「プ、プレゼントですと?………今度は一体、何を企んでいるのですか?」
「きっと、また動機ね……」
山田の疑問に霧切が呟くと、周囲の空気がピリピリしたものに変わる。
「また?…やだよ…もう行きたくないよぉ……」
「で、でもよ!まだ〝殺人〟は起きてないし大丈夫だべ!」
「「「ッ!」」」
葉隠のその発言に顔を顰める大和田、何時の間にか起きた石丸、そして不二咲。
舞園も髪を弄っている所から考えるに動揺しているようだ。
「今はアルターエゴが手がかりを探してくれているんだもの、耐えましょう。何があっても……」
霧切はそう言って歩きだし、苗木達も体育館に向かった。
他の面々も渋々と、苗木達の後を追った。
体育館にはすでに2人の先客がいた。
「お前等に待たされるとはな……銃器の使用が認められていたら迷わず撃っていたぞ」
「十神クン、早かったね?」
「お前等が遅れたのは、二足歩行を忘れたからか?いいか、右足と左足を交互に出して進むんだぞ」
先に来ていた十神は相変わらず傲慢にこちらを見下してくる。それに引き替え、もう一人の先客である腐川はジェノサイダーから元に戻り大人しくなっていた。
「全員揃ったね」
「…じゃあ、そろそろね」
霧切が呟いたのと同時に、何時ものようにモノクマが壇上からビヨーン!と飛び出てくる。
「オマエラ、全員集まったみたいだね!じゃあ、さっそく始めようか!!」
「さっさと言え。次はどんな動機を用意したんだ?」
「何をされようとも、我らは屈せぬぞ」
「そうだよ…!絶対負けないんだから…!」
「そーだそーだ!アホアホアホアホッ!」
「うぷぷ…そんなに構えなくたっていいって…」
モノクマは身構える生徒達を見て、馬鹿にしたように笑う。
「今回はね、趣向を変えてみたのです。今までオマエラを追い詰めるような、北風ピューピューばかりだったけど……たまには、暖かい太陽も必要だと思った次第です!アーッハッハッハ!!」
モノクマは何が可笑しいのか、爆笑しながら両手を広げる。
「そんなこんなで、今回ボクが用意したのは……コレでーすッ!!」
そして、大量の札束が壇上の上にドサドサ積み重なっていく。
「ひゃっくおくえーん!!もし卒業生が出た場合のプレゼントにします!どう?100億円だよ?ひゃっくおくえーん!!もうウッハウッハでしょ!?」
つまりは『金』、モノクマの用意した動機。
「…少なすぎるな」
十神は100億円を見てふん、と下らなそうに鼻を鳴らす。まあ超高校級の御曹司からすれば100億など端金か。
「お金…確かに動機としては定番中の定番ね。ミステリー世界でも、現実世界でも…」
「だ、だけどさ…今更、お金なんかの為に仲間を殺したりしないよッ!!」
「…人の命は、金では買えぬのだからな」
「その通りだ!人の命は尊いのだぞ!」
「つーか、100億円なんて額……リアルな話、実感沸かねーし……」
「んなもんの為に人を殺せるかってんだ」
「えっとぉ……五年もあれば集められるかなぁ」
「すげーな不二咲……」
各々が感想を言う中、苗木はジッと札束の山を眺める。
今の世界で金が使える所など限られてるだろうに。そして学園から出てまだ文明の残っている場所に向かうのに、あんな荷物を持ってたら間違いなく野垂れ死ぬか殺される。
つまりあれはただの紙以下の価値しかない。ぶっちゃけゴミだ。
「……苗木君もお金が欲しいんですの?」
「え?─あんな〝ゴミ〟いらないけど?」
「………ゴミ?」
「ゴミだよ。いや、人の命を奪って手に入れたお金なんてゴミにも劣る」
「どんな手段で手に入れようと、お金は使える以上お金ですわ」
否定はしない。ゴミにも劣る紙クズでも金は金。もっとも苗木なら、誰かを助けるため以外にそんな金は使わないが。
「うぷぷ。さっそく険悪な空気ができて何よりだよ。ま、せいぜい清く正しい共同生活を心掛けるんだねー!」
モノクマはその不穏な言葉と札束を残して去っていった。
「だ、大丈夫だよね…?お金なんかの為に仲間を殺す人なんて…いないよね…?」
「俺に言わせれば端金だが、他の奴らはどうだろうな……」
「だ、誰か…いるんじゃないの…?お金に困ってる人が…ッ!!」
「わたくしはギャンブルで10億以上稼いだ身です。生活には不自由していませんわ」
「や、山田は…?山田はどうなのよッ!?」
「僕は売れっ子同人作家様ですぞ!コミックやDVD買う金には困っとらんわ!」
「じゃ、じゃ、じゃあ…ッ!!」
腐川は誰も彼も疑ってかかっているようだ。ほんと、ネガティブな奴だ。
「よせ。金なんかの為に疑心暗鬼になるなど、醜い事この上ない…」
「み、み、み、醜い!?」
「心配など無用だ。どちらにせよ、起きる時はあっさり起きるもんだ。それが…このゲームなんだからな」
「起こさせないよ。絶対にね……」
とその時、夜時間を知らせる放送が流れる。
「もう……そんな時間なんだ……」
「解散する前に、もう一度言っておくけど…今晩から、私と苗木君の部屋は開けっ放しにしておくわ。アルターエゴに異変があった時の為にね…だけど、ドアが開いてるからって、無闇に私の部屋に近付かない方がいいわよ。私は返り討ちにしちゃいそうだし、苗木君の部屋には………」
霧切はチラリと舞園を見る。どうやらいろいろ知られているようだ。
「…とにかく、今日のところは部屋に帰んべ!いいか!金の事なんか考えんじゃねーぞ!わかったら、解散だべ!!」
「うむ!では解散!」