救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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オール・オール・アポロジーズ(非)日常編⑦

「なあ苗木……」

「ん?なに、桑田クン?」

 

 レベルが上がりすぎたモンスターを削除してると、桑田が話しかけてきたので、苗木は手を止め振り返った。

 

「……一緒に風呂でも入らねえ?」

「あ、そういえばシャワー浴びてなかったな。そろそろ夜時間だし……うん。良いよ」

 

 苗木が頷くと、大和田や石丸、不二咲もついてくる。山田や葉隠、十神を除いた男子全員で風呂に入ることになりそうだ。

 

 

「……やっぱり三人とも、鍛えてるね」

 

 苗木は桑田と大和田と石丸を眺めながら呟く。

 さすが体育会系の超高校級に喧嘩の超高校級、不良生徒を相手にしてきた超高校級だ。

 

「ふん……」

 

 大和田は桶に汲んだお湯を頭から被る。

 

「さっきオメェも言ってたろ?……『力は強さと別モン』だってよ……」

「うむ!あれは良い言葉だったぞ!」

「オレには難しくてよくわかんなかったけどな」

「──誰だお前等!?」

「「「は?」」」

 

 苗木が三人を振り返ると、湯により髪がストレートになった石丸、大和田、桑田が居た。三人とも普段の髪型が髪型なだけに、別人のような印象を受ける。

 

「ところで、何で皆むこう向いてるの?」

「……オメーの後ろを見てみろ」

「………不二咲クンが居るね」

「それだけ!?」

 

 桑田の言葉に苗木が振り返ると、タオルで身体を隠す不二咲が居た。顔を赤くして身を小さくする不二咲は、大抵の男が道を踏み外してしまいそうな色気を出していたが、苗木は全く反応を示さない。

 

「………なあ、苗木はよ、《黒幕》について何か知ってんじゃねえか?」

 

 全員が体を洗い終わり湯船に浸かると、桑田が話を切り出す。

 

「……何でそう思うの?」

「モノクマと仲良いからよ」

「確かに、あれでは朝日奈くんが疑っていても文句は言えないぞ」

「ボクたちは信じてるけどぉ」

「だから知ってることを話しちゃくれねえか」

「………………」

 

 苗木はその頼みに四人を見つめる。

 信用してくれるのは嬉しいが、話すわけにはいかない。何せ自分でも、荒唐無稽な話だと思ってるし。

 

「……心当たり程度なら、ね」

「ッ!?本当か!」

「だ、誰なんだ!?」

「………言えないよ……確信もないし……」

「………あくまで心当たりというわけか。確かに余計な混乱を生むのは得策ではないな」

「……まあそりゃ確かに。オレのチームでも別のチームが攻めてくるって身構えて警戒しすぎて、他のチームと潰し合いになっちまったこともあるしな」

「そーゆーもんか……」

「…………」

 

 石丸の言葉に脳筋の二人は納得するが、不二咲はジッと苗木を見つめる。

 

「……わかった。深く聞かないでおこう。ところで兄弟、久々にサウナで根性比べと行こうじゃないか!」

「お、良いじゃねえか、乗った!」

「なになに、おもしろそーじゃん」

 

 苗木を見つめた後、石丸はうん、と頷く。

 そして石丸の提案に、大和田と乗り気な桑田がサウナ室の中に入っていった。

 

「…………ねえ、苗木クン」

 

 三人がサウナ室の中に消えた後、不二咲が苗木に向かって声をかける。

 

「黒幕ってさ……本当は誰か、確信してるんじゃないの?」

「……じゃあ、ボクは何で黙っているんだと思う?」

「それは……その………………黒幕が、苗木クンにとって『特別』だから…」

 

 不二咲の答えに、苗木は目を細め不二咲を睨むように見る。その冷たい視線に、不二咲はビクッと身体を震わせ俯く。

 

「そうだよ。これ、皆には秘密でお願い」

「……う、うん………一つ聞いて良い?……苗木クンは、その特別な人を殺すの?」

「そうだね、〝彼女〟は殺さなくちゃ………ボクがやらなくても、いずれ誰かがやる。だから、ボクが殺る」

「………辛く、ないのぉ?」

「何で?特別な人が見る最後の人間になれるって言うのは、それはそれで幸せなことだと思うけど?」

 

 苗木はそう言うと湯船から上がり、大浴場から出て行った。

 

 

 

 

「………ねえ、モノクマ、居る?」

「なにかな?キミが呼ぶなんて珍しいね」

 

 自室に戻った不二咲がモノクマを呼ぶと、ヒョッコリ現れた。不二咲は自分で呼んでおいてビクッと震える。

 

「なになに?基本的に苗木クンしか呼んでくれないから暇なんだよ。何の用かな?」

「え、えっと………モノクマって、女の人なの?」

「ボクは人じゃなくてクマだよ?あと性別は………まあ良いか」

 

 不二咲の質問にモノクマは適当に答える。まあそう簡単に答えるはずもないか。

 というかこれで答えたら、黒幕が無能すぎる。

 

「あの、一つ聞いて良い?」

「それ二つ目だよ?」

「あ、ごめん……あのさ、モノクマは相手を特別に想い合ってる二人が殺し合ってたら、どう思う?」

「それはまた絶望的な光景だね!アドレナリンが染み渡るよ!」

 

 モノクマはゲラゲラ笑う。生憎ロボット越しではそれが本心なのかは解らないはずだが、何故かモノクマを見ていると本心なのだと確信できてしまう。

 

「その片方が、〝キミ自身〟だったら?」

「……………愛する人を殺すのも、殺されるのも、きっと最高の『絶望』だと思うよ」

 

 その解答に、ああ、そうか。と不二咲は理解した。

 モノクマと苗木が仲良く見える理由。この二人は似ているんだ。何処が、と言われてもうまく説明できないが、それでも似ているという感想を抱く。

 悪意のない邪気の固まりと悪意だらけの正気。

 鏡像と実像のように正反対で同じ。S極とN極のように惹き合う。この二人からは、そんなある種の運命めいたものを感じる。

 だからこそ理解した。この二人の間に割って入るなど誰にも出来ないと。

 

「んで?質問はもう終わり?」

「モノクマは、苗木クンのこと、好き?」

「殺したいぐらい愛してるよ」

 

 モノクマはそう言い残して去っていった。


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