「なあ苗木……」
「ん?なに、桑田クン?」
レベルが上がりすぎたモンスターを削除してると、桑田が話しかけてきたので、苗木は手を止め振り返った。
「……一緒に風呂でも入らねえ?」
「あ、そういえばシャワー浴びてなかったな。そろそろ夜時間だし……うん。良いよ」
苗木が頷くと、大和田や石丸、不二咲もついてくる。山田や葉隠、十神を除いた男子全員で風呂に入ることになりそうだ。
「……やっぱり三人とも、鍛えてるね」
苗木は桑田と大和田と石丸を眺めながら呟く。
さすが体育会系の超高校級に喧嘩の超高校級、不良生徒を相手にしてきた超高校級だ。
「ふん……」
大和田は桶に汲んだお湯を頭から被る。
「さっきオメェも言ってたろ?……『力は強さと別モン』だってよ……」
「うむ!あれは良い言葉だったぞ!」
「オレには難しくてよくわかんなかったけどな」
「──誰だお前等!?」
「「「は?」」」
苗木が三人を振り返ると、湯により髪がストレートになった石丸、大和田、桑田が居た。三人とも普段の髪型が髪型なだけに、別人のような印象を受ける。
「ところで、何で皆むこう向いてるの?」
「……オメーの後ろを見てみろ」
「………不二咲クンが居るね」
「それだけ!?」
桑田の言葉に苗木が振り返ると、タオルで身体を隠す不二咲が居た。顔を赤くして身を小さくする不二咲は、大抵の男が道を踏み外してしまいそうな色気を出していたが、苗木は全く反応を示さない。
「………なあ、苗木はよ、《黒幕》について何か知ってんじゃねえか?」
全員が体を洗い終わり湯船に浸かると、桑田が話を切り出す。
「……何でそう思うの?」
「モノクマと仲良いからよ」
「確かに、あれでは朝日奈くんが疑っていても文句は言えないぞ」
「ボクたちは信じてるけどぉ」
「だから知ってることを話しちゃくれねえか」
「………………」
苗木はその頼みに四人を見つめる。
信用してくれるのは嬉しいが、話すわけにはいかない。何せ自分でも、荒唐無稽な話だと思ってるし。
「……心当たり程度なら、ね」
「ッ!?本当か!」
「だ、誰なんだ!?」
「………言えないよ……確信もないし……」
「………あくまで心当たりというわけか。確かに余計な混乱を生むのは得策ではないな」
「……まあそりゃ確かに。オレのチームでも別のチームが攻めてくるって身構えて警戒しすぎて、他のチームと潰し合いになっちまったこともあるしな」
「そーゆーもんか……」
「…………」
石丸の言葉に脳筋の二人は納得するが、不二咲はジッと苗木を見つめる。
「……わかった。深く聞かないでおこう。ところで兄弟、久々にサウナで根性比べと行こうじゃないか!」
「お、良いじゃねえか、乗った!」
「なになに、おもしろそーじゃん」
苗木を見つめた後、石丸はうん、と頷く。
そして石丸の提案に、大和田と乗り気な桑田がサウナ室の中に入っていった。
「…………ねえ、苗木クン」
三人がサウナ室の中に消えた後、不二咲が苗木に向かって声をかける。
「黒幕ってさ……本当は誰か、確信してるんじゃないの?」
「……じゃあ、ボクは何で黙っているんだと思う?」
「それは……その………………黒幕が、苗木クンにとって『特別』だから…」
不二咲の答えに、苗木は目を細め不二咲を睨むように見る。その冷たい視線に、不二咲はビクッと身体を震わせ俯く。
「そうだよ。これ、皆には秘密でお願い」
「……う、うん………一つ聞いて良い?……苗木クンは、その特別な人を殺すの?」
「そうだね、〝彼女〟は殺さなくちゃ………ボクがやらなくても、いずれ誰かがやる。だから、ボクが殺る」
「………辛く、ないのぉ?」
「何で?特別な人が見る最後の人間になれるって言うのは、それはそれで幸せなことだと思うけど?」
苗木はそう言うと湯船から上がり、大浴場から出て行った。
「………ねえ、モノクマ、居る?」
「なにかな?キミが呼ぶなんて珍しいね」
自室に戻った不二咲がモノクマを呼ぶと、ヒョッコリ現れた。不二咲は自分で呼んでおいてビクッと震える。
「なになに?基本的に苗木クンしか呼んでくれないから暇なんだよ。何の用かな?」
「え、えっと………モノクマって、女の人なの?」
「ボクは人じゃなくてクマだよ?あと性別は………まあ良いか」
不二咲の質問にモノクマは適当に答える。まあそう簡単に答えるはずもないか。
というかこれで答えたら、黒幕が無能すぎる。
「あの、一つ聞いて良い?」
「それ二つ目だよ?」
「あ、ごめん……あのさ、モノクマは相手を特別に想い合ってる二人が殺し合ってたら、どう思う?」
「それはまた絶望的な光景だね!アドレナリンが染み渡るよ!」
モノクマはゲラゲラ笑う。生憎ロボット越しではそれが本心なのかは解らないはずだが、何故かモノクマを見ていると本心なのだと確信できてしまう。
「その片方が、〝キミ自身〟だったら?」
「……………愛する人を殺すのも、殺されるのも、きっと最高の『絶望』だと思うよ」
その解答に、ああ、そうか。と不二咲は理解した。
モノクマと苗木が仲良く見える理由。この二人は似ているんだ。何処が、と言われてもうまく説明できないが、それでも似ているという感想を抱く。
悪意のない邪気の固まりと悪意だらけの正気。
鏡像と実像のように正反対で同じ。S極とN極のように惹き合う。この二人からは、そんなある種の運命めいたものを感じる。
だからこそ理解した。この二人の間に割って入るなど誰にも出来ないと。
「んで?質問はもう終わり?」
「モノクマは、苗木クンのこと、好き?」
「殺したいぐらい愛してるよ」
モノクマはそう言い残して去っていった。