救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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超高校級の不運が超高校級の殺人と超高校級の処刑と超高校級の絶望を引き寄せた理由⑪

「すごいね、キミ。まだ外の世界に出ようか迷えるんだ」

「『前向き』なのが、ボクの取り柄だからね」

 

 苗木の言葉に、呆れたような冷めた目と同時に熱っぽさを孕んだ器用な視線を送ってくる江ノ島。

 

「うぷぷ。〝絶望しきった世界〟に出てくつもり?」

「絶望しきった?絶望しきってないから、ボク達のコロシアイを『放送』したんだろ?」

「…………マジムカつくなぁ、おい!でもよ、殆ど絶望に染まってんのは事実なんだぜ!?」

「……何者…なの?」

 

 江ノ島が叫んでいると、霧切が絞り出したようなか細い声を出す。聞き逃しそうなほど小さく、しかし微かに絶望が孕んでいる声に江ノ島は気づき、ん?わざとらしく首を傾げる。

 

「人類史上最大最悪の絶望的事件……そんな事件を起こした《超高校級の絶望》……あなたと戦刃さんの二人だけとは考えられない。それは組織なの?集団なの?家族なの?」

「そうだね。答えるとすれば……どれでもないよ。なんて言うか、もっと〝観念的なもの〟なんだ。絶望は伝染するんだよ。それは、現象の類とも似ているかもしれないね」

 

 現象、確かにその通りだ。あれは事件というより、災害という現象そのものだった。

 

「そして今や…滅びた世界の全てが絶望…つまり、絶望を敵と見なすなら、あなた達の敵は『世界そのもの』という事よ!」

「んじゃ、〝あの人達〟は?」

 

 世界そのものが敵というなら、絶望に逆らっているであろう『黒スーツの集団』は何なのかと苗木が尋ねると、江ノ島はああ、と完全に冷めた視線をモニターに向ける。

 

「絶望の殲滅を夢見る《未来機関》っていう組織だよ。希望ヶ峰学園の卒業生や、本当ならキミ達の後輩になったかも知れない希望ヶ峰学園学生候補が集まったね。それでも……うぷぷ」

「………〝あれ〟も未来機関の一人?」

「……へぇ……そうそう、〝あの女〟も立派な未来機関構成員」

 

 苗木が未来機関と共にいる『白衣の女性』を指さすと、江ノ島は目を細め楽しそうに笑う。

 

「……確かに、まだ希望を捨てきれない人は居ます……だからといって、あんな世界に出るのですか?」

「『わざわざ自分達で閉じこもったのに』…って?」

「おや、理解が早いですね……そう!テメーらは自分達で、鉄板をトンチンカントンチンカン頑張ってはっつけて!ぜーんぶ忘れて閉じこめられたって騒いで居たわけだ!」

「……閉じこもった……でも、それでも『絶望』が混じってしまったのですね」

「そういうことです。そして私達は、あなた達の記憶を奪い《コロシアイ》をさせようとしたのです。希望の象徴であるあなた達がコロシアイする姿を外に見せつけて、絶望を〝伝染〟させる……計画だったんですが」

 

 江ノ島は眼鏡越しに〝苗木〟を見るが、苗木はケラケラ笑って受け流している。

 

「も、もう…わかったべ…オメーがスゲーのは、もう十分すぎるほどわかったから…だから、もう助けてくれよ!なんでもするから助けてくれって!」

「なるほど、それが人間の命乞いね!さすがの私様も初めて見るほどの無様さだわ!でもね、ボクに命乞いは通じないんだよ。ボクは、ただ純粋に絶望を求めているだけなんだ。そこには、〝一切の理由がない〟んだよ」

 

 理由がないから対策も出来ない、理由がないから理解も出来ない、対策も理解も出来ない理不尽さ。それこそ『絶望』。

 だが……

 

「そんなの、ボクの知った事じゃないんだよね」

 

 その絶望があるからこそ、人々は『希望』を求める。

 

「─ん?」

「世界が滅んでようと、地球がなくなってようと、太陽が膨張してようと、ブラックホールが接近してようと、どっかの青狸がネズミ殺すために爆弾使おうと、生きてる限り人は〝前〟を見ていくしかない。だって、目はそのために前についてるんだから………って、零点をとり続ける生徒の担任が言ってたしね」

「………………………」

 

 苗木の言葉に流石の江ノ島も絶句していた。が、絶句することに飽きて、何より苗木の言葉をかみしめ、ニィィと獰猛な笑みを浮かべた。

 

「うぷ……うぷぷぷ…アーハッハッハッハ!ゲホゲホ!ヒィー……アハハ!ま、まって…ケホ!エホエホ!アハハ!」

 

 酸欠になるほど大笑いして、なかなか飽きがこないのか笑いすぎて赤く、呼吸困難で青く、二つが混じって紫になっている。

 

「………ハァハァ……笑い死ぬかと思った……それはそれで絶望的な死因!?」

「なのに落ち着いちゃって……?」

「絶望的ぃ!」

「楽しそうで何よりだよ」

 

 世界が終わっていると聞かされ全員が絶望しかけている中、苗木は何時ものように、普段のように話す。だからこそ、周囲は少しだけだが平静を取り戻す。

 

「やっぱり、キミはボクと似てるよね」

「そうかな?」

「そうですね。先程、絶望に理由など無いと言いましたが、普通の人は絶望に〝理由〟を求めるのですよ。家族や友人が死んだから、親友に裏切られたから、思い出したくない過去があるから……人は、そんな理由があって初めて絶望出来るのです。絶望に対して失礼ですよね?私はきちんと絶望を理解してますから、〝理由なく〟絶望出来ます」

「ふーん」

「そして希望にも、本来理由が必要です。優しい家族、信用できる親友、素敵な思い出……ですがアナタは違います……理由なんて〝ない〟、根拠なんて〝ない〟……でも、アナタは希望を抱いているんですよね?……ほら、正反対だけど似てません?」

「そうかもね……」

 

 苗木は江ノ島の言葉に確かにと納得すると、江ノ島は今度は普段のギャルに戻って笑う。

 

「だよねー!やっぱり……アンタはあたしと同じくらい狂ってる!絶望的に、希望に狂ってる!だから、あたしはそんなアンタを絶望的に誰よりも〝愛してる〟!この世界の誰よりもアンタが〝好き〟!この世界の誰よりもアンタを〝愛せている〟って、自信を持って言える!」

「………え?」

 

 そんな江ノ島の突然の告白に固まる苗木。

 苗木だけでなく他の面々も固まっていた……。苗木とて江ノ島の事は好きだ。二年前初めて合い、過ごす内に恋に落ちていた。だがまさか江ノ島から告白されるとは。何と返すべきなのだろうか?

 

「…うん。ボクもキミが世界で一番〝好き〟だよ」

 

 結局素直に応えることにした。当然皆、驚愕の表情で苗木を見る。

 苗木の返答に、江ノ島は戦刃でも見たことないほど幸せそうな笑みを浮かべる。

 

「好きだからこそ、アンタを殺して『絶望』したいんだ」

「好きだから、キミを絶望させるためにキミの願いは何一つ叶えない。キミの大嫌いな『希望』の為に」

「だから……」

「そのために」

アンタ(キミ)を〝殺す〟……」

 

 二人はそういって互いに笑みを向けた。


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