「ここが《寄宿所エリア》になります!」
佐々苗の案内の下、苗木達は寄宿所に赴いた。どうやらこのビルはロの字型らしく、寄宿所は南にあるようだ。
こんな赤い空の世界で太陽の位置を気にする必要あるのだろうか?あと、中庭にはやたらデカい〝桜の木〟があった。しかも、少し咲いている。
何でも年中花が咲いていて、春には満開になるんだとか。
「超高校級の植物学者が改良したの?」
「いえ、昔からだそうですよ。なんでも、花美支部長の一族を代々見守ってきた『御神木』なんだとか」
よくよく見れば幹に紙垂が巻かれていた。御神木と言うのは本当なのだろう。
しかし昔から咲き続ける桜の木とは……過去に超高校級の植物学者に匹敵する才能を持つ者でもいたのだろう。
「さ、ここがみなさんの部屋です。お好きなところを使ってください」
佐々苗がそう言うと、皆各々自分の部屋と決めた扉に向かっていった。
「あ、皆。希望ヶ峰学園から《部屋のプレート》持ってきてたから、これ使おう」
「用意がいいのね」
ふふ、と霧切は笑いながら自分のプレートを取る。他の面々もプレートを受け取り、苗木は最後に残った自分のプレートを部屋の扉に付け中に入る。
テレビ、タンス、シャワールーム、トイレ、意外と充実していた。何より、トイレとシャワールームが分かれているのがいい。
「タンスは替えの服を入れて……クローゼットは使わないかな……」
「…………」
苗木はクローゼットの中を確認して、無言で閉めた。
そして部屋から出るとまだ佐々苗が居るのを見つけ、安堵のため息を吐いた。
「佐々苗さん、部屋他に空いてない?」
「空いてますけど……どうしたんですか?」
「──座敷童が居た」
「……は?……えっと……あの、ホラーは無しで」
「確かめれば?」
佐々苗はうぅと呻きながら中に入る。すると、クロスーツの目つきの悪い〝男〟が現れる。
「ひぃぃぃいいい!?」
「………うるさいぞ佐々苗………と言うかお前、第3支部じゃなかったか?」
「ひ、聖原さん……なんでここに……それとわたしは、先週からここに転属してたんです」
どうやら佐々苗と知り合いらしい。『聖原』というらしい男は佐々苗を押しのけ、苗木の前に立つ。苗木が思わず身構える中、聖原は懐に手を入れ……〝色紙〟を取り出した。
「サインください」
「サイン?……いきなり言われてもね……」
「あ、『たくみんへ』をお忘れなく」
「手慣れてる!?」
苗木はサラサラと色紙にサインした。まあ、実際は普通に名前を書いただけなのだが。
「ありがとうございます、家宝にします」
「別にボクのなんて家宝する価値ないと思うけどな……」
「ところで、一つ聞いていいですか?」
「─ん?」
「江ノ島盾子を〝どう〟殺したんですか?」
「…………………」
聖原の質問に、苗木は一瞬だけ固まる。
そしてすぐに、内面の読めない笑みを浮かべた。
「興味あるの?」
「俺は……今まで様々な殺人を見てきた。あの放送で、今までにない『殺し愛』を感じた!ただ相手のことを想い、相手の為だけの殺人方法を考える!」
「…………」
聖原は何やら熱く語り出した。苗木も佐々苗も若干……嘘、かなり引いている。
「もちろんそういう殺人も、苗木さんには劣るが何度か見たことがある。だけどあの時、江ノ島盾子の額を突き刺した時、明らかに〝何かが違う〟と感じた。どんな殺し方をしたんだ?教えてくれ!」
「──やだ」
うなだれる聖原を無視して、苗木は部屋に戻り鍵をきっちり閉めた。
まだ扉の外に気配がある。しばらく部屋に立てこもった方が良さそうだ。苗木は暇つぶしのため、『江ノ島盾子の日記』を開く。
「………んにゃ?」
ページを捲っていくと不意に手を止める。江ノ島が、予備学科を絶望化させた方法が書かれていた。
「《ZV(試)》?……ふむふむ、要するに洗脳映像ね……あ、本科の人達にも使ったんだ。こっちは本番用みたいだけど………ん?」
この単語どっかで見たような………と、そこで思い出す。寄宿舎二階の江ノ島の部屋と、ほぼ私室となっていたモノクマ操作室の下にあった部屋。そこを漁ったとき出てきた〝DVD〟に書いてあったような気がする。
『苗木』と書いたダンボールに詰め込んでおいたが勝手に調べられたら困る。知らなかったと言い訳は出来るが没収されてしまう。
「教えてくださいお願いします」
「……………」
扉を開けると土下座した聖原の姿が。気配はなかった、消したのか。まあ、苗木相手なら多少気配を消すだけで事足りるが……少なくとも、苗木が気づいていたことには気づいたのだろう。
「教えない」
苗木はそう言って聖原の横を通り抜け、駐車場に向かう。
駐車場には荷物を検査している人間はおらず、一応の見張りはいたが、荷物を取りに来たと言ったらあっさり通してくれた。
「危機管理力がないというか、ボクが信用されすぎているのか……ボク、仮にも江ノ島さんを生中継で『好き』って言ったんだけどな」
ダンボール箱を担ぎながら歩いていると、ふと中庭に誰かが居るのに気づく。どうやら〝老婆〟のようだ。
「………!」
老婆は苗木に気づくとニッコリ笑って手を誘うように動かす。苗木は数秒考えた後、中庭へと歩き出した。
「苗木…誠君だね?……放送見てたよ……どんな時にも絶望に屈さない、まさに希望だね」
「そうですか?」
「そうさ……私達にとって〝この桜〟と同じ」
ベンチの隣に座った苗木に、老婆は飴を渡しながら話す。なかなか甘い……。
「この桜はね、私達《花美一族》にとって希望なんだよ……」
老人の話か、長くなりそうだなと苗木は考えながら、また聖原が自分を見ていることに気づいた。