてもらって、ありがとうございました」

 

 しかし出た言葉は、いつもゴマすりに手を抜かない私にしては普通の言葉だった。いや、まあ子供たちと遊んでくれていたと思えば、やっぱりまずお礼かなと……。

 そして全王様はそんな私にも軽く手を上げて「気にするな」というようなポーズをとる。

 

「いいの、いいの。ボクも楽しかったから。あのね、ボク前からお友達は欲しかったけど、こんなにいっぺんにできると思ってなかったから嬉しかったのね」

「あ、そ、そう……ですか」

 

 その言葉にほっと息を吐き出す。どうやら子供たちの態度を不快には思っていなかったらしい。相手がどんな存在か知らなかったとはいえ、子供たちはかなり軽く接してたから心配だったんだけど……。全王様くらい凄い人が私なんぞを気遣って言葉をオブラートに包むことも無いだろうし、きっと今のお言葉は本心なのだろう。よかった。

 

「エシャロット、空龍、龍成。その方は本当に凄い方だから、仲良くなるのは良いけど礼儀はちゃんとしてね。トランクスに悟天ちゃん、マーロンちゃんも」

 

 次いでやっと子供たちに声をかけられた。もともと素直な子たちなので、素直に「はーい」と返事をしてくれたのにはもう一度ほっとする。

 

「ええと、全王さまって、お名前なんだ……ですよね。お名前言うのが遅くなってごめんなさい。私エシャロット! また、遊ぼうね」

 

 そう言ったエシャロットを皮切りに、子供たちがそれぞれ自己紹介してから全王様から少し離れてお供二人に場所を譲った。これにはお供二人、ビルス様、シャンパ様、界王神様達までほっと一息。私もこう一回ほっとした。あー、焦った。今ので2kgくらい痩せたかもしれない。

 

 そして全王様の全宇宙でこういったことをやりたい発言に食いついた悟空が妙に全王様と意気投合したのにまたビビりつつ、その後全王様はあっさりお帰りになったので安心した。…………なにかでっかいフラグが立ったのは気のせいだよな? あー、気のせい気のせい。絶対気のせい。子供たちが「え、じゃあ今度は全部の宇宙の屋台でご飯食べられるの? やった!」とか「他の宇宙かー。面白い生き物とかたくさんいそうだよな!」とか「なんか、すっごいお祭りになりそうだね! 楽しみだなー」とか言ってるのを聞いて、全王様が「お祭り……」とか呟いてた気がするけど、気のせいだよな。神様時間にしてみれば人間の一生なんてすぐだろうし、きっと思い出したころには数億年とか経ってる経ってる! あー、そう考えたらなんか安心した。あれだよね。全王様とか立場的に凄すぎるからゲストキャラだろ。もう出てこないに違いない。友達になった子供たちには悪いけど、ビルス様が「全王様はその気になれば宇宙ごと消せるんだぞ!」ってキレてるの聞いたら余計にもう会いたくないわ! さらば全王様! おたっしゃで!

 

 

 

 そして最後までバタバタしたものの、やっと第六宇宙との対抗戦は終わった。幸いにも、第七宇宙の勝利という形で。

 

 

 

 しかしそれは同時に、もう一つの戦いの幕開けでもあった。

 

 

 

 

「いよいよ私の出番か」

 

 待ってましたとばかりに、ばさぁっと純白の羽を広げて武舞台に降り立つ者が居た。そしてその者は人差し指と中指をくいくいっと動かしてある人物を武舞台へ誘う。

 

 

「さあ、存分に戦おうじゃないか! 宇宙の元帝王フリーザよ!」

「いや何言ってんだお前。もうこの会場撤去するぞ」

「何?」

 

 そして武舞台に仁王立ちしていたセルは、即座に疲れた様子のシャンパ様に突っ込みをくらって真顔でシャンパ様を二度見していた。

 

 どんまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++

 

 

 

 

 

 きょうはなんだか楽しかった。試合も凄かったし、お友達もたくさんできた。

 

 うん、楽しかった。

 

 全宇宙での格闘試合もいいけど、せっかくお友達もくるんだから、もっと楽しくしたいな。

 たべものに、かざりつけに、踊りやお歌もあった方がいいかな。そうだ、大神官と、それぞれの宇宙の界王神や破壊神にも考えてもらおうっと。

 

 しばらくは、たいくつしなくてすみそう。こうやって楽しいことを楽しくするために、はじめる前に考えるのもけっこう楽しい。

 

 今からお祭りが楽しみ!

 

 

【とある神の心の中の日記より】

 

 

 

 

 

 

 

 




さくっと終わらせようと思ったらまるまる一話使ってしまった罠。全王様むずかしい。

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