『えー、ミナサン体育館に集まってくださーい!〝高級料理〟をプレゼントするよ!』
朝の放送の直後、モノクマからの呼び出しが掛かった。
霧切はそれを不審に思いながらも、仕方なく体育館へと向かう。
「……あら、舞園さん……」
「あ、霧切さん。おはようございます………どうしたんですか?」
舞園と鉢合わせた霧切が周囲を見回すと、舞園が不思議そうに首を傾げた。
もっとも首を傾げたいのは霧切も一緒なのだが………。
「苗木君は?何時も朝は一緒に居ると思ったけど」
「普段はそうなんですけど、昨日の夜は自室で眠るように言われてしまって……朝起こしに行ったんですけど居なくって」
「待って……あなた、普段は一緒に寝てるの?」
「いえ、苗木君が寝た頃を見計らってお邪魔させてもらっているだけです」
「………………」
結局会話は長続きせず、無言で体育館に向かう二人。まだ誰かが来ている様子は無い。二人が一番乗りのようだ………と、思って扉を開けると2人の先客がいた。
『焚き火』を棒でつつく苗木とモノクマが。
「………………」
「………………」
霧切が唖然と、舞園さえポカンとしていると、他の面々もようやくやってきた。
「え、苗木……?何してんの?」
「そうだぞ!室内で火遊びとは何事だ!火事になったらどうする!?」
「いやそこじゃねーだろ……」
その異様な光景に、朝日奈は霧切と舞園も思っていたこと口に出し、石丸はズレた突っ込みをして大和田が呆れたように石丸に突っ込み……
「うぷぷ。……大和田クンが石丸クンに突っ込みだって。萌えますな」
「とうとう地の文にまで干渉し始めたかこのクマは……」
苗木は焚き火を弄りながら呆れたように呟く。
「おーい、んなことよりうまい飯食わせてくれる話はどうなったんだ?」
「アタシ的にはモノクマの話でご飯三杯はいけるけどね!」
桑田は飯を食いに来たつもりのようだ。それと腐川は現在ジェノサイダーになっていた。
「………これだ!」
と、不意に苗木が叫んで棒を振り上げる。焚き火の中から何かが飛び出し、桑田に向かっていった。
「熱っ!?」
野球選手の本能か、つい受け止めてしまった物体の思わぬ熱さに落としそうになるが、なんとか落とさずキャッチした桑田は飛んできた物体を見る。新聞紙でくるまれた何かだ……。
「…………焼き芋?」
それは……新聞紙を捲くると、中から紫の芋が出てきた。
「高級料理はどうなったべ?」
「やだなぁ、ちゃんと高級料理だよ……何せこれ、〝100億円〟で焼いた芋だし」
「……………へ?」
モノクマの発言に全員の視線が焚き火に集まる。燃料は木の葉ではなく、お札だった……。
「お金でも動かないならいらないよね?でも無駄にするのは大変よくない!よって、焼き芋をすることにしました!」
「焼き芋ねぇ……何で焼いたって一緒だろ?」
桑田はそうぼやきながら焼き芋を二つに割った。
「甘!うめえ!」
「見事な黄金色だ……」
「うぷぷぷ。焼き加減は秋に祖父の家で焼き芋をするという、極めて普通の人生を歩んでる苗木クンにお願いしました!祖父の実家のご近所さんには、『焼き芋のマコちゃん』って呼ばれてたらしいよ?」
「……何で知ってんの……火力が弱くなってきたな」
苗木は新しいお札を掴み焚き火に放り込む。まるでバブル時代の成金だ。
「あ、あのよ……捨てるんなら少しぐらい」
「ダメです!あげません!」
葉隠が物欲しそうな顔をしたがモノクマによって拒否された。苗木は黙々と、全員分の芋を焚き火の中から出していく。
「あ……!」
「へ?………熱っぁ!?」
それらは全て見事に全員の手元に向かっていってたのだが、セレスだけは位置的に難しかったのか、彼女の顔面に焼き芋が直撃してしまう。
「ご、ごめん!大丈夫!?」
「……な、なんとか……はふぅ…」
「セレスちゃん顔赤いよ?冷やしてきた方が……」
「ご心配には及びませんわ……」
「…はふはふ……あ、そうそう。結局この動機でも殺人起きなかったから、また新しい階が解放されるよ………はぁ、何時になったら殺人が起きるのかなぁ」
「あつつ………だから何度も言ってるじゃん。起こさせない、絶対にね」
「…………あっそ、精々今のうちに仲間を信頼しておくんだね。裏切られた時の絶望は、信頼が大きいほど大きな物になるから……」
「ボクは絶望なんてしないよ」
朝食代わりの焼き芋会の後、セレスがアルターエゴの場所を全員に伝えた。殺しが出来ない以上隠しておく意味がなくなったからだろう。
ちなみに理由としては、山田が何らかの方法でアルターエゴを取っていかないか不安で隠したら、思ったより大事になり言い出すタイミングを逃したと述べたら、全員納得していた……山田ェ……まあ、前科があるから仕方ないか………。
そしてその日の夜、苗木は体育館前のホールに来ていた。
すでにアレが始まっていることを確認すると、即座に体育館前のホールから去る。
アルターエゴ発見後、その日はそのままお流れとなったため、まだ四階の探索はしていない。だからこそ、今だ。
苗木は《学園長室》に来ると徐にドアノブを蹴り出す。
さすがに一発では壊れないので何度も何度も何度もガンガンとドアノブを蹴り、数分後にドアノブが外れ、扉が力なく開いた。
「………さて……鍵と……78期生のプロフィールは……あったあった」
目的の物を見つけた苗木はすぐ学園長室から出て行く。
再び体育館前のホールに来ると、モノクマと彼女の戦闘が最終局面に差し掛かっていた。おかげで苗木は何の危険もなく目的の物を見つけられたのだ。
「オマエ、どういうつもり……?」
「……………」
「答えろよ。どういうつもりだよ!?約束が違うじゃないか!」
「我は決めたのだ…もう引かぬ、もう媚びぬ、もう省みぬと……」
「ふーんあっそ、でも忘れた訳じゃ無いよね?人質のこと」
「ッ!」
人質が居るのは全員同じ事なのだが……。
とはいえ彼女も大変なのだろう。道場を守る義務があり、しかしここで過ごしているうちに殺せなくなるという板挟み。
「そもそも道場自体潰れてるんだけどね………」
苗木の呟きは誰に聞かれることもなく、モノクマと彼女の争いの音にかき消された。