救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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疾走する青春の絶望ジャンクフード非日常編③

「………苗木。お前は今まで何処にいた?」

「……寄宿舎のとある場所……」

 

 十神の問いに苗木は冷たく、平坦な声で答える。そして溜息を深く吐いた後、壁際に向かう。

 

「……っ!」

 

 そのまま壁に額を打ち付け血が流れるが、その瞳から先程までの冷たさが僅かに抜けていた。どうやら冷静になるためにやったようだ。

 

「学級裁判が開かれるという事は、犯人は『学園生活の参加者』という事になる。まあ、俺達の中の誰かと限らんが……ところで、その趣味の悪いパーカーはなんだ?」

「ああこれ?替えのパーカーが無くてモノモノマシーンの景品使ったんだけど、これが思いの外着心地が良くてね」

 

 苗木がパーカーのフードを被りながらそう言うと、フェルトのモノクマの左目が十神に向く。

 

「ふん。まあいい……それより《捜査》を始めるぞ。生き残りたくばな」

 

 

──捜査開始──

 

 

 苗木はまず、〝モノクマファイル〟の確認から始めることにした。

『学園長室で見つかった【苗木夫妻】。死後硬直の進み具合から殺されたのは、深夜二時頃から三時頃と断定。互いの片手を鉄の棒で貫かれ繋がれた状態で固定されている。死因は心臓に突き刺さったナイフ。

 植物庭園で見つかった【身元不明】。爆破による損傷が激しい。この爆破は、被害者の死後行われたもよう。胸のナイフは心臓まで達している。このナイフによる刺し傷は、一カ所のみ。

 また、後頭部に殴られた形跡もある。鉄パイプ程度の太さの棒状の物で殴られた様子』

 ナイフの刺さり方や、当たり前だが全身の傷跡に関する記述は無いようだ。

 

「それじゃあボク、学園長室に行ってくるよ……」

 

 と、苗木が出て行こうとした瞬間、腰に何かが飛びついてきた。

 

「苗木くーん!良かった、生きてた!生きててくれたー!」

「いだだだ!痛い痛い舞園さん!腰が、腰からミシミシって嫌な音が!」

 

 舞園が苗木の腰に抱きつき、尋常とはとても言えない力で締め付けてくる。

 

「苗木君!良かった無事で……!」

「ちょっ、タンマ江ノ島さん!」

「………………」

「無言で抱きつかないでセレスさん!」

 

 男なら誰もが一度は話してみたいと思うであろう美少女三人に抱きつかれながらも、苗木は顔を赤くするどころか青く、むしろ青紫になっていた。

 

「ちょ、三人とも!苗木が死にそう!三人がクロになっちゃう!」

「ぶはあ!死ぬかと思った……」

 

 朝日奈の制止に三人が漸く離れ、苗木は慌てて呼吸する。

 

「三人とも。今回は自由時間中、バラバラに行動してね」

「「「……はい」」」

 

 《モノクマファイル1》を手帳に記入しました。言弾メニューで確認できます。

 

 

 苗木は早速、学園長室に向かう。

 大神と石丸は苗木を見て驚くが、同時に辛そうな顔をする。苗木は『父と母の死体』を見て、その場に膝を突き目を閉じる。

 

「な、苗木くん……」

「石丸、よせ……」

「…………」

 

 石丸が苗木に何か言う前に、大神が制した。

 苗木は漸く目を開くと、二人の服のポケットを確かめ始めた。

 

「……ん?」

 

 そして早速、父親のズボンの右ポケットに何かが入っていた。

 取り出すと〝手紙〟だった。

『こんちゃ~、苗木のご両親!ねえねえ、息子に会いたい?会いたいよね?会わせてあげる!』

 

「むっ!?それは……!?」

「これで呼んだっぽいね」

「何と非道な!」

 

 石丸と大神が怒る中、苗木はなるほど、確かに会わせたわけかと、自分でも驚くほど落ち着いていることに気づく。

 まあ、肉親が死ぬのは初めてではない。前回も息子が殺されているし、一応妻も死なせてしまったのだ。

 

 《手紙》を記入しました。言弾メニューで確認できます。

 

「くしゅ!この部屋、なんか寒くない?」

「ん?ああ、〝クーラー〟が効いてるからな。一応、現場の保存という事でつけたままにしているのだが……」

「設定は…『10℃』!?…どんなクーラーさこれ」

 

 《クーラー》を手帳に記入しました。言弾メニューで確認できます。

 

 次に苗木は、二人の胸に刺さった〝ナイフ〟を見る。服越しで触るが薄着で、特に体を鍛えていた訳でもない父の胸を触って確認すると、ナイフが『肋にも刺さっている』のがわかる。母は………我が母ながら二児の母とは思えない体型。脂肪が邪魔して肋に触れられない。でもまあ、ナイフの刺さり方でわかると聞いたことがある。………うん、苗木には無理だ。

 

 《学園長室のナイフ》を手帳に記入しました。言弾メニューで確認できます。

 

「〝指紋〟とか残ってるかな………」

「苗木くん。それはなんだい?」

「……アルミニウム粉末……」

 

 苗木は化学室で見つけた薬品の一つを、綿棒でナイフの柄につけていく。暫くすると出てきた指紋をセロテープで貼り付け採る。ナイフは両方とも『同じ人間』が使ったようだ。セロテープは皺にならないよう、プラスチックの板に貼り付けた。

 

 《指紋》を手帳に記入しました。言弾メニューで確認できます。

 

「……ここはこんな所かな」

 

 苗木はそう言うと次の殺害現場へと向か………。

 

「っと……霧切さん」

「……意外と冷静なのね」

「そうでもないよ。多分、怒ると頭が冷めるタイプなんだと思う」

 

 家族が死んだというのに、と言う部分を隠していたが、苗木にはなんとなく伝わった。もちろん苗木とて、全く怒っていないと言ったら嘘になる。でも、それでも……

 

「『愛は憎しみより強い』ってやつなのかな?」

「…え?………ああ、そういうこと。苗木君は両親と仲が良かったのね。二人とも、苗木君と同じで優しかったようね」

 

 霧切はどうも苗木が言った言葉を、両親に人を憎むなと言われ、それを守っていると受け取ったようだ。まあ、優しかったのは事実だし否定はしないが。

 

「あ、そうだ霧切さん。霧切さんは父さんと母さんの遺体見て、どう思う?」

「そうね……まず、綺麗すぎるわ」

「ありがとう。二人の子供でいる誇りが増えたよ」

「そういう意味じゃないわ。『出血や服の乱れ』を言ってるのよ……」

 

 苗木はその指摘を聞いてそういえばと納得する。前回のコロシアイ学園生活の死体はほぼ一撃で死んでいたから、違和感を持たなかった。

 

「それに掌の出血の少なさから見て、〝心臓が止まった後〟貫いたのね」

「……ふうん」

 

 《学園長室の死体の状況》を手帳に記入しました。言弾メニューで確認できます。


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