救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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桜の下には希望が埋まっている⑧

 当然だが、花見は中止。

 現場には苗木と霧切、佐々苗と観能、そして数名の未来機関構成員。戦刃や大神達78期生は、外の見張りと石丸の看護をする。

 

「……ん?なんでボクも調査してるの?……元探偵と超高校級の探偵の2人がいるなら十分でしょ」

「苗木君は、学級裁判での実績があるじゃない」

「少年、面倒臭がるのは良くないぞ」

 

 何故か頼りにされているというのはわかった。仕方なく、早速捜査をする事にした。

 掘り起こした死体は男性、未来機関の構成員らしい。昨日の夜、会場の準備をしていた観能と数名の構成員は夜の11時まで準備していて、朝の6時には数人来ていてらしい。

 

「つまり、犯行時間はその間だって事ね……」

「あ、スコップみっけ」

「……………」

 

 霧切が犯行時間を思考している間に、掘り返された土の中から苗木が《スコップ》を見つけた。話を聞いてないことに怒った霧切が睨んだが、苗木は気づかない振りをする。

 

「ああ、ここ最近雨が降ってなくて地面が固くなってるから、掘り返して柔らかくしたんだ。その時に使ったものだね。今日の花見の後、肥料に使えそうなゴミを埋めるために一本残してたんだ」

「使われてんなら、指紋は取っても意味ないか。じゃあ死因だけど……」

 

 と、苗木は死体をみる。

 死体の心臓には《ナイフ》が突き刺さっていた。すごいデジャヴ……いや、それよりナイフに見覚えが……。

 

「そ、それは戦刃の!なら犯人は戦刃むくろ!やっぱり、あいつ!」

 

 苗木がナイフを引き抜き眺めていると、未来機関構成員の1人が叫ぶ。他の面々はすぐさま戦刃を捕らえにいこうと動き出すが……。

 

「それは違うよ。──だから、全員待って」

 

 苗木の制止に、構成員たちは足を止めた。

 

「で、ですが苗木様……そのナイフは……」

「様って………大体、ナイフはキミらが保管してたんでしょ?スコップと同じで誰でも取りにいける。まあ、戦刃さん隠し持ってたけど……でも〝犯人じゃない〟」

「何故そう言い切れるんですか?」

「だって戦刃さん、昨日の夜から今日の朝までずっと『ボクの部屋』にいたし」

「「「………はい?」」」

「どういうことなの苗木君」

 

 苗木の証言に未来機関一同が凍りつき、霧切が苗木に尋ねてきた。気のせいか、目つきが何時もより鋭い。

 

「あなたは、戦刃さんと2人で、一晩中、何をしていたの?」

「ひ、聖原クン巻き込んでの《TRPG》を……」

「……それは何?」

「スゴロクみたいなものさ……」

 

 苗木の答えに霧切は首を傾げ、花美が説明してくれる。

 

「霧切さんは、何を想像したの?」

「苗木君のクセに生意気よ!」

 

 霧切はそう言って、赤くなった顔を逸らした。

 

「それより、死体の状況を確認しましょう……外傷は胸に刺さったナイフ以外見当たらないし、これが死因なのは間違いないと思うけど……」

「いや、これは『窒息死』だね」

 

 霧切が死因を断定すると、花美が否定してくる。

 突然の反論に、当然霧切はむっとした。

 

「どんな意図か知らないが、一度生き埋めにして殺害し、その後心臓を刺して埋めたようだ……」

「……それを示す根拠は?」

「胃や肺に〝土〟が入り込んでいる。それに、手首には縄の跡……こっちは殺す時に抵抗されないようにとも判断できるが、体内に土が入るのは、〝埋められていたときに生きてた〟という証拠だよ」

 

 死体の胸をトントン指で叩きながら花美は説明する。苗木もよくよく死体を見てみる。確かに手首や足首に、縄の跡が残っていた。

 

「『体内に土がある』って、どうしてわかるの?」

「私は死を理解するために、数多くの死体を見てきた。直接解剖したこともある。死体のことに関しては君より上だ」

「……あなたが捜査を混乱させるために、『嘘』を言ってる可能性もあるわ」

「私が犯人と言いたいのかね?君は、随分私を嫌っているようだな……」

 

 どことなく険悪な雰囲気を醸し出す二人に、苗木はああ、と手をたたく。

 

「霧切さん、自分より先に〝お父さん〟の側にいた探偵の花美さんに嫉妬して………いひゃい(痛い)いひゃい(痛い)いひゃいよひりひりはん(痛いよ霧切さん)

「余計なことを言うのはこの口かしら……?」

 

 霧切は余計な発言をした苗木の両頬を引っ張る。そんな二人の様子を見て、花美はクスクス笑う。

 

「ああ済まない、微笑ましくてね。やはり少年は『マコト』に似ている」

「?………似ているも何も、ボクは誠だけど?」

「違うよ。──『花美真』、桜下の妹のことだよ」

 

 苗木が首を傾げていると、観能がやってきて説明してくれた。名前呼び……同期だし、2人は仲がいいようだ。

 

「…え、〝妹〟なの?……弟じゃなくて?」

「うん。妹……」

「……………」

「……ぷっ」

「霧切さん今笑った?」

「何のことかしら?」

 

 と、素知らぬ顔をする霧切。だがその肩は微かに震えている。

 

「まあいいや。……じゃあ、調査を続けよう」

「そうね。けどまずは、この死体が本当に窒息死なのか確かめましょう」

 

 霧切はそう言って死体に向き直る。とは言え、霧切は指で叩いただけで死体の中身を判別する能力はない。と、霧切の肩を苗木が叩く。

 

「〝コレ〟で解剖すれば良いんじゃない?」

 

 そう言って霧切に渡したのは死体に刺さっていたナイフだ。

 

「………苗木君………私、頑張るから。だから、側にいてくれないかしら?………猟奇的な死体は幾つも見たけど、自分で死体を切り刻むのは……」

「いやいや、素人にやらせるわけがないだろう」

 

 霧切が意を決して挑もうとすると、花美がひょいとナイフを奪う。

 

「いいか?生物の体は複雑なんだ。筋繊維の向き、骨の隙間、内蔵の位置。それら全てを勉強してからにしてくれ……」

 

 花美はそう言って手袋をつけると、慣れた手つきで解剖していく。やがて胃と肺が見え、切り開くと〝土〟が出てきた。確かに胃と肺の中には土がある。つまりこの死体は一度死んでから心臓を刺され、そして再び埋められたという事だ。

 

「生き埋め殺人、か。………にしても、何故わざわざ死因の偽装を?」

「戦刃さんに罪を着せる為じゃないかな?」

「なら見つけやすい場所に死体を放置するはずだ」

「生き埋めと死体偽装の犯人が、〝別の人間〟ならどうかしら?たまたま見つけた死体を戦刃さんのナイフで傷つけ、土で汚れた死体に違和感を持たれないように再び土に埋めたのよ」

「たまたま……か……」

「…………そういえば、ここって廊下に《監視カメラ》あるけど」

「すまない。なにぶん桜のために建てた建物なので、監視カメラの配置は適当で死角が多いんだ。内部の人物なら熟知してる……」

「でも『倉庫の入り口』ぐらいなら映してますよね?…11時から6時の間に、ボクらの荷物を保管してた倉庫と中庭に出るための通路を利用した人を捜しましょう」


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