救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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おいでよ動物の国①

「苗っち!そろそろ君をプロデュースさせて!」

 

 苗木がセレスとポーカーをしていると、突然観能が部屋のドアを開け侵入してきた。

 丁度賭ける対象が『下着』になった所なので、劣勢であるセレスは天の助けのように観能を見た。

 

「いいよ」

「一言目で断られるのは予想の範囲。だけど………って、え……ええの!?」

「観能さん、方言出てる」

 

 苗木の指摘に、観能はハッと口元を押さえる。が、やはり気になってしまったのかついつい方言のまま理由を尋ねる。

 

「ええんか?……やって、わっちが前頼んだ時は………」

「昔は昔、今は今……まあ、〝条件付き〟ではあるけどね♪」

 

 苗木はそう言って笑い、『条件』と言うのを口にした。観能はその内容に目を見開き、セレスはおもしろくなさそうな顔をした。

 

 

 

 

 

 元超高校級の生徒会長にして未来機関の副会長である宗方京助は、〝苗木誠の扱い〟に困っていた。当然だろう。苗木はもはや黒を白と言えば、多くの人間が賛同する影響力を持った存在なのだから。

 彼の扱いで未来機関は大きく揺らぐ。何より、彼自身それを理解しているのが厄介だ。

 理解せず、ただ流されてくれる存在だったならばどれだけ楽か……。

 

「………ふう……」

 

 しかし今やるべきは書類仕事を終わらせることだ。

 机の上に溜まった書類に目を通し、判を押し、あるいは付け足し漸く終わった。少し休憩するかとテレビを付ければ……

 

『皆さん。はじめまして……苗木誠です』

 

 件の人物、苗木誠が画面に映し出された。

 

 

 

 

 

 苗木は街に来ていた。

 電気や水道設備が復活し、難民が多く住んでいる街だ。当然そのような場所には人が多く集まり、皆苗木を見つめていた。

 江ノ島盾子を倒した英雄を、世界のために愛する者を殺した英雄を……。

 もっとも苗木は江ノ島の為に江ノ島を刺したのだから、江ノ島盾子を倒した英雄ではあるが、世界と愛する者を天秤に掛け、苦渋の決断の末、世界を選んだ………と言う訳ではないのだが。

 

「ボクは一年間、シェルター化した希望ヶ峰学園で過ごしていたので、この世界にまだこれほど多くの人達が生きているとは思ってませんでした。…………皆さん、頑張っていたんですね」

 

 苗木の言葉に、多くの人間が固まった。この世界で皆、必死に生きてきた自覚はある。だが、頑張った自覚はないだろう。死なないよう、ただ生きてきただけ。

 それを今肯定された。他でもない、英雄から…。

 

「今のボクにできることは、残念ながらほんの僅かです。ですがどうか、『希望』を捨てないでください。一人の希望が誰かに伝染して、その希望が広がっていけば……きっと昔みたいに暮らせるようになります。ボクも皆さんの力になれるよう頑張りますから、皆さんも絶望に屈せず頑張ってください」

 

 

 

 

 宗方はその演説を聞いて歯噛みする。

 苗木は一言も、未来機関に保護された事に関する言葉は言っていない。多くの者が未来機関より、苗木個人の賛同者となっているだろう。だが、それだけのことだ。

 苗木誠の賛同者が増えるなら、苗木誠を未来機関に縛り付け組み込めばいい。そうすれば、絶望の残党を完全に殲滅できる……

 

「……ん?」

 

 そんなことを考えていると、画面の端から〝誰か〟が現れる。

 誰か、ではない。その姿を認識して宗方は息を呑む。恐らく宗方だけではない。この映像見ている全ての人間が、同じような反応をしているだろう。

 

『あ、えっと……これに話しかけるの?……ええっと……超高校級の軍人…〝戦刃むくろ〟です……』

 

 それは元超高校級の絶望にして、絶望の裏切り者。現在、もっとも多くの敵を持つ人間だった。

 

 

 

 

 戦刃の登場に周囲の動揺は隠せない。中には足元の石を拾い構える者もいたが、直ぐ近くに苗木が居るので誰も手が出せない。

 

「えっと、その……まず一言………ごめんなさい」

 

 戦刃は謝罪とともに頭を下げる。が、周りからすればなんだそれは?と怒りを覚えるだろう。幸せを奪っておきながら、世界を壊しておきながら『許してくれ』などなんと都合のいい。

 

「あ、あの……今のは、許して貰おうと思って言ったわけではありません………あれ?じゃなくて、許して貰いたいけど………でもそれは、別の方法でごめんなさいしたくて……えっと……」

 

 何このカワイイ生き物!、と苗木は必死に笑いを堪えていたが、戦刃を凝視していたその場の皆はもちろん、カメラにも映っていないため誰も気づかない。

 一通り笑い終わった後、どもる戦刃の背後に近づき、その肩に手をおく。振り返った戦刃に、苗木は優しく笑いかけた。

 

「頑張って、戦刃さん…」

「………うん」

 

 戦刃は苗木の言葉に微笑むと、再びマイクを手にカメラに向き合った。

 

「……私は、家族が盾子ちゃんしかいなかった……私には、人を殺す才能があった……私はただ才能を磨いて、盾子ちゃんの頼みを聞いて、自分自身から何かをしようと思ったことがなかった。才能に流されるまま、盾子ちゃんに言われるまま、何も考えないで生きてきた……でも、盾子ちゃんに殺されそうになって、苗木君が助けてくれて……初めて自分の意志で行動したいって思った。助けてくれた苗木君やみんなのために、自分で考えて動きたいと思った……そういう、当たり前のことをしている人たちを不幸にしてきたこともわかった……さっきの『ごめんなさい』は、形にした反省。だから、許してなんて言わない……今は、許されなくても良い。でも、頑張るから。こんなことにしちゃった世界を、頑張って戻すから……その時は、また謝るから……そしたら、許してほしい……」

「……………」

 

 その後戦刃からマイクを受け取ると、苗木は再び話し始めた。

 

「人って、どうしても潔白じゃいられないと思うんだ。みんな誰かを傷つけて傷つけられて、裏切って裏切られて、絶望してしまう……でも、〝人は許し合える〟と思うんだ。誰かを許して、繋がって…そうやって『希望』は広がる。……戦刃さんがしたことはきっと、なかなか許せないことだと思います。でも、どうか信じて見守っていてください……」

 

 苗木の言葉に、誰かが石を落とした。そして次々と石を拾った者達の手から、石が落ちていった。

 

 

 

 

「っくそ!」

 

 その一部始終を見た宗方は机を叩いて叫ぶ。やられた。

 超高校級の絶望である戦刃むくろを、苗木誠が『許してやれ』と言った。言ってしまった。

 元々、絶望の皆殺しに反対する者は居た。苗木誠が、戦刃むくろを連れて外に出た時さらに増えた。今回はその比ではない。下手に戦刃むくろに手を出せなくなった。

 いや、戦刃むくろだけではない。苗木誠が保護した絶望全てだ。それを防ぐ手立ては、苗木がまだ何の地位も持っていない内に絶望を殲滅するか、そこまでの地位を与えないかのどちらかだ。

 どちらもキツい。地位を与えなければ〝信奉者の反発〟を生む。地位が低くても、だ……。

 

「あの、宗方さん……」

「……柊か……」

 

 宗方が頭を抱えていると、灰色の髪を肩で切り揃えた〝女性〟が心配そうに話しかけてきた。

 彼女の名は『柊投花』。花美や宗方と同じ74期生だ。

 

「あまり根を詰めすぎないで、困ったことがあったら相談してください……私は、何時だってあなたの味方ですから」

「………〝逆蔵〟と言い〝雪染〟と言い〝お前〟と言い……俺は部下に恵まれているな」

 

 柊の励ましに宗方は笑い、しかし宗方が出した先の2人の名前に、柊は目を細めた。




オリキャラ

超高校級の勤勉家 柊投花(ひいらぎとうか)74期生 ニバンボシさんのキャラ

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