救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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機械少女は希望の夢を見るか④

「さて、今回の議題は皆も聞いているとおもうが、第4支部に潜伏していた『絶望』の事じゃ」

「副支部長だっけ?ま、元々人望なんてない〝ボッチ女〟が支部長じゃ、誰が裏切ってもおかしくないっしょ」

 

 天願の言葉に、安藤は忌村を見ながら馬鹿にしたようにケラケラと笑う。

 

「良いことを言う。支部長は人望のある人物がなるべきだ」

「……………」

 

 安藤、十六夜、この2人は忌村と同期だったとらしい。何より安藤の才能は《超高校級のお菓子職人》。何時だったか忌村が呟いていた、甘い物というのが何か関係していそうだ。

 

「………うーん」

 

 何か複雑な人間関係を持ってそうな予感がする。というか持ってるだろうな、絶対に……。

 

「まあ、静子おねーちゃんがボッチかどうかはおいといてさ。………こうして信用できる相手を連れて来てる奴が少ないのは、皆も自分の人望には自信がないんじゃない?」

 

 苗木の言葉に数名の支部長がピクリと反応する。苗木はその反応を確かめながら言葉を続けた。

 

「ま、それも仕方ないか。キミたち、ご立派な名前やキャラ立てをされておいて、アニメの一話辺りに1人2人は必ずしょーもない方法で殺されそうな少しキャラの強いモブだし。人望に自信があるわけないよね」

 

 ピシィッと、空気に罅が入った気がした。

 苗木がそんな周りの反応など気にせず体を横にずらすと、背もたれにナイフが突き刺さった。

 

「あまり俺たちを舐めるなよ」

「事実ですよね?人望があるつもりなら、信用できる相手が1人ぐらいいるでしょう?」

「あはは。こりゃ痛いとこ突かれちゃったね」

 

 安藤が身を乗り出し罵ろうとするが、その前に黄桜が笑い、言い掛けた文句を言えずにパクパク口を動かした後乱暴に座り直した。

 

「まー俺もこんな適当な性格だからね。いっつも部下に『キチンと仕事してくださーい』って言われてるよ。でも、信用できる奴が居ないわけじゃあない。単純に、〝信用できる奴全員〟に留守を任せてんのよ」

 

 黄桜は酒を飲みながらそう答える。

 

「俺んとこはスカウトやってるだけあり新入りが多いからね。なるべく空けたくない訳よ」

「なるほど、皆さんにもそんな理由があるんですね。失礼なこと言ってすいませんでした」

「良いって良いって。相手が折れないなら、煽って〝本性〟出させるのは有効な手だよ?けどあんま、大人を舐めない方が良い、わかってくれたかな?」

「………折るとか煽るとか何のことだが」

「はは!最近の若い子は成長が早いんだね。おっちゃん置いてかれそうだよ」

 

 苗木は心の底からわからないと言うように惚けると、黄桜は何がおかしいのか笑いながら肩をすくめた。

 

「ふむ。じゃれあいは終わったようじゃな……では聞くが、皆が信用している者の中に『絶望』は居ると思うかね?」

「ありえん」

「ありえねーよ」

「ぶふ!」

 

 天願の質問に逆蔵と宗方が否定した瞬間、苗木は思わず吹き出す。幸い断言した二人に視線が集まっていたため気づかれなかったが。

 

「その見る目が確かなものか確認するための会談でしょう?もっとも、連れてきた人は殆どいませんが……」

「わかっているさ。手段としては俺、逆蔵、ゴズ、会長、月光ヶ原の5人で『面談』といったところか……」

「5人いれば、絶望が数人紛れていても大丈夫だろうよ」

「質問ですけど、未来機関に絶望が潜んでいるとわかったらどうするんですか?」

 

 苗木がふと思い出したように手を挙げると、何を決まりきった事をという反応を示す者と、判断に迷っている者の二組に分かれる。

 

「絶望は殲滅する」

「あいつらを生かしとく理由なんかねえだろ!」

「だって、〝雪染さん〟……どう思います?」

「ふえ?わ、私……?……うーん、そうね。殺さず希望の素晴らしさをわかって貰えるなら良いんでしょうけど……やっぱり、絶望は消すしかないんじゃないかしら……」

 

 突然話を振られた雪染は数秒考え、自身の答えを躊躇いがちに返した。まるで急進派であるが、納得してはいないかのように。

 

「あ、あの……」

「む、どうした?御手洗君……」

「絶望の残党って……『戦刃』は平気なんでしょうか?」

「ま、そうくるよね」

 

 御手洗の疑問に、予想していた苗木が呆れたように呟く。

 〝予想通り〟で……ツマラナイ……。

 

「ふむ、戦刃君か……花美君、どう思う?」

「私の主観でよいのなら、大丈夫かと……現状はおとなしくしてますし、何より彼女は……その……難しい事、悪巧みをできる知能があるとは思えないんですよ」

「相手は絶望ですよ!?そんな簡単に!」

「………御手洗さんさぁ、戦刃さんに何か『個人的な恨み』でもあるの?」

「そ、そうじゃなくて……僕は絶望の残党が、未来機関に堂々と居るのが……」

「落ち着け御手洗君…」

 

 天願が諭すと、御手洗は押し黙った。

 トップとはいえ実に潔い、何か彼に恩でもあるのだろうか?どうでも良いけど。

 

「ではこの各支部長の連れ……と、言っても連れてきたのは7人だけじゃが、面接させてもらうぞ。連れが絶望だった場合、その支部には『監査』が入る。今回連れを連れてきていない支部と第4支部も同様じゃ」

「……意外とあっさり終わったね」

 

 

 

 

 

 解散となった後、苗木は第6支部の中を歩き回る。

 聖原は現在面接中、花美は自室で休んでいて、佐々苗も同様。コロシアイ生活以来ずっと持ち歩いていた刀剣の類は、逆蔵が強制的に没収している。実質丸腰の苗木は、自分を嫌っている男が支配している建物の中を進んでいく。

 

「ど・こ・に・し・よ・う・か・な────」

 

 苗木はたまたま見つけた案内板に描かれている部屋を次々指差していく。そして、《情報室》と書かれた部屋で指が止まる。

 

 

 

 

 情報室では現在2人の男が気絶しており、〝長髪の男〟がパソコンを弄っていた。

 

「こんにちは」

「……予想外の客かと思えば、アナタでしたか」

「はじめましてカムクラ先輩。同じく『超高校級の希望』と呼ばれる者どうし、仲良くお話ししましょう♪」


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