とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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復活のF:その十 からの第六宇宙対抗試合8 キャベVS孫悟空

 スーパーサイヤ人になるために教えを乞うたら、何故か対戦相手の彼が会った事も無いはずのキャベの身内に対しての悪口を言われ、更には武舞台の外から怒声を叩きつけられた。その二つの声にキャベは怒るよりも何よりも、まず困惑した。

 そして対戦相手である孫悟空は、自分の発言にかぶさるようにして発せられた怒声に対して、不満そうに眉根をよせて怒声の主……ベジータを見る。

 

「なんだよベジータ、邪魔すんなよ~」

「カカロット。貴様……まさか今ので、そいつを怒らせようとでも思ったのか?」

「ばっ、言うなって! バレちゃうだろ?」

「バレるバレない以前に唐突過ぎてあいつは怒るどころか困惑しているだけだろうが! ええい、貴様には任せておけん!! おい、キャベ!!」

 

 何やら言い争い始めた二人のサイヤ人を前に戸惑うキャベであったが、第七宇宙のサイヤ人の王だというベジータにギロリと睨まれると、思わず肩が跳ねた。

 

「は、はいぃ!!」

「情けない返事をするな!!」

「はい!!」

 

 何故自分は対戦相手でもない相手に怒られているのだろうか。そう思いつつもベジータの覇気がこもった声に、自然とキャベの背筋が伸びる。更にはその鋭い眼光に、知らずゴクリと生唾を飲み込んだ。

 

(これが、第七宇宙のサイヤ王の覇気……!)

 

 叩き付けられる戦闘の気とはまた違った迫力に、キャベは怖気づきそうになりながらも同時に憧憬を抱いた。なんと力強い気迫だろうか、と。

 

 しかし憧憬を抱いた相手から発せられたのは、ため息だった。

 

「…………少しは見込みがある奴だと思っていたんだがな。ガッカリだぜ」

「なっ」

「戦いの最中に相手に教えを乞うだと? それでも誇り高きサイヤ人か! 俺は貴様のような軟弱者など、サイヤ人とは認めん!!」

 

 そこまで言われ、流石のキャベも多少カチンとくる。

 確かに自分の行為は恥ずべきものかもしれない。だが、キャベには自分のプライドなど投げうってでも守りたいものがあるのだ。それを否定されるような言葉に、言い返さずにはいられない。

 

「……確かに、僕の今の行動は恥ずべきものかもしれない。でも! 僕には強くならなきゃいけない理由があるんだ! いくら王様とはいえ、別の宇宙の方に頭ごなしに否定される覚えはありません!」

「ほう、俺に言い返してくるとはいい度胸だ。そこは認めてやる。…………だがな、その程度では到底スーパーサイヤ人にはなれんぞ!!」

「くっ……!」

 

 ベジータの言葉に、キャベはスーパーサイヤ人に変身した孫悟空を見る。相手は突然入った横やりに「めぇったなぁ……。どうすっか」などと言って呑気に頬をポリポリと掻いているが、未だその体からほとばしるスーパーサイヤ人のパワーを前に、キャベは改めて「このままでは勝てない」と悟った。

 だが、せめて勝てないにしても。キャベとしてはこの先の第六宇宙の平和のために、スーパーサイヤ人に変身する方法だけでも聞き出したい。

 

(僕はいったい、今どうすべきなんだろう……)

 

 キャベは自分が今すべき最良の選択を考え始める。

 

 

 と、そんな時だ。

 

 

 

「おい、ハーベスト」

 

 ベジータが正座で試合観戦をしている、彼の姉へと呼びかけた。

 彼女はベジータの言いたいことが分かったのか、あからさまに嫌そうな顔をする。だが痺れているのかプルプル震えている足をベジータに足でつつかれ、「お前やめろよ! わかった。わかったよ」と、嫌々ながら何かを了承したようだった。

 

 そしてキャベと悟空がそれをいぶかし気に見やる中、ハーベスト……空梨が息を吸ってから、特大のため息とともに口を開き言葉を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

「うっわ。あんなひょろ細い上に根性ない奴が代表とか、第六宇宙のサイヤ人マジ終わってるわー」

 

 

 

 

 

 

 イラぁッ

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間感じた言い知れない苛立ちに、キャベは顔をひきつらせた。

 だが空梨の言葉はそれだけでは終わらない。

 

「まあ、そんな所が可愛いっちゃ可愛いけど、戦う戦士としてあれはどうなのって感じ。キャベくんいい子だけど、それだけじゃあ守れるものも守れないよねー」

 

 ぷすーっと、小馬鹿にした態度で噴出しながら口を押えての発言である。キャベの中にまた一つイライラが溜まった。

 しかしその発言に同調するようにベジータが頷く。それに対してはキャベの中に悲しみが溜まった。

 

「まったくだ。己で限界を超える事を試しもせず、答えだけを求めるだと? そんな甘ったれた性根で、いったい何が守れる! 平和のため? 笑わせる! 貴様はプライドより大事なものがあるとでも言いたいんだろうが、投げ捨てて構わない程度の安い誇りで貴様は何を守るつもりだ!!」

 

 苛烈な言葉に、キャベの心の奥に何か熱いものがこみあげてくる。

 

「まあ、人それぞれだけどね。いやでも、試合の最中に教えてくださいは無いわー」

(いや、貴女もさっきボタモさんに教えを乞うて……)

「言っておくけどお前、思ってる事顔に出てるからな? 私はいいの、私は。ちゃんと試合には勝ったわけだし」

「そうだ。一応この女は試合に勝った。だがキャベ。お前はどうだ? 勝てないと分かるなり、あっさり勝負を捨てやがった」

「ち、ちがっ」

「何が違う? 事実だろう。もしこれでスーパーサイヤ人になる方法を教えられたとして……それで貴様は何を得る。試合を待ってもらった上に、教えられ、情けをかけられ。そんな事で変身出来るようになったとして、貴様はそれで満足なのか!!」

「!!」

 

 ベジータの喝にキャベは「そんなこと分かっている」と思う自分と同時に、どうしようもないほどやるせない気分を味わう心を感じていた。頭では今は頭を下げるべきだと考えているが、ベジータの言葉に心の奥底から熱い何かがせり上がってくるのだ。

 

 理性と感情の剥離である。

 

 今後の事を考えるなら、自分のプライドなどより優先するものがあるはず。だが、自分は今「それでいいのか?」と強く自身に問いかけてしまっている。もしかして、それが答えではないのか。

 せめぎあう相反する感情に、キャベは眉根を寄せつつ苦悩した。

 

 

 が、それは次の瞬間断ち切られることとなる。

 

 

「ははっ、図星指されて怒っちゃうとかダッセ」

 

 

 

 

 イっラァッ

 

 

 

 

 感じた苛立ちと共に、心の中で何かがプチンとはち切れた。

 

(な、何だろう。安い挑発のはずなのに、なんでこんなにイライラするんだ……!)

 

 正座をしつつせんべい片手に(齧りかけ)、指をさして外野からキャベをあざ笑うのは孫空梨。ベジータとの対比もあってか、その口ぶりが異様にムカツク。温和なキャベとしては珍しい感情だ。

 しかしその苛立ちを何とか振り払い、キャベは頭を左右に振ると対戦相手である孫悟空を見据えた。

 

 すでに心に迷いは無い。

 

「分かりましたよ! そこまで言われては僕も引き下がれません! ……孫悟空さん、お待たせしました。もう一度、お手合わせ願います!」

 

 キャベの言葉に今まで困ったような表情をしていた孫悟空が、片眉を上げてからニヤリと嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「お、いいんか? スーパーサイヤ人のなり方教わらなくて」

「僕だって、誇り高きサイヤ人です。戦いの中で、つかみ取ってみせますとも!」

「そっか。じゃ、遠慮なくいかせてもらうぞ!」

「はい!」

 

 

 そうして、試合は再び始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャベくんを怒らせるために渋々ベジータの指示で煽ってみた私だったけど、結果的にそれって意味あったのかしらって感じだった。いやだってキャベくん悟空と再度戦い始めてから、その後わりかしすぐにスーパーサイヤ人に変身出来たからな。今更だけどマジスーパーサイヤ人のバーゲンセール。きっとベジータの発破がきいたんだろう。

 

 そしてベジータはキャベくんに結構きつい事言いながら、悟空と再び戦い始めた彼を見て嬉しそーな、満足そーな笑みを浮かべたかと思えば、お前キャベくんのセコンド? ってくらいの勢いで声援送り始めた。いや、あれを声援って呼んでいいのか分からないけど。

 

「貴様の底力はそんなものか!」

「いけ、そこだ! 避けろ!」

「サダラの代表としてここに立っているんだろう! その程度で膝をついてどうする!」

「どんなに打ちのめされようと、誇りだけは失うな! 戦闘種族サイヤ人としての、誇りをな!」

「キャベ! 貴様が第六宇宙での最初の伝説になれ!」

 

 セコンドっつーか、途中なんかポケモントレーナーが混じってた。

 

 いやお前ホントどっちの味方だよ。気持ちは分からなくも無いけど……キャベくんの対戦相手が悟空って事もあって、自分が戦ってるわけでもないのに無意識で熱入ってたなベジータの奴。最初は腕組みしてドーンと貫録たっぷりに構えていたくせに、途中から拳を握って体勢が前のめりになっていってたからな……。夢中じゃねーか。

 

 私もキャベくんがスーパーサイヤ人になるまで途中途中で合いの手を入れるがごとく、キャベくんを怒らせようと言葉を挟んでみた。が、最終的に「ちょっと黙っててもらえませんか空梨さん!!」と、名指しで言われてしまったので黙った。

 

 なんだよー。ベジータのが煩いのに、何で私だけ怒られるんだよー。

 

 

 

 でもって、試合が続く中……悟空のとどめの一撃が決まりそうになった瞬間だった。……まるで超新星のごとく爆発的に、鮮烈に、キャベくんはスーパーサイヤ人に変身したのだ。

 

 結局試合でキャベくんは負けてしまったけど、変身後の怒涛の攻撃ラッシュは凄かった。やっぱ基礎能力は高いし、戦闘センスも高いわあの子。変身してすぐにあれだけ力を使いこなせるんだから。

 そして試合後。ベジータに「スーパーサイヤ人に変身するきっかけは怒りだ。今の感覚をよく覚えておけ」と言われて、ようやく私たちの意図が理解出来た様子。悟空がすぐに勝負を決めなかったのも、自分が変身する可能性を考えて様子見してくれていたのだと気づいたキャベくんはいたく悟空とベジータに感謝していた。悟空は笑いながら「気にすんなって! オラもスーパーサイヤ人になったおめぇと戦ってみたかったからさ。いやぁ、でもおどれぇたぞ! やっぱおめぇ強いな。それに修業を続ければ、この先もっと強くなれるはずだ。またおめぇと戦えるの楽しみにしてっから、頑張れよ!」と言って、キャベくんの背中をバシバシと叩いていた。

 

 う~ん。若者を導けるようになるとは、奴らも大人になったもんだな。

 

 

 

 

 けどな。

 

 

 

 なんで二人は感謝されてんのに、私だけ「あの、つかぬことをお聞きしますが……、どこまで僕を怒らせるための演技でした?」って神妙な顔で聞かれるんだよ。一応全部演技だよ! 悪意とか無いから!

 どうも途中で「筋肉ついてるはずなのに見た目もやし」って言ったのが気に障ったらしい。えー……。気にしてたの? ああは言ったけど、しゅっとしてていいと思うけどなその体型。

 

 しかもなんだよ。

 

「やっぱオラの悪口じゃ効果無かったみてぇだし、こういうのは姉ちゃんに任せた方がいいな! やっぱ!」

 

 とか。

 

「フンッ、貴様のムカツク口ぶりもたまには役に立つな」

 

 とか。

 

「ええ、凄いですね。演技であれだけ苛々させられるなんて……。普段そんなに挑発に乗ることはないんですが、久々に心の底からムカつきました! ハーベストさん、僕のためにありがとうございます!」

 

 とか。

 

 

 

 

 お前ら喧嘩売ってんのか!!

 

 順調に試合は第七宇宙の勝利へと向かって進んでいるのに、なんかスッキリしない。

 ……まあいいや。とりあえず、これで第六宇宙の選手は残す事一人。

 

 

 しかし、その一人が曲者である。

 

 

『さ~て、第六宇宙は残す事あと一人! 果たして彼は追い詰められた現状を覆すことが出来るのか!? 第六宇宙ヒット選手VS第七宇宙孫悟空選手、試合開始です!!』

 

 

 武舞台に、紫の衣装が翻った。

 

 

 

 

 

 




キャベくん思ったより難産

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