救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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超高校級の不運が超高校級の殺人と超高校級の処刑と超高校級の絶望を引き寄せた理由①

「………うぷぷ………ぶひゃひゃひゃひゃ!」

 

 穴の底へと落ちていった苗木を見て、モノクマは大笑いと共に消えた。

 

「ね、ねぇ……今のって…!」

「──天使!」

「アルターエゴ、良かった……生きてたんだぁ」

「た、多分ネットワークに侵入した際に、バックアップを取ってたんでしょ……」

「つまり苗木君はまだ生きている…………だから、今すぐ〝武器〟から手を離しなさいあなた達」

「「「……ッチ」」」

 

 霧切に言われると、舞園が包丁から、江ノ島がナイフから、セレスが金槌から手を離す。

 ……どれもみな、人の命を奪える凶器だ。

 

「…………」

「あ、大丈夫ですよ?十神君の心臓を貫こうと思っただけで他の人には……」

「そうですわ。十神君の頭蓋をかち割っても他の方には手を出しません」

「……十神の喉笛を裂いても、他の奴には何もしないって……」

「…なん…だと…!?」

 

 3人の発言に、さすがの十神も顔を青くして後ずさり、霧切は呆れたように頭を押さえる。

 

「そんなにも苗木君を想ってるくせに止めないのね?」

「だって苗木君、やけにあっさりしてましたし……何か策があるのかもって思いまして」

「あるいは、単純に受け入れていたか……死を受け入れた者から覚悟を奪うなんて、無粋な真似はしませんわ」

「…………………」

 

 2人に対し、江ノ島は無言だ。江ノ島だけは、黒幕の味方をするか苗木を救うか迷っていたのだ。

 

「とりあえず、食堂に集まっててくれるかしら?『彼が残したモノ』も確かめたいし……」

「苗木君が……?」

「ふむ、それより拙者は〝天使〟を探しにいきたいのですが……」

「───なに?」

「な、何でもありませんでこざる!」

 

 山田は霧切に睨まれおとなしく引き下がった。霧切は脱衣場のロッカーの鍵を眺め、真っ先にエレベーターへと乗り込んだ。

 

 

 

「しかし今更ながら、〝苗木誠殿〟は本当に犯人だったのでしょうか……?」

「もう既に投票しといてよく言いますわね、この腐れラードが」

「む……ぐ……今回ばかりは何も…………いえね、苗木誠殿ってあんな人を食ったような性格だから、一見さんには狂人に見えますが、根は『良い人』なんですよね」

「「「……………」」」

 

 山田のその言葉に黙り込んだ一同。

 確かにそうだ。当初はモノクマに向けた異質な殺気やら悪意で距離を取りがちだった全員だが、やり方はともかく舞園から殺意を無くし、下手したら自分が串刺しになっていたかもしれない状況で江ノ島を救って、一人モノクマに目を付けられることになるであろう行動を、誰よりもまず先に行っていた。

 

「僕が落としたぶー子たんの眼鏡拭きも、一日かけて探してもらったこともありますし」

「そーいやオレが暇してるの見たら、わざわざ野球に誘ってくれたっけ……」

「うむ。皆が朝何時に来るのか平均を調べていた時に、彼は表を作ってくれたぞ!」

 

 恩を売ってきた訳ではない。一度たりとも報酬など、見返りなど求めてこず、人のために動いていた心優しい苗木が、クロになったからと言って自分の命を優先するまでならともかく、何時もと変わらぬ態度をとれるとは到底思えない。

 

「あら、私を除け者にして話し合いかしら………」

 

 と、そこで霧切が食堂にやってきた。その手にはなにやら書類の束が握られている。

 

「それは何だ?」

「苗木君が私達に託した手掛かり。78期生のプロフィールよ……〝16人分の〟ね……」

「「「「!?」」」」

 

 霧切は書類をテーブルの上に並べると、ある一枚の書類の上に手を置き、江ノ島を睨む。

 

「『江ノ島盾子』、あなたは何者なの?私達の敵?それとも……」

「……………」

「ちょ、どうしたんだよ霧切ちゃん……急に江ノ島ちゃんに詰め寄って……」

「まさか、江ノ島のプロフィールが無かったのか?」

「いいえ〝あった〟わ………」

 

 動揺する一同の中、疑問を発した桑田と十神。

 霧切は十神の言葉を否定して、抑えていたその一枚を持ち上げる。

 

「それがいったい………なるほどな」

 

 そのプロフィールを見て、十神が納得したように頷く。他の皆は首を傾げていたが、舞園やセレスも気づいた。

 

「顔が違いますね」

「5割増しで美人ですわね」

「え?だってそれ盛ってるんじゃ──」

「学園の正式な書類に貼られる写真が盛られている写真のはずないでしょう」

「では、お主はいったい………?」

 

 江ノ島は自分に集まった視線を見回し、はぁとため息を吐くと、自分の髪に手をかけ外した。

 

「──カツラ!?」

「な、なな、なな………ベークション!あららん?根暗侍、なに似合わねー格好してんの?」

「話すのは久し振りだね、ジェノサイダー翔………そんなに変?」

「変変!どれくらい変かって言うと、魚が死体の腐ったような臭い放って足をはやして動き回るぐらいギョギョッとするぐらい変!」

「……………」

 

 その表現にショックを受けたように落ち込む、黒髪ショートの少女。

 

「あなたは……『戦刃むくろ』ね……」

「……うん……」

 

 霧切はプロフィールの一枚を見て少女の名を尋ねると、戦刃はコクリと頷く。

 

「私が、78期生の16人目……」

「本物の江ノ島と入れ替わっていたのか……つまり、お前が《黒幕》だな?」

「え?あ、ごめん……〝違う〟……」

「………………」

「でも黒幕とは関係あるはずよね?それは、誰?」

「………えっと……ごめん。それは、自分で突き止めるべきだと……思う。というかそうしなきゃ、苗木君が私に聞かなかった意味が無くなると思うの」

「………苗木君は、あなたの『正体』に気づいていたの?」

「……多分」

「……そう、確かにあなたの言う通りね」

 

 戦刃の返答に、霧切は少し考え納得する。

 

「おいどういうことだ、説明しろ霧切!」

「今この瞬間も放送してるのだとしたら、答えを聞いた私達を誰が勝者と認めるの?黒幕が私達を敗者にしたい以上、勝者になれなくなった時点で何をしてくるかわからないわ」

「───わかってんじゃーん!」

 

 霧切の説明に突然モノクマが現れる。しかも一体ではない、数10体が全員を囲むように現れていた。

 

「うぷぷ。もしここでそこの残念が、ボクの正体をバラしてたら」

「ここにいる皆を八つ裂きにバラしてやったよ!」

「ぐっちゃぐちゃの!」

「べっちょべっちょになるまでね!」

「うぷぷ…」   「うぷぷぷぷ」   「うぷぷ」

  「アーハッハッハ!」 「ブヒャヒャヒャ!」

 「クマークマックマッ!」「ダーヒャッヒャッヒャ!」 

 

 たくさんのモノクマ達は、様々な笑い声を残し消えていった。残った最後の一体は皆を見つめる。

 

「じゃあ、ボクは温かい目で見守ってやるよ。温かい目!」

 

 モノクマは奇妙な目の形をした眼鏡をかけて去っていった。




苗木「……………誰も来ない」

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