「おはよう舞園さん」
苗木が舞園の部屋に行くと、舞園は笑顔になり出迎える。
「あ、苗木君。ちょうどよかった!」
「……何か頼みたいことでも?」
「私も、これから出かけようと思ってたんです。よかったら付き合ってくれませんか?」
「良いよ。どこに行くの?」
まあ前回の記憶から、何のために出かけるのか知っているのだが。
「えっと…その……どこかに、護身用になる武器はないかと思って…」
「護身用?」
「だって、私達をここに閉じ込めた人が、いつ襲ってくるかわからないじゃないですか…」
まあ現状ではそれは有り得ないが、苗木が彼女の計画を邪魔し続ければ、何らかの接触があるだろう。
姉に殺させるか、人質で裏切り者にした鬼に殺させるか……早い内に味方を増やしておかないと面倒なことになりそうだ。
「………あの?」
「ああごめん。考え事……それで、身を守る道具が欲しいんだよね?」
「はい」
ならやっぱり、体育館前のショーウインドウにあった模擬刀なんかが良いだろうな。前回と同じにしたほうが先も読みやすい。
まあ、使わせるつもりは無いが、念のため。
「体育館前のショーウインドウですね。行きましょう!」
「あれ?声に出したっけ?」
「エスパーですから」
うん、本当に懐かしい台詞だ。
本当にエスパーなんじゃないかと何度思ったことか。
「冗談です。ただの勘です」
そしてやってきたのは体育館前。
苗木はショーウインドウから全体に金箔が張られた模擬刀を取り出す。やはり金箔が手についた。
「これじゃあ護身用にしても…ちょっと…」
「確かに………でも、金箔剥がせば使えそうだな。なかなか頑丈だし……」
「………わかるんですか?」
「……まあね、昔先輩に少しだけ教わったんだ」
その先輩とも、いずれ対峙することになるだろうが。
その時、苗木はどうするのだろう?彼等彼女等も、絶望の被害者だ(ただし希望厨は除く)。見つけ次第殺すというのは間違っている気がする。
「ん?……あ、モノクマメダル………」
苗木が模擬刀の使い方について考えていると、トロフィーの一つにモノクマメダルが入っているのを見つける。
ちょうどよかった、これで《モノモノマシーン》が使用できる。
「……それ、集めてるんですか?」
「これっていうか……これで取れるものかな」
「じゃあ私2枚見つけたので、苗木君にあげますね!」
意図せずモノクマメダルを3枚も手に入れた苗木は考え込む。
果たして目当てのものが出るのかと。これから起こるであろうコロシアイの予防線。
「……ありがとね、舞園さん」
「はい!お役に立てて何よりです。ところで、それどうしますか?」
「持って帰るよ」
あとで金箔剥がして護身用にするために。
「…そうですか。あとは………ここにはもう、護身用になりそうなものは無いですね」
「まあ今すぐ必要ってわけでもないし、そうなったらボクが舞園さんを守るよ……」
流石に相手が大神や大和田だったら確実に守れる自信は無いが。
「苗木君が私を…ですか?……ありがとう…ございます……苗木君が味方になってくれるなら……もう、護身用の武器なんていりませんね」
舞園はそう言って笑った。心が安らぐ笑顔。この笑顔を見ていると、本当になんでも出来るような気になったのは、これが嘘偽りのない彼女の本心だからだろう。
心の底から自分を信頼してくれているからだろう。でも苗木は守れなかった。信頼に応えることが出来なかった。
「……………」
「な、苗木君?」
「………ん?」
「どうしたんですか?怖い顔をして、爪噛むのも良くないですよ?」
「ああ、ごめん……」
いらいらして爪を噛んでいたらしい。
苗木はすぐに笑みを浮かべて誤魔化す。
「あの……じゃあ、武器探しも終わりましたし、せっかくだから、もう少しお話しませんか?」
「いいよ」
苗木は取り留めもない話をして、そして前回と同じく、舞園の夢の話を聞く。
ついでに家庭事情も………。テレビの中で活躍しているアイドルに憧れて、アイドルを目指した。
「子供の頃の夢を叶えるなんて、凄いよね」
「………私は夢を叶える為に、今までなんでもしてきました………嫌な事も含めて…本当になんでも…」
「…………」
「夢は追い続ければいつかきっと叶う…私もそう思いますけど……でも、その為にはずっと夢を見続けなくちゃいけないんです……それが悪夢であろうと……起きていようと、寝ていようと……夢を叶える為には、ずっと夢を見続けなくちゃいけないんです。あの世界では、少しでも気を緩めればすぐに置いていかれちゃう。息継ぎなしで、水中を全力で泳ぎ続けなくちゃいけない……本当に、そんな感じの世界なんです」
「……それでも舞園さんは『夢』を追うんでしょ?どんなに苦しくても、辛くても。それが舞園さんの夢であり、希望なんだから」
「はい!」
「良いねそれ。自分の怠慢を才能のせいにして、勝手に絶望して死んだバカ共に聞かせてあげたいよ」
「……?」
「こっちの話。じゃあ、何が何でもここから出なきゃね」
「……はい」
「じゃ、ご飯にしない?お腹へっちゃってさ。舞園さん、何か作れないかな?」
「〝ラー油〟が得意です」
「……………」
「うふふ、冗談ですよ」
舞園の仮面のような笑みを見て、苗木は早い内に対策しなくてはと焦る。このままでは過去の再現だ。
その後、舞園と食事を摂り別れた苗木は、購買部に来る。
そしてモノモノマシーンに、モノクマメダルを投入して、ダイヤルを回す。
「えっと……ワイヤーに……サバイバルナイフ?何でもあるな……ていうか両方武器系統………次は、げ、ダブった……いや、まだ持ってないけどさ」
苗木は最後の景品に一瞬だけ顔を顰め、しかしすぐに顎に手を添え考え込む。
なぜこのタイミングで出てくる。今の苗木自身には必要がなく、しかしとても役立ち、同時に厄介なアイテム。
「………脱出スイッチ、どうしよっかなコレ?」
苗木の手には、嘗て苗木が記憶を取り戻した原因となったアイテムが存在した。