救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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新世紀銀河伝説再び!装甲勇者よ大地に立て!(非)日常編①

 カメラ越しに眠っている少年を、黒幕の少女は眺める。

 また、彼に邪魔された。人が死ぬ瞬間を三回も、クロを見破った際のお仕置きを合わせれば五回も邪魔されている。

 本来の予定と大きく変わってしまった。

 

「……こんなの………」

 

 少女の予定は、彼1人の行動のせいで狂ってしまった。

 

「……………こんなの……」

 

 コロシアイは、いまだに起きていない。起きる前に止められている。

 

「──最っ高!」

 

 だが少女の中に失望などない。そもそも期待などしていないのだから。

 自分の予定を、コロシアイを、自分が見たい、誰かが絶望した顔を見る予定を、世界へ届ける絶望を邪魔して、自分の絶望を邪魔してくる彼に、憎しみより愛しささえ覚えながら、少女は表情を消す。

 

「しっかしどうなってんだかね、苗木の奴?」

 

 彼女が知る限り、彼は幸運だけで選ばれた。彼の自負する通り、人より前向きなのが特徴の童顔チビだった。

 確かに人の心情を察することに長けていたが、それは付き合いの長い相手に対してで、ほぼ初対面になってるはずの今の仲間達の心境を察せる筈がない。何より、アイツは人の善意を疑わない。

 

「まさか《記憶操作》が効いてない……訳ないか」

 

 処置したのは他でもない自分だ。

 絶望的なまでに万能な自分が失敗するなど、絶望的な確率であり得ない。あるいは彼の幸運ならあり得るかもしれないが、だとしたら反応がおかしい。

 

「頭いじって性格変わっちゃったかな?」

 

 ある意味ではこれが一番の有力候補だ。

 記憶をいじるような行為だ。人格に影響を与えても何ら不思議ではない。超高校級の幸運のくせにツイてない彼なら、そんな確率にあってもおかしくない。まあ、この環境に一番適応した人格になったわけだから、幸運なのか不運なのかは知らないが。

 

「でも、本質は変わってない」

 

 少女はポツリと呟く。

 そう、苗木の本質……〝お人好し〟は変わってない。彼の行動原理は今もなお、全員揃ってここから出ること。

 

「……ま、信頼関係は上々」

 

 今、彼に信頼を置いている者は多い。それこそ、絶望的に退屈なはじめの一年のように………。

 もし、そんな彼がクロになれば?こいつらが、自分たちが生き残るために苗木を見放したら? その時こいつらと苗木は、どんな顔をするのだろうか………。

 

「うぷ、うぷぷ……ちょっとズルだけど、『テコ入れ』の準備をしなきゃ。これも苗木が優秀だからだよ?優秀だから、ズルする必要が出てきたんだよ」

 

 少女はそう言って笑いながら、画面に映った少年を撫でる。

 外の世界では、いまだ人間は数を減らしこそすれうじゃうじゃいる。1人くらい招き入れても構わないだろう。

 

 

 

 

 

 昨夜は妙な寒気を感じた。

 最近では舞園が部屋にいることも慣れたつもりだが、別の要因でもあったのだろうか?

 

「おはよう苗木くん!舞園くん!江ノ島くん!」

「おはよう石丸クン」

 

 食堂に向かうと、石丸の朝一番から元気のいい挨拶が聞こえてくる。

 前回は、この時期に大和田が死んでしまい脱け殻のようになっていたが、元気そうで何よりだ。

 

「……朝日奈がいねーな?何時もならいるのに」

「朝日奈なら、腹が痛いと言って部屋で休んでいる」

 

 桑田の疑問に大神が説明すると、ああ、あれを見たのかと苗木は1人納得する。

 

「………十神くんと腐川くんは欠席か」

「十神クンは〝殺人鬼〟を警戒してるんじゃないかな?」

 

 石丸が時間を確認して周囲を見渡し、ため息をついた時だった。食堂に勢いよく飛び込んでくる影があった。

 

「呼ばれて飛び出て邪邪邪じゃーーん!」

「呼んでない呼んでない!」

「な、何でジェノサイダー状態なんだべ!?」

 

 やってきたのはジェノサイダー。連続殺人鬼の姿に一同の顔が青くなる。

 

「この学園って素敵。アタシみたいな殺人鬼が堂々としてられるんだから!」

「おはようジェノサイダー」

「おっはーまーくん。ねえ白夜様はどこ?隠してんなら切り刻むけど?」

「十神クン?……ごめん、見てないな」

 

 唯一ジェノサイダーに挨拶したのは苗木1人。ジェノサイダーも挨拶し苗木に十神の居場所を尋ねるが、部屋から直行で来た苗木が見ていないと言うと大人しく引き下がった。

 

「じゃーね!待っててダーリン!」

「アイツがいなければ、僕の生存率は10%上がるのに!」

「山田クンはそう言って100%死にそうだけどね」

「えーーー!?」

 

 苗木がそう言って朝の野菜をパリパリ食べていると、突然野菜に真っ黒なドレッシングがぶちまけられた。

 

「……何のつもりだよ、モノクマ」

「それはボク特製のドレッシングさ!何時も何時もボクに酷いこと言う苗木クンにお仕置きだよん♪」

「…………あ、意外と美味い」

「え!?」

 

 モノクマは慌ててどこからか瓶を取り出し、口に含んだ。

 

「ぶへえ!ゲロマズ!なんて事だ、このボクが間違いを起こすなんて………うっ、うう。今まで何も間違えたことないのに……」

「モノクマ……」

「なにさ」

 

 どうやら二つのドレッシングを入れ間違えたらしく、落ち込むモノクマに苗木はポンと肩に手を置き声をかける。

 

「そう言うときは………笑えばいいと思うよ」

「………そうだよね!失敗でめげちゃいけない!さあ、一緒に笑おう!」

「あっはっはっは!ちょ、間違うって……ぶふ!やめ、おかし……おかしいから!あはは、だめ苦しい…許して!げほげほ!」

「……うわ!すげえ絶望と殺意渦巻く笑い方!いや、嗤い方!」

「で、モノクマ」

「………急に冷静になりやがった」

「作り笑いだし。要件はそれだけ?」

 

 苗木の問いにモノクマはふう、と息を整えゴホンと席をする。

 

「新しく世界が広がったよ~!さあ、散策だ散策だ!どうせない出口を探して絶望するが良い!」


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