○月×日(地球暦を採用)
今日から日記をつけ始めることにした。と言いつつも、今現在居る場所は紙媒体というものが少ないので電子機器に記録している。現状の私ではペンを握ることが難しいのでありがたい。
まずは現状の記録から始めることにしよう。何故なら、この日記の目的とは自身の状況の把握であるからだ。
文面としては冷静を装っているものの、今の状況に陥ってから私は常にパニック状態と言ってもいい。本当にまるで意味が分からないので……長々と書き始めると要領を得ないな。うん、まずは現状の記録だ。どんなに馬鹿げていても目をそらせない現実なのだからまず書こう。もうすでに目に見える形で書くのを嫌がっている自分がいるが、とにかく書こう。
・今の名前:ハーベスト
・今の性別:女
・今の年齢:2歳
・今の地元:惑星ベジータ
・現在の状況の予測:ドラゴンボールっぽい世界に居る。死んだ覚えもないのに気づいたら赤ちゃんになっていた。
はっはっは
笑えよ…………………………笑えよォォォォォォォ!!!!!
(空白)
おっと、音声入力なのを忘れていた。つい叫んでしまって恥かしい。まあ自室だし問題ない……信じられるか? 2歳の時点でもう一人部屋なんだぜ。さすが生まれてすぐに別の星に左遷させる種族だよ。
さて、今の、としつこく名前や年齢の前に着けていたことについてだけど、私はもともと地球生まれの日本人、それもこの世界に酷似した漫画を観測する次元にいた人間だ。戦闘民族サイヤ人だとか、惑星ベジータだとか、ベジータ王だとか、戦闘力53万でおなじみのフリーザ様だとかとかとか……日本人だったころ耳に馴染んだ単語が飛び交い、実際にそれを目にすることのできる世界がこの場所だ。漫画に酷似した異世界だとか、以前住んでいた世界から続く別の宇宙とか星だとかそんな可能性は考えても答えは出ないので乳幼児の時に放り投げている。
先日、弟が生まれた時点で「もうドラゴンボールでいいや」ってなった。弟? 皆のアイドルベジータ様だよ。プライド高くてお好み焼きが作れて主人公のライバルで愛妻家で歌って踊れてビンゴを盛り上げるスキルもあってツンデレで強くて遊園地に子供を連れてく約束とか守っちゃう所もあってとにかく色んな意味でファンの心をつかんで離さないベジータ様だよ。読んだの昔過ぎて結構話を忘れてる私でさえちょっと思い出すだけで山のようにエピソードが出てくる人気者さ。
つまり私はサイヤ人の王様、ベジータ王の第一子である。ぷりんせすである。知ったとき目が死んだのである。
ここまで書くだけで気力がごりごり削られていく。今日はもう寝よう。おやすみなさい。
▽月□日
あた~らし~い、あ~さがきったッ、ぜつぼ~うの、あ~さ~だッ
私の一日はこの歌から始まる。
日記をつけ始めて1年が経った。生まれて? からは3年だ。
ベジータはすくすく成長している。そしてやはり天才か、もうすでに頭角をあらわしている。無駄だと思うがつっこんでいいかな? 1歳児に戦わせんなや。いや私もやらされたけどね? つーかベジータ君や、お姉ちゃんの肩身が狭くなるからあまり早々に才能を発揮しないでくれんかね。
私はと言えば、一応訓練は受けているものの仕事(宇宙の893なアレな)に出されることは全力で避けるようにしている。星どころか人一人も殺せるわけないだろう。心情的に出来ないし、あの世が存在していて地獄に落とされるのが確定する行いを誰がするか。
だからベジータくん、あんまり早く働きだして姉の私の肩身狭くなることは出来るだけ遅くしてね。
働いたら負けだと思ってる。まさかこのセリフを堂々と使っても恥じることのない日がくるとは。
×月◇日
最近3歳になった弟の目が私を蔑む目になってきた腹立つ。なんだ、自分はもう仕事してるってか。私はニートってか。サイヤ人の聖人とか菩薩とか言われてもいいはずの優しい私をニート扱いか。
ちょっと訓練に本気出す。私だって才能だけはあるんだぞ。血筋はエリートなんだからな!
ちなみにちょっと前、もう一人弟が生まれた。ターブルたん可愛いよターブル。まだ幼いけどベジータと違って間違いなく素直であろうことが伝わってくる。ここ最近の私の癒しである。
●月△日
最近周りが働けと煩い。
生意気な弟を倒すためだけに訓練に熱を入れていたら戦闘力が9000を超えてきたことが原因らしい。というか、あからさまに馬鹿にされたのでつい腹立って弟をフルボッコにしてから今まで放任だったくせに一気に煩くなった。おかしいな、サイヤ人の女性はかなり少ないからもっと箱入りにして優しく扱ってもらってもいいはず。あれ、しかも王女だよね私。もっと大事にしろよ、大事にしろよぉぉぉぉ!!
ここで私はひとつ対策を立てる。そう、それは脳筋ばかりのサイヤ人の中でインテリ系を目指すことだッっ! もともと名前をまんま受け継いだことから察せられるようにベジータがベジータ王になるのは確定している。だったらそれを支えるのが姉であり王女である私の務め云々言って誤魔化してやる。仕事の実践を積むのはまだ後で出来るから今は知識を蓄えたいとか何とか言って勉強するんだ。脳筋が多いサイヤ人の中では頭脳チームは貴重だからな。戦闘力が低い人が付く確率が高いから馬鹿にされがちだけども。
それにしても、次男ってことを抜きにしても性格的な面で次期王レースからすでに外されてるターブルだけど戦闘センスはかなりあると思う。そのうち辺境惑星に送られるはずだし、なんとかそれについていけないものか。苦労もあるかもしれないが、地球の死亡フラグに比べればそんなものちり芥に等しい。
うん、ベジータがすくすく成長するにつれて最近よく考えるんだ。惑星ベジータご臨終っていつだっけって。そろそろ焦らないとまずいかもしれない。
ちなみにフリーザ様には出来る限りゴマをすっている。惑星ベジータ滅亡の時、珍しい頭脳タイプのサイヤ人ということで生き残らせてもらえる程度には保険で好感度稼いどきたい。
□月○日
現在、私6歳。最近主人公の親父を発見。様子がおかしくなるのを見逃さないためがっつり監視を始める。未来が見える術をくらう星の名前は忘れたからとにかく彼の反応だけが頼りだ。
とりあえず感想。バーダックさん格好いい。ワイルドだぜ。ギネさん美人。こんな美人な母がいたとか新事実だぞカカロットォ……。ラディッツ可愛かった。なんや、弱虫とか言われて涙目になっちゃうとか可愛いやろ。ただでさえ生意気な弟に慣れてる上に、エリート戦士の子供は生意気なのが多くて鼻につくので普通の反応がくっそ可愛い。
×月▽日
ターブルが辺境惑星に送られてしまった。直前まで駄々をこね、こっそりついていこうともしたが阻止された。無念。
●月□日
最近癒しに飢えて我慢できずにちょっとだけラディッツにかまったら怯えられた。何故だ。
ζ月◎日 惑星ベジータ滅亡日
ついに来てしまった。私7歳、ベジータ5歳である。
惑星プラントを奪ってからの、サイヤ人王家の短い栄華であった。今までの所業が所業なので、フリーザ様は別にするとして自業自得だったと思う。まあ今の仕事じゃ結局長く栄える類の種族じゃないわな。永らえても破壊神ビルス様に破壊されていたのがおちだろう。
さて、私は悠長に日記を書いているわけだからして生き残っている……生き残っているのだが。
何故、私はカカロットと同じ宇宙船に乗っているのだろうか。