救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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疾走する青春の絶望ジャンクフード非日常編②

 一同は情報処理室に来ていた。罠の可能性もあるが、開けないことには始まらない。

 霧切がそっとドアノブに手をかけ慎重に捻り、感覚を確認しながらドアを開いた。

 

「情報処理室とは名ばかりの、『管理室』と言ったところか……」

 

 中に入り目に飛び込んできたのは、壁一面に複数のモニターがあるという奇妙な光景。しかも、それらに映されているのは全て〝学園の映像〟だった。

 

「監視カメラの映像…か…!」

「つまりこの部屋は、拙者達を監視する目的の部屋というわけですな。ハッ!?まさか、僕の『夜の自家発電』も……!?」

「自家発電?発電機を持ってるのぉ?」

「いえいえ、不二咲千尋殿にはまだ早いですぞ」

「……ここが〝黒幕の部屋〟なのね」

 

 山田を呆れた目で見た後、霧切はポツリと呟く。学園内部を監視する目的で作られた部屋なのだ。黒幕以外が使うことは無いだろう。

 

「どうやらこれで確定したようだな」

「え?何が……?」

「さっきの植物庭園の死体だ。こんな部屋の鍵を持っていたという事は、あの死体の正体は〝16人目の高校生〟という事だ。そしてそいつが死に何も起こらなくなったという事は、奴こそが《黒幕》だったんだ」

「じゃあ黒幕って死んじゃったの!?本当に死んじゃったの!?」

「そのようだな……」

 

 十神の推測に当然といえば当然だが辺りが騒めく。葉隠などはここから出るべきだと言い出していたが、十神はここに残るべきだと言う。

 黒幕が居ない以上ここから逃げるのは簡単だ。ならば、黒幕が何を目的にこのようなことをしたのか調べるべきだと判断したのだ。

 

「……っていってもよぉ。何を調べりゃ良いんだ?」

「そうね。取りあえず、外の情報かしら……」

 

 葉隠の疑問に、霧切は『テレビ』を指差してそう言った。テレビの横には室内アンテナが有り、霧切はそれを繋いで電波を受信させる。

 

「霧切っちもテレビっ子だな!」

「…………これは、どういう事かしら?」

 

 葉隠の言葉に特に反応も示さず、テレビの電源を点けた霧切は映った映像に戸惑う。そこに映っているのは明らかに、〝この部屋の監視カメラの映像〟だったからだ。

 

「妙ね。室内アンテナとしか繋げていないのに………他のチャンネルも同じね」

「もしかして、このテレビ自体に仕掛けがあるかもしんねーぞ…」

「仕掛けって、どういう仕掛け?」

「アナログ電波が映るとか?」

「それはわかんねーけど…」

「…え?」

「「…え?」」

「…は?」

「「…は?」」

「…あれ?」

「「…あれ?」」

「はぁぁぁぁああぁぁぁああああっ!?」

「ギャッハッハ!テメーラ、久しぶりじゃん!」

「2日ぶり~」

「モ、モノクマ!苗木!?」

「な、なんで…だって黒幕は死んで……そうじゃなかったら苗木が……死んでるはずじゃ……っ!?」

 

 何時の間に情報処理室に紛れ込んだのか、〝苗木とモノクマ〟が当然のようにそこにいた。身元不明の死体がある以上、どちらかが死んでいるはずなのに。いや、ということはやはり黒幕は16人目の高校生ではなく、学園長という事だろうか?

 

「ギャッハッハッハ!このオレが死んだ!?訳わかんねー事言ってんじゃねーじゃん!」

「……え?ボク死んでたの?てかモノクマのキャラ変わってない?」

「もちろん変わるさ……変わって当然クマ。あれから、二年も経つんだしな……」

「そっか…もうそんなに………経ってたっけ?」

「てかさ、キャラが変わってることに関して苗木クンにとやかく言われたくないんだZE」

「あ、あのさ……相変わらずみたいだけど、その…モノクマさっきまで動いてなかったし、現れなかったよね?」

 

 モノクマと苗木の何時も通りのやりとりに、戸惑いからなんとか平静に戻った朝日奈が尋ねると、モノクマがニィと笑みを浮かべる。まあ基本笑っているが。

 

「うぷぷ。それだよそれ、オマエラのそんな顔が好きなんだよね……希望が『絶望』に変わる瞬間の顔……それが見たかったんだよね」

「まさか、その為に……死んだフリをしていたとでも言うのか……?」

「趣味悪いね。あ、ちなみにボクは絶望が無くなって、『希望』に満ちた時の表情が好きだよ」

「苗木クンとはとことん趣味が合わないなぁ……」

 

 がっかりしたようにモノクマが呟く中、苗木はモニターの一つを眺め、その顔色を一変させた。

 

「モノクマ。あそこに映ってるの……」

「ああ、ちょっと授業参観について話そうと思って呼んだら、殺されちゃったんだよね」

 

 苗木が見つめていたのは学園長室の映像。そこに映っている【両親の姿】を見た苗木が尋ねると、モノクマはケラケラ笑う。

 

「…………そう」

「絶望した?ねえねえ絶望したぁ?ねえねえねえねえねえねえ!──」

 

 バキャ!と音を立てモノクマの額にナイフが食い込み、ワタと機械の破片が飛び出る。

 

「何これ、怒った?ふうん。そういうところは昔のまんまか……うぷぷ。今回は見逃してあげるよ。新苗木クンの珍し…い、イチ面をみれ……たし……」

 

 モノクマはそう呟いてドサリとその場に倒れた。

 そしてすぐさま別の個体が現れた。

 

「ところで苗木クン。このテレビを見てどう思うっすか?」

「……このコロシアイ学園生活を〝生中継で全国に放送〟してる。それなら、黒幕であるキミまでルールに縛られているのに納得がいく。だって、モノクマがルールを破ったら、単なる虐殺になっちゃうからね。そんなの視聴者は誰も望んでない」

「はい!そのとーり!」

 

 苗木とモノクマのやりとりにその場の全員が顔を青くする中、霧切は青い顔をしながらも納得のいったような表情をする。実際、彼女もテレビに自分達が映った時点である程度予想していたのだろう。

 

『ピンポンパンポーン…!死体が発見されました!一定の自由時間の後、学級裁判を開きまーす!死体が発見されました!一定の自由時間の後、学級裁判を開きまーす!死体が発見されました!一定の自由時間の後、学級裁判を開きまーす!』

「やっとだよ。やっと〝この放送〟が流せた。これは本来、死体が三人以上の人間に発見された時に流す放送なんだ。あ、あと《モノクマファイル1》!これも使ってね、楽しみ楽しみ」

 

 そう言ってモノクマは、倒れているモノクマを引きずりながらどこかに去っていった。絶望だけを残して……。


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