救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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桜の下には希望が埋まっている②

 苗木達はバスに戻り、未来機関の誘導の下走っていた。

 

「苗木君、大丈夫なんですか?さっき、戦刃さんが戦って苗木君がヒロイ……人質になってましたけど」

 

 舞園は心配そうに先ほど窓から見ていた一部始終を語る。確かに文面にすると相手を信用できなくなる。

 ………てか、いまヒロインと言いかけなかった?

 

「えっと……苗木君の保護を断られたくないから、私を見逃して保護するって……」

「………はぁ?」

 

 戦刃の言葉にクエスチョンマークを大量に浮かべる一同。苗木は呆れたようにため息を吐いた。

 

「ようするに、戦刃さんに手を出したらボクは未来機関に保護されてやらないって言ったんだ」

「それで何で……戦刃っちが助かるんだべ?」

「はいここで朝日奈さんにクイズ!何でボクを保護する条件で戦刃さんに手が出せなくなったでしょうか?

A未来機関が大きな組織だから

Bボクが超高校級の希望だから

C学園生活が放送されてたから

 正解者には《ドーナツ缶》を差し上げます」

「え……えぇ!?」

 

 突然話をふられ慌てる朝日奈葵。ドーナツ缶は欲しい。だが答えが分からない。

 

「ヒ、ヒントは!?」

「ヒントを聞いたら残り時間は十秒になるけど?あ、それと解答権は一度だけね」

「……う、うぅ……ヒント!」

 

 残り時間が十秒になるのはキツいが、解答権が一度だけなら、外せばドーナツ缶が貰えない。意を決してヒントを貰うことにした。

 

「ヒント。ボクの性格は悪いらしい」

「……………」

「10、9、8」

「え、今のがヒント!?」

「7、6、5、4」

 

 苗木が淡々と数えるごとに慌てる朝日奈。さっき言われたことを気にしてたんだ、と戦刃は意外そうに苗木を見る。しかし八つ当たりはどうかと思う。

 まあ実際、苗木は必死に考える朝日奈を見て楽しんでるだけなのだが。

 

「う、うう……」

「3、2、1、0」

「うわーん!せめて適当に言えばよかった!」

 

 時間切れになり朝日奈が嘆く。ドーナツ缶ゲットならず。

 

「うぅ……答えだけでも教えてよ」

「─〝全部〟」

「……ほぇ?」

「全部正解だから、どれ選んでも良かったんだよね~」

「苗木、性格悪いよ!」

 

 苗木の言葉を聞き、朝日奈がもー、とふてくされる。

 ちなみにどういう意味かというと……まず苗木を超高校級の希望と称した天願だったが、そう思っているのは天願だけではないだろう。何故なら遠くに見える未来機関の構成員の半数近くが、苗木に崇拝の眼差しを向けている。

 あの放送が全世界に放送されているなら、未来機関以外にも数多く『信奉者』がいることだろう。

 次に未来機関だが、あの飽きっぽい江ノ島盾子さえ覚えていたことから、この世界ではそれなりの影響力を持っているのだろう。

 そんな未来機関が〝苗木を勧誘して断られた〟。それが世間に知れ渡ればどうなるか?

 苗木の信奉者が不信がる。外だけならともかく内部の未来機関構成員にもだ……。そうなれば絶望の殲滅どころではない。内部分裂中に絶望の残党に襲われ、逆に未来機関が壊滅するかもしれない。

 それを理解した上で自分自身を交渉材料にしたのだ。確かに性格が悪いと言われても仕方がない。

 

「むー!」

 

 朝日奈は頬を膨らませている。苗木がドーナツ缶の蓋を開けると匂いに反応したが、苗木がドーナツをパクパク食べていくと泣きそうな顔になった。

 

「……苗木誠殿って、ドS?」

「今更だろ……」

「……むー!」

 

 朝日奈は完全に不機嫌モードに入り、そのふくれっ面を苗木から逸らした。

 

「ごめんごめん、怒らないでよ」

 

 苗木がツンツンと朝日奈の頬をつつくと、ぷひゅーと空気が抜ける。

 

「あむ!」

 

 朝日奈はせめてもの仕返しか、つついてきた苗木の指を甘噛みする。

 

「…む?……んむ、はむ……!」

 

 そして苗木の指についた『ドーナツの滓』に気づき、朝日奈はペロペロ舐めながら咥え始めた。

 

「──キタコレ!」

「苗木ぃぃぃぃ!そこ、代われ!すぐ代われ!」

「…………………」

「どうした兄弟、顔が赤いぞ!?」

 

 男子達が各々の反応をする中、ドーナツの滓を舐め終えた朝日奈が口を離すと、ぬと、と唾液の糸が走る。

 

「うわぁ、ベタベタ……」

「あ、ごめん!」

「美少女の涎をあんな目で見れる男、苗木誠殿だけですな」

「いや、アイツはほら、好きな奴がいるわけだろ?そいつの涎だったら喜んだんじゃね?」

「!──な、苗木君!…私、盾子ちゃんの姉だから、涎は似てると思う」

「………は?」

 

 と、その時キャンピングバスが停止する。都市機能が働いてない今、止まると言うことは目的地に着いたのだろう。外を見ると崩れかけた周辺の建築物とは大違いに、堂々と建つビルがあった。

 

「じゃ、行こうか……」

 

 苗木が外に出ると、だからお前が仕切るなと十神も愚痴りながら外に出る。他の面々もそれに続いた。

 

 

 

「とりあえず、ようこそと言っておこうかの。ここは未来機関───」

「あ、天願会長!いらっしゃいま──苗木誠だ!本物だー!」

 

 天願が笑顔でビルの説明をしようとした時、パタパタと走ってくる音と明るい声が聞こえてくる。見ると金髪ショートカットの〝少女〟が走ってきていた。

 天願がやれやれと首を振り少女に向き直った瞬間、少女がすっころんだ……。

 

「きゃう!?」

「これこれ佐々苗君……いつも言っとるだろう?足元には気をつけなさいと」

「あうう、すいません……」

「大丈夫?」

 

 天願から注意を受けションボリと落ち込む少女に、苗木が手を差し伸べる。

 

「あ、ありがとうございます!えへへ、優しいんですね……」

「………ふぅん」

 

 立ち上がった少女を見て、苗木は無事な右目を細める。少女が首を傾げたので、何でもないよと笑い手を離した。

 

「丁度いい。佐々苗君、彼等にここを紹介してやりなさい」

「あ、はい!ようこそ!ここは未来機関第14支部……わたしは79期生の《幸運枠予定》だった、『佐々苗七希』です!」

 

 少女はそう言って敬礼のポーズを取った。

 




佐々苗七希

ひがっちさんのキャラ


次回は切望のオリキャラが出ます。

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