救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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イキキル(非)日常④

「おはよう舞園さん」

 

 苗木が舞園の部屋に行くと、舞園は笑顔になり出迎える。

 

「あ、苗木君。ちょうどよかった!」

「……何か頼みたいことでも?」

「私も、これから出かけようと思ってたんです。よかったら付き合ってくれませんか?」

「良いよ。どこに行くの?」

 

 まあ前回の記憶から、何のために出かけるのか知っているのだが。

 

「えっと…その……どこかに、護身用になる武器はないかと思って…」

「護身用?」

「だって、私達をここに閉じ込めた人が、いつ襲ってくるかわからないじゃないですか…」

 

 まあ現状ではそれは有り得ないが、苗木が彼女の計画を邪魔し続ければ、何らかの接触があるだろう。

 姉に殺させるか、人質で裏切り者にした鬼に殺させるか……早い内に味方を増やしておかないと面倒なことになりそうだ。

 

「………あの?」

「ああごめん。考え事……それで、身を守る道具が欲しいんだよね?」

「はい」

 

 ならやっぱり、体育館前のショーウインドウにあった模擬刀なんかが良いだろうな。前回と同じにしたほうが先も読みやすい。

 まあ、使わせるつもりは無いが、念のため。

 

「体育館前のショーウインドウですね。行きましょう!」

「あれ?声に出したっけ?」

「エスパーですから」

 

 うん、本当に懐かしい台詞だ。

 本当にエスパーなんじゃないかと何度思ったことか。

 

「冗談です。ただの勘です」

 

 

 

 そしてやってきたのは体育館前。

 苗木はショーウインドウから全体に金箔が張られた模擬刀を取り出す。やはり金箔が手についた。

 

「これじゃあ護身用にしても…ちょっと…」

「確かに………でも、金箔剥がせば使えそうだな。なかなか頑丈だし……」

「………わかるんですか?」

「……まあね、昔先輩に少しだけ教わったんだ」

 

 その先輩とも、いずれ対峙することになるだろうが。

 その時、苗木はどうするのだろう?彼等彼女等も、絶望の被害者だ(ただし希望厨は除く)。見つけ次第殺すというのは間違っている気がする。

 

「ん?……あ、モノクマメダル………」

 

 苗木が模擬刀の使い方について考えていると、トロフィーの一つにモノクマメダルが入っているのを見つける。

 ちょうどよかった、これで《モノモノマシーン》が使用できる。

 

「……それ、集めてるんですか?」

「これっていうか……これで取れるものかな」

「じゃあ私2枚見つけたので、苗木君にあげますね!」

 

 意図せずモノクマメダルを3枚も手に入れた苗木は考え込む。

 果たして目当てのものが出るのかと。これから起こるであろうコロシアイの予防線。

 

「……ありがとね、舞園さん」

「はい!お役に立てて何よりです。ところで、それどうしますか?」

「持って帰るよ」

 

 あとで金箔剥がして護身用にするために。

 

「…そうですか。あとは………ここにはもう、護身用になりそうなものは無いですね」

「まあ今すぐ必要ってわけでもないし、そうなったらボクが舞園さんを守るよ……」

 

 流石に相手が大神や大和田だったら確実に守れる自信は無いが。

 

「苗木君が私を…ですか?……ありがとう…ございます……苗木君が味方になってくれるなら……もう、護身用の武器なんていりませんね」

 

 舞園はそう言って笑った。心が安らぐ笑顔。この笑顔を見ていると、本当になんでも出来るような気になったのは、これが嘘偽りのない彼女の本心だからだろう。

 心の底から自分を信頼してくれているからだろう。でも苗木は守れなかった。信頼に応えることが出来なかった。

 

「……………」

「な、苗木君?」

「………ん?」

「どうしたんですか?怖い顔をして、爪噛むのも良くないですよ?」

「ああ、ごめん……」

 

 いらいらして爪を噛んでいたらしい。

 苗木はすぐに笑みを浮かべて誤魔化す。

 

「あの……じゃあ、武器探しも終わりましたし、せっかくだから、もう少しお話しませんか?」

「いいよ」

 

 苗木は取り留めもない話をして、そして前回と同じく、舞園の夢の話を聞く。

 ついでに家庭事情も………。テレビの中で活躍しているアイドルに憧れて、アイドルを目指した。

 

「子供の頃の夢を叶えるなんて、凄いよね」

「………私は夢を叶える為に、今までなんでもしてきました………嫌な事も含めて…本当になんでも…」

「…………」

「夢は追い続ければいつかきっと叶う…私もそう思いますけど……でも、その為にはずっと夢を見続けなくちゃいけないんです……それが悪夢であろうと……起きていようと、寝ていようと……夢を叶える為には、ずっと夢を見続けなくちゃいけないんです。あの世界では、少しでも気を緩めればすぐに置いていかれちゃう。息継ぎなしで、水中を全力で泳ぎ続けなくちゃいけない……本当に、そんな感じの世界なんです」

「……それでも舞園さんは『夢』を追うんでしょ?どんなに苦しくても、辛くても。それが舞園さんの夢であり、希望なんだから」

「はい!」

「良いねそれ。自分の怠慢を才能のせいにして、勝手に絶望して死んだバカ共に聞かせてあげたいよ」

「……?」

「こっちの話。じゃあ、何が何でもここから出なきゃね」

「……はい」

「じゃ、ご飯にしない?お腹へっちゃってさ。舞園さん、何か作れないかな?」

「〝ラー油〟が得意です」

「……………」

「うふふ、冗談ですよ」

 

 舞園の仮面のような笑みを見て、苗木は早い内に対策しなくてはと焦る。このままでは過去の再現だ。

 

 

 

 

 その後、舞園と食事を摂り別れた苗木は、購買部に来る。

 そしてモノモノマシーンに、モノクマメダルを投入して、ダイヤルを回す。

 

「えっと……ワイヤーに……サバイバルナイフ?何でもあるな……ていうか両方武器系統………次は、げ、ダブった……いや、まだ持ってないけどさ」

 

 苗木は最後の景品に一瞬だけ顔を顰め、しかしすぐに顎に手を添え考え込む。

 なぜこのタイミングで出てくる。今の苗木自身には必要がなく、しかしとても役立ち、同時に厄介なアイテム。

 

「………脱出スイッチ、どうしよっかなコレ?」

 

 苗木の手には、嘗て苗木が記憶を取り戻した原因となったアイテムが存在した。


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