救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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疾走する青春の絶望ジャンクフード非日常編⑤

 学級裁判場、実に懐かしい。出来ればここに来たくはなかったが………。

 

「まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう!学級裁判の結果はオマエラの《投票》により決定されます。『正しいクロ』を指摘出来れば、〝クロだけ〟がおしおき。だけど…もし『間違った人物』をクロとした場合は…〝クロ以外の全員〟がおしおきされ、みんなを欺いたクロだけが晴れて卒業となりまーふ!…んじゃ、後はオマエラに任せるよ」

 

 人の命が懸かっていると言うのに、何時ものごとく脳天気なモノクマに気味悪さを感じつつ、十神が議論を始める。

 

「まずは被害者の特定だ。学園長室にあった死体、あれは苗木の両親で間違いない。では『植物庭園の死体』はだれだ?」

「…………」

 

 ここは特に何も言わなくて良いだろう。というか、あれは本当に誰なのだろうか?

 

「死んだのは『苗木っち』だべ。それ以外にあり得ねーだろ!」

「てめーを殺すぞ海栗!」

「ひい!?」

 

 葉隠が苗木を指差しながら何故か誇らしげに言うとセレスがブチギレた。セレスだけでなく、舞園や江ノ島も物凄い目で葉隠を睨んでいる。

 

「だ、騙されちゃ駄目だべ!その苗木っちは幽霊で、一緒に冥界に連れていく気だベ!」

「ていうかさ、ボクとあの死体じゃ〝ボクの方が小さい〟んだけど?」

「ぶふー!」

 

 苗木のその証言に噴いたモノクマがゲラゲラ笑う。すごくムカつく。ぶん殴りたい………。

 腰に隠し持ってるナイフに手が伸びそうになる。

 

「じゃああの死体って、誰なんだよ?」

「普通で考えるならば、十六人目の高校生ではないのか?」

「まあ、ここに全員いるからそうだろうな……しかし、黒幕が十六人目の高校生でないとするなら、黒幕は〝学園長〟ということになるが……」

 

 十神がそう言いつつ顎に手を当て考えていると、霧切がピクリと肩を震わせる。

 

「……学園長は、黒幕じゃないわ」

「こんな状況で言うことか?証拠を持って言うんだな。ちなみにモノクマ、黒幕の学園長が犯人と言うことはないよな?」

「うぷぷ。かませ眼鏡のクセになかなか言うねぇ……でも残念!学級裁判が開廷するのは、『学園の生徒達による殺人』が起きた場合だからね!」

 

 生徒達の間、ではなくなっている。まあ植物庭園の男は間違いなく生徒ではないのだ。

 生徒達の間で起こった殺人ではないから、そのままだと学級裁判は起こせない。

 

「つまり犯人は、生徒達の誰かという事だな!」

「じゃあ十六人目は、こん中の誰かに殺されたって事か?」

「だ、だ、誰よッ!?誰が殺したの!?」

「……容疑者は〝苗木一人〟だ」

 

 十神の発言により、苗木に幾つもの視線が集まる。疑惑と困惑、不安や心配など様々な視線を浴び、しかし苗木は何時もの如く貼り付けた笑みを浮かべていた。

 

「理由もあるぞ。昨日の夜時間が始まった直後に、俺は植物庭園に行っている。そして、そこで確認しているんだ。その場所に死体がなかった事をな」

「でもさ、全員が全員体育館に居たって言い切れるの?トイレだの何だの理由を付けて、外に出た人はいるんじゃないかな?」

 

 苗木の反論に今度は互いを見合う一同。心当たりがあるのだろう。

 それはそうだ。人が多いぶん、前回の四人より精神的余裕ができて緩くなっている。少し休むなんて言い訳も十分通用するほどに……。

 

「確かにそうだが、では『学園長室の死体』はどう説明する?その時間は全員居たと言い切れる。一度、集めた情報を話し合っていたんだ」

「─っち」

「舌打ち!?びゃ、白夜様に向かってなんて無礼な!」

「ちょっと待って!それって、苗木が〝自分の両親を殺した〟って……事?」

「《殺害時刻》がハッキリしているんだ。その間の俺達のアリバイもな……」

 

 と、淡々とそう告げる十神に対し、苗木はニィと笑い『言弾』を放った。

 

「──それは違うよ」

「何?………モノクマファイルを見ろ。ここに確かに明記されている」

「モノクマファイルには『死後硬直の進み具合から』って書かれてるけどさ、霧切さん。室温が10℃の場合って、死後硬直は遅くなる?」

「ええ。死後硬直は気温が高温なほど早く進み、当然〝その逆〟もありえるわ……」

「だってさ?これって、アリバイが完全とは言えないよね?」

 

 そう論破した苗木の笑みに十神は顔を顰め、しかし反論はしなかった。

 

「大体ボクが、父さんと母さんを殺すはずないじゃないか……」

「苗木君………そうですよね。私は、苗木君を信じています!」

 

 舞園が笑顔でそう宣言したが、苗木を盲信している彼女が言ったところであまり説得力は無い。

 

「じゃ、じゃあ誰が殺したんだベ?」

「知るかよ……〝犯人〟じゃねえのか?」

「それはまた突然ですな」

「もう少しマシな発言できませんの?」

「う、うっせアホ!」

「でも、《三人も殺す》なんて怖いよねぇ……」

「──それは違うよ」

 

 不二咲が死体を思い出したのかブルリと震えた時、苗木は否定の言弾を放った。

 

「現状この学園生活の中で、〝三人の人間〟を殺した人は居ないよ」

 

 あくまでも学園生活内での話だが、と内心で付け足しているうちに、苗木に視線が集まっていた。

 

「どういうことだ苗木、説明しろ」

「これは父さんと母さんの胸に刺さっていたナイフから採った指紋なんだけど、植物庭園の死体の指紋と〝一致した〟んだよね」

「待て、植物庭園の死体の掌は床に固定されていたはずだぞ?いったいどうやったと言うんだ?」

「指をヘし折って」

「ゆ、指を折っちゃったの!?それじゃお箸握れないじゃん!」

「朝日奈よ、そういう問題ではないと思うぞ」

 

 朝日奈が明後日の方向へ突っ込みをしている間に、苗木は懐からプラスチックの板を取り出す。

 

「これがナイフの指紋で、こっちが植物庭園の死体の指紋。……ね?同じでしょ?」

「植物庭園のナイフはどうだったんだ?」

「あっちは指紋が拭き取られてたよ。それと、断定する理由はもう一つあってね……この死体、『ナイフの入り方』が違うんだ」

「……ナイフの入り方?」

 

 苗木の説明にセレスが不思議そうに首を傾げる。ナイフの刺さり方など一々見ている者はそうはいないのだろう。

 

「父さんと母さんに刺さったナイフは肋を傷つけて入ってたけど、植物庭園の死体は肋の隙間から心臓を刺してた。こっちの方が楽だからね」

「いや待てよ、んなの揉み合ったときにそうなった可能性もあんだろ」

「無いよ。二人の死体は〝綺麗すぎた〟…でしょ、霧切さん?」

「ええ。あの死体は眠らせた状態か、あるいは毒で殺した状態で心臓にナイフを刺されているわ」

「ま、待ちたまえ!?なら学園長室のクーラーは何なのだ?犯人が植物庭園の男なら、アリバイ工作など不要のはず!」

「そこはほら、こう考えればいいよ……あの部屋で保管されていた死体は『三つ』。植物庭園の死体も含まれてたんだって」

 

 苗木の答えに再びざわつく一同。苗木はそんな一同を眺めながら、1人冷静な霧切を見つめると、赤くなって目を逸らされた。

 

「……気温が違う部屋に死体を置く理由は死後硬直を誤魔化すため。……学園長室の気温は苗木君の両親ではなく、〝植物庭園の死体の死亡時刻〟を混乱させるための工作だったのよ」

「だろうね……ほらほら、父さんと母さんを殺した奴がわかったことだし、次はあの植物庭園の死体について考えよっか?」




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