とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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★復活のF:その八 からの第六宇宙対抗試合6 お昼休憩

 フロストは試合開始当初、フリーザの事を甘く見積もっていた。といっても、その実力を疑っていたわけでは無い。それはフリーザの前の対戦相手だった孫空梨という女が、明らかにフリーザに対して敬意を払っていたからだ。いや、敬意というよりも頭が上がらない、と言った方が正しいだろうか。

 とにかく自分が実力では歯が立たなかった女が敬う相手。弱いなどと間違っても思うものか。……だがフロストにとって純粋な強さなど単なる指標でしかなく、そこは問題では無かった。

 

 ようは勝てばいい。

 

 それだけの事なのだ。

 これは神の御前試合。相手を殺してはならないというルールがある以上、命の危機に陥ることはまずない。そしてどうやって勝とうが、方法がどうあれ勝てばいいだけのこと。

 フロストには手首に仕込んだ毒針を使う事に対して、躊躇など無かった。

 

 仕込んだ毒はたいていの生物に効く即効性の昏倒薬。効果は劇的、しかし生物自身の治癒力で解毒されるまでの時間は早い。後遺症は残らないが、毒の反応そのものもまた消え失せる。まさに暗躍に相応しい毒と言える。

 そしてその毒はフロスト自身にも効き目があることから、当然別の宇宙とはいえ同族たるフリーザにも効くものと思われた。あらかじめ解毒薬を摂取しているフロストと違い、毒針を受ければまず間違いなくフリーザがいくら強くとも意識を失う。その後は前の試合と同じく場外に落としてやるだけでいい。……実に簡単なミッションだ。

 

 

 しかし、現実は違った。

 

 

 いいようにあしらわれるところまでは予想していたが、フロストはまずフリーザの佇まいに内心気おされていたのだ。

 同族だからだろうか。フリーザが秘めている底知れぬ力に本能が高ぶり、体が震えた。…………そして、その震えは恐れではなく、歓喜であった。

 

 決定打は、毒針を無効化されてフリーザに倒された時。

 

 

———————— ああ、きっとこのお方は、私などよりよほどの悪だ。

 

 

 和気あいあいとした第七宇宙チームとその身内の中で、フリーザだけが浮いて見えた。心底忌々しそうな顔には、その内面もまた自分の本性と似通っているのだろうとシンパシーさえ感じた。……だがその後、実際感じた感情は「崇拝」。

 冷たく突き刺さるような声に、言葉に、表情に。……そして、その強さに。フロストは今まで生きてきた中で初めて「誰かに仕えたい」という感情を覚えたのである。

 

 意識を取り戻すなり、自分が今までしてきたマッチポンプ式の悪事を洗いざらい喋ったのは、ただただフリーザに認められたいという衝動からだった。きっと悪たるこの方ならば、その功績を認めてくれると一縷の希望に縋って。

 

 何が自分をそうまで突き動かすのかは分からない。ただ本能のままだった。そして今まで理屈で考え己の利益のためだけに立ち回ってきたフロストにとって、それがいかに特別な事であるか。初めての経験であるか。

 

 自身の想いに共感してくれたのは先ほどから観客席でフリーザの応援幕を振る角の生えた宇宙人とその仲間だけだったようだが、そんなものは関係ない。フロストはフロストの意志のままに、フリーザに部下にしてくれないかと懇願したのだ。

 

 

 

 どこか満たされなかった悪の渇きを、このフリーザという同族なら満たしてくれるのではないかと信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とかなんとか考えていたフロストだったが、現在第七宇宙側の子供の提案によって発生した「お昼ごはんタイム」をいいことにちゃっかりフリーザの隣に座っていたりした。

 

 

 

 

 

 

 

「先輩! こちらはいかがです? 第六宇宙側の屋台から調達してきたのですが、なかなか美味ですよ」

「ほほう、フロスト殿。なかなか良い気遣いですな。感心感心!」

「どうも、ギニューさん」

「何故あなたがこちらに居るんですか……」

「部下にならしてもよかったと、言ってくださったじゃありませんか!」

「フロストさん。あなた、建前やお世辞って言葉知ってます?」

「こぉらフロストぉぉぉ! お前なにちゃっかり第七宇宙の奴らと仲良くしてんだ!? お前のせいでこっちは赤っ恥かいたってのに!」

 

 シャンパが用意した屋台で手土産を調達してフリーザに勧めるフロスト。すっかり新しい同僚気分でフロストを褒めるギニュー。うるさいだけの取り巻きが増えて頭痛を堪えるように頭に手を添えるフリーザ。ちゃっかり第七宇宙サイドに移動したフロストに凄むシャンパ。

 

 そんな光景を第七宇宙の面々は、それぞれ昼食をとりながらも遠巻きに眺めていた。

 

「毒針を使ったような卑怯者が、こうもあっさり改心するものなのか……? 疑わしい」

「ま、まあ色んな人間が居ますからね。出会いによって人生観が変わるのは、ままあることです。……あれを改心、と表現していいのかは少々迷うところではありますが」

 

 そしてお昼にお呼ばれしたザマスと界王神もまた、チチから貰った肉まんとおにぎりをもっきゅもっきゅと頬張りながらそれを眺めている。ザマスは一応親友たる界王神シンの言葉に「……それも、そうですね。神である私ですら、貴方との出会いで変わった」と、一応は納得し頷いていた。

 

「なんか変な感じになってきましたね……」

「ほっほっほ。まあ、これも縁じゃよ。な~に、見物する分には面白いというものじゃ。暴れている、というわけじゃないしの。……しかし惜しむべきは、第六宇宙の戦士にぴちぴちギャルがおらんことだわい……。別宇宙のギャル、楽しみにしておったんじゃが」

「格闘試合に何期待してんだよ爺さん」

「そうは言うがなウーロンや。お前とて、ちょびっと期待はしておったんじゃないか?」

「べ、別に俺はそんなこと思ってねぇし!? …………まあ、チアチームくらい用意してくれてもいいとは思ったけどよぉ……」

「あんた達はこんなとこまで来て何話してんのよ」

 

 クリリンもまた18号に取り分けてもらった弁当を食べつつこの宇宙、人種入り乱れの様相に奇妙な気分を味わっていたが、そこは年の功なのか亀仙人があっさりと受け入れて見せた。先ほどフロストに何かありそうだと気づいたりと、まだまだ自分はこのお師匠様にはかないそうにないなぁとクリリンは苦笑する。そして直後にいつもの調子でウーロンとぴちぴちギャル談議に移行しようとするあたりに軽くズッコケつつも、敵が近くに居るのになんだかんだで平和だなぁと空を見上げる。

 

 見上げた空……否、(そら)には輝く六つの宝玉、スーパードラゴンボール。

 

「そういえば結局、最後の一つは見つかったのかな……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどフリーザ様の勝利によって二勝目をおさめた第七宇宙。しかしすぐに次の試合が行われる事は無く、現在お昼休憩中だったりする。提案者は我が娘エシャロットだ。

 ……あの子お腹が鳴るやいなや、チラッと第六宇宙サイドの屋台(シャンパ様が用意させたっぽい)を見てからキリッとした表情で手を上げて、大声でこう言ったのだ。「はい! イベント事には休憩時間が必要だと思います! 具体的に言うとお腹がすいたからお昼ご飯休憩が欲しいと思います! お昼休憩はいつですか!」……と。

 もっと小さい頃はふんぞり返りつつもビビりだったくせに、学校に通い始めてからというもの内弁慶が直ってきて身内以外にもはっきり意見を主張できるようになったのはいい。いいんだが、毎回その主張がいきなりすぎてビビる。それに比例して龍成の面倒見の良さというかフォロー力もどんどん上昇していくもんだから、何とも言えない。

 

 でもって突然昼休憩を要求したエシャロットだったのだが、その後に「第六宇宙さんの屋台の食べ物も食べたいです」と言ったのがシャンパ様の機嫌を良くしたのか、思いのほかすんなりと受け入れられた。

 

 そして現在。

 

「おいシャンパ。お前フロストに文句を言っておきながら、なんでこっちに居るんだ?」

「う、うるせーよ! このチビが、無理やり引っ張ってだな……」

「大きな猫さんも一緒にご飯食べよって誘ったのー!」

「あの、すみませんうちのエシャロットが……」

「ふふふっ。可愛らしいお誘いを断るのも、忍びないですものねシャンパ様」

「お、おう。そうだ。俺は心が広いんだ」

「よく言う……」

 

 第七宇宙サイドの昼食風景の中に、ちゃっかりシャンパ様とヴァドス様が混ざっていた。というかそれを見て、ボタモに加えてもっとベジータや悟空と話したかったらしいキャベくんまでもこちらに来ている。

 なんかこう、今の場面だけ切り取ってみると非常に和気あいあいとしているな……。

 

 

 

 ちなみに私は正座継続中だ。

 

 

 

「あ、あの~。ビルス様? 私も今だけはちょっと姿勢を崩したいなって……」

「駄目だ」

「ですよねー!」

 

 ちょっと提案してみたがすぐに却下された。ううっ、せっかく休憩中なのに……!

 

 私がお弁当を食べながらも変えられない体勢に涙していると、「ほら、落ち込んでねぇで空姉さまもたくさん食ってけれ!」とチチさんがお皿に食べ物を追加していってくれた。チチさんマジ出来た嫁。

 そしてチチさんはそのままお弁当箱を持って、シャンパ様やビルス様にも料理を勧めに行ったようだ。

 

「ほら、え~と……シャンパ様? だったな。このパオズ鳥の甘酢あんかけも食うといいだよ!」

「おう、悪いな! ……おお!? こ、これも美味い……!」

「だろー? チチの飯は美味いんだぜ、シャンパ様!」

「ふふっ。悟空さには負けるが、気持ちいい食べっぷりだなぁ」

「姉上。こちらのから揚げなるものも、と~っても美味しいんですよ」

「あら、では頂こうかしら」

「あ、それチチさんに教わって私が作ったんですよ。味付けとか、お口にあえばいいんですけど……」

「大丈夫だビーデルさん。ちゃ~んとうまく出来てる。オラのお墨付きだ!」

「! まあ……。ふふっ、ええ。とても美味しいですよ」

「よかった~」

 

 美味しそうに自分が作ったものを食べるシャンパ様に気を良くしたのか、チチさんが次々に料理を取り分けていく。ちゃっかり悟空もその場に混じって、チチさんの料理を自慢していた。

 ウイス様やヴァドス様もチチさん、そしてビーデルさんの手料理を気に入ったらしく、箸を進めている。そして文句を言いつつも、ビルス様の手も止まりそうにない。シャンパ様に負けず、次々と料理を平らげていた。

 

 そして第六宇宙の屋台に興味をもっていたエシャロットは、意気揚々と屋台に赴いて色々調達してきていた。

 

「うっわー! エシャロットなんだそれ!?」

「凄いでしょ! あっちの屋台にあったよ!」

 

 自慢げにエシャロットが掲げたのは、いつぞやシャンパ様が飲んでいた謎のフルーツてんこ盛りのトロピカルチックなジュースだ。大きさがエシャロットの頭二個分くらいある。でっけぇ。

 そしてそれを見たトランクスは、自分たちもそれを手に入れようと意気揚々と動き出した。手を引っ張る相手は、ちゃっかり一緒について来ていた現カプセルコーポレーション居候、ピラフ一味のマイである。

 

「よっし、俺たちも行ってみようぜマイちゃん!」

「わ、わわっ。手、手を引っ張るな! だ、大胆なお子様め……!」

「あ、待ってよトランクスくーん!」

「マーロンも行くー!」

「はははっ! 悟天もマーロンちゃんも早く来ないと、俺たちでみんな食べちゃうぜ~!」

「こらこら、走ったら転ぶよ。屋台は逃げないから、落ち着いて」

 

 でもってそんな賑やかな子供たちを眺めながら、試合が始まってから妙に大人しかったセルが一言。

 

「暇だ」

 

 暇だったんかい。

 

 ちなみに他の面々も思い思いに昼食を楽しんでおり、ブウ子はブウ、サタンと一緒に楽しく会話しながらお菓子を食べている。……なんだかんだで、今は仲いいみたいだなブウ二人。

 

「ええ!? じゃ、じゃあ、あのフリーザという人のせいでサイヤ人のほとんどが滅んだんですか!?」

「ああ、まあな」

「そ、そうだったんですか……。フロストに騙されていた僕が言えた事ではありませんが、お気の毒でした……」

「ククッ、気の毒、か。でもなキャベ。フリーザに滅ぼされたことは気にくわんが、昔のサイヤ人はお前のところのようによい子ではなくてな」

「おめぇ、それ自分で言うんか」

「す、少し黙っていろカカロット!」

「おい、これ食うか? 俺が作ったんだ」

「あ、いただきます。ありがとうございますね、ラディッツさん!」

 

 そして弟と旦那はキャベくんと話しを弾ませている。キャベくん、反応いいからな~。サイヤ人の事を話したり聞いたりするベジータが、なんか先輩風ふかせてんだけど。

 

 

 

 

 とまあ、全体的に緊張感が一気に緩んだ昼休憩。

 

 しかしそれが終わって再開された第三試合にて、フリーザ様がいきなりブッ込んできた。

 

 

 

「この試合、私は棄権させていただきます」

 

 

 フリーザ様、まさかのビルス様ブチギレ破壊フラグご建設である。

 

 

 なんでや!!

 

 

 

 




ひゅーう! 話が進まないぜー!




そして話が進まなくて申し訳なく思いつつ、主人公のイメージイラストを頂いたのでご紹介!b-kanさんに頂きました!


【挿絵表示】

KA・WA・I・I!!またもやイメージイラストで可愛く描いてもらえて本当に主人公幸せ者だぜ……!
プロポーション抜群な上に、肩だし萌え袖ぴったり黒レギンスヒールとか、まんべんなくツボを押してくるこのバランスの取れた美しさよ……。シックな色合いがまた色気を引き立たせていて素敵です。大人可愛いって言葉はこういう時に使うのかと実感。

b-kanさん、この度は素敵なイラストを頂きありがとうございました!

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